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お気に入りの服

クルトって忘れがちですよね……(作者)

 会議の後、俺とエリネと楓でユヅキの服を買いに行った。他のみんなは修練ついでにお金を稼いでいる。ユヅキが増えたことで、宿代もそろそろ馬鹿にならなくなってきているのだ。もう後の二日分はすでに足りているが、残りが心もとないのだ。


 そんな中、三人で服屋を訪れ、ユヅキの装備、もとい服装を購入した。


 ユヅキ曰く、「あんまり派手なのは嫌……」らしいので、慎重に話し合って選んだ結果、少しだけ灰色がかった黒の布地に、銀色の筋が幾本か通っている、大きなフード付きのローブにした。目立たない黒に、ユヅキと同じ銀色がアクセントとして加わっていて、楓が「これ、ばりよかよ!」って提案してきたのでこれになった。ちなみに魔物素材なので、耐久性もバッチリだ。


 早速帰って渡すのが楽しみだ。そう思うと自然に顔に出ていたようで、


「なんか本当に兄みたいじゃな」

「俺のことか? なんでだ?」

「いやなに、妹に誕生日プレゼントを贈る兄のような顔をしておったのでな。ユヅキもお兄ちゃん、と言っておったし、ふと思ったのじゃ」

「ふーん。それじゃあ、お前のことも可愛い妹みたいに扱ってやろうか? 背丈はそんなに変わんねぇだろ」

「それは遠慮しておくのじゃ。……恥ずかしいし、兄なぞいた試しがないのじゃ。慣れぬ……」


 下を向いてモゴモゴしながら言うエリネ。軽い冗談のつもりだったが、言葉通りに捉えてしまったらしい。女神さまな妹がいれば、人生楽しそうだけどな。

 ……なぁんて、そこまでは言えないけどな。


 何かおもしろいものを見た、と言わんばかりの表情で微笑む楓の視線がひどく恥ずかしく感じて、照れ隠しに口笛を吹きながら歩く。


「……二人はお似合いばい」


 そよ風にかき消され、楓の呟きは聞き取れなかった。


 ------------------------


 宿の女性部屋にて。俺が部屋の前に来たのを気配で感じ取ったのだろう。部屋の中から小さな足音が近づいてくる。

 そして、楓が取手を掴む前に、扉が開けられた。


「……おかえり」

「あぁ、ただいま」

「ただいまなのじゃ」

「ただいま〜」


 早速渡そうかな。喜んでくれるといいが……


「ユヅキ、お前の要望に合わせながら三人で選んだ服だ。大事にしてくれよ?」

「うん。約束する」

「よしよし。いい子だ。じゃあこれを受け取ってくれ」


 綺麗に畳まれているローブを手渡す。そして、受け取るや否や、すぐに畳まれた状態から広げ、袖に手を通すユヅキ。俺は音をも置き去りにする速度で後ろを向いた。ガン見なんてしようものなら、白髪の双剣使いに斬り殺されてしまう。


「いいよー」


 声がかけられ、ようやく振り向く許可が降りた。


 ユヅキはローブをきっちり着て、更にフードを被ると、伴って尻尾や耳も見えなくなった。深くまで被れば多少動いたって、外さない限りは外からは獣人の耳は分からないだろう。


 少しサイズが大きかったらしいが、余っている袖を口に当ててニコニコ笑っている姿はなかなか愛嬌があって可愛らしかった。別に裾が床に当たってるわけでもないので、問題無いだろ。


「……ふふ。ありがとう。ユヅキ、とっても嬉しい」

「それはよかった。気に入ってくれたならそれで良し!」


 ってか、一人称はユヅキなんだな。


 ------------------------


 それから2日が経ち、今日はクルトとの約束の日。昼頃に王都の冒険者ギルド前の広場で集合となっているため、朝早くから宿を出払い、馬車に乗って王都へ向かっている。


 馬車に揺られることしばらく。俺たちは王都へ戻ってきた。


「うぅ、やっぱり馬車はダメだわ……」

「……ユヅキも……」


 俺は毎度のことながら、ユヅキも馬車が苦手らしい。乗ったのなんてほとんど無いだろうから、慣れないんだと思う。俺が一番物申したいのは、楓がサッパリとした顔をしていることだ。あいつは過去に乗り物酔いあいてトイレに篭ってしまったこともある。だからこそ分からない。


「楓、お前って乗り物酔いするタイプだった気がするんだが」

「剣を扱い始めてから、平衡感覚が鍛えられたというか、何だか酔いにくくなったんだよね。乗り物で風を心地よく感じたのは久しぶりばい」

「……でもユヅキ、お前だけは俺の味方だ」

「……うん。馬車は苦手……」


 馬車苦手同盟を二人で結成し、仲も深まった(?)ところで集合場所へ向かう。街中では、俺がユヅキを抱えて歩く。ユヅキは、何故か俺以外に抱えられるのを拒む。……なんでだろうな。というか良ければ自分で歩いて欲しい。通行人に暖かい目で見られるのが恥ずかしいったらありゃしない。


 フードを深くまで被り、耳を決して見せないようにしながらではあるが、それでも流れていく景色を楽しんでいるようだ。(とはいっても、人や屋台ばかりだが)


「集合は昼過ぎになってるから、食事はしてから行くか」

「分かったのじゃ」

「なぁ、あの辺りなんて良さそうじゃないか?」

「ねぇねぇ、あっちにも色々あるよ!」


 ……まったく、賑やかな奴らだこと。


 結局、広めの席が空いていた、手頃な食事処にした。


「ふー、食ったな」

「それにしても、ユヅキの食べっぷりが凄かったのじゃ……」

「……だって、お肉さんは美味しいんだもん」


 ユヅキの分は、エリネが分けてあげていたのだが、ユヅキの肉に対する食いつきが凄く、結局もう一杯頼むことになったのだ。それはもうぺろりと。数分で食べ切っていた。


 狼だから、やっぱり野菜とか魚よりも動物の肉の方が好きなのかもな。……燻製肉でも買うか?


 ちなみに、このお店のビーフシチューは、なかなかどうして美味しかった。


 食事によって時間も程よく経過し、昼時は過ぎたので、そろそろ広場へと移動を始めたい。そのことを皆に伝え、広場へ。


 広場やその前の通りには、人が詰めかけており、広場への視界を塞ぐ壁が出来上がっていた。一体何が……


 ちょっと気になったので、そこにいた人へ尋ねる。


「広場でなにがあってるんですか?」

「いや、『嵐剣』が引っ越しするとか言っててな。5日くらい前から色んな人を勧誘してたみたいだが、今どうなってるかは俺も知らないな」

「なるほど」


 内心、俺はちょっとビビっている。『嵐剣』の影響力ってここまで凄いのか? もし、住むところが足りなくなるような人数だったらどうしよう……


 人並みをかきわけかきわけ、戦々恐々としながらも、俺は人垣を抜けた。

少しでも面白い! 良い! と思って頂けたら、

ブックマークや評価、感想をよろしくお願いします。

作者は狂喜乱舞します。

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