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13. カオスと腹黒の追撃

 

「ねえ、これってどういう状況……?」

「俺に聞かれても困ります」


 クイニーもシリルの目の前の意味不明な状況にお手上げ状態であった。


 テーブル席にはクイニー、シリルのほかにイザベラ、アラン、それからキャンディスが座っていた。

 ツーンとしているイザベラに必死そうなアラン、1番お花畑なキャンディス。


(私はシリルと2人でスペシャルケーキを食べに来たんだったわよね?)



 お昼休みになり、先日の約束を果たすため一番乗りでカフェテリアに移動した。

 無事限定10名のケーキにありつけて、周りに人がいないテラス席を陣取って2人で他愛もない会話をしていたはず。


 そこへイザベラが「2人でずるいわ!」と別のデザートを持って座った。そこまでは仲の良い3人で食べている、という感じで非常に楽しかったのだが。


 その後アランが乱入してきた。

 クイニーはカバンに戻ってきた自叙伝『悪女のすすめ』に目を向ける。この前取り返したのだと渡されたお礼にイザベラを落とす秘訣を教えたのだ。

 きっとそれを今すぐにでも試したいのね、とクイニーは納得した。


 さらに最悪なのは、そこにキャンディスも乱入してきたことだ。

 クイニーは嫌という態度を露骨に出したが、イザベラは救世主と言わんばかりに誘い込んでしまったのだ。



 ……そして今に至る。


「な、なんですか、アラン様……」


 困惑気味にイザベラが尋ねる。

 アランはただ黙ったままイザベラの目を見つめ続ける。

 ……1、2、3、4、5、6、7。


 7秒間見つめると効果があるよ、と教えたのはもちろんクイニーだ。きちんと本で読んだことだから間違ってはいないがそれを至ってまじめにやるアランに思わず吹き出しそうになる。

 けれどそんなアランの頑張りも虚しく、イザベラは首を傾げたまま。しまいにはクイニーとキャンディスの方を向いて話し出してしまった。


「キャンディスさんはどんな男性がタイプなの?」


 イザベラはこれ見よがしに尋ねてみせる。クイニーもそれは今後の参考になる、と耳を傾ける。


「特にいないですね」

「ええ、そうなの?」

「はい。あっ、女性ならクイニー様のような方に憧れます!」

「名前で呼ぶのやめなさいよ」


 もはやお決まりの流れである。

 シリルなんて唸るクイニーに憐れみの目を向けている。


「いいこと? 私、あなたのように平民だからってマナーもなっていない方は嫌いなの。ほら、今だってティーカップの持ち方! 全指取っ手に入れないの!」

「わっ! ごめんなさい!」


 慌ててティーカップを置いたキャンディスはちらちらとクイニーたちに目を向ける。


「キャンディスさん、こうやって持つんですよ」


 シリルがそっと手助けをし、キャンディスはそれを真似する。そういうところはやはりヒロインだからなのか、キャンディスはものの数分で一通りティータイムのマナーを覚えてしまった。


 これにはクイニーはご立腹である。


「ちょっと、何で教えたのよ! マナーの注意が1番しやすくて悪役令嬢っぽいのに!」

「体が勝手に」

「もう!」


 シリルはあまり悪びれる様子もない。

 クイニーは大きくため息をついて、一気にヒロインらしくなってしまったキャンディスに目を向ける。


(でもまだマナーはたっくさんあるもの。注意のレパートリーだってまだまだあるわ)


 と、クイニーは秒の速さで切り替えたのだった。




 それからもこの謎空間でもクイニーはスペシャルケーキを頬張っていた。


 イザベラとアランは相変わらずだが……どちらとも協力すると言った以上、ここでどちらの肩を持つこともできないクイニーはまるで演劇を鑑賞するように2人を眺めている。


 キャンディスはクイニーの返答そっちのけで話しかけてくるため、適当に相槌を打っていればなんとかなりそうだ。


 お昼休みは残り10分。何事もなく無事に終わりそうだと思っていたところへ――


「みなさん、こんにちは」


 と、リドルが声をかけてきた。


 ダークホースの登場である。


(さすが腹黒……王子と公爵令嬢がいても構わず会話に入ってくるなんて)


 感心しつつきっとまたキャンディスを連れて行くのだろうと思っていた矢先、「クイニーさんにご用事が」となぜか声をかけられてしまった。


「え、私?」

「そうです。みなさんの会話を邪魔するのは悪いので少しこちらへ」


(ちょっと、私にも悪いとは思わないの!?)


 ほぼ無理やり立たされてしまう。

 むすっとしたままのクイニーにシリルがそっと声をかける。


「クイニー」

「大丈夫よ、すぐ戻るわ」


 クイニーが「シリルはこのカオスの後始末をよろしくね」と声をかけると、シリルは若干不満げに頷いた。




 リドルに連れられてクイニーは人けの少ない廊下まで歩いてきていた。

 無理やり連れてこられたクイニーはむすっとしたままだ。


「……ただの侍従に呼び捨てを許すなんて、感心しませんね」


 突然立ち止まって言った言葉がなんでそれなのだろう。クイニーは首を傾げる。


「彼はもともとイザベラの侍従ですから。私を呼び捨てにしようがしまいが関係ないことではなくて? 少なくともあなたには関係ないです」

「つれないですね」


 幸い、普段からいつものように接すればいいのでは? とは聞かれなかった。


 クイニーは残っている紅茶のことを思い浮かべて、急かすようにリドルを見る。リドルはどうやらクイニーの視線の意図に気がついたらしい。


「学期末試験後に舞踏会があることは知っていますよね?」

「……ええ、もちろん」


 少し間が空いたのはもちろん知らないからだ。

 学期末試験という嫌なワードも、舞踏会なんていういかにもなワードもこれっぽっちも知らない。


「その舞踏会の僕のパートナーになってほしくて……うわあ、そんな露骨に嫌がらなくても」

「私とパートナーを組んでリドル様にメリットはあるのですか? それとも女子生徒の防波堤かしら」

「普通にあなたに興味があるから、ではダメなんですか?」


 リドルの鉄壁スマイルは何を考えているかなどわからない。いっそのこと利用したいから、と言ってくれた方が嬉しい。


 どうしようか、と考えあぐねているとリドルがぼそりと呟いた。


「……今ならモデルでもやるのになあ」

「分かりました、パートナーになります」

「ふふ、よかった」


 クイニーの悪い癖だ。相手もクイニーのことを相当調べたに違いない。


「言質は取りましたよ、約束しましたからね! ちゃんと私の叔父様のお店のモデルやってくださいね!」

「分かったよ」


 リドルはおかしそうに笑う。ちょろいなあ、と内心思っている顔だ。

 クイニーはしてやられたと悔しげにリドルを睨んだがすぐさま考えを切り替える。


(でもよく考えてみたら、生徒会長である全女子生徒の憧れであるリドル様がパートナーだなんて、上手くすれば一気に悪役になれるわね)


 周りくどい方法より、一気に反感を買う方が悪役令嬢としての株も上がるはずだ。


 クイニーは俄然やる気に満ちているのだが、リドルはそれを見て吹き出すのを堪えている。


「楽しみにしてるね、クイニーさんと踊れたらいいな」


 リドルはそう笑うとそのまま去っていった。


「……ずいぶん変な言い回しをするのね?」



 この後クイニーは彼の腹黒さを改めて痛感させられることとなる。


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