70話〜雪国の天使〜
夜。
「インナーはこんなもんか。あ〜疲れた。風呂入って寝よ」
風呂場。
「ゆーいたのか。俺入って大丈夫か?」
「問題ありませんが、衣類の方は?」
「今仕込める最高レベルの多重構造の回路をキャミに仕込んだ」
「インナーなんですね」
「ブラじゃ俺の技術的に面積足りん。っと今日は夜食を摂って明日の朝食を抜く。戦う前に食って面倒な事になるのも嫌だからな。水分だけポーションで摂るが」
「あ、はい」
「しかし、慣れたはいいがこの身体不便でしか無いな。食細いのにトイレは近い方寄りだし。初潮がまだなのはまあリトルスの系統の特徴だとかでまあ今は考えなくていいらしいが」
「そうですか。そう言えばフブキさんは髪を伸ばさないんですか?似合うと思いますよ?」
「別に普通の魔法使いになるんなら伸ばしてもいいって思ったんだけどな。なんか魔法剣士もやるオールラウンダーになったおかげでまあまあ身体動かすから長いと邪魔なんだよな。結うか纏めるって手も無くは無いが切った方が手入れ楽だしな。俺がいいシャンプー作らせてると言えど、向こう程じゃないし」
「シャンプー作る人いるんですね」
「うちの優秀なアルケミスト兼農家になりつつある家臣」
「農家」
「俺が飯に使った食材ほぼ生産してるぞ」
「すごいですね」
「野菜と果物ならある程度持っていっていいぞ。帰ったら紹介する。肉はレンレンに頼め。あいつ暇な時は鍛えるか狩り行ってるから」
「なるほど」
「さてと、そろそろ出て何か作るか。うさぎじゃないの…アヒルもあったな。アヒルでいいや」
教会のキッチン。
「意外と綺麗な事で」
「そこそこ使ってますね」
「スープでいいや。ベースはマシュが作ってたスープのベースの味を見て調整っと」
お湯を沸かしてスープの素を溶かす。一応初めてだろうから味見をする。味はコンソメに近い部類だろう。コンソメだと断言出来ないし、違いもまあまあ感じるが。そうなると、玉ねぎとショクヨウショクブツ、あとじゃがいもと団子。
ゆーが要らないらしいから自分の分だけ作って完食する。そして就寝。
朝。
着替えてトイレだけ済ませて教会の中庭。肌寒いくらいの寒さ。灰色の空を見上げる。
「どーなんだろ」
「おはよう。フブキちゃん。他の皆が来るまで待っててね」
「あ、はい」
30分くらいしてギャラリーが揃う。
「みーちゃん!」
「やめろレンレン」
くっついて来るレンレンを無理矢理ひっぺがす。
「いーじゃんかよー。1日会えなかっただからさー」
「これから戦うんだからな?格が違う魔法使い相手にガチで」
「…勝てるのか?」
「半分有ればいい方。最悪魔力枯らす。多分魔力量で上取れてるから馬鹿やんなきゃできない事はない」
「フブキちゃんならやりかねないんだけど!?魔力量圧倒的にフブキちゃんのが多いし、そもそも普通に勝てる気がしないんですけど!?」
それは感じているから分かる。
「んじゃ、結界は俺がやってやる。まあ頑張れよ」
さてと、始まってしまった。
「どこからでもいいわよ!」
「んじゃ、遠慮なく。天より降り注げ、凍てつく流星、ミーティアブリザード!」
「量、多くない?しかも1つ1つが明らかに大きいんだけど!?テレポートじゃ間に合わないわね。聖なる光よ、我が身を護る盾となれ、ホーリーシールド!」
その場で静止して盾で吹雪の魔力弾を次々と受け止める。
「薄々感じてましたがやっぱ止めるんですね」
「いやいや、ギリギリよ?これでも。ほら」
魔力の盾が割れる。
「守勢ばっかでいてもダメだしあたしも攻めるわ!聖なる光よ、万物を穿つ雨となれ。ホーリースコール!」
大きさはともかく数多くね?
「悩んでる暇は無いか。光魔法なら行ける。氷の盾よ、光を反射する盾となれ、アイスリフレクション!」
上から降って来るレーザーを跳ね返すだけだからアイリスさんに向けて飛ばせないが上出来か。溶けたり貫かれたり透過する様子も無いし。
「反射まで出来るとは」
「反射できるのは光だけですよ。一応氷の魔法の類は相応のものを使えますから。まあ、あるもん詰め込んだ感じなんで、んじゃこいつでも試してみますか。早い段階でアイリスさんの限界掴んでおきたいので危ないですが、やるだけやってみますか。漆黒の闇の力よ、魔の竜となり全てを喰らい尽くせ、ダークネス・ドラグーン!」
「それ禁書の魔法じゃない!あいつ管理しっかりしなさいよ。天の光よ、炎の不死鳥となり全てを焼き尽くせ、ブライトフェニックス!」
竜と不死鳥が正面からぶつかって相殺される。
「嘘でしょ?」
「それはこっちのセリフよ!」
「まあ想定外ではありますが、使えそうな情報は手に入ったのでここはよしとしますか。高確率でこの威力は防ぎきれない可能性があると判断可能。で、基本防御体勢を取って回避行動に取るより防ぐ事に集中している。打点は高いからそこはまあ何とも言えないが、まだ上の魔法は少なからず出してないと考えていい。で、回復は切ってるとしてその分攻防に回す」
「やっぱフブキちゃんの分析力と言うか頭の良さは侮れないわね」
「魔力枯らしとか言う消極的戦法は取りたくないし意地やプライドだってある。簡単に捨てられる軽いもんだけど今は捨てたくない」
「ねえガルド!?勝てる気しないんだけど!?」
「そう言うなよアイリス。俺達が出しゃばってられんのも時間の問題だ」
「ったく。あたしが出来るのは分かってる力量の怪物までが限界なんだけど。フブキちゃんの力量が未知数なんだけど!?」
「そりゃそうだ。そいつは常に情報を得て適応し、成長出来るレベルの怪物を超える潜在能力を秘めてるんだからよ」
「出し惜しんでられないわね」
「んじゃ、行きますか。第二段階。最強クラスの魔法使いにどこまで通じるか分からないけど。ボクの出来る事はやる」
「ボク…。確かナナノ大陸でのミカンちゃんとの戦い…。何か来るか」
「大した事じゃないですよ。新しく身に付けた戦い方。ボクがボクである事の証明。得意技から行きますか!解き放つのは光の波動、我が詞に則り、貫く弾となれ!シャイニーバレット!」
光の弾丸を複数射出する。
「違っ、何これ!?っと」
結界で防がれる。まあこいつ自体威力はそうでもないから分からんでもないが効いてはいるな。精神的には。
「みーちゃんすげえ事やるな」
「どういうこった?あの魔法はこの世界に存在しない詠唱。つまり魔法そのものが存在しないはず」
「天使のねーちゃんに聞かれるとみーちゃんの策がダメになっちまうから言えんのだわ」
察してくれて助かる。他の皆も大方察してる。
「カラクリがバレる前に畳み掛けるか。って言ってもこの辺くらいか。やっぱボクにはこう言うのが合ってる。氷の力よ、我が詞に則り、白銀の世界に染め上げる吹雪を齎せ、シルバーブリザード!」
「やっば」
守護魔法で防いでいる。が、相殺か。これ以上の打点で押し切れなくはないだろうが、リスクがデカい。これなら。
「この辺なら。清らかな水よ、我が詞により、魔を清める清流の星となれ!スターストリーム!」
水の弾が空から降り注ぐ。アクアミーティア。星落とし系の水バージョン。他の星落としに比べてコントロールが効きやすい分一点集中砲火がしやすい。
「いやいや、そんなコントロールまで出来るの!?」
光の盾を相殺か。
「あっぶな」
「そうなるとこれ以上の魔法は切り捨てる方が賢明と取るか。事故った時が怖い。ボクである必要もない。俺の出せる全力をぶつける。もうそれしか無いんで」
「そうなると」
脇差を召喚する。
「なんでかな、こんな事、剣術なんてメインにするつもりは無かったのに、今じゃ1番しっくりくる」
「あはは」
ゆーが愛想笑いしてる。
「自覚あんのか。まあどうでもいい。この世界で生きて、この世界で得たもの。仲間、家臣、友、魔法、色々あるけどそれらの本質はそれらじゃない。今の自分を作るのはかけがえの無い経験。ここで培った経験をぶつける。ただそれだけの事」
ダガーも召喚する。深く息を吸い込んで。
「やるぞ」
その一言は響く事もなく消える。
「凍てつく竜の秘宝、竜の吹雪を剣に付与せよ!英雄剣『ドラゴ・ブリザードブレード・ヒルダ』!」
ダガーと刀に付与する。
「英雄剣でこの定着率、ヒルダちゃんから授かった魔法剣をここまで扱えるとは。水魔法氷系統の相性がそもそも良かったのもあるかもしれないけどマズいわね天の光の聖なる力よ、全てを防ぐ盾となれ、エンジュシールド!」
ウインドブーツを発動して一気に攻める。が、決め手に欠ける。が、ここは通したい。刀だけ、変えるか。
「これで勝負を付けます。今1番強い魔法剣。王国の闇の高貴なる剣は光を喰らう魔剣『キングダムソード・フォルネイア』!」
「ガルドが教えたのか?」
「いや?そこで対戦眺めてるアホがどっかで魔導書見つけてきて習得してフブキに継承させてたもんだからまあフブキならいいやと」
「英雄剣と魔剣を同時に発動するのね。それなら、あたしも見せてあげる。今の全力を!最強の怪物を貫く武器魔法で」
そう言うとアイリスさんの身体には合わないようなゴツい弓を召喚する。なんだアレ?
「天使の魔法、最強の魔法弓、古より存在する天の光の力、我が矢に宿り全てを射抜け、エイシャント・エンジェルアロー!」
魔力定着ヤバいけど、ここで引くようなチキンにはなりたくない。
眩く輝く矢を正面から刀で受ける。今使える1番強い魔法剣。矢の一撃が重過ぎて勢いに負けそうだが力業でゴリ押してぶった斬る。
そしてそのままアイリスさんに向けて突っ込む。
「!?」
守護魔法で防がれる、か。分かり切ってた結果だ。でももうやる事はこれしか無い。
「うぉおおおおおおおおりゃああああああああ!!」
守護魔法をぶった斬り、アイリスさんの左肩身体右足の付け根にかけて斬る。
「…浅かった…か」
「いたたた。ふふっ、まさか、ね。参ったわ。降参よ。勝てる可能性捨ててまでの魔力注ぎ込んで発動した守護魔法を打ち破ってダメージを与えるとは、もう、無理」
両手を挙げて降参のポーズで笑ってる。そのあと斬られた箇所を両手で隠す。
「多少残ってるとは言え、アレで無理ならもうどうしたものかと。こっちもギリギリでやってたので」
結界の魔法が解かれる。
「天使のねーちゃんの光魔法もすごかったけどそれをぶった斬るみーちゃんやべえわ」
「そもそも何なの?あの意味不明な詠唱」
自分が説明し始める前にレンレンが話し始めたからぶん投げる事にした。
「俺達の世界における架空の、所謂物語で使われる魔法の詠唱の裏で構成隠蔽して撹乱させるって感じだろ?あの詠唱自体ハリボテみたいな」
「そうそう、昨日それが可能な範囲探ってたんだよ。いくつか実際に試したりして。意外と上手くいったから使うって決めたけど容赦なく光の盾で完全に防がれたしもうぶった斬るしか無いと」
「みーちゃんが極論に到達してしまった」
「さてと、師匠?なんとなく察してましたが、あの戦い、模擬戦でありつつ経験値が入るように細工しましたね?」
「流石、気付いたか」
「また前に進化した時と同じ感覚ですし」
ここで意識が途切れた。
「え、何これ?」
「進化か。みーちゃん1回進化してたはずだが、ワイバーン、七賢者、そこのエセアサシン」
「エセアサシンって」
「盗賊の亡霊、んで、今回の天使のガチのねーちゃんの戦いで得た経験値が再び進化の力、もしかして天使の力をみーちゃんが取り込んだとか」
「お前実はバカ演じてるだけで普通に吹雪並みに頭いいだろ!?」
「回転の速さは自覚あるけど知識量でみーちゃんにゃ敵わねーよ。まあ真面目なの嫌いだからバカ装ってるのは事実だが、にしてもこれからどうしたもんかねー。俺ももう1段階先目指してみっか」
「私はまだ進化出来ていないので、そこを目標に」
「さてと、ここにゃ用はもうねーからフォルネイア帰るか。その前に酒買ってくか〜」
第6章〜小鳥遊優と雪国の巨獣と天使〜 完




