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終わる世界で龍は唄う  作者: シャリ・クラゲ
3/12

第二節 存在の理由 ②

明けましておめでとうございます!

2019年も頑張ってシャリクラ作品書かせて頂きます!


……という訳で、昨日の続き、第二節その2となります。

その3までこの非戦闘回が続きますが、あまりこのパートを長引かせるのもよろしくはないかと思いますので、今晩の内にその3も投稿させていただくつもりです。


では第二節その2、どうぞお楽しみください。



 今日、ヴェネトが張り切って特大の獲物を獲って来たのは、例の賭けの為、というだけではなかった。

 この日は、年一度のある宴の日。

〈レィミア〉が誕生したとされる日に、集落を上げて催される大宴会――〈誕界ノ宴〉が催されるのだ。

〈レィミア〉という、全生命の揺りかごたる天地の誕生。

 そして今日という日までをこの地で生きて来れた事への、感謝と祝福を表す一大イベント。

 この宴の日には、集落全体が一夜を通して暖かなランタンの光を抱き、〈レィミア〉における大事な節目たる時間を、集落の仲間(かぞく)達と共に明るく迎える事となるのだ。

 暗天の下に揺らぐランタンの橙色は、柔らかな光と温もりを生み出して。

 神殿前の大広間には、ありったけのご馳走が所狭しと言わんばかりに並べられ、催し事(イベント)効果でタガの外れた人々の食欲を大いに満たす。

 遮る障害の無い灰海より吹き抜ける微風は食材の香りと共に、人々の賑わいさえをも空の彼方に攫って消える。

 祭壇では可憐な踊り子の装束に身を包んだ若い女達が、華やかに奏でられる音楽のリズムに合わせて煌びやかに舞い踊り。

それに人々は声を上げ、手を叩き、総員を以て大いなる喝采を送る。

 そんな祭りの席を外れた場所。

 広間から木々の間の小道抜け、海岸線を一望できる小高い崖淵の道を少しばかり歩いた場所にある、小さな台地。

 その場所にカイは、酒の瓶を引っ提げたヴェネトと共に立ち寄っていた。

「……またこの祭りの時期になったよ、アルト」

 語るのは、地面に腰を下ろしたヴェネト。

 目の前には、小さな石造りの墓標が一つ。

 その墓の前には、仄かな甘い香りを漂わせる薄紫色の小粒な果物の山。

 この場所に弔われているヴェネトの弟、アルトの好物であった

「お前が死んでから、もう十年も経つんだぜ。……どうだ? 俺はまだちゃんと、この場所を守り続けてるぞ。お前の好きだったこの場所を、しっかり守り続けて来れてるぞ」

 ヴェネトの弟――そして、彼にとって唯一の血縁関係にあった親族。

 アルトは、カイやシエラと同い年だった。

ヴェネトがカイ達の三つ上であるので、アルトとヴェネトは三歳差の兄弟となる。

 アルトは活発な兄とは正反対に生まれつきの病弱な体質の所為で、自由に動き回るという事にはいささか制限のある少年であった。

 が、彼はその持ち前の明るさと、兄のヴェネトを始めとする周囲の人々の支えのお陰で、穏やかな日常を過ごしていた。

 それが崩れたのは、今より十年前。

〈レィミア〉集落を、大勢のアヤカシが同時に襲撃して来た。

 その総数――およそ三千体。

 その攻め入る様は、正しく黒き嵐そのもの。

 絶望と破滅を招く、(わざわい)の権化。

 それは緑の大地を瞬く間に覆い尽くし、命という命を根こそぎ消し去らんとその猛威を振るった。

 絶望を上塗りする絶望。

 悲鳴を掻き消す怨嗟の渦。

 地は抉られ、民家は瓦解し、森は焼け爛れて、水面(みなも)は赤く、赤く染め上がる。

 多くの生命が、消し飛んだ。

 多くの悲しみが、生まれた。

 やがて五日間に及ぶ死闘の末に、襲撃して来たアヤカシは全て倒され、災害規模の戦闘は終結を迎えた。

 生き残った人々は、惨劇の終わりに、そして生き残った事に歓喜を表し。

 そして、刻まれた爪痕の深さに膝を落とした。

 森はその半分近くが鮮烈なる闘争の渦中に呑まれ、黒檀の空に痛々しい姿を晒す。

 熱線と崩壊に巻き込まれて多くの人が死に、それを悼む生存者達の慟哭と嗚咽が大地に満ちる。

 そしてその中には、家屋の崩壊に巻き込まれたアルトと、その冷たい身体を抱えて泣き叫ぶヴェネトの姿もあった。

 何度もその名を呼んだ。

何度もその身体を揺さぶった。

 寝坊癖のある弟の事だ。

きっとこうしていれば目を開けてくれるだろう。

そしていつもと変わらない無垢な笑顔で、「兄さん」と呼んでくれるんだろう?

 しかしそんな現実逃避気味の悲願が、叶う事は無く。

 アルトの遺体は、神殿の脇道から通じる集合墓地に埋葬された。

 そして一人残されたヴェネトは、程無くして防衛団に志願。

 十年という時を経て、主戦力部隊である第一部隊の隊長にまで登り詰めたのであった。



 ――場所は戻り。

 宴に沸く広場を離れた集合墓地。

「なぁ、ヴェネト。お前はどうして戦っているんだ?」

 座り込んだ背中に、静かな声でカイは問い掛けた。

「どうしたんだよ、いきなり?」

「いや。そういえば聞いた事無いなと思ってな」

「ふーん……。まぁ、そんなに他人に話す様な事でも無いからな」

 グイッ、と手にした酒瓶(本日二本目。狩りの賭けに勝った分)の中身を煽り、一つ息を吐いてからヴェネトは語る。

「俺はな、別にアヤカシから皆を護って、生きていく為に戦おうなんて殊勝な考えは持っちゃいねぇんだ。ただ、アルトの居た場所を――アルトの好きだったこの〈レィミア〉を護りたい。ただそれだけなんだ」

「好きだった、場所……?」

「何だ? 拍子抜けしたって言いたげな面だな?」

 けけけ、と笑うヴェネト。

「いや……まぁ、ちょっとな。弟の仇を討ちたいとか、そんな感じのものじゃないのかと思ってたから……」

「仇……か。まぁ、最初の頃は多分そんな感じだったよ。どうしてアルトが死ななくちゃいけなかったんだ。何でアルトが殺されたんだ、って。そればかりを考えている時期も、確かにあった。――けどな」

 茜を帯びた空に視線を巡らせて、ヴェネトは言葉を綴る。

「考えたんだ。俺がひたすらにアルトの復讐に躍起になった所で、あの弟がそれを喜ぶのか。――あのお人好しが、それを快く思うのかって」

(あぁ――)

 カイは、直接アルトに会った事は無い。

 しかし彼がどんな人間だったかは、実の兄であるヴェネトからよく聞いていた。

 身体は弱いくせに、人一倍元気で明るくて。

 森や川――〈レィミア〉に広がる広大な自然が大好きで。

 誰にでもどんな者にでも、やたらと優しいお人好し。

 そして争いや諍いを好く思わない、心根の穏やかな少年。

 そんなアルトが、復讐に駆られる兄を見てどう思うか――どれ程その心を痛めるかなど、想像に難くなかった。

「なら、どうするか。生き残った俺が、死んだ者(おとうと)に何をしてやれるのか。何が出来るのか。そう考えて出した結論が――これさ。アルトの居た場所を。アルトが好きだと言ったこの大地を。そしてアルトが眠るこの世界を護り抜く事が、今の俺がアイツにしてやれるたった一つの事なんだ、ってな」

 微風が、ヴェネトの腰掛ける若草の地面を吹き抜ける。

 さあっ、という柔らかな葉擦れの音が、高い空に吸い込まれては消えて行った。

「ヴェネト」

「何だ? まだ気になる事があるのか?」

 茶化した様な笑みで、ヴェネトがカイの台詞を促す。

「戦わない、って選択肢は無かったのか? お前の弟は争い自体、よくは思っていなかったんだろ? じゃあ、そんな闘争の中に身を置く事は……」

「それじゃあ、ダメだ」

 即答。寸分の迷いも無く、ヴェネトはきっぱりと断言した。

「それじゃ、俺の満足がいかねぇんだよ」

「満、足?」

「あぁ。人なんてな、結局のところ自己満足で生きている様なもんなんだよ。俺の、アルトの好きだった場所を護ってやるってのも、つまるところは、『弟の為に何かをしたい』っていう俺自身の中にある欲求を満たす為のものでしかない。それで実際にアイツが喜んでくれるのかなんて分かりようが無いし、結局それで一番満たされるのは、俺の中の満足感だけさ。――でも、それでもいいんじゃねぇのか? 例え偽善だとしても、当て付けだとしても、それを一人の人間が現在(いま)を生きていく為の、糧にできるって言うんならさ」

 静かな笑み。

 悲しみを乗り越えた者だからこそ浮かべられた、儚げな綻び。

 過去が欠落しているが故に、その様な感情には未だ縁遠いカイにとって彼の微笑みは、まるで幻想の様に脆く、それでいて何故か、とても尊いものとして映った。

(ヴェネト――お前は……)

 紡ごうにも、言葉が出ない。

 なんて声を掛けるべきなのだろう。何て言葉を送れば正解なのだろう。

 分からない。分からない。

 このもどかしさを何て伝えよう……、そうカイが葛藤している内、

「おっと、ゲストのお出ましか」

 ヴェネトの視線が、これまでとは全く別の方向へと向いた。

 墓場の入口――祭囃子に賑わう、広場に繋がる崖沿いの細道へと。

「カイ! ヴェネト!」

 普段では見慣れない、派手な装飾の付いた衣装を身に着けたシエラが、長いスカートの裾を邪魔くさそうにはためかせながら駆けて来るのが、カイの目に映った。

 どうやら役目となっていた踊り子の演武を終え、そのままこちらへと直行して来たらしい。

「やっぱり二人共ここに居たのね。アルトのお墓参りに……」

「あぁ。……ま、感傷に浸るのはこれまでさ。折角の宴な訳だし、俺は一足先に戻るとするよ」

「精々二人でのんびりやれよ」と台詞を残し、ヴェネトは一人で広場の方へと戻って行く。

 夕日の射す台地には、夕焼けのオレンジ色を反射した白の衣装を纏うシエラと、置いてけぼりを喰らったカイだけが残された。

「どうする、シエラ? 俺達も宴の席に戻るか?」

 カイの問い掛けに、シエラは僅かに間を置いて、

「……ちょっと人に酔っちゃった感じがするし、今はまだ戻りたくないかな。もう少し、このまま二人でいたい」

 そう答えた。

カイにも、それを断る理由は無い。

「分かった。まぁ墓場でってのもあれだし、少し息抜きがてら歩いてみようか。今日は夕日が綺麗だ。きっといい景色が広がってるさ」

「――うん」

 決まりだな、とカイは踵を返し、台地から下に降りた海岸線沿いの道を目指して歩き出す。

 そんなカイの後ろを、がら空きのカイの服の袖口に左手を伸ばしかけるも中断した結果、半歩程の間を開ける事となったシエラが付いて行った。



ありがとうございました。

今回はここまでとなります。


また今晩の更新まで、今しばらくお待ちください。

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