おばあちゃんとイトイ君
あなたには許せない人はいますか?
僕はおばあちゃんが嫌いだ。
心の底から嫌いだ。
でも、理由が無く嫌ってる訳ではない。
始まりは些細なことだった。
毎回会うと僕のことを「~ちゃん」って呼ぶんだ。
それが嫌だった。僕は男だよって、なんでちゃん付けで呼ぶのって、呼ばれるたびになんか悪寒がした。
でも、お父さんの機嫌をとるためにいつもニコニコ笑っていた。
ただ、当然それだけで嫌いになった訳じゃない。
父方のおばあちゃんは金持ちだった。
おばあちゃん家に行くと毎回お菓子を買ってくれて、お小遣いも貰えた。
弟はいつもそれを嬉しそうに貰っていた。
でも、僕は違った。別にませてた訳じゃないし意地を張ってた訳でもない。でも、聞いたんだよ、僕は。
「あの子たちには、お菓子与えてりゃいいのよ。それでもダメなら、少し小遣いを持たせばいいのよ。」って。
子供ながらにその言葉を聞いたときに、あっ、この人は僕たちのことが好きじゃないんだって思ったんだよね。
お菓子やお金はくれたけど、遊んでくれなかったし、いつもどこか僕たちのことと、従兄弟を分けて見てた。
というのも、僕のお父さんには、3つ上のお姉さんがいた。そのお姉さんには、男一人、女二人の子供がいてさ。おばあちゃんは、そのお姉さんの子供のことをとても可愛がっていて、新しい服を買ってあげたり、遊園地に良く連れて行っていた。そして、その写真を嬉しそうにいつも僕の家族に見せてくれた。でもおばあちゃんに悪気は一切無かったんだよね。
それがおばあちゃんにとっては“ふつう”だったんだ。
だからか分からないけれど、その従兄弟達も調子乗り出してさ、僕たち兄弟をいつも挑発してきたんだよね。
その態度がめちゃくちゃ感に触ってさ、弟が切れて男の方に手を出したんだよね。そしたらここぞとばかりに大声で泣き出しちゃってさ。その後は、僕のお父さんとお母さんが、お姉さんと旦那さんに土下座だよ。
そんな、僕の親たちの姿を見てさぁ、あいつらニヤニヤしてたんだよ。僕はその時、二人の後ろ姿を見ていることしか出来なかった。今でもそんな自分が許せない。僕だけ何もしなかったんだ。お前らが偉そうに出来てんのはおばあちゃんのお金のお陰だろって言ってやれば良かった。
でも、僕は何も行動に起こさなかった。だから、文句を言う資格が無いっちゃ無いんだけどね。
それでもおばあちゃんを許せない理由が一つあるんだ。
それはお母さんを泣かせたことだ。
お母さんはお父さんのお姉さんと何かと揉めていた。
お金のこととか色々ね。
で、そんなお母さんを見てか分からないけれど、父方のおばあちゃんは「何かあったら私に言ってね」と良く言ってくれていたらしい。それでもお母さんは我慢した。お父さんや僕たちに迷惑をかけたくないと思っての行動だろう。ただ、どうしても我慢が出来なくて、とうとうおばあちゃんに相談したらしいんだ。
そしたらさぁ、なんて言ったと思うよ?
「自分でなんとかしなさいよ」
「そんなこと私に言われても困るわ」って言われたらしい。
その後、お母さんは部屋に籠もってずっと泣いてた。
ずっとずっとずーーっと泣いて、そして憑き物がとれたのか、お母さんはいつも通り笑ってた。
その二週間後、母は家を出て行った。
何も言わずに、僕が小学校四年の頃だった。
母が家を出て行った時、おばあちゃんは僕に言った。
「あんな女のことは忘れなさいって」
僕はその時も何も言えなかった。