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11. 腹黒VS悪役令嬢

 

「なんだか上機嫌ね?」

「ええっそうですか?」


 廊下を並んで歩きながらクイニーは尋ねた。

 シリルはリドル会長の元へ向かおうと部屋を出てからずっと機嫌が良さそうだ。


「うーん、こうしてクイニーお嬢さまと2人でいるのは久しぶりですからね。嬉しくなっちゃいました」

「たしかに2人で話すのは久しぶりかもね……私も嬉しいわ、学園内だと敬語で話すと決めてしまったから、少し寂しいけれどね」

「お嬢さま呼びもいいですけどね、これはこれで特別感があるっていうか」


 シリルが日替わりで呼び方変えたら面白そうだと言うのでクイニーも「一番悪役っぽい呼び名がいいわ」と笑う。


「……で、クイニーお嬢さまこそどうしたんですか?」


 シリルは「聞いて欲しそうでしたから」と付け足せばクイニー待ってましたとばかりに説明を始める。


「この前、アラン様と一緒にいる時にキャンディスさんが割って入ってきたでしょう? それってつまりこの世界が、私を悪役令嬢だと認め始めたってことよね!」


 シリルは飲み込んだ。

 多分違うよ、と。


「それにアラン様は最初からイザベラ好きって感じだったから期待していなかったけれど、ようやく有望そうな恋のお相手が出てきたの。上手く行けばこのまま国外追放一直線よ」

「それが、リドル様なんですね?」

「そう! リドル様はいい感じに爵位をお持ちで権力もあるから、彼の前で悪役令嬢になればきっとキャンディスさんを守ろうとして私を追放するはずよ!」


 ふふん、とクイニーは満足げだ。

 そんなクイニーにシリルは「多分上手く行かなそう」と言うのをまたもや飲み込んだ。

 そしてさっと話題を変更する。


「リドル会長にはどう会うつもりで?」


 この質問にもクイニーはよくぞ聞いてくれたわ、と得意げになる。ちなみに、クイニーたちは今、生徒会室へ向かう道を逆走している。


「最初は軽く挨拶だけのつもりだったのよ。でもシリルがいるからプランを変更したわ。だから、頑張ってほしいのよ」

「はあ」


 そうこうしている間にクイニーたちは図書室の前で立ち止まっていた。


「ここにそのリドル会長が?」


 クイニーはシリルの質問に頷くとドアを勢いよく開けた。


 中にいた人たちは一斉にクイニーに目を向けた。不快そうな人もいれば、中にはクイニーが洋服の相談に乗った人もいてクイニーの登場にひっそり喜ぶ。


 中でもパッと目を引く人が立ち上がった。

 お目当ての相手、リドル・ウィンスレットだ。


「ええと、こんにちは。参加希望の方ですね」

「ええ、そうよ。興味があって来てみたんです。連絡もなしにごめんなさいね」


(私のこと、すっかり記憶から消えているみたいね)


 若干イラッとしたのをひた隠し、クイニーは案内されるまま席に着く。

 あたりを見回してみたが、どうやらキャンディスはいないらしい。


「……ヒロインがいないならこなきゃよかったわ」

「何か仰いました?」

「いいえ、なんでもございませんわ」


 リドルがにこりと笑う。クイニーも対抗するように微笑んだ。この腹黒侯爵のことだから聞こえていたに違いないけれど。


「私はクイニー・エタンセルと申します。今年入学したばかりの一年生ですので、色々教えていただけると嬉しいですわ。隣にいるのは私の従者です。彼も同席させてよろしいですか?」

「ああ、構わないよ。僕の集まりは平等がモットーなんだ」


 優雅に自己紹介をすれば、パーティーの一件で名前を知っていた人はジロジロとクイニーを見つめる。

 意外とパッとしないなと失礼なことを思っている顔つきだ。


(いいの。今から噂以上だって見せつけてやるんだから)


 クイニーはちらりとシリルを伺ってから、意気込むように口角を上げて見せた。

 シリルはそんなクイニーに若干諦めたように頷いた。




 リドル・ウィンスレットは侯爵令息だ。見目よし、性格よし、さらに成績トップの生徒会長という王子要素を詰め込んだ攻略対象。

 ……ヒロインには見向きもしないどこかの王子サマよりもよっぽど王子様にふさわしい。


 まあそんな彼が実は腹黒ヤンデレだということはおいおい分かってくるのだが……


 リドルは中でも魔導書の分野に詳しく、こうして時折図書室で魔導書解読を楽しんでいるという一面があった。


 魔導書を図書室で引っ張り出そうとして梯子から落ちそうになっているヒロインを助ける……というロマンチックな出会い方をするのだが。

 その取ろうとしていた本が誰かの置き忘れたいかがわしい本でヒロインは揶揄われてしまうのだ。


『バラされたくなかったら、しばらく僕のお手伝いをしてね』とリドルは微笑む――




「本当はね、キャンディスさんがこの場にいるはずなのよ。だけどいないなんて想定外よ」

「そんなこと言ってなくていいので、クイニーお嬢さまもちょっとは読もうとしてください」


 クイニーとシリルはひそひそと言い合う。

 クイニーは魔導書を広げて読んでいる「風」を装っている。シリルはその本を斜め後ろから盗み見て必死に解読している。


「だって私が魔力皆無なことくらい知ってるでしょ。だから頼んだわって言ったの」

「だったらなんでこんなところ来たんです!?」

「だって悪役令嬢は魔導書くらい読めて当然でしょ」

「そういうのは読めてから言ってください」


 しかしながら、赤い瞳が文章を目で追う姿はどこか惹きつける。現に何人かがクイニーをチラ見している。

 シリルはクイニーが実際のところはリドルをどうするかということしか考えていないことを知っているためなんだか彼らを不憫に思った。


 クイニーはというと伏せ目がちにリドルを伺っていた。どう料理しようかと考えていたせいか、はたまた彼が腹黒であるせいか、クイニーとばっちり目があってしまったのだ。

 それから彼はおもちゃを見つけた、と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた。


「クイニーさん。その魔導書にはどんなことが書いてありますか? 僕はまだ読んだことがなくて」


 嘘つけ。

 クイニーは内心そう叫んだが、「分かりましたわ」と微笑む。それからすぐシリルに助けを乞う。


 シリルは怪しまれない程度に本にそっと触れる。すると古代文字がみるみる現代語に書き換わっていく。

 シリルの魔力はやはりすごい。


 クイニーはそれを情感たっぷりに読み上げる。

 シリルが解読した最初の部分だけだが、これで十分だろう。


 周りの人からは一年生なのに素晴らしいと褒められたが、肝心のリドルは不服そうだ。


「では別の魔道書も読んでみてくれませんか? クイニーさんの読み方がとっても素敵でしたので続きが聞きたいです」


 またにこりと微笑む。なんとも胡散臭い笑顔だ。


(まさか、私が読めないって分かってるの?)


 魔力を可視化できる人もいると聞くし、とクイニーは考えつつシリルを伺う。さすがのシリルもこの状況で怪しまれないよう解読するのは無理そうだ。


 クイニーは一瞬だけ戸惑う――なんてことはなく、すぐさまにこりと笑みを浮かべた。

 リドルと同じくらい胡散臭さいっぱいで。


「では読ませていただきますね」


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