天然と苦労人
二日連続投稿。このペースが続けるのは難しいですが、
これからも頑張っていこうと思います。
「ホレ、取ってきたぞ」
「あぁ、ありがとな」
床から身体を起こし、座ったままリンゴ(?)を受け取る。見た目は完全にリンゴ。一応未知の果実ではあるんだが、どうしてか安全な食べ物に感じる。森の守護者の勘が大丈夫だと語りかけているのだ。
一口齧ってみる。シャリッと心地よい音を出すこのリンゴもどき、味まで完全にリンゴだった。
「シャリシャリ……うん、瑞々しくてうまい。本当にリンゴだな、これ」
「シャリシャリ……うむ、素で果物など久しぶりじゃが、なかなかどうしておいしいのじゃ。大きさも丁度いいしの」
「「シャリシャリシャリシャリ……」」
しばらくの間、辺りには俺たちがリンゴをかじる音だけが響いていた。それにしてもうまいな。シャリシャリ……
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リンゴは、エリネが合わせて4つ取ってきてくれていたので、2個ずつ分けて食べた。リンゴ2つで腹が膨れる筈は無いが、小腹空きを抑えるには最適だったと言える。うまかったし。
「さて、リンゴも食べたところで、これからどうするのじゃ?」
「う〜ん、取り敢えず家具作りかな。ここってまだテーブルもイスも無いだろ?」
「ならばまた森林伐採か。では、その前に一度森を拡大するべきでは無いか?『再生』も一度で出来る範囲は限られておるし、水も無い。じゃから、かつて川辺の森があった東側を拡大するのはどうじゃろう?」
「そりゃまた細かくサンキューな。じゃあ一回『再生』してから家具作りだな」
と、いう話に纏まり、東側の荒野へ。意外と境目までは近く、家から100メートルほどだった。
つまり、一回の『再生』で緑を取り戻せる範囲は、直径200メートルほど。1キロ伸ばすのに5回も『再生』しなくちゃいけないのか。こりゃ先は遠そうだ。
そしてまたも荒野の中心部分。昔にそこそこの大きさの川が流れていたと思われる窪みのそば。俺は扱いにも慣れてきた魔力を指先に纏わせ、枯れ果てた大地に触れる。
暖かい風。吹き去った後には色とりどりの花、青々とした木々、そして窪みだったところには、穏やかな流れの川が流れていた。
……やっぱり、荒んだ空気よりも、こっちの方が良いな。
「おぉ、これはまた綺麗な水じゃな。全盛期の姿とは美しいものじゃ」
「そうだな。ところで、川には魚とか居るのか?」
「それはお主自身が知っておろう。森のことなら何でも知っておる筈じゃからなぁ。“森の守護者”は」
目を閉じて第六感? のようなものを働かせ、生き物の気配を探る。……見つけた。確かに、いた。川の中に数匹、魚の反応がある。そして、森の木々の中には、鳥やリス、イノシシやウサギなどの反応があった。
この地域は動物がいっぱい居るんだな。
「居たぞ、魚。それに動物たちも居るみたいだな」
「やっぱり生物は水辺に住みたくなるものじゃ。もしかしたら巣とかもあるんじゃろうな」
「探して見るか」
森の感知能力を切って、川沿いに上流へと向かう。感知能力とか使ってたら面白みが無いしな。歩くこと数分。遂に川の源流まで来た。
「ここがこの川の源流か」
「岩の下から染み出しておるようじゃな。この小さな隙間から一つ川が出来るんじゃから、自然というのは分からんの」
「動物も何匹か見れたし、そろそろ戻るか」
「そうじゃな」
そう言って踵を返そうとしたまさにその時。
「ッ!」
「どうしたんじゃ?」
「向こう、木々の奥。森の外のものの生体反応があった。これは……人間?二人いるな」
「遂に人間との接触か。前まで荒地だったこの場所を見て、どう思われるか見物じゃな」
「まぁ、足を踏み入れるのは別に構わないんだが、荒らすとなれば話は別だ。一回話しをしに行こう」
「了解じゃ」
俺たちはその二人組の場所まで急ぎ目に向かった。悪い人達じゃなきゃ良いけどな。
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森の端、二人組が侵入した場所に着くと、その姿を確認することが出来た。二人組、片方は桃髪のちょっぴり目立つ少女。もう一人は長い銀髪で背が高めの女性。どちらも冒険者っぽい服装をしている。美少女じゃねえか。ああいう人材が欲しい。まだうちには金髪ロリしか居ないからなぁ。
「こんな時になんじゃが、お主失礼なことを考えておらんか?」
「ぎくっ。よーし、もう少し近づいて様子を見るぞ」
すると、金髪ロリの誰かさんは俺にジト目を向ける。
「おい、失礼なことを考えておったんじゃろ?正直に––––」
「お、会話が聞こえそうだ。少し静かにしてくれ」
「まったく、お主というやつは……」
何で考えてることが分かんだよ! 心眼は切ってるんだよな? ……女の勘って怖いな……
そんなことを思いつつも、ちゃんと耳をそばだてる。
「ねぇエリス、こんな所に森なんて無かったよね?」
「あぁ。この間までただの荒野だった筈だ。誰が一体こんなことを……。ソーラは何か感じないか?」
「うーん、何か普通の森よりも魔力が多い気がする」
「ということは危険な魔物がいるのか」
「ううん、魔物とかを産む魔力じゃなくて、何というか、優しい魔力が渦巻いている気がするの。純粋な魔力。心地いいの、ここに居ると」
「ますます分からなくなってきたな……」
彼女らの服装や会話から察するに、彼女らの名前は桃髪がソーラで銀髪がエリス。二人は冒険者で、なんらかの依頼に向かう途中にたまたまこの森を見かけ、前まで無かったから見に来た、ということだと思う。
てかこの森の魔力が多いのは、俺が魔法を使って『再生』させたかららしい。それを優しい魔力、なんて嬉しいな。
何だかむず痒い思いを感じて一人悶えていると、
「うん? あっちに魔力反応があるよ? かなり大きな魔力。だけど動物や魔物じゃない。どちらかというと、森の魔力に近い感じの……」
「おい! そこの茂みに隠れているのは分かっている。姿を現せ!」
やべ、バレちゃった。取り敢えずエリネを茂みに残し、俺だけで出ていくことにする。
「おい、早く出てこい。でなければ斬るぞ!」
おおー腰の剣を引き抜いて構え出した。これは早く出た方が良さそうだ。茂みから身体を出し、手を上げて気さくな感じで挨拶をする。
「よっ」
「あ! この森と同じ魔力の人!」
「おいそこの男、お前はなぜここにいる?」
依然として警戒を解かないまま問いかけられる。剣を向けられたままだとどうにもやりづらくて仕方ない。
「なぜって、この森を作ったのが俺だからだよ」
「証拠はあるのか」
「言葉で語るより見せた方が早いか。おい、こっち来てくれるか」
ここは荒野との境目であるため、すぐ横に荒れた土地があった。
「荒地に立ってどうするつもりだ」
「こうするんだよ。『再生』」
少し規模を抑え目にして『再生』を発動させると、彼女らは目を見開いて驚いていた。
「すごーい!荒野が森に変わっていく! それに、やっぱり魔力反応が一緒だ!」
「なっ、こんな魔法があるのか? 木々が、蘇っていく……」
「こういうこった。更に言うと、さっきからあんたの仲間が言ってるだろ? 『森と同じ魔力だ』と。これは俺が作った森。だから同じ魔力が通っているる。これで信じてくれるか?」
「信じよう。まだ少し半信半疑ではあるが、これほどの力を持つ者には敵わないだろうしな。この力があれば……」
警戒態勢を解いてくれるエリス。ソーラは最初から無警戒で無邪気にはしゃいでたが。ひとまずは信じてくれてよかった。エリスがボソッと言ったセリフは聞こえなかったが、きっと報告しなきゃとかそんなとこだろう。あとで一応止めておくか。
「さて。お前たちはどうしてこの森に?」
「あのね、ゴブリン討伐のクエストの途中に今まで無かった筈の森があったから、調査がてらやってきたの」
「そうだ。ここはこないだまで荒地だったからな」
「なるほど。じゃあ次。お前らはどこから来たんだ?」
「カリア村、って言ってここから少し東の方にある村だよ」
「小さな村だがな」
カリア村、か。できれば話は広めないで欲しいな。あるのか知らんが国や王都に話が広まると、森が荒らされる可能性がある。
「ならさ、この森のことは誰にも話さないでくれないか?」
「それはなぜだ?」
「今、この森で建国の準備をしているんだ。だから話が国とかに行ったら潰しにかかられる。だからだ」
「この森が潰れちゃうの?」
「お前らが話を広めればな。だから内密に頼む」
「そうする!」
「助かる」
これなら大丈夫そうだ。ソーラが抑えてくれるだろう。と思った矢先、いいチャンスが回ってきた。
「だが、それではこちらにメリットがない。だから、こちらからも要求を出そう。その前に一つ問うが、建国の準備をしていると言ったな。そこに国民はいるのか?」
「今はいない。建物もほぼ無いしな。現段階では、家とかを作ってから人探しだな」
「ならばちょうど良い。私たちカリア村の人間を、その街に住まわせてくれないか?」
なんだって!? それは願ってもいない幸運だ。一応理由も聞いておくか。念のため。
「良いのか? こちらとしては大歓迎だが、理由を聞かせてくれ」
「それはだな……今、カリア村は、土地がやせ細ってしまって、食料もギリギリでやっているんだ。だから、この森の豊かな土壌を使わせて欲しいいんだ」
「なるほどな。わかった。取り敢えず、建物ができたら見にきてくれ。手紙を送る」
「いいの!? 嬉しい。ちゃんとお手紙はちょうだいね!」
「分かった。しっかり報は送る」
おぉ、急にソーラが会話に入ってきたぞ。そんなに嬉しかったか。
「はぁ。カリア村の危機なのに、もう少しソーラには重たく捉えて欲しいんだがなぁ」
そうため息をこぼすエリスに一言いってやった。
「お前は苦労人なのな」
「そんな哀れみを込めた目で私を見るなぁ!」
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少し話し合った後、ちょっと騒がしい二人組に別れを告げる。
「じゃあまたな。約束、頼んだぞ」
「うん。国作り頑張ってね」
「あぁ。建物だけで誰も居ない過疎地域みたいな感じになってるかもだけどな」
「私からも頑張れとだけ言っておく。今度は建物も見せてくれ」
「ありがとな。じゃあまた」
「じゃーねー」
「失礼する」
二人の姿を見送る。なかなか参考になる話を聞けた。村の農業に関することとかな。もう夕方だし、家に戻るか。
……家に帰ってきた時、エリネを放置し過ぎて怒られたのは内緒だ。
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作者は狂喜乱舞します。