23話〜神無月咲夜5-森の街とドラゴン-〜
どのくらい寝たのでしょうか。すっかり朝です。
「んっ…。」
「眠れた?サクヤちゃん」
「はい。ぐっすり。安心出来る状況で眠れるのはいいですね」
「そりゃ良かった。まだ他の2人は寝てるけど」
「そうですか。何かありました?」
「うさぎ捕まえて今スープになってる。鳥も一応捕って処理した」
「わたげうさぎのスープ」
わたげうさぎ。この辺りではよく食べられる食材。ちょっとお高めのお肉で煮込むのがベストらしいです。
「ボアが良い出汁出てる」
出汁になったんですね…。あのイノシシ。
「先に話しておくと多分今のところペース的には問題ないよ。ぶっちゃけボア1頭でむしろこっちとしては疑問抱くレベルの平穏っぷりだし」
ガサガサと何か音しますけど!?そして姿を現したのはもふもふ。
「珍しい。カーバンクルだね。大丈夫だよ。攻撃性は基本無い。嫌われたりすると噛み付くくらい」
額に紅い石のような物がついており、大きさは猫ほど。見た目は兎のが近い気がしますけど。なんかここに来て一番ファンタジーっぽい生物ですわね。
「このビジュアルでドラゴンに分類されるんだ。かなり珍しい種でボクも初めてみたよ。基本大人しい種類だよ」
どう見ても爬虫類ではなく哺乳類なんですけど。ドラゴンですか…。
朝食の方に駆け寄っていってしまいました。
「ダメだよ。これはキミたちにとっては濃い味付けだから」
少し悲しんでこちらを見る。言葉の意味をはっきり理解してません?この子。
とりあえず余ってたボアの生肉を差し出してみる。あ、食べた。
そして懐かれました。
「なんかこの子よくわからない絵出してるんですけど」
光ってる円形の模様はちょっと複雑で文字も記されています。
「召喚契約してくれると」
「なるほど」
カーバンクルが仲間になった。召喚魔法を覚えた。
「とりあえず、名前は…。紅く美しい石からスカーレット」
とりあえず納得してくれたようですわね。
「この子は何か出来るのでしょうか?」
「ブレスは無理だけど魔法とかは使えるはずだよ」
とりあえず色々調べてみたところ、干渉魔法、回復魔法、攻撃魔法等を色々使えるという事が分かりました。
「なるほど。後ろ2人の負担減らせると考えれば凄いかも」
「おはよ〜」
「おはようございます」
「おはようございます」
「2人も起きてきたね〜」
2人は当然スカーレット、カーバンクルに目が行く。
「うさぎ…じゃないですよね」
「なんだっけ?これ」
「カーバンクルだよ」
「こんなところにいるとか聞いた事無いけど!?」
「生態も不明、個体数が少なく目撃例も殆ど無いので」
どうやら本当にそうらしいですわね。
「えっと、餌付けに成功してしまって成り行きで召喚獣へと化しました。スカーレットです」
「カーバンクルって魔法能力高いよね」
「そのようですわね。色々出来るらしいです」
「ご飯…出来てるよ」
「あ、うん。だよね」
「寝てる間に何かありました?」
「ウサギとアヒル獲って今これになってる」
朝食を指差す。
「いつの間に…」
「正確には2人が起きてる時にお花摘み出た時に見つけて下処理済ませたんだけどその後1時間寝てそれから回収して調理して今に至る」
そこまで出来るんですね。流石と言うか。
「そういえば普段作らないっておっしゃってましたよね?」
「やる気無いからね。雑に調味料と具材ぶち込んで煮るくらいだからこのくらいは出来るよ」
まあ、そう言われるとそうかもしれませんが。このスープは。
「で、今日って普通にまっすぐ進む方針でいいんですよね?」
「まあね。感覚的には予定より多少早いと思うけどそろそろ怪しくなってくるからね」
怪しい…。そんな事言われれば不安になりますけど。一体何が。
皆さんが食事を終えたところで済ませる事済ませて行動を開始する。
「サクヤちゃん、別に行きたくなったらいつでも無理しなくていいからね〜」
「…森の中って例え護衛あっても怖いですし」
「あはは、そうだよね」
「まあ害の無い小動物くらいならいいけど。ウサギとか。でも比較的この辺は…とでも言ってられないか、フェリル!」
「あいよ!」
私の背後に回り込んで盾を構える。盾で受けて立つ音が金属の音、野生動物ではない…ですわね。
「チッ呑気な街育ちかと思えば」
「盗賊のおにーさんさぁ、女ばっかだと思って油断したよね?」
黒い猫の耳に猫の尾の生えた男性。
「フェルパーか。この前のはぐれとかそう言う系が盗賊やってると」
「察しがいいな。だが、悪く思うな。俺が生きる為に選択の余地は無い!」
「分かってるさ、キミは悪くない。だから、ここでキミが死ぬ運命にあっても、さてと、ユーリア、数は?」
「この男以外いないよ!」
「じゃ、行けるね」
とりあえずスカーレットを召喚しておきましょう。
フェルパーの男性が持っているのはダガー。装備は軽装、おそらく機動重視と言ったところでしょうか?
スカーレットにフェリルさんの盾を強化させる。そして自分は心許ない守護結界で身を守る。下着でダガーは防げるとか言ってましたけど痛いのは変わらないらしいですし。
「ありがとう、そこまでやってくれるなら十分!アナはサポに徹して!ユーリア!」
「速いから弓キツイよ!」
「ボクだって防ぐのもやっとなんだ!錬金術でサクッと頼むよ!」
「りょーかい。銀よ貫け、シルバーファング!」
フェリルさんが防いだところで無数の銀色の棘が上下から獣が噛み付く牙のように襲いかかる。
無事決まったようですがあまりにもえげつない光景に目を背けてしまう。
「あ、ごめん。普通に考えずにぶっ放しちゃった」
「あの、それは構いませんが。何事も起こる事無く終わったようなので、って何やってるんですか!?」
「ああ、この人の所持品物色してる。ダガー以外特にないね。そのまま置いていこう」
そ、そんな事までするんですのね。流石異世界。殺しも所持品の物色も」
「街中でやったらそりゃアウトだけどここの森は国の管理の及ばないエリアだからこう言うのが許されちゃうんだよ。まあお互い様だよ。向こうもそれ狙って来てるんだし」
な、なるほど。向こうも生きる為とか言ってましたし。そうですわよね。
「しかし、フブキとやらの街でフェルパーは受け持っていると思ったけど」
「元々化け猫との戦いに関与してこなかった集落のフェルパーなどもいてもおかしくないかと。それに、全部が全部って訳でもないようですし」
まあそうですわよね。
「今のくらいの盗賊なら余裕かな。ディアボロスの魔法使いとか相手になると数次第じゃキツイけど」
「まあここらで強いのってやっぱそうなるよね。リトルスは基本そう言う事してこないし。フェルパーも落ち着いたから力落ちてるし」
ディアボロスがとりあえずこの辺りでは現状最強種族と考えてよろしいという事でしょうか?
とりあえず先へ進みましょう。
すると間もなくしてエルフの女性1人とディアボロスの女性2人を見かける。3人パーティですわね。
「これなら問題…」
「ひえっ、たたた、戦う気などありませんよ…」
「あ、うん。それならいいんだけど…。大丈夫?」
「この2人が護ってくれますので」
「エルフとディアボロスが一緒にいるってのはこの先の街と何か関係ある?」
「はい、私は近辺の植物の分布等を調査しておりましてお二方は護衛に」
「ボク達多分その街にこれから向かうんだけどさ」
「ここを真っ直ぐ、2日ほどで着くかと。私達は調査がありますのでご一緒出来ませんが。近くになると温泉の匂いがあるので分かるかと思います。街の外に無料で利用出来る温泉があるので利用されるのでしたらそちらをオススメします。性別によって使う場所も分かれてますので。造りはそのままですが」
「分かった。ありがと。っと、この辺りってなんか危険な生物とかっていたりする?」
「毒ヘビや毒蜘蛛は私含むエルフの技術者が獲り尽くしてほとんどいないですね。ディアボロスやフェルパーさんがクマは獲っているようですのでボアより強いのはそういないかと。そもそもフェルパーの一件と街が出来たことである程度生態系にも影響出てますので」
「なるほど、分かった」
「他に聞きたい事とかってあります?答えられる範囲でならお答えしますが」
「この辺りの植物で、木の実でも野草でもいいや。自生してるので調査してるやつで食べられるやつとか教えて欲しいなって」
「モモイロスモモモドキモモ…はやめた方がいいですね。類似している有毒種のモモイロモモモドキスモモも自生しているので。素人では見分け付かないかと。フォルネイアダイズは今緑ですけど食べられますね。モリイチゴ、アルコールココナッツは探せば見つかるかと思います」
アルコールココナッツ。本来はリトルスには人気の果実ですけど私は本来の食べ方は苦手ですね。名前の割にアルコール自体は含まれておらず、それっぽい薬用作用か何かの成分が泥酔に近い効果を及ぼすらしいです。アルコール0パーの為、誰でも飲めると言う法の抜け穴…。
「モモイロスモモモドキモモ…ややこしい名前ですわね」
「元々モモイロスモモって言うって言うスモモがあってそれに似てるからそう言う名前なんだけど。あとモモイロモモに似てるからモモイロモモモドキスモモっていうんだけどね」
この辺覚えるのはしんどそうですわね。
「モモイロモモモドキスモモの無毒化の研究をしているところもあるようですけど。私の担当ではないのでそこまで詳しく分からないです」
そんな事できるんですか。フブキさんの街発展し過ぎでは?
「アルココあるんですか!?」
「5〜6本と周りでは少ないですけど生えてますね。街の中の研究施設のは勝手に持ち出されては困りますけど自生している街の外のは持って行ってもらっても構いません」
「この辺りには無いのですか?」
「この辺りではありますけど街の近くよりもさらに数が少ないので探すのは厳しいと」
「分かりました。ありがとうございます」
お礼を言うと行ってしまわれました。まあお仕事の最中に呼び止めてしまった訳ですし。
「アルコールココナッツが手に入るとなると」
料理が捗りますわね。
「直飲みですよね!」
「え?」
「え?」
「飲みませんよ」
「リトルスなのに飲まないの!?」
「一回飲んで少量で意識持っていかれましたし。あれは火にかける料理などで肉や魚介の臭みを取ったり風味付けなんかで果汁を使うと結構いい味になりますのでそう言う使い方ですわね」
「そんな事出来るんですか!?」
「肉を柔らかくする効果もありますし結構調味料としても優れてますわ」
まあ長い店生活で教えてもらった事ですけど。なんとなくこの世界の料理も学べましたし。
「果肉は油分が多くてくどくて食べるのには不向きですが」
生食は不味かったですわね。果汁の方には油分が殆ど出ないのですけどアルコールのような独特の風味があり、果肉に油分を貯め込み、まあ食べられるようなものでもないですわね。マーガリンのような果物ですし。
「ですよね」
「火にかけて炒めればまあ、組み合わせ次第ですけど。他の食材との」
「炒めるのですか」
「他の油も必要無く、健康的で、生物の臭いを消せ、油も抜けて果肉も食べられる。十分食材としての価値はあります」
油を含んだ桃とか梨みたいな果物から火にかけて油とアルコール成分抜ければじゃがいもみたいな味や食感になるとは不思議な食材ですわよね。なお、団子の材料には採用されない模様。
しばらく歩くと鹿が姿を見せました。
「うーむ。鹿か。倒して捌くか」
鹿、イノシシより弱いですけど肉は食べやすくウサギより量も取れる。なお、味はウサギがトップですわね。
「ユーリア、弓で大丈夫。頭ぶち抜いて」
「りょーかい!」
鹿の突進を受け止め、動きを封じ、側から狙撃して仕留める。スムーズに倒しましたわね。
「この程度なら余裕余裕」
「んじゃ、バラしてくるね」
ユーリアさん1人で鹿の解体に行ってしまわれました。
「鹿は焼いてたっけ?」
「基本焼いてますよね」
「んじゃ焼くか」
調味料とかはありますしまあ何とかなりますわよね。鹿肉はまあ安価と言えば安価な方ですけど。わたげうさぎの3分の1以下ですし。一頭辺りの可食部や実用部位纏めて売ってちょっと鹿のが儲かると言う。
鹿肉は無事、素焼きになりました。イノシシより食べやすいですわね。あまり重くなく、固くなく、クセもあまり無いですし。ウサギが美味しいのは納得してしまいますが。
なんだかんだでこの日も無事終わり、翌日も特に問題はなく…。
巨大な門の前。
「多分ここだよね。それにしても凄い壁…」
とりあえず門番さんに話してみましょう。
「何か御用でしょうか?」
「フブキさん面会を…」
「あ、この子だけね」
「それでしたらそちらのリトルスのお嬢さんのお名前だけ」
「サクヤ・カンナヅキと申します」
「少々お待ちを」
数分待って…。
「サクヤ様とそちらのお連れの皆様、ここに間もなく案内の者が来ますのでそれまで少々お待ちを」
「分かりました」
それから数秒…。
「ひゃあああああああ!!」
謎の悲鳴?と共に姿を見せたのは巨大な美しい蒼い龍…。死にましたわね。これは。
「サクヤちゃん、ドラゴンは流石に無理…」
「ですわよね」
ドラゴン。架空の生物でも最強の1種。無理。




