霊樹と緑龍
柄にもないシリアス回。不自然な点もあるでしょうが、何卒楽しんでお読み頂ければ。
ダークファンタジー臭が漂っております。
「屍龍ベルフェリア?」
「そう。ここから北にしばらく行ったところに、当時は雲にも届くと言われた霊樹があったんだ。森の中心に佇むその霊樹は、一匹の緑龍の手によって管理されていた。緑龍ベルフェリアは霊樹の天辺、『天に近しき領域』と呼ばれる場所を住処としていたらしい」
時折、霊樹へと訪れる人間。霊樹の作り出す神秘的な光景を一目見ようとやってくる者は多い。そんな観光客に紛れて、霊樹の周りに生えている光るキノコや実、レアアイテムに当たる霊樹の葉などを盗って転売を行う密猟者たちがいる。彼らを撃退し、悪人の手から霊樹を守るのが緑龍の役割だった。
ある日、いつものように緑龍が霊樹に魔力を注いでいた時。王都から派遣された調査団がやってきた。彼らの目的は、霊樹の調査並びに周辺にある不思議な植物たちや森の探索を主としていた。
霊樹にも直接手を出した彼らは当然、緑龍の手によって追い返される。しかし、数日後にまた人間たちがやってきた。前回とは違う装いの集団。鎧やローブを身に纏い、各々の得物を構えた集団。その武装した集団は、調査における障壁となり得る緑龍の討伐を目的とした、王都の冒険者たちだった。
長時間に渡る戦闘の末、緑龍は何とか冒険者たちの撃退に成功する。だが、彼らは手を変え品を変え、毎日のように現れた。連日の戦闘による疲労と魔力不足により、遂に右翼を根元から斬り落とされる。空中で戦うというアドバンテージを失った緑龍は、波のように襲いかかってくる冒険者に抗えず、ついに残った左翼すらを地に下ろし、その身を亡骸へと変えた。
人間たちが勝利に身を震わせ、雄叫びを上げる。しかしそれも束の間の幸福。緑龍が死に絶えてしまったことで、力の源を絶たれた霊樹は、根元から黒に染まり始める。間もなく霊樹全体が闇に覆われ、やがて塵芥へと成り果てる。
霊樹が枯れたことにより、それまで光っていた植物たちはその青白い光を失い、闇はやがて、周囲の森をも蝕み始めた。森の木々が、川が、動物たちが。
森の生は等しく死へ変わり果て、最終的にはミヤビが降り立ってきた時のような、黒い荒野が出来上がったのであった。
緑龍の死骸は黒の波動に飲み込まれれたが、人間たちへの恨みからか、屍龍として蘇り、残った片翼で黒い風を生み出してかつて霊樹のあった地を今でも守り続けている。
「……これがこの荒野の始まり。かつての緑龍ベルフェリアは屍の龍として行きているんだ。霊樹のあった地はここから少し行けばある。全ての根源である霊樹の跡地に近いから、『再生』した土地が侵食されているんじゃないかと思ってる」
ジルの考察で締めくくられた荒野の歴史は、何とも頭の悪い人間たちの作った愚の歴史。聞いてて頭痛がする。
「何とも頭の痛い話だな。過去の人間たちは何をしてるんだよ本当に……」
「人間どもが馬鹿なのは知っておるつもりじゃったが、よもやここまでとは……緑龍がどれだけ森にとって大切な存在だったかに気付けぬほどに愚かだったか」
「しかも、黒と化したこの荒野を今の今まで放って置いたなんて、酷い話。何とかしようっていう気概を見せなかったのかな」
「いや、最初は幾つか試したらしいが、すぐに音を上げたそうだ。もう少し努力したらどうなんだよ……」
仲間内に重い空気が流れる。俺は最初に口を開く。
「……なぁ、もし俺の『再生』で、魔物の姿を元通りにすることが出来たなら、屍龍も元に戻すことが出来ると思うか?」
「可能じゃろうな。至近距離で直接叩き込めばいける筈じゃ。付与したわらわが言うが、その回復能力は保証する。最大出力でやればな」
「待て、『付与した』ってどういうことだ?」
エリネは露骨にしまった、という顔をする。こちらを見上げて俺に決定権を委ねる。女神であることを明かすかどうか。
「すまん、これも企業秘密に当たる。今はそれよりも屍龍だ。俺は何とかして『再生』させたい。だから、俺とエリネで行ってくる。二人は街で待機しててくれないか?」
「そうじゃな。それがいいじゃろう。お主らは戻っててくれ」
エリネは俺が言わんとすることを汲み取ってくれた。ありがたいことだ。
「待て待て、お前ら二人で行く!?正気か!相手は王都の冒険者と渡り合う緑龍だぞ?準備も無しにいける訳がない!」
「そうだよ、ジルの言う通り、街に戻って策を練ってからでも遅くないよ!」
二人は一度戻るべきだと言う。しかし、俺には聞こえる。ベルフェリアの声が。荒野の歴史を聞いている間に、ベルフェリアの微かな声を聞いた。
霊樹よ許しておくれ、私が不甲斐なかったばっかりに……と。
俺にはその声が聞こえた。何故かは分からないが、届いた。ならば、今も罪悪感に苛まれる龍を救うべきだと思っている。ただの正義感ではない。それに勝算もある。それは企業秘密、に当たるところなのだが。
「でも、俺は行かないといけない。決してこれは無謀な策じゃない。企業秘密だから話せないが、いつか明かす。それを使えば、勝算もある。だから信じてくれ」
「だけど……」
「頼むっ、俺たちを信じてほしいっ!」
「わらわからもお願いじゃ」
俺たちは頭を下げて懇願する。二人は悩んだ後。
「ちっ、そこまで言うなら、絶対帰ってこい。話してた奴がいなくなると胸糞悪いしな」
「ジル、口が悪いよ。私も納得はしてないけど、どうせ止めても行くんでしょ?だったら私には止められない。だけど、必ず帰って来てよ」
「あぁ、約束する」
二人とも、いかにも不服、といった様子であったが、何とか承諾してくれた。後ろ髪を引かれる思いが少しばかり残るが、これでベルフェリアを救える。哀れな龍を助けられる。
俺たちは二人と別れ、森の北の方、さらに奥へと足を運ぶ。
緑龍は、絶対に助けてみせる。
緑龍ベルフェリア、カッコ良さそう。
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作者は狂喜乱舞します。




