ニートたちと魔物襲来
水路が完成した日の夜。皆が持ち帰ってきた食べ物で小さな宴を開いた。
食べやすい大きさにカットされたフルーツたちや、丸焼きにしたイノシシ、まるで手羽先のようなウサギの揚げ物、川の幸である何種類もの魚たちが食卓を彩った。
やっぱり、みんな揃って食事をする、というのは中々楽しいものだ。酒の回った村長が、色々な人におっさん特有のダル絡みを始め、皆が困惑するようすがおかしくてたまらなかった。俺にまで回ってきた時は存分に迷惑を被ったが、それも含めて、楽しかったと言える。
そんな夜も明け、俺は自宅にて目をさます。ちゃっかり離脱して寝ていたのだ。良い子は寝て育つ、のだ。断じて、酔った村長が流石に鬱陶しくて逃げてきた訳ではない。断じて!
「さて、今日はどうするか」
うーん、と唸り、首を捻っていると、不意に自宅のドアがコンコン、と叩かれた。エリネはまだ寝ているので違う。実は昨夜、「解毒魔法があるかへっちゃらじゃ」とか言って調子に乗っていたが、結局、解毒魔法を唱えられるほど呂律が回らず、解毒が出来ないでいた。
今はそんなことよりも客人だ。何気に初めての来客なので、少し固めの声が出る。
「はい、どちら様でしょうか?」
「ミヤビくん、ソーラだよ。ちょっと相談があって来たんだ」
「ん、ソーラか。入っていいぞ」
訪問者が見知った人物だったので、ホッと胸を撫で下ろした。正直村の外の人が来るなんて滅多に無いとは思っているが。
「失礼しまーす。おおー、見た目通りの内装だね」
「木造で悪かったな」
「いや、質素でいいと思うけどなー」
そう言いながら彼女はドアを開け、部屋に入ってくる。リビング直通の玄関ってのもどうかと思うが、それは置いといて。
彼女に椅子を勧め、お互いが着席したところで早速本題へ切り込む。
「ところで、相談ってなんだ?」
「それが……私たちの今後の暮らしに影響がでちゃうことなの」
「マジか。どういった内容だ?」
いつになく真剣な表情を浮かべるソーラ。暮らしに影響が出ると聞き、思わず生唾を飲み込む。数秒の間を置き、彼女が口を開く。
「実はね……私、仕事が無いの」
「え」
ポカーン、と俺は、思わず口を半開きにして惚けてしまった。今こいつ何て言った?仕事が無い?それじゃあまるで……
「くっくっく、ニートじゃねえか!」
「誰がニートよ!? もうっ、笑わないでよね」
「すまんすまん、ちょっと面白かった。……くふっ」
「また笑ったね? 後ろ向いたって肩の震えで分かるから!」
いや〜、さっき滅茶苦茶真剣な表情で何を言うのかと思えば、よもやニート宣言だとは。シリアスそうな雰囲気からの温度差もあって余計に笑ったわ。ちょっとお腹痛い。
「あ、あとね、ニート仲間も連れて来たんだ。ちょっと待ってて」
彼女が席を立ち、外で待機しているという仲間の元へと向かう。というか先程の発言で、自身がニートであることを認めていることに気付いてるんだろうか。
程なくして玄関の扉が開く。しかし彼女の姿は見えない。代わりに、ちょっとした言い合いが聞こえてきた。
「ほら、早く行ってよ」
「やだよ。俺は無職じゃないし、帰って作業の続きしなきゃなんねぇんだから離してくれよ」
「うるさい!この引きこもりのチビニート!」
「ぐはっ」
おお、怖い……
何やら言い争っていたようだが、どうやら相手の心にクリティカルなダメージを与えたソーラに軍配が上がったらしい。彼女に引き摺られるようにして入ってきたのは、丸めがねを掛けた白衣の少年だった。まるで遊んでいるような跳ね方をした茶色の髪を持つ、低身長の少年は立ち上がり、白衣についた埃を払う。
異世界にメガネってあるんだ。
「この子はジル。自称考古学者の、今まで一切役立ったことの無い哀れな少年なの」
「いや、世界の地理歴史を研究して何が悪い。あと誰が哀れな少年だ」
いつになく容赦のない毒舌なソーラ。ジル特攻でも持っているんだろうかね。女性ってコワァイ。
つか考古学者ってマジか?だったら、魔物の沸く荒れ地についても何か知っているかもしれない。後で聞いてみる価値はありそうだ。
「ジル、これから仲良く頼む。研究についても聞きたいしな」
「おぉー!お前、分かってくれるのか!良いぞ。後で存分に質問に答えてやるぞ」
「ミヤビくん、ジルの肩を持つの……?」
「まぁな。役立ちそうな情報を持ってそうだしな」
「……じゃあ、ニートは私だけ?」
そう言って、露骨に拗ねてしまうソーラ。すると、同じタイミングで、玄関とは向いのドアが開いた。
「む、騒がしいと思ったら客人か。ソーラは分かるが、そちの少年は誰なのじゃ?」
「ジル。考古学者をやってるらしい。役立ちそうな情報を持ってそうな奴だ」
「なるほど、考古学者は村には珍しいな……」
そう言って思考に転じるエリネ。まだ寝ぼけ眼なのか、目を擦りながら何事かを考え込んでいる。
これも同時、突然な話だが、俺は『再生』の森の北端で違和感を感じた。守護者としての第六感が森の違和感を告げる。違和感の正体。それは……
「おい、皆んな聞いてくれ。犬型の魔物の群れが森の北端にいる。良かったな。冒険者としての仕事が出来たぞ」
「本当!?なんというタイミングの良さ。私、行ってくる」
「まぁ俺らも行くんだけどな」
勢いよく飛び出て行ったソーラを目で追いつつ、考え込むフリをして寝ているエリネを起こして、ジルを連れて北へと向かう。
しっかし、ついに魔物がこの森にきちゃったか。厄介ごとは増えるばっかりだなぁ。
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作者は狂喜乱舞します。




