屍龍の願い
戦闘回、苦手なので短めではありますがご容赦を。
三人称視点に挑戦しようとしたけどまた今度にしました。
荒野の中心、かつての霊樹があった地へ向け、北へ北へと進んで行く。道中、魔物との遭遇が度々あったが、それらは『再生』の実験台もとい練習台になってもらった。
その結果分かったことは、身体の大きな魔物ほど『再生』に必要な魔力が多いということ。
地面などの無機物を多く含むものよりも、生物の方が魔法抵抗力があるようで、リスやウサギのような小動物系の魔物は指を触れてちょっと魔力を込めれば成功する。しかし、犬猫や魚、鳥などは少し意識してしないと難しい。更に言えば、ヒョウや熊、ワシなどの大型動物ともなると、五秒もかかってしまう。龍ともなれば、それこそ5割、最悪9〜10割も使ってしまう可能性もある。
ちなみに、『再生』させた生き物たちは、森の場所を教えておいて、森の動物たちの仲間入りをしてもらった。お陰様で今頃色んな種類の動物が居るだろう。今度区画整理でもするか?
『再生』までには、まずエリネが氷結魔法で羽や足などを凍らせ、機動力を奪う。そして、これまたエリネの魔法で強化された俺が『再生』を使う。そう言った流れが完成していた。
エリネが魔法を使うところを見ていると思う。まだまだ使ってない魔法とかいーっぱいあるんだよなぁ、って。『植物魔法』とか元素を操りし者や精霊を従えし者に含まれる各種魔法とか。今度使ってみたいな。
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歩き始めて一時間。時を刻む毎に強くなっていく瘴気は、ともすれば物理的な圧力すら伴っていそうだった。そして、枯れた森を抜ける。
枯れた木々すら見えぬ真っ黒な荒野に、見渡す限り曇天の広がる空。そんな開けた空間の中心に、巨大なクレーターがあった。遠目にも関わらず、その大きさが伝わってきた。
瘴気の出処は、クレーターの底。黒い靄の立ち込めるクレーターを覗き込む。そこに居るのはもちろん。
「あれが、屍龍ベルフェリアか……」
「禍々しい負の力……わらわの加護が無ければ近づくことすら叶わぬじゃろうな」
屍龍ベルフェリア。片側しか残っていない翼。黒く染まった鱗。全身を覆う紫色の瘴気の風。クレーターの中心に佇む姿は、まるで守護者。後ろに護るべき対象を持つ者。其の後ろには、失われた霊樹の地があるのだろう。
俺たちは斜面を滑り降りる。ベルフェリアはこちらに気付き、顔をこちらへ向ける。その紅の双眸が射抜くような視線を浴びせてくる。そして、咆哮。
「ガァアアアア!!」
《霊樹の地を侵す愚かな人間どもよ!今度こそ我が手で殺してやろう!》
しかし、この後発せられた小さな呟きを、俺は聞き逃さなかった。
《……貧弱な人間では、私を止めることは出来ない。誰か私を、怒りの制御も出来ぬ私を、殺してくれ……》
相反する二つの思い。きっと、屍龍になってしまい、怒りに震える自分と、これ以上自らが愛した森を傷つけたくない自分とで、争っているのだろう。
悲痛な心の叫び。死にたいとすら思うのに、自身を縛る怒りの呪縛から逃げ出せない。自分を止めることが、出来ない。暴走を続ける龍の逡巡が手に取るように分かった。悔しさが伝わってきた。だからこそ、俺は。
「ベルフェリア! お前を絶対に助ける! お前も森も、もちろん大樹だって! 俺が取り戻してやる!」
そう、宣言した。同時、それは開戦の狼煙となる。
屍龍は大きな図体に似合わぬ素早さで一気に地を駆けてくる。その速度のまま胴体を捻り、半ば鱗の失われた尻尾で薙ぎ払う。
俺はそれを上への跳躍で躱すのだが、それが誤りであったことに気付くのに、数瞬の時を要した。眼前に迫るは歪な片翼。俺はまんまと身動きの取りにくい空中へとおびき出されたのだ。咄嗟に両腕をクロスさせてみせるのだが、直撃は免れない。
「がっ……!!」
振り抜かれた翼に吹き飛ばされる。宙を舞う俺の体は、やがてクレーターの壁に背中を強打することでようやく止まった。予想を超えた衝撃。肺の中の空気が強制的に吐き出される。
「森の守護者」である故の防御力と、エリネの補助魔法を持ってしてこの威力。腹や頭に直撃すれば最早生きては居られなかっただろう。やっぱり一筋縄では行かない。
今まで日本人としてぬくぬくと暮らしていただけに、痛みがより一層大きく感じられる。
「痛い……凄く痛い。けど、あいつはもっと苦しんでる!
森の民が苦しんでる! 龍一人助けられないで、どうやって森を守るんだ!」
と自分を奮起させ、痛む身体を押してエリネの加勢へと向かう。防御魔法や妨害系の魔法で耐え凌いでいるようだ。俺にも、何か出来ることは……
「『再生』で大地を活性化させれば、瘴気が弱まるかも?」
ということに気づき、クレーターの底の黒い土を存分に魔力を込めた指先で触れる。キーワードは、
「『再生』!」
刹那。暖かな風を感じた。いつもよりも規模の大きな癒しの波動。其の地を蘇らせ、闇を消し去る者。風が吹き荒れる。それは上空に漂う雲さえ払い、屍龍の纏う瘴気を消し飛ばし、クレーターの底を一面の緑に染めた。
屍龍は瘴気を失い、バランスを崩して大きな隙が出来る。
「これで……どうじゃっ!『麻痺』」
エリネがダメ押しの状態異常魔法を放つ。硬直するベルフェリア。
俺は、命の香りがする新緑の草原を駆け、思いっきり大地を蹴る。
残る全ての魔力を掌に。全身全霊で、ありったけの想いを込めて。
「これで……どうだぁっ!! 『再生』!!」
今までサブタイトルを『〜と〜』みたいな形式でお送りしておりましたが、今回より変更します。今までの分は変えるかも知れないし、変えないかもしれません。
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作者は感謝感激雨霰拍手喝采狂喜乱舞します。




