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終わる世界で龍は唄う  作者: シャリ・クラゲ
2/12

第二節 存在の理由 ①

昨日ぶりでございます。シャリオです。

終わる世界で龍は唄う、第二節となります。

この第二節は戦闘は無く、<レィミア>でのカイ達の生活をメインに書いています。


ではどうぞ、お楽しみください。

 自分とは、一体何なのだろう。

 気が付いたら、自分はここに居て。

 気が付いたら、この場所(レィミア)を守る為に戦っていて。

 気が付いたら、仲間が居て、シエラが側に居て。

 そして気が付いたら、七年の歳月が過ぎていた。


 カイには、十歳よりも昔の記憶が一切無かった。

 思い出も、かつての親友の顔も、親の顔も、見てきた()の世界の記録も。

 その一切を、思い出せない。

 記憶の欠片さえも、呼び起せない。


 ――もしかしたら、そんなもの初めから無いのではないか。


 自分は突然湧いてきた亡霊か何かで、お払いに失敗されて成仏し損ねて、生前の無念の果てに現世をさまよい、長い夢でも見ているのではないか。

 そんな事さえ思ってしまう。

 それでも、一つだけ残っているモノはある。

 それは記憶でも、思い出でもない――ある感情。


 繰り返し脳裏に響き渡るあの音(・・・)と、それに対して抱く、出所の分からない懐旧の念。

 音は体の中で反響して、共鳴して、ささやかな余韻を残しては消え、そしてまた優しく彼の中に響き渡る。

 それはまるで鼓動を打つ様に。

 オルゴールの様に、繰り返し、繰り返し――。

 その音を聞きながら、彼はひっそりとその目を閉じて。


  ◇


 再び目を開けたその先には、見慣れた薄暗い部屋の天井が広がっていた。

 窓に下ろした目の粗い日除けの合間からは、朝の日差しと人の気配が伺える。

(…………朝か)

 微睡みの中、物思いにふけってからどの位の時間が経ったのだろうか。

 その材木に染み付いた染みも、木目も、とっくに見飽きてしまった自室の天井。

 そこから視界を外すと、カイはようやくその重い腰を上げて……。

「……ん?」

 …………何かある。

 何かは分からないけど、何か異質なものが身体の上に乗っかっている。

 いつもより明らかに重い身体に覚える、確かな違和感。

(何が、乗っかって……?)

彼は仰向けの体勢から腕を着いて軽く背を布団から引き離し、自身にのしかかるものを見た。

 白い布団の上に、何かがうつ伏せで横たわっている。

 まず目の前に灰色の長い毛束があった。

 その先――視界の奥側には大の字に投げ出された細い肢体があった。

 そしてそれは気持ちよさげに、スースーと静かな寝息を立てて、何とも安らかな眠りに入り浸っていた。

「……シエラ…………」

 もう訳が分からない。

 何が分からないってそう……。何でコイツが俺の部屋(ここ)に居るのかとか、何で俺の上で寝ているのかとか……。

 いや、身寄りがおらず神殿の一室に住んでいるカイの部屋に、同じく神殿住まいのシエラが足を踏み入れるという事は何ら不思議な事態ではないのだが……ってそういう問題じゃない。

 何はともかくとして、とりあえずはコイツを起こさなくては。

 起床して動こうにも、これでは動きようが無い。

「おい、シエラ。いい加減起きろよ」

 さっきまで二度寝と長い微睡みに浸っていた身で何を言うのか、と第三者には思われそうな事を口にしながら、二、三度その肩を揺すってみる。

「うー……」

 ぼんやりとした唸り声。

 シエラが僅かに身じろぐ。

 半目を開ける。

 手の甲で目を擦る。

 数センチほど頭を上げ、カイとその視線を合わせて。

「…………うへぇ」

 にへらっ、とにやけた顔から間抜けな声が上がり、その頭は再び布団へと落下した。

(……何でだよ⁉)

 もうそこまで行ったら起きろよ!

 しかも何だよ「うへぇ」って⁉

 もうちょっと別の台詞は無かったのか‼

 しかしそんな胸中のツッコミは届く訳も無い。

 再び寝息を立てるシエラ。

 そして天井を仰ぐカイ。

 しかも今回は起こしていた背中に腕を回され、ガッチリとホールドを極められている。

 何とも傍迷惑な拘束に遭い、完全に動くに動けない。

 朝からなんて一日だ……、と心の片隅に思いながら、カイは眠る少女の顔を見た。

(…………)

 女の子らしい艶のあるきめ細やかな柔肌。

 初めて会ったあの時の面影をもろに残した、幼さの抜け切らない顔立ち。

 口元に寄った色素の薄いストレートの髪の毛が、吐息を受けて小さく揺らぐ。

(……七年、か)

 カイとシエラが初めて出会ったあの時から、既に七年が経過していた。

 こうして見ると、お互い随分と大きくなったものだ。

 少女の顔にかかった長髪を、指で軽く押し上げる。

 ――軽い。

サラッとした灰色の髪の毛は、するりとカイの指から零れ落ちて、また少女の顔に被さってしまう。

「何だよ。俺の毛質に嫉妬する事、無いじゃんか」

 苦笑が漏れた。

 また落ちた髪の毛を、小さな耳の上まで持ち上げる。

 手触りのいいその感触は、何となく癖になってしまいそうな気持良さがあって……、

「あ……」

 ふと、一つの傷がカイの視界に入った。

 それがあるのは、丁度シエラの左の目の上。側頭の髪の生え際近く。

 小さな切り傷の痕が、未だ僅かにその面影を残してそこにいた。

「やっぱり、痕になってたんだな。この傷」

 その傷ができた日。

 それはカイにとって、初めての目的ができた日。

 初めて、『何か』を成したいと思った時。

 今の彼自身の在り方を、決定付けた瞬間だった。

(何の過去も無い俺とは違う。こいつにはしっかりと過去が――生きて来た時間とその記憶があって、そこから繋がる運命(さだめ)と未来がある)

そして同時に、それに起因する……拭い去れない心の隙間がある。

 出会った当時、まだ幼かったカイでも、それが分かった。

 それが分かるくらい、あの時の彼女の心は荒んでいた。

 ――だから。だから少年は。

(だから俺は、コイツを護りたいって――護るって決めたんだ。それが例えどんなに小さな……砂粒程度の大きさでしかない救済でも構わない。救済とも呼べない、一時の気休めでも構わない。シエラの中にある孤独と心の隙間が癒えるまでは、俺がコイツの支えになるんだって――)

 そう、決めたのだ。

 それを今この場所に、自分がここに在る理由として七年前から貫いてきたのだ。


 ――不思議だった。

 何故かこの少女と居ると、自分の心が満たされた。

 少女が笑うと、それは大輪の花の様に眩しく映った。

 一体、いつからなんだろう。

 いつから、この昔馴染みはこんなに眩しい存在になってしまったのだろう。

 いつから俺は、この少女の事を眩しい存在だと、思う様になったのだろう。

 どうして俺は、コイツの事が眩しくて仕方ないんだろう。

 その感情の正体に彼が気付くのは――もう少し、先のお話。

 今はただ、親に抱かれる子の様に安らかに眠る少女を見守る事で、十分だった。


  ◇


〈レィミア〉は、決して大陸などと呼べるような広大な面積を誇る訳ではない。

 その姿を正しく表現するとなれば恐らく、離島や孤島と言った方が相応しいと言えるだろう。

 しかしその面積とは裏腹に、そこに生き付く自然と生命は多様で、非常に奥が深い。

 人の住み付く平野はごく一部であり、その大半は広大な森林に覆われている。

 森林地帯の奥には、小高くそびえる〈レィミア〉唯一の山がそびえている。

 大陸の中央部には、大きな湖が静かな水面に陽の光を弾いて、そこから延びる支流は川となって林間を、そして人の住む平野を流れ、やがては灰の海へと流れ落ちる。

 森には多種多様な動植物が存在し、それぞれが独特の進化を遂げて、生態系の一部を担っている。

 捕食するもの、されるもの。

そしてその残滓を分解して土に還し、新しい命の糧へと変えるもの。

 その命のサイクルを繰り返す事で、この小さな世界の中でも生命は――〈レィミア〉は次なる明日へと日々を送り続けているのだ。



〈レィミア〉の東側――大陸全体の七割近くを占める広大な森林地帯。

 ありのままの生命が、ありのままに息づく大いなる大自然。

 昼下がりの空の下、その中の一角――丁度木々の開けた場所に、一匹の巨大な猪がその鼻先を土の中に突っ込んでは、頻りにその周囲を徘徊していた。

 その全長は、三メートル強。

 真っ黒な体毛はまるで裁縫針の様に固く、それが全身にびっしりと生え揃い、外敵からその身を護る役割を果たしている。

 短足の先の二股に分かれた蹄が地を踏み締める度、土がその巨体の重みを受けて部分的に沈み込み、特徴的な足跡をその場に残す。

 見た目の通り、黒猪(くろしし)と呼ばれるその大型の猪は、未だその身に降りかかろうとしている魔の手に気付く事無く、ひたすらに自分の空腹を満たす事に集中していた。

「……標的発見。一匹で餌を探してうろついてるみたいだ」

 そんな黒猪のすぐ近くの小藪の中に、身をかがめてその目を凝らす一人の青年が居た。

 かき上げられた青みのある黒髪。

 弛まぬ鍛錬によって鍛え上げられ、引き締まった肉体。

〈レィミア〉防衛団第一部隊隊長長、ヴェネト。

 気配を極力まで遮断し、相手にその存在を悟られる事の無いよう細心の注意を配る。

 その手に持つのは、愛用している霊核のはめ込まれた槍の形をした霊具ではない。

木製のボディと、ピンと張られた弦。

 そしてそこにつがえられた鉄製の鋭い矢尻。

 昔ながらの狩猟用の弓が、「まだか、まだか?」とその出番を待ち望んでいる。

 そして似た様な風貌の人間達が、ヴェネトの付近の草陰にもう十名程隠れ潜んでいた。

(俺が最初に矢を放つ。それを合図に畳み掛けろ)

 身振り手振りで、近くに居た仲間の一人にヴェネトが指示を出す。

 そしてそのジェスチャーは、伝言ゲームの様に他の仲間達にも伝えられた。

 総員の承諾を確認し、男はその矢を構える。

 大きくしなった弓がキリキリと軋みを上げ、研ぎ澄まされた矢尻が獣の巨体をその先に捉えた。

「はっ!」

 風切り音と共に、矢が放たれる。

 発射から直撃までに要する時間、凡そゼロコンマ八秒。

 矢は一直線に飛び、違う事無く、猪の眼球を撃ち抜いた。

「プギィィィィィィ‼」

 悶える猪の悲鳴が、林間に木霊した。

 そしてそれを合図に、幾つもの矢が、刃物を持った男達が、矢傷を負った猪目掛けて一斉に襲い掛かった。


  ◇


「お帰り、ヴェネト兄ちゃん!」

「応よ! 今日は大物が捕れたぞー!」

 森の中での狩りから凡そ二時間の後、絞められた大猪を抱えた男達が、満足顔で集落に帰って来た。

 その凱旋の最中、捉えられた獲物を見た者達の口からは、皆一様に驚きと感心の声が上がる。

 道端で戯れていた子供達も、滅多にお目にかかれない大きさの獲物を目にして興奮の表情を顕わに寄り集って来た。

「おめぇらにもキッチリ分けてやるからな! 後で大広場の方に来るんだぞ!」

 寄り着く子供達の頭をわしわしと力任せに撫で回しながら、ヴェネトはにかっと力強く笑う。

〈レィミア〉では、人々の大半は野菜の栽培や畜産、そして狩猟・採集などを生業として生活している。

 平野地帯の一角が、大規模な集合農耕地となっており、そこでは狩りで賄い切れない分の肉や野菜を育てているのだ。

 そしてそこで作られた食料は全て、森で取って来たものと同様に集落中の人々に均等に振り分けられ、また神殿の貯蔵庫にも運び込まれて有事の際の備えとされる。

 売買、ではない。

 そもそもこの〈レィミア〉においては、貨幣制度というものそれ自体が存在していない。

 こんな限られた場所、限られた人口しかいない世界において、通貨などというものをやり取りのツールとして使う必要が無いからだ。

 その為、〈レィミア〉の人々は農業や狩りをベースにした大規模な共同生活を営んでおり、隣人同士、住人同士でお互い親密に支え合いながら、ひっそりと暮らしていた。


 神殿前の大広場へと到着し、捕らえた得物をどさりと地面に下ろしたヴェネトの元に、一人の男が歩み寄った。

「おう、やっと帰って来たか! どうだ、山の方の収穫は?」

「勿論だ! 見ろよ、この黒猪を!」

 水場での狩猟に出向いていたグループのリーダーである三十路の男――アルバが、重荷を下ろして肩を回していたヴェネトに声を掛ける。

 対するヴェネトは、心底自慢げに得物の猪を仲間達と一緒に掲げて見せた。

「……何じゃこのバケモン……。おめぇらようこんなの仕留められたなぁ……」

 予想以上の成果に、アルバの顔が若干引きつった。

「俺が一番矢で目ん玉潰してやったんだ! んで、そう言うそっちはどうなんだよ?」

「……一・五メートル級の水豚だ。そこそこ自信はあった方なんだがな……」

 勝ち誇った様に大仰に笑うヴェネトの前で、アルバは悔し気に爪を噛む。

 その表情には何処か、単に得物の大きさで負けたという事以外の要因が垣間見えた。

 何故こんなにも悔しそうな顔をしているのだろう、とヴェネトの後ろに居る年若い仲間達が不思議に思うが、

「約束通り、今日のお前の分の酒は俺が貰うからな!」

「くっ……大物を仕留めた方が勝ち、という約束だからな。仕方ない……」

 理由はすぐに明るみになった。

(まーたこの人達賭けてたのか……)

 どおりで今日はやけにやる気に満ちていた訳だ……、と呆れた様に皆揃って目を細める。

 しかしそんなやり取りも、最早日常茶飯事だ。

 咎める様な声を上げる者は、一人として居なかった。

『ん、ヴェネトも戻って来たのか。……って何じゃそのバケモン……』

 そんな中に、もう一名……訂正、もう一匹。

 白龍の姿をとっている〈カイ〉がその会話に混ざった。

 一応言っておくが、今は決して有事だ、戦闘だ、などという事は無い。

 それを分かり易く象徴するかの様に、龍鱗に覆われた〈カイ〉の背中には、きゃっきゃと騒ぎ、はしゃぎ立てる子供達が何人も跨っていた。

 見ての通り、今〈カイ〉は子守りの真っ最中なのだ。(容姿が容姿故、主に男児には人気が高い)

 とは言え、そんな子供達も今は雪崩れる様にその背中から降りて、仕留められた猪をつついて遊んでいるのだが。

「おっ、留守番隊長のお出ましか」

『留守番隊長とか言うな。俺だって狩りに行けない事は、割と気にしてるんだぞ。……っておい、シンクにキシューも! あんまりベタベタ触ると汚れ……って聞いてないし……』

 ヴェネトの茶々に〈カイ〉が反応を返す。

 どういう訳か、〈カイ〉は全く動物に懐かれない。

 懐かれないどころか、森の獣達にさえも散々唸られ威嚇され、挙句逃げられる始末だ。

 仮に〈カイ〉が森の狩りに同伴しようものなら、一定以上に近づいただけで簡単にその気配を察知され、此方が攻撃を仕掛けるよりも先に得物に逃げられてしまうのは確実だ。

 そんな特性(?)故に、〈カイ〉は動物を狙った狩りには絶対に同伴する事は無い。

 その為、〈カイ〉が出向くのは山菜の採集か農場、それか留守中の集落や子供達の守り番をするくらいのものであった。

「お前が一番あの手の獣共とは相性良さそうだがなぁ。狩りも上手そうだし。特に見た目的には」

 と言いながら、アルバは髭の生えた顎に手を当てる。

『逆にそれで警戒されるのかなぁ……。ってか龍じゃなくて人の姿だろうと警戒はされるんだし、それは関係ないだろ』

 どんな姿だろうが本質は変わらないんだから、と言葉が続く。

 ヴェネトも次いで口を開く。

「案外その警戒されてるって事自体が気のせいなんじゃねぇのか? 自意識過剰とか言うやつ」

『いや、流石にそれは無いだろ……。これまで一度たりとも、動物が敵意剥き出さずに俺に向かって来た事なんか無いしさ』

「モノは試しって言うじゃねぇか。ほら、あそこに居る猫で試してみろよ」

 そう言って、ヴェネトが広場の端に蹲る猫を指差した。

 黒と茶のツートンカラーで、ぴんと立った耳が可愛らしい小柄な猫。

〈カイ〉もよく、集落内でチラチラと見かける個体だ。

 よく他の住人から、おこぼれや水を貰っているのを見た事がある。

 人懐っこい性格らしく、色んな人に媚を売る…………訂正、甘えてじゃれ合っている姿が目撃されていた。

 これまで「動物は絶対ダメだ」という経験測の元に動いていた〈カイ〉である故、彼はその猫と、まともに接触した事は無かった。

(まぁ、あの猫ならもしかして……って事もあり得るかな……?)

そんな淡い期待が胸を掠める。

促されるまま、〈カイ〉がそっとその猫に近付く。

「何事?」と言いたげに猫がこちらを振り向く。

『…………(にっこり)』

(気持ち的に)微笑む〈カイ〉。

 それに対する猫の反応は……。


 まず全身の毛が逆立った。

 続いて跳ね起きる様に〈カイ〉の方を向きながら立ち上がった。

 敵意と警戒心全開の色を浮かべた瞳の奥で、縦長の瞳孔が一気に細まった。

 小さな体を精一杯に膨らませて、牙を剥き出した。

絞り出すように、「フシャーッ!」と唸り声を上げた。

 そして数秒の後に、脱兎の如く逃げ出した。


『………………』

 呆然とその場に取り残される〈カイ〉。

 風に漂う様に靡いていた長い一対の髭が、萎れた様にしょぼんと地に垂れ下がり、彩色の毛を蓄えた尾も同様に下方へと落ち込む。

 獣となった彼の身体の随所が、その表情よりも明確に彼の本心を体現していた。

(凹んでる……)

(凹んでる……)

(猫に嫌われて分かり易く凹む龍……)

 その様子を横目に見ていた者の全員が、皆一様に憐みの視線を〈カイ〉に向けている。

「…………うん。何か……ごめん」

 項垂れた〈カイ〉の頭を撫でながら謝るヴェネト。

 その背後では、一部始終を見ていたアルバが「アタシ、もう見てられない」と言った様子で顔を手で覆い、肩を小刻みに揺らしていた。

『……いいよ。気にしてないから……』

 髭と尾を思いっ切り地面に引きずったまま〈カイ〉が答える。

 凄まじい哀愁が、龍の背中に影を作り出していた。

「あれ? カイにヴェネトも、何してるの?」

 そんな現場に、何も知らぬシエラがひょっこりと顔を出して来た。

「ちょっとな……傷心のコイツを慰めてやろうと……。ごめんな、カイ……。俺が変な発破をかけてお前に無謀な事をさせたばっかりに……」

「発破? 無謀?」

 後半は完全に〈カイ〉に対する慰めへと変化していたヴェネトの説明を受けるも、何が何だかさっぱり訳が分からず、首を傾げるシエラ。

「ねぇ、一体何の事なの?」と〈カイ〉に尋ねる。

 そんな彼女に、〈カイ〉は、項垂れたままに軽くシエラの方へと頭を動かして、

『あ、うん何でもない……。ちょっとフラれて凹んでるだけで……』

「……へ?」

 ……特大の爆弾発言を投下した。

 しかし勿論、〈カイ〉には自分がとんでもない地雷を踏み抜いた自覚などある訳も無い。

 シエラの身体が、表情が、文字通りに硬直して動かなくなる。

 思考は完全にショート。

 彼女がその言葉を呑み込むのに、丸々五秒という時間を要した。

 やがて〈カイ〉の放った言葉の意味を(曲解した形で)受け止めたシエラは、

「そ……そっかあ……。ふ、フラれちゃったのかぁ……。カイ……好きな人いたんだぁ……」

 色を無くし焦点の合っていない瞳と、糸の切れた人形(ドール)の様に無気力に傾いた棒立ち姿勢のままで、独り言の様な呟きを漏らし出した。

「あ、あれ? おいシエラ……?」

『シエラさん? ……え? 何か泣いて……』

 何やら様子がおかしいと感じたヴェネトと〈カイ〉がその顔を覗き込む。

 やがて、握りしめた手をプルプルと小刻みに震わせていたシエラは、

「お……お幸せにぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ‼」

 意味不明な捨て台詞を残して駆け出した。

『え⁉ ちょ……フラれたのにお幸せにってそれ滅茶苦茶……って言うか待って! 何かは分かんないけど、多分シエラ何か重大な誤解をしてるからっ! 話せばわかるから‼』

「お、おいシエラ⁉ 急にどうしたって言うん……⁉ ちょ、ちょっと待てって‼」

 そんなシエラの後ろを、〈カイ〉とヴェネトが追い掛ける。

 その後シエラを捕獲して状況の説明と理解を得るのに、小一時間もの時間を費やしたという。


①、という事で、この第二節以降は一節内を複数に分割してお送りいたします。

一回当たりの文字数も恐らくは今回くらい(一万弱)が基本になると思います。

年を跨いで何とも中途半端ではありますが、また明日――年明けに第二節の続きを投稿いたしますので、引き続きお読みいただけると幸いです。


では、最後に――。

今年もシャリ・クラゲを応援してくださった読者の皆様方、本当にありがとうございました。

投稿を始めてから、(多分)他に類を見ないレベルの更新頻度の遅さと些末さでお送りしています「天啓のブレイブ」――そして不肖な作者シャリ・クラゲではありますが、更新の度、変わらず私達の作品を読んでくださる読者様方の存在が、とても大きな支えとなっております。

頻度を上げるとは言いましても、他作者様方と比べるとまだまだ遅い部類にはなってしまうかとは思いますが、シャリ・クラゲなりの全力を尽くして、今の私達に出来る「最大限」をこれからも綴っていきたいと思います。

どうか来年も、変わらぬ応援をよろしくお願いいたします。


では、よいお年を!

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