78話〜桜井家の目標〜
フブキの屋敷。
コンコンと扉を叩く音がする。
「はい」
「あたしよ。話があるの」
「あ、アイリスさん、どうぞ」
アイリスさんが入って来る。
「今日はそこまで長く話をするつもりはないのだけど、早速本題に入るわね」
「はい」
「フォルナシアの外壁周辺でハルナ、ケット、はぴこと言う名のフブキちゃんの身内と名乗る者を保護したわ」
「そう言う事ですか」
「ハルナちゃん、はぴこちゃんはあたしが鍛えるんだけどケットさんが干渉魔法と武器魔法の適性があるみたいだからついでにマヨイさん借りていいかしら?」
魔法銃の開発も落ち着いて今割と暇だろうし、とりあえず呼び出してみる。
「はいはーい、お姉ちゃん」
「そこのお姉ちゃんの向こうで生きてた頃の家族を今保護してて、その中にフェルパーのダンディなおじ様が武器魔法や干渉魔法の適性が高いみたいだからそっちをお願いしたいんだけど」
「お姉ちゃんの家族なら快く引き受けるよ!」
「あ、それでフブキちゃんには3人分のお金を。食費と住む場所はこっちで見るから、3人が使えるお金をそっちで持ってもらえたらなと」
「何日くらい魔法習得に時間かけますか?」
「うーん、どうだろ?」
「ハルナはまあまだ大丈夫だろうけどはぴこは若干馬鹿っぽいと言うか天然っぽいとこあるから大変かもしれないですね飽きっぽいですし。まだ子供なので」
「ケットさんは?」
「真面目と言うかその中で1番しっかりしてるだろうから魔力の扱いとか魔法のコツとか掴みさえすれば大丈夫かと」
「2〜3週間くらいかしら」
「一応こんだけで」
「おっも」
「金貨5枚と銀貨50枚入れてあります。細かい方が使いやすいかと思ったので。一応手紙も入れてますが向こうの言語なので」
「わ、分かったわ。んじゃ」
「あ、待ってください」
「まだ何かあった?」
「アイリスさんと3人が都合ついた時でいいのでテレビジョンとか使えれば」
テレビジョン。テレビではない、所謂映像で通信する魔法。
「ああ、なるほど。分かったわ。一応変な時間じゃなきゃこっちも開けておくわ。場所は基本初めて会った廃教会になるわ。あそこに住んでもらうから」
「分かりました。すみません引き止めて。以上です」
「まあそうなるわよね。じゃ、あたしと同等までとは言わないけど頑張るわ。行くわよ」
「がってん!お姉ちゃんの家族さん気になるわ!」
教会。
「戻ったわよ」
「あ、おかえりなさい」
「これ、フブキちゃんからお金」
「あ、はい、重っ。ちょっ、ケット、持って」
「ああ。でも管理は妹君に委ねる」
「まあ、分かりました。とりあえず衣類が欲しいですわね。3人分。普段着、寝巻き、下着」
「あ〜。それなら下着に関しては安い物でいいわよ。高いのはそのうち手に入るから」
「あ、はい」
「男物作ってるかまでは知らないけどフブキちゃんの身内って言うなら無くても作るでしょ」
「そんな権限持ってるって」
「まあ街のお偉いさんだし、身内が実現可能な範囲で欲しいって言う物くらいなんとかするでしょうね」
「ここでの修行が終わったらお姉様と再び暮らしたいですわね」
「それも叶うわね。フブキちゃんの今住んでるとこ3人増えるくらい問題無いし、多分フブキちゃんもその気よ」
「ならいいのですが。でも、その為にはやはり強くならねば」
「その為?」
「妹君はマスターに比べて秀でている点は殆どなく、家事もマスターがやっていた。ただ秀でていると言う訳でも無く、マスターは知識面、所謂学力や勉強の類でも常に上位のマスターであり、その妹。両親殿はそれに文句を言う事は無く、気にしなくとも良いと言っていたが、劣等感を抱いていたのは事実だ」
「ケットは口に出さずとも見抜いていたのですね」
「ああ、劣等感を忘れる為、感じなくする為にはぴこやマスターに強い好意、いや家族愛を抱いた。そしてお姉様大好きになったと」
ケットの頬を引っ張る。
「いたたた」
「そこまで言わなくてもいいです!」
「申し訳ない」
「え〜、あと今言うのは2つ。向こうと連絡を取る魔法を双方が習得出来てるから都合がついた時に使うってのと、お金入ってる袋に向こうの言語で手紙入ってるわ」
「分かりました。それ読んでから連絡とってみたいのですが」
「分かったわ」
別の部屋。
「とは言っても俺ら結局日本語も読めないんだけどな。こっちの言語は最初から習得してるらしいが」
「それもそうですわね。っと」
『榛名、ケット、はぴこへ//
一応日本語で記すが、こっちの世界に来てから人の姿になったケットとはぴこには読めんだろうから、必要だと思えば榛名が伝えるように。判断は委ねる。
もう察しているらしいが、俺はお兄様ではなく、神の悪戯でお姉様である。もう実際半年以上経ったし慣れたもんだが。察していると思うがこの世界には俺が女である事実しかないので、そこは理解しておいて欲しい。
ここからが本題だ。お前達がこの世界に来た理由は深くは聞かん。察してやる。だからお前達の新しい生涯を縛るつもりはない。望むなら受け入れる。お前達がいる場所の事も聞いてる。アイリスさんが俺のいる場所も知ってるから来るなら来い。こっちから行く真似はしない。一応連絡は取れる時に取るが。
最後に、こんな事書いたが、お前達が好きだと言う事、家族愛と言うものはある。それくらいは書いておく。以上
追伸:この世界のマナは日本円の1〜1.5倍の価値だと思えばいい。』
自然と涙が溢れてくる。
「お姉…様」
背中に温かみを感じる。はぴこが抱きついてる。ケットが肩に手を置いてくれてる。
「ありがとう。ケット、はぴちゃん」
「その涙は悲しさじゃない」
「ええ。もう一度、お姉様のところに。その為に今は」
「頑張るよ」
「ああ」
「アイリスさんがお姉様と連絡を取る魔法を使えるのでしたよね。お姉様が大丈夫そうなら今でも」
「承知した」
その頃。
(フブキちゃん、ハルナちゃん達がテレビジョンで話したいって)
分かりました。
『わー、何これすごい!』
え、何これ?顔面で。
『ちょっ、はぴちゃん!?近過ぎて私達が映ってませんわよ!』
『あ、ごめ〜ん。ってな訳ではぴちゃんだよ〜!可愛いでしょ』
「まあ確かに可愛いけど」
『ケットだ。マスター』
「ケットかっこいいな。ダンディと言うか渋さがあると言うか」
『ですわよね』
「榛名は、基本が押さえられてるからそんな変わらんか?」
『あははは』
『うぇーい!』
『はぴちゃん少し静かにして下さい!』
『だとよ、はぴこ』
『はぁい』
『とりあえず、私達はある程度お力になれるよう鍛えてからそちらに向います。もう一度共に過ごす為に。その意思はケットもはぴこも変わりません』
「分かった。じゃ、待ってるよ」
『では、失礼します』
『頑張るよ〜!』
まあ自由にしていいって言ったけど、やっぱそうなるか。だがそれも悪くない。んじゃ、気長に待ちますか。
教会。
「ありがとうございます」
「まあこれくらいなら。っと、買い物にでも行きましょうか。色々揃えなきゃ」
「そうですね」
「俺への出費は最低限でいい。妹君とはぴこの必要なものに重点的に充ててやればそれでいい」
「そう言って頂けるのはありがたいですけど、貴方も大切な家族なのは私達の目から見ても同じなので、そんな事しませんわよ」
「そうか。それなら任せる」
街。
「わー街だー!」
ケットがはぴこの首根っこを掴む。
「落ち着け」
「はい」
人型になっても本質は特に変わってない。
「ってこれ、服が首絞めて苦しい」
そう聞いてポンと離す。
「それもあるのか。はぴこを黙らせるにはどうしたものか」
「はぴこちゃんに見合う男が見つかれば自然と丁度いい具合に落ち着くでしょ」
「いずれその時が来るのは分かっちゃいた事だが、なんかこう、簡単に受け入れられるものではないな」
「はぴちゃんが男とくっつくのは流石に私も納得は出来ませんわね。おそらくお姉様も同様でしょう」
「はぴこちゃんみんなに愛されてるわね」
「えへへ〜」
「穢れの無い笑顔が眩しいわね」
「とりあえずここが下着」
「俺は外で待ってる」
「あ、はい」
店内。
「普通のでいいのよね?」
「高いのって材質とかの差異くらいなのでは?」
「厳密に言うと違うのよ。フブキちゃんの街の得意分野として確立しつつあるのだけど、魔法回路。魔法陣ではなく、発動する為の仕掛けね。フブキちゃんは短期間で使いこなしたわ」
私にも何か魔法以外にも有れば。…何かの気配。こちらに視線。
「何か良からぬ事が起きなければいいのですが」
「ハルナちゃん?」
下着を買って店を出る。気のせい。ではない、が、実体を捉えられない。
ケットと合流し、衣類を揃える。あとはその他生活用品等。
何かの気配があるまま教会に戻って来てしまった。
「さっきからどうかしたの?」
「何というか実体を捉えられない何かにストーキングされてるかと」
「あたしが感知出来ないのをハルナちゃんが感じ取った。神の類…おそらく。いるんでしょ?ノアール様」
「流石に気付いておったか。霊体化魔法で見に来てみれば、なに、安心せい。御主らに手は出せん」
「えっと」
「ワシはノアール。フブキの剣の師であり、剣の神であり、大陸の始祖のケット・シー」
「変態神だけどね」
「ほっとけ」
「ハルナ嬢や娘に手出すなら容赦せんぞ」
「今の御主じゃワシにも敵わんじゃろ、まあ安心せい。そのつもりはない。そこのフェルパーの戦士にちょうどいい剣の師を紹介してやろうと思ってな。付いて来い」
「ノアール様がやるんじゃないのですか?」
「同じ魔法剣の剣士増やしても大きなメリットないじゃろ。それにこの街から近い」
「現代に知り合いとかいたの!?」
「いや?霊じゃ」
「幽霊…」
嘘でしょ。
移動後。墓地。
「ヤトナからこいつを貰っておいて正解じゃったわい」
「剣…ですか」
「ああ、この剣なら来るじゃろ」
「この剣は、まさか」
「早速霊が姿を現しましたわね」
容姿はフェルパーのダンディなおじ様、ケットと近い見た目…と言う訳でもないですね。ベクトルはそこそこ違うようで。
「師匠ではありませんか」
「おお、紹介しよう。此奴はリオ。かつての勇者でワシの弟子だった者」
「アイリスよ。こっちからハルナちゃん、はぴこちゃん、はぴこちゃんのお父さんのケットさん」
「ケットさん、なるほど。運命か、はたまた必然か師匠に鍛えられ、そこから進化させたこの剣の技、今度は貴方に託します」
「勇者になるかは分からんがやるだけやってみるか」
「ケットが勇者、アリですわね!」
「別に危ない事に首突っ込む必要無いなら無いに越した事ではないが、まあそれでマスターや妹君、はぴこを護るなり役に立てるのなら悪くはない」
「んじゃ、行きますか」




