Extra story1〜フブキとサクヤの日常・前〜
フブキさんの街に来て数日。フブキさんの屋敷とフェリルさん達の家、メルナさんの商店を行き来している日々が続いて無事生活が安定してきた頃、フブキさんの屋敷で泊まった次の日の朝。
「フブキさんがもう起きていませんね。どうすれば」
「おはようございます」
確かフブキさんの侍女?の1人のリトルスのポンデルさん。
「えっと、フブキさんは?」
「剣術か魔法の特訓かと」
「…とりあえず追いかけてますわ」
「はっ」
屋敷内の書斎、所謂フブキさんの魔法勉強部屋にはいなかったので、話に聞いた剣術の特訓の場所。
ディアボロスの好青年と毛並みの美しいケットシーでしたわね。のお二方ですわね。ここにフブキさんはいらっしゃらないようですが。
「えっと、ノーラさんとヒイロさんでしたわね」
「フブキ様のご友人の転生者のサクヤ様ですね。どうかなさいました?」
「フブキさんがどちらにいらっしゃるかって分かります?」
「おそらく彼方の方の魔法の特訓場かと」
「フブキさんはいつもこうして剣術や魔法を?」
「そうですね。この時間帯は大体どちらかで特訓してます。あ、ヒイロさん。私はこのままサクヤ様をお連れしますね」
「あ、ああ」
案内されると今度はフブキさんもいますね。
「おーし、今日はこんなもんでいいだろ」
「あ、フブキさん」
「どした?朝まあまあ早いよ?」
「早く目が覚めて。それに今日は休みをもらってますので」
「ああ、とりあえずそれでどうするか考えてるの?」
「フブキさんの生活に1度くらい合わせてみようかと」
「まあいいけどさ。んじゃ」
移動してきたのはまさかの温泉。
「フブキ様は特訓の後と夕方から夜の間で計2回入浴なさいますので」
「そうなんですの?」
「まあうん。大体ね」
結構清潔になさってらっしゃるのですね。
「よーし、ノーラちゃんやるよ〜」
「はい」
ノーラさんの背中を流すフブキさん。部下との関係も…。
「しっぽ行くよ〜」
「ひゃい。うみゃっ!?」
これ、ただしっぽを堪能しているだけでは?
「はぅ、ありがとうございます」
ノーラさんのしっぽ、ものすごい綺麗に手入れされてますわね。
「フブキ様がしっぽや耳の手入れなさってくださる時はかなり精神的にきますが仕上がりが信じられないほど完全なので…うぅ。何度していただいても慣れませんが」
「9割楽しまれてますわよ」
「承知しております」
数分かけてノーラさんの身体を洗う。
「何故ご自身の身体より私の身体の方が綺麗に洗うんですか」
「え?」
「何と言うかあっちで生きてた頃にどことなく身近にいた子の面影をノーラちゃんに感じるんだ。そこまで似てる訳じゃないのに時々重なる。まるで違うのに違うって思えないんだ。それをノーラちゃんと出逢った時から運命かなんかだって思えるようになった」
「なるほど」
「何がなるほどなんですか!?」
「髪の色は違いますけどどことなく似てますわね」
人ではなく飼い猫ですけどなんとなく重なるところはありますね。数回見た程度ですけど。
「フブキさんがノーラさんの事を気にかけるのも、いえ、フブキさんにノーラさんが仕える、それ以前にフブキさんとノーラさんが出逢った事が運命…なのですね」
「運命…」
「どう言う出逢いだったのです?」
「化け猫の支配下のフェルパーの調査で戻ったときに化け猫の支配下のフェルパーの小規模パーティに襲われてそれを始末した後にノーラちゃんが食べ物分けてくれれば戦うつもりは無いみたいな事言ってたから持ってたアヒルの燻製あげたらほぼほぼ食べられた」
「うっ」
「まあ別によかったんだけどさ。近くでキャンプしてたし。で、フェルパーの集落で炊き出しやってディアボロスと組んで化け猫軍制圧ってとこ」
「それにしてもよく封印出来たと言うか軍を制圧したと言うか」
「英雄様の力もあるし女神からAK-47とかワルサーとか借りたし」
「私達の世界の現代兵器ですわよね!?」
「ああ、知ってんのか。構造や射出する弾は違う…ってか見た目だけそれの別物だけど。はいオッケー」
「ありがとうございます。替わりますね」
「そんなすごいものなのですか?」
「まあ言って現代でもないけど。70年くらい前に作られた型だし」
「70年…」
そもそも銃が400年以上前に日本に来てる。それと比べてしまえば十分現代ではあるが俺らが生まれる数十年前と言うと十分古い。身体を流され、髪を梳いているノーラちゃんの手が止まる。
「本物は普通に人間の骨を貫いて命を十分奪えるからね」
「それほどの武器が」
「金属の砲台を貫くデカいやつとかも向こうにゃあるけどそもそもそこら辺の人間が持てるようなモノじゃない代物だからね」
「人が武器を持てない世の中…」
「それは違いますわ。人が武器を持たなくてもよい世の中ですわ」
「戦いのない」
「私達の国は。まあどっかの馬鹿が人殺めたりして処罰されたりしますわ。別の国の話となると紛争だったり兵器開発が続くようなところもありますが」
「そして魔法ではなく科学が進歩した世界」
「科学で空は飛べますか?」
「数十人乗せて空飛ぶ乗り物が国を超えて動いてる」
「それを人間がって言うのが驚きですね」
「人間以外文明を築いた種族がいないのさ。フェルパーもエルフもリトルスも。いないからファンタジーだったのさ。魔法も存在しないからファンタジーだった。今はそれが現実になってしまった。向こうに遺してきたモノはかなり多いけど、夢に見た世界がリアルになったけど、今の生活は嫌いじゃない」
嫌いじゃない…ですか。
身体を流してもらって温泉に入る。ノーラちゃんとサクヤに挟まれてなんとなく居心地が悪い。
「配列おかしくない?」
「フブキ様真ん中の方がいいかと」
「なんか辛いんだけど」
「そういえばこの後の予定は?」
「朝食摂ったら研究所。とりあえず声かけてみる子がいるから」
声かけてみる子。ですか。
温泉を後にして屋敷に戻る。
「フブキ様、サクヤ様、おはようございます。食事の準備は出来ております」
確かこの方は…。
「おはよう。トウカ」
食事が例の団子、焼いた川魚、新鮮な果実、スープですわね。
「頂きます」
「頂きます」
「あれ?このスープはメルナさんの味付けだよね?」
「そうなんですの!?」
「はい、フブキ様が仰った通りです」
「メルナさん甘い味付け好きだから。スープにモモイロモモとかモリキウイとか入れるのメルナさんくらいだし」
「…え、あ」
モモイロモモ、無毒の果物。モリキウイ。所謂キウイフルーツ。スープに入れて食べるものではない。
「お肉を柔らかくする目的でしょうか。ボアの肉入ってますし」
「多分ね」
果物の酸とか何らかの成分は肉と一緒に火にかけると肉を柔らかくするとか。酢豚のパイナップルとかが例ですわね。
「メルナさん甘いもの好きですから。好みの問題の方が」
「あ〜」
「ごちそうさま」
「…私も。ごちそうさまでした。とても美味しかったですわ。私としましてはこちらの世界のフブキさんの手料理も頂いてみたいものですが」
「…久々に作られます?フブキ様?」
「え、いいの?やるやる!んじゃ、ついでに行きますか!」
「ついでとは」
屋敷を出て歩き始める。
「この街には例えば店を営む、あるいは店に勤める者がいる。技術者、建築家がいる。そしてそれらをサポートしつつ街の主力として文明の発展に大きく貢献してくれてるのが所謂アルケミストや開発に当たる者達なんだ。魔法と科学は繋がるんだよ。これからこの街は」
魔法と科学は繋がる…ですか。深いと言いますか。
数分歩くと大きな建物。少し雰囲気の違う感じは気になりますが、まあ大丈夫でしょう。おそらく。
中を進むと暗い廊下の先の金属の重々しい扉。魔法の回路が刻まれていますね。
「この扉は?」
「魔術回路が刻まれてるんだよ」
「魔法ではなく魔術ですか?」
「そこからか。まあいいや。魔術ってのは回路だけで構成する魔力を用いる力。そこに言語を加えると魔法になる。この世界じゃ魔術はそこまで広まらなかったらしいけどこうして戦いとは違う場所で文明の発展に貢献してる」
『フブキ様?何か御用でしょうか?』
「通信機器…ですの?」
「これも魔術なんだけど。っと色々話したい事があるから開けてもらえる?」
『承知致しました』
そう言うと、扉が自動で開く。自動ですわよね?魔法とか魔術で能動的なのでしょうか?
奥に進むとショートボブの銀髪のリトルス…ではないですね。エルフでしょうか?髪で左眼隠れてますけどメガネってこの世界にあるんですね。驚きです。
「ごめんね。急に来て」
「フブキ様のご都合でしたらいつでもお受けします」
辺りを見渡すと色々散らかってる。ゴミとか、衣類、下着まで。
「キツく言わないけどたまには片付けようね?」
「はぅ、申し訳ありません」
「えっと、こっちはサクヤ・カンナヅキ。俺の世界からの知り合い」
「はじめまして」
「はじめまして。私はマシュマロと申します。アルケミストとして主に薬品の開発を中心としてます。医療学の知見はそこそこ、回復魔法も扱えます。実戦向けの力自体は大して有りませんが」
「フブキ様、今日はどうなさいました?」
「スライネ大陸に向かう事になったから一緒に来て欲しいんだ」
「私なんかポンコツが行ったところで戦力にならず足引っ張るだけかと」
「スライネは砂漠の多い大陸で砂漠を歩くことになる可能性が高い。ってかほぼ砂漠を歩くのは確定になる。だからキミの科学の力で砂漠を歩くための装備や色々を頼みたい」
「承知致しました。装備類とその他衣類、ポーション等は準備致します。ついでに下着になっていただけます?採寸して服や生地をリトルスの職人に発注しますので」
「あ、うん。サクヤも連れてくから一応」
「承知致しました」
「分かりました」
「私も同行するようでしたらあのライフルという武器、ココアに発注してよろしいですか?」
ココア、エルフの武器職人。その気になれば銃も作れる様になってしまった。魔力銃だけど。
「それはやめて。魔力の銃弾撃てるモーゼルミリタリーも本来アウトなんだから」
モーゼルC96。通称モーゼルミリタリー。試しに作らせてみたらガチで魔力銃として完成させ、扱いこなして見せた。
「うっ、残念ですが仕方ありません」
「そもそも誰かに銃の技術を教えるのも本来アウトなんだけど」
「そう言えばフブキ様また胸大きくなられましたよね」
「え!?」
「あ…うん」
「新しい下着も作りますね」
「あのさ、なんでサクヤが触ってるの?」
「おかしくありません!?この仕打ち」
「女神に言え、女神に」
「呼びました?」
「サクヤが巨乳志望なんだと」
「そこまで言ってませんわ!」
「ちなみに私に言われても無理なんですけどね。『神無月咲夜』と言う魂が生まれた時点でそう言うパラメータ的な物は決まってて。これは生物、状態毎にパラメータが決まってて」
「フブキさんみたいに進化出来たら…」
「まあまあ希望はありますね」
まあまあって。哀れな。
「フブキさん、なぜ哀れむ様な目で見るのです?」
「この女神が嘘っぽい。多分さりげなくフォローしてるから」
「そんな訳ないじゃないですか!」
「あ、嘘ですわね」
黙った。
「まあ基本は全て決まってるステータスなので。裏パラメータみたいなのもあって。詳しく話せませんが」
裏パラメータ、俺が女になる事で適用されたパラメータとかそんなもんだろ。
女神消えた。
「…えっと。この後って農園の方ですか?」
「いや、それは夕方」
「もし暇があればココアに会いに行っていただけますか?」
「分かった。んじゃ行ってくる」
研究所を出て歩く事数分、今度はどうやら何かの作業場の様です。
「入るよ〜」
「あ、フブキ様!?」
「抱きつく前に汗拭け!」
慌ててタオルで身体拭いてる。で、捕まる。
「で、何の御用ですか?見知らぬリトルスちゃんもお連れして」
「サクヤと申します。向こうからの知り合いです」
「あたしはココア!武器職人だよ!」
ショートヘアのエルフの女性。またずいぶんと元気系と言うか。
「マシュに様子見てくるよう頼まれたんだよ」
「ちゃんと仕事してますよ!えっと、何でしたっけ?シグP220も出来てます!」
「頼んでないよ!?」
「ああ、マシュに頼まれて」
何やってくれてんのあの子!?
「とりあえずこれは預かっておく。金属製のワンドって頼める?」
「金属製のワンドですか?」
「サクヤに持たせようかと」
「メルナちゃんに当たってオーブ貰った方がいいのでは?」
「私はコンさんから多分杖状の武器の方が扱いこなせると言われまして…」
スタッフ、ワンド、オーブ、クリスタル等が魔法の性能を高める所謂MAT強化武器の種類である。ちなみに本や魔導書は勉強するための物であってこの世界では魔法を強化したり発動したりなんか出来ないらしい。それぞれ性能が異なり、使い手に合わせて変わるため多く種類が存在する。ちなみに俺はオーブやクリスタルがメインである。
中でも、オーブ等の宝石系は加工によってガントレットやグローブに嵌め込まれて使ったりも出来る。
「なるほど、いっそスタッフでも良さそうかな」
「スタッフとかワンドって何です?」
「スタッフは所謂両手杖。長い杖で両手で持って魔法をそこに乗せて増幅させるって感じだね。ワンドは片手で扱う杖。軽く携行しやすくなるけど同じ材質だと増幅の度合いがスタッフより落ちるね」
「あとはワンドだと盾を持てるって言うメリットもあるな。一応」
「相変わらず世界が変わっても博識ですわね」
「あっちの頃の知識だけじゃないけどな」
「勉強頑張ってるんですね。こっちでも」
「そう言えばいい素材は入ってるんですけど」
そう言って取り出したのは銀色に輝く美しい金属。
「ミスリルか」
「さすがフブキ様」
「ミスリルとは?」
「向こうの世界には存在しない金属の一種。加工のしやすい割に強い強度と美しい金属光沢を持つ貴金属。この世界では硬貨としても利用され1000万マナ。向こうのレートで大体1000万円から1500万円くらいに当たる貨幣。ついでにこの世界の最高値の貨幣」
「めちゃくちゃですわね」
「金属としてもかなり高位で強度、価値も勿論金や白金より上だからな」
「そんな金属が存在するのですね」
「あとはヒヒイロカネとかオリハルコンとかも強度や価値じゃ上らしいけどリアルで見た事ない」
「あの辺は流石に無理かと。フブキ様のミスリル製の武器もかなり貴重ですのに。そもそもただのミスリル武器の数十倍は」
まあ女神様から初期装備で手渡された武器だし。初期装備なのに既に最強ランクだけど。魔法のノリめちゃくちゃ良いし。
「脇差もいいヤツに変えようかな」
「フブキ様のなら作れる分ありますよ?ついでに回路仕込みます」
「あ、うん、お願い」
んじゃ、これから…。ん?何か外が騒がしい。




