6話〜地味系魔法の修業〜
「ん…寝ちゃってた。痛たたた…」
硬いところで寝るのやっぱ慣れねーな。ってか部屋案内されてそのまま寝ちゃったんだっけか?身体中痛い。
さてと、この世界で何度も味わった退屈と言う苦痛。ネットもPCもゲームも漫画も何も無い。この部屋には本1冊すら無い。
この部屋には窓がある。外を見ると夜になってる。どのくらい時間経っただろう。時計が無い。
こんこんと扉を叩く音が聞こえる。
「フブキちゃん、起きてる?」
「はい」
「今日はごはん食べに行くよ」
「あ、はい。はい?」
オウカさんに出てもらって服を替えて吊るす。
一応短剣一本は隠し持っておいた方がいいか?
女神製品の太腿に付ける短剣ホルダーにナイフをしまっておく。それが見えないようにスカートを履く。下にスパッツも履いておく。
髪をまとめて帽子を被る。
「おー。可愛い!じゃなくて行こっ!」
と言うことで移動したのは教会。さっきのとこじゃねーか!まあそこは気にせず。でもここで夕食ってどう言う事だ。
「オウカ、1時間遅刻よ」
「あはは、フブキちゃんが寝てるの可愛くて起こせなくて待ってた」
「しょうがないわね」
するとぽんぽん魔法で料理が転送されて来る。しかも温かいまま。
「魔法?」
「転送魔法よ」
「そっちじゃなくて1時間前の料理が温かいまま…」
「よく気がついたわね。状態保存魔法よ。干渉魔法だからそのうち使えるようになるわ」
状態保存魔法か。使い道ありそうだけど。主に食料面で。
「美味しい…」
「よかった」
美味しいのは分かるが何食べてるのか分からないのがなんとなく怖い。異世界の物珍しい料理というのは分かるが頭に疑問符が浮いてる状態の食事は若干怖い。
「その割には怖い顔してんだけど」
「いや、自分が食べてるものを理解してないって状況割と怖くないですか?」
「そこの馬鹿とは違って初めての物を警戒するのはいい事ね」
「ボクを馬鹿って言った!?」
オウカさん割とキレてる?
「あんたあたしが作ったもの、ってか人が出した料理ほぼなんでも考えずに食べるでしょ」
「うっ」
いつか毒もられね?この人。
「ちなみに今食べてるそれはコッコポッポって言う家畜としても育てられてる一般的な鳥類の肉よ。割とそこら辺にも飛んでるわ。
それをサタンハートって言う果実のペーストベースで煮込んだもの、それはコガネマルイワノミ果実の団子、こっちは小麦の硬めのパン、あとそっちのボウルはショクヨウショクブツの葉のサラダ。あとはルビーグレープ、コンジキバナナ、柑橘とか果物の盛り合わせ。
全部割とフツーのものよ。悪かったわね」
「説明は有難いんですけど、サタンハートとショクヨウショクブツの2つが何か語呂怖いんですけど」
「サタンハートって言うのはこれね」
トマトみたいな見た目だけど…。
「ちなみに生食はやめた方がいいわよ。激辛よ。ちなみにラグナスには生食用トマトと書いたメッセージつけて1個のトマトと9個のサタンハートを送っといたわ」
「引っかかるんですか!?」
「アイツ馬鹿だか引っかかるわよ」
「ってかむしろほとんどハズレでは!?」
「まあオシオキは別でするけど」
「あ、別でするんですね」
「ラグナスさんってどんな方なんですか?」
「頭悪いけど剣の腕は確かよ」
「なんとかドラゴンをソロでぶった斬ったとかラグナスの故郷の街周辺で聞いた事あるよ!」
「アイツドラゴン狩ってる量多いからどれか分からないわよ」
「ドラゴンってそんな狩れるものなんですか!?」
「ボクは無理かな〜。アレはウロコ硬いからワイヤー通らないし。小刀と魔法でヤるってなると萎える」
「オウカ戦闘は苦手な方だものね」
「戦闘苦手で英雄なれるんですね」
そこ衝撃的なんですけど。どう言う事なのか意味がわからない。
団子食べながら思う。あ、これなんか食べた記憶が何故かある。
「最終的に最強格の巨人殺ったから。結構無理したけど」
「それも何か嘘っぽいけど」
「酷っ!じゃあガルドに聞いてみなよ!」
「ああ、今ならガルドの霊に聞けるのね。でもいいわ。せっかくの女子オンリーのプライベートにアイツは要らないわよ」
って事らしい。さーせん。
「まあボクは別の方面で頑張ってるんだよ?違法のクリエイツの製造施設を10箇所以上潰してるし、不認可の兵器製造工場とかもう100近く潰してるよ?
あとは手配者の捕縛とかたまにシメるし」
スパイとか暗殺者とか。
「幻獣の密漁者、違法薬物、植物の密輸、闇市、色々取り締まってるよ〜。
酷いのは暗殺者の暗殺依頼とか」
「つまり超越したバケモン相手にするよりは対人特化の隠密なりアサシンなりが主な功績で」
「オウカはそうよね」
「世の中必要なんだよ。悪しき者を裁く者が」
「うわ、何それ、ダサっ!」
「カッコいい」
「うわぁあああああ!フブキちゃんいい子だ。よし、ボクが隠密と暗殺術を…」
「要らないです」
「フブキちゃんはあたしが立派な魔法使いに育て上げるわ!」
魔法使い確定か。そりゃそうか。童力を使えるとはいえベースは魔法。とりあえず干渉魔法を活かして戦うとはいえ、短剣術、及びその他武器スキルに関しては補正も無く元々素人。ぶっちゃけこの身体を活かした敏捷性がギリギリ他で足りない面で補えてると言っていい。
こう言う感じの小人族ってRPGにもいたよな。敏捷性はあるけど力は足りない、魔法も出来ないけど圧倒的な運でクリ量産する盗賊みたいな。
どっちにしろ役職微妙だな。俺は幸い魔法ステブチ抜いてくれたついでに世界観で童力と言う物魔両刀いけるけど。
「でも、それじゃあフブキちゃんの干渉魔法を活かした剣術勿体無いよ。最初から持ってたっぽいし神様がそれを選んだんだろうから」
「って言ってもねえ、オウカの剣術だって苦手な間合いを誤魔化すのメインで基本はワイヤーとちょっとした錯乱程度の魔法だし、かと言ってラグナスはバンバン大剣やロングソードでゴリ押す主義だから立ち回り的にフブキちゃんの脇差、短剣術を教える素養は無い。自力で習得するにも限度ってものがあるわ」
「でもフブキちゃん割と近接戦闘術は悪くないと思う。フェルパーを仕留めた時だって上手く立ち回ってそこまで苦労してた様子も無いし」
「魔法でその辺誤魔化してたんでしょ?」
その通りでございます。
「でも、アレは確実にボクと似たようなパターンに成長していってるよ。現状」
「長射程の魔法が無いからでしょ?その辺覚えたら確実に変わってくるわよ」
まあそうだろうなぁ。
「フブキちゃんもなんか言ってよ!」
「アイリスさんが言ってる事は事実なので」
「うっ、でもそれでもラグナスに勝てるのは凄いと思う」
「まああんな戦い方見せられたらねー。確かにリトルス特有の小回りの効きみたいなのは活かせてるわ。アンタ以上に」
パンとサラダを黙々と食べながら聞いてる。
やっぱこの身体そんな食べられないな。見た目通りのキャパしてる。
で、割とお腹いっぱいな訳ですが。
でもバナナとみかん食べてるけど。
「フブキちゃんもういいの?」
「もう食べられません」
「分かったわ。ほかのみんな食べ終わったら…ね」
と言う事で十数分待って食事を終える。
オウカさん体型あんま変わんないのに倍は食べてないか?この人の身体どうなってんだ。
アステルさんは俺よりちょい多いくらいだけど。
中庭に歩いて移動する。
「んじゃ、魔法の特訓ちょっとでもしよっか。大丈夫よ。無理に身体動かす必要は無いわ。使いこなすのより発動させるのが目標だから」
「あ、はい」
「っと、ガルドも必要ね、とりあえず」
するとすぐに乗っ取られる。
「アステル、詠唱してコピーメイクでフブキの身体を複製しろ」
「ん、基本詠唱ってのは必要な意味の羅列を文として構成して発動する。
意味さえ通れば多少変わっても問題無い。と言うより人によって同じ魔法でも結構変わる。じゃ、創造の力を持って写しを生み出せ、コピーメイク」
すると、身体が光り出してもう1人の自分が出来上がる。
「コピーメイクは創造、写し、生み出すが必要」
「なるほど…。っと繰る糸よ、傀儡操る力をもたらせ、パペッター」
分身に細い魔力の糸を次々に通して軸を形成する。
「どうですか?」
「上出来だな。ここまでやれるとは。ちょい気になることはあるが良いだろう」
速攻でガルドさん分身に入ってるよ、この人って!
「おっ」
襟からブラを覗いている。
「あばばばば…」
「やめなさい!ガルド!フブキちゃん困ってるでしょ!」
思いっきりぶん殴ってる!?
「あばばばば…」
「仕方ない、フブキちゃんの為だし」
「分かるんですけど自分の分身が殴られてるのもちょっと」
「…あぁ、それもそうね。仕方ない。特別よ。化け猫の時は他を当たりなさい。修行終わったら…いや、化け猫の始末の頑張り次第で封印ね」
分身に何かの魔法をかける。
すると分身がガルドさんの姿になる。
「どう?あたしの記憶の範囲で再現出来てるはずよ。でも、フブキちゃんに手出したらそん時は覚悟しなさい?」
「…お、おう」
「う、うわぁあああああああ!!」
オウカさんが一時的に変わったガルドさんに飛びつく。
それをガルドさんはどうしようかとあたふたする。
「はぁ、それは良いわよ。オウカが自ら行ったんだから返してあげなさい」
それを聞いて黙ってぎゅっと応える。
それを見ているアイリスさん、あれ?もしかして…。まさか、無いな。
「さてと、これから数日間、ここで夜に特訓をしてもらうわ。ちなみにオウカはそこら辺で寝てて良いわ」
「酷くない!?」
ガルドさんから離れたオウカさんが驚きながら言う。
「だってアンタの魔法、フブキちゃんなら扱える可能性はあるけど初心者向けじゃないし。まあそれ言ったらフブキちゃんが最初から持ってる干渉魔法もぶっちゃけ初心者には難しい部類だけどラグナスとの戦い方見るとあたしは良い方に見れる」
良い方に見れるか、それをプラスに取れるかどうかか。
「アイリスが言うのも最もだが、俺が言うのもなんだが隠しても仕方ないだろう。
俺はフブキの身体に憑依してるしある程度分かる。俺はが言うのは悲観的だがそれは何とか出来ることだ」
「え、見てて悪いとこなんて無かった気はするけど?」
アイリスさんとオウカさんは特に気づいていないようである。アステルさんは思考を巡らせて結局分かってない。
「さてと、まずは、フブキに憑いてるんだろ?女神さんよ」
「…これはこれは。かつての英雄さん、何の御用でしょう?」
「フブキは高い魔法適性を持ってる割に魔法の効果、消費魔力に対して効果が低い。魔法の変化、発動効率がかなり悪い。これには違和感がある。
一般的にゃそれは成長すれば改善は見込めるような事だが。一応確認をな。
それと最初にわざわざ初心者が持つにはハードルの高い干渉魔法だ。もっとあるだろ?」
「お気付きですか。まあそうですね。吹雪様の身体は今、意図的にそういう風に作ったのは理解していただければと思います。干渉魔法についてもちゃんと説明しますので」
「意図的だと?」
「はい」
『吹雪様、吹雪様の世界について話させて頂きますね。正体については触れませんので』
『了解』
「吹雪様は生前、つまり転生前の世界ですね。その世界は魔法、及び特殊な能力は概念として存在しても現実としては有り得ないものです。吹雪様は魔法の適性も当然ありませんでした。普通の人間、いわゆるヒューマンです。
吹雪様の死に神2人が関与し、結果、償いの意味でこの世界にリトルスとして長生きしてもらう為、また、魔法が実在する世界で楽しい人生をリスタートしていただくべく転生して頂いた次第です」
「なるほどな。そう言う事か」
「え?ガルド分かったの!?」
大体俺も察しはついた。
「吹雪様も気付かれたご様子ですね」
「うん。魔法が使えない身体を使える身体に作り替える、その上で下手すりゃ魔法の存在そのものが身体にかかる負荷が元々無い世界の人間にゃ重すぎる」
「そーゆーこった」
「ご察しの通りです」
「だから、吹雪が気付かない範囲で魔法の効果や才能を調整し、中でも負担が低いとされる干渉魔法の才能を予め持たせた」
「ガルドさん結構簡単に気付きましたね」
「だがこれには矛盾がある。干渉魔法において、自分の身体にかける類の干渉魔法。これは他の魔法と比べると明らかに負担は大きい部類だ」
「そこは賭けでしたね。でも、干渉魔法なら命に関わるレベルの負担はまず無い。それは把握してますし、魔法と言うものを持つに当たってリスクもある程度あるって認識は持って頂かないといけないものでそう言う意味で教養用として」
「白魔法で良かったろ。回復ベースでそこそこの攻撃、干渉も行けるバランス取れたセットだろうに」
「残念な事に持ち合わせに無かったんですよね。私から差し上げられるもので負担が低いのが干渉魔法、工作魔法、観測魔法くらいですし」
「工作魔法って?」
「干渉魔法は物や生命に干渉する事が出来るが魔法に干渉する力は少ない。あるけどな。で、工作魔法ってのは魔法に干渉する魔法だ。相手の遠隔操作系の魔法を乗っ取ったり、魔法交信を妨害したり。用途はあるが干渉魔法のような攻撃に生かすものは無い。守る為の魔法だ。ちなみにオウカはそれと幻惑魔法が使える」
「あ、何なら一応両方ボクがあげるよ」
工作魔法と幻惑魔法の素質を入手した。
「工作魔法の使い道なんて限られるがな。魔法を使う相手、しかも工作魔法が活きる相手ってのはかなり限られる」
「結界破れるしゴーレム黙らせられるし時限発動魔法乗っ取れるし強いじゃん」
強いってより便利ってのがしっくりくるけど。
「でも地味系魔法の中でも空気だぞ」
「地味系魔法って」
「工作魔法、感知魔法、操波魔法とか操波魔法ってのは魔力の波を操ってその反響を利用する魔法の類だな。まあ地味なのは色々あるが魔法の殆どはカーディア辺りに聞いてみな。っと、今はそんな話じゃなくて、猫を蹴散らす手段だろ?」
フェルパーを蹴散らす手段。ぶっちゃけ規模も相手の実力も計り知れない現状、どうするのだろうか?
「とりあえずはウインドアド、ファイアアドの2つを習得、コピーメイクの習得は最低限として、転移、転送は無理っぽそう?」
「無理だと思う。空間干渉でも転移は上級だ。それなら効率悪くても攻撃魔法増やした方が楽は出来る」
「アンタと同じ意見ってのは癪だけどそれも事実ね」
「効果、効率を集中的に伸ばすのは?」
「それはほっときゃ多少良くなるから大丈夫だ。ってか初めて、これから使っていく魔法は最初はあんま良くないからどっち道実用レベルには上げる。さてと、まずはウインドアドだ。ウインドブーツが使えるなら風のウインドアドは割と難しく無いはずだ。ただし、お前はまだ詠唱必要レベルだろうが」
ウインドアド。武器などに風属性の性質を付与し、切れ味や吹っ飛ばすパワーを与える魔法らしい。
「今のお前が属性付与を使わずに心臓や他急所を突いて致命傷や出血多量で殺す選択肢を取っていたがこれを使えば童力に頼らずとも人の胴体をぶった斬るレベルにまでは上がる」
それはかなり違う。
「ちなみに特訓次第で身体負担は童力でそこに至る力を発揮するよりだいぶ楽になるはずだ。さてと、実際やってみるか。風よ纏い、我が器疾風の力を与えよ、ウインドアド!」
ガルドさんが持っているダガーが強い風を纏っているのが分かる。
「風よ纏い、我が器に疾風の力を与えよ、ウインドアド!」
自分のダガーが風を纏っているのは分かるがそこまで強くない。むしろ弱くない?くるくる〜って程度なんですがこれ。
「発動はしたか。構成は出来てるがまだ効果はやはり低いか。でも初めてでこれとは、流石俺が見込んだ弟子だ」
「アンタに譲る気は無いわ!」
「譲るも何も俺はお前らより先に目を付け弟子としたのだぞ?」
「アンタ弟子に何教えたのよ?」
「構成隠蔽教えたのは俺だ」
構成隠蔽なんてそもそも知らなかった。
「うっ、それは確かに大きいけどなんか釈然としない」
「まあこれならあと何日かかければ十分使えるレベルには至るな。目標はその得物で横に振って3人斬れるレベルのリーチまで伸ばす。得物の扱いはお前に投げるが、干渉魔法でリーチを伸ばせる、それは大きな利点だ。魔法である以上、質量を持たない。質量による扱いづらさはまず無い。それはつまりお前の敏捷性や器用さを活かした上で長いリーチで相手の攻撃範囲の外から攻撃出来る。リトルスが人間が扱うような槍のようなリーチで攻撃するんだ。目に見える物理的リーチより遥かに長いリーチで。人の目を欺き、意表を突ける。お前の戦闘術なら余裕でオウカより強くなれる」
「うっ。ってか今の時点で既にボクより強い気もするけど」
「それは頭の差だ。経験の差でお前は勝ってるくらいだ」
経験の差、これはいかに頑張ろうと超えられるものでは無い。でも、これをカバーする方法はある。経験の質。量より質という言葉は経験においても言える。それは分かる。
「最初の難題として森の戦争レベルの戦闘っておかしくないですか!?」
「ま、何とかなるだろ」
「頭が痛い」
「大丈夫!」
…。ヤバい。この大丈夫はヤバい奴だ。
「フブキちゃんが言いたいことはよく分かるわ」
戦争、どこか遠い国の出来事かと思ってた。それが今は自分を含めた命を守る為、自分から戦場に出向く、その可能性を、必要性を考える時を迎えようとしている。
生憎、戦争のノウハウは無い。異世界チュートリアル終了ステップで戦争。ぶっ飛んだレベルな気もしなくないけど、何処かに攻略の糸口がある。そう信じる。やるしかないか。
別に英雄になりたい訳でも、勝ち誇りたい訳でもない。でもほっといたらこれはこれでマズいのは分かる。
「はぁ。気が重い」
特訓と勉強の日々は恐怖と共に始まってしまった。




