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1. 悪役令嬢と取り巻きモブ令嬢の邂逅なんて必要ある?

新連載です!よろしくお願いしますー!

 

 子爵令嬢クイニー・エタンセルは困惑していた。



 ……ここが『乙女ゲーム』の世界だってこと、自分がなんの役目もないモブだってこと、何も今、思い出さなくてもいいのでは?



 突然色々と事実を思い出した割にはクイニーは冷静だった。というか、ちょっと面倒くさがっていた。


 けれどいつまでも顔をしかめているわけにもいかない。目の前には、その『乙女ゲーム』の悪役令嬢という重要なポジションの人物が立っている。むしろ彼女のせいで思い出した。


「これから中等部で一緒に過ごすことになりそうですわね。クイニーさん」

「……ええ、よろしくお願いしますね。イザベラ様」


 イザベラ・ベルガモット公爵令嬢。

 銀髪の巻髪に、きつめの印象を与える目元。齢12歳にしては整いすぎた容姿は、まさしく悪役令嬢。


 かくいうクイニーも彼女と同い年であり、来年から同じ学園の中等部で過ごすわけなのだが。


 おそらく、ゲームの中のクイニーは彼女の下っ端のようなことをしていた。名前も令嬢Aとしか明記されていなかったけれど。


 今日わざわざベルガモット家がエタンセル家に出向いたのは、父同士の事業の関係だ。イザベラの父親が上司のような立場であって、エタンセル家は彼らに媚びへつらうしかない、そういうことなのだろう。

 つまりは、学園内でイザベラに逆らうことも不可能である……と。



 全く、面倒なことである。貴族だの身分だの、心底どうでもいい。



「ぜひ休んで行ってください」と引き留める父にイザベラの父が「用事のついでですので」とやんわりと誘いを拒否したところを見てクイニーはほっとした。

 イザベラもまた父に従って客間を後にしようとする。

 別れ際、クイニーはなんとなくイザベラの足元に視線を落としそれから反射的に声を上げてしまった。


「その靴って、もしかして……!?」





「まさか、叔父様のお店を贔屓にしてくださっていたなんて……」

「あら、私の目は確かなのよ。いいお店だわ」


 結局、クイニーは自分が引き留めてしまったことによりイザベラとともに過ごしていた。

 ゲームと相変わらずの自画自賛だけれど、内容はどれも可愛らしいものだった。それに叔父の店を褒められたクイニーはすっかり彼女への好感度を上げまくっていた。


 エタンセル家は子爵家とはいえど、すごい裕福な平民と大差ない。ゆえに貿易、商業、その他諸々たくさんの事業をこなしている。

 叔父の家もその一つで、叔父は『ブルージュ』という名のファッションブランドをもつ。

 貴族ご用達、平民からも愛されるクイニーにとっても誇らしいお店なのである。それを褒められたクイニーは案外チョロかった。


 すると突然イザベラが得意げな表情を浮かべた。


「私、今度婚約するのよ。お相手は……我が国の第一王子アラン様ですわ!」


 イザベラは得意げに言い、もううっとりしている。

 アラン、という聞き覚えのある名前に忘れかけていた記憶を引っ張り出すと彼も『乙女ゲーム』の登場人物であると気がついた。


「アラン・キングスレー様ですね。私たちと同い年で、来年から同じ中等部に入学なさるのですよね」

「そう! きっと素敵なお方に違いないわ。ねえ、あなたには婚約者はいらっしゃるの?」


 婚約者、というワードにクイニーは敏感に反応した。顔を歪めて今にも吐きそうなくらいだ。

 それはクイニーの婚約者が、気持ちが悪い年上のデブ伯爵だからである。数ヶ月前父に言われ写真を見て実際吐いた。

 それから両親とは不仲である。


「……聞かないでおくわ」

「そうしてください」


 さすがのイザベラにもそれくらいのデリカシーはあるらしく、無駄に詮索はしてこなかった。


 それから父同士の話し合いが終わるまでの2時間ほど、クイニーはイザベラと語りあった。基本は叔父のブランドの話ではあるが、両親と不仲であり会話相手が欲しかったクイニーにはかなり楽しい時間だった。


「クイニーさん、今度はぜひ私の家にいらして」

「喜んで。楽しみです」


 銀色の髪を揺らしながら帰っていくイザベラの様子を見守った。


 (なんだ、悪役令嬢だと思って身構えたのが恥ずかしいくらい普通の令嬢だったわ。……少し自分が大好きなところはあるみたいだけど )


 クイニーはくすりと笑う。

 それから「イザベラお嬢さまとは上手くいきそうかい?」と尋ねてきた父には無性にイラついたので眼をとばした。


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