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終わる世界で龍は唄う  作者: シャリ・クラゲ
11/12

第四節 正体と決意 そして龍は唄を奏で ④

連続投稿11回目ですね。

え? 連続はできてなかったろって?

サーワタシナンノコトヤラサッパリワカリマセンネ?

……はい嘘ですごめんなさい。

 一夜が明けた。

夜の間、止む事無くずっと降り続けていた雨も、流石に今では上がっており、水浸しの地面には無数の水溜りが残されている。

 しかし、未だ空には暗雲が立ち込めており、大気も変わらず冷たい湿り気を帯びたまま。

 湿潤な空気が草木に雫の装飾を施し、潤いを得た大地では数多の命が、再び動き出そうとしていた。

 ――しかしそれは、事〈レィミア〉の大地に限った話ではなかったが。

「っ⁉」

 突如として察知した危機感が、眠っていたカイの意識を呼び起こした。

 何かは分からない――漠然とした胸騒ぎ。

 冷たい汗が背中を伝い、鼓動は疾走直後の様に早鐘を打つ。

「…………カイ?」

 跳ね起きたカイの気配に釣られ、脇に寝ていたシエラも目を覚ました。

 覚醒し切っていない意識のまま、開き切らない眼を服の袖でごしごしと擦る。

 しかしカイの意識はそちらには向いていない。

 人や森の獣とは違う、強烈な何かの気配。

アヤカシに近い存在――半妖(ホムンクルス)である彼の優れた霊力感性を刺激し続けるこの予感の出所は――。

「上かっ!」

 思考よりも早い段階で、カイの身体は行動を起こしていた。

 すぐさま立ち上がり、洞窟の外へと飛び出す。

 仄かな暗みを湛えた空を見上げ、それを見た。

 波紋を打つ空――正確には、〈レィミア〉の直上にある何かの輪郭。

 見覚えのあるその光景だが、前回とは明らかに何かが違う。

 その揺らぎの起こる範囲が――ステルスによって隠れ潜んでいる敵の規模が、明らかに違う。

 そして、それは姿を現した。

〈レィミア〉全体の半分以上を埋め尽くす程の、あまりにも大きすぎる硬質な外表。

 暗き空を覆う鈍色の巨体。

 頭も。腕も。翼も。

それと思われる部分は一つたりとも見当たらない。

 その様は、まるで一つの惑星の様。

 姿形が変化しても、そのステルス能力で簡単に判別できる。

〈カイ〉に吹き飛ばされた筈の、あの紫色の使徒型(アポスウェル)が、超弩級の外殻に身を包み込んで、再び〈レィミア〉の空にその姿を現した。

「何……あれ……?」

 カイを追って出て来たシエラの口から、小さな呟きが一つ漏れた。

 直下より見上げる敵の、桁外れのスケール。

圧倒感と圧迫感が混ざり合い、知らぬ間にその息を詰まらせる。

 言語を絶するその光景に、多くの者が呑まれ、立ち尽くし、ただただ驚愕の眼差しで影の射した空を見上げていた。

(あの使徒型(アポスウェル)…………仕留め切れていなかったのか……!)

 ギリッ……、と思わず奥歯を噛み締める。

 死力を尽くさんばかりの猛攻を、その霊核に叩き込んでやったというのに――!

 えも言えぬ悔しさがカイの心に芽生えるが、そんな彼の視界の端を、何か小さな影が複数掠めた。

「あれは――!」

 正体は、すぐに察しが付いた。

集落から飛び立った封術士達が、迎撃に打って出たのだ。

 その対応は、早いものだった。

 一人、また一人と、大勢の人影が次々に飛び立ち、霊力の光線や光弾を続々と使徒型(アポスウェル)に対して撃ち込んでいく。

 計り知れぬ程の光条が、その外殻に突き刺さる。

 硬く鈍い煌きを放つ外殻の表面で、撃ち込まれたエネルギーが次々に弾けて、幾つもの爆発が巻き起こる。

 しかし、本来は大規模である筈のその猛攻による爆発も、相手の図体が大き過ぎる所為で、ほんの一部分に小さくフラッシュと黒煙が生じているだけのものにしかなっていない。

 当然、アヤカシに対して何ら意味のある抵抗とはなっていなかった。


 ――――グオォォォ…………ン。


 腹の底に響く低い駆動音の様な音が、大気を揺らした。

 辺りを満たす、異様な感覚。

(何か…………来るっ!)

 次の瞬間、歪な球体となっているアヤカシの外表――その下半分より、凄まじい密度の光の柱が、無数に、そして一斉に降り注いだ。

「な――っ⁉」

 神殿も、集落も、森も、川も、山も、そして〈レィミア〉の大地そのものを。

 激烈なまでの黄金の豪雨が、抉り、砕き、滅して、消し去る。

〈レィミア〉にある――使徒型(アポスウェル)の射程内にある全てのものに平等に降り注ぐ、無情で絶対なる滅亡の光。

 耳障りな爆音が、絶え間なく人々の鼓膜を揺さぶり続ける。

 その使徒型(アポスウェル)の攻撃の手は、森の中にいるカイとシエラの所にまで及んでいた。

「きゃああぁぁぁぁっ⁉」

「シエラ、危ない……っ!」

 着弾により抉られて、宙に巻き上げられた土塊や大木の幹、そして岩石の破片までもが、光条の合間を縫って地上に降り注ぐ。

 さっきまで自分達が居た洞窟の入口が、岩壁に光線が着弾した衝撃で崩れ落ちる。

 そして同じくその着弾によって弾け飛んだ大きな岩石の塊が、霊具を持たぬ丸腰のシエラの頭上に降り注ぐ。

が、それにいち早く気付いたカイがシエラの上に覆い被さり、龍鱗の壁を造り出してその直撃を防いだ。

「ぐ……」

 濃く立ち込める土煙が、カイの視界を阻んでいる。

 次第に薄れ出した煙幕の向こうには、幾つも陥没したボコボコの大地が。

 無残に中腹から、あるいは根元からへし折られ、無造作に転がる幾つもの森の木々が。

 陥没による地形の変化で氾濫した川が。

 そして使徒型(アポスウェル)の攻撃に巻き込まれ、理不尽にも凄惨な最期を迎えた多くの動物達の死骸が、そこかしこに転がっていた。

「…………っ」

 強烈過ぎる衝撃に、言葉が出ない。

 無言のまま上を見上げると、晴れかけた茶色の煙幕の向こうに、何処までも巨大で恐ろしい使徒型(アポスウェル)のシルエットが、ぼんやりと見て取れた。

「嘘でしょ……こんなの……。これじゃあ、集落のヴェネト達は……」

 シエラの声が、カイの不安を募らせる。

 使徒型(アポスウェル)の攻撃範囲の端近くに居たカイ達でさえ、これほどの被害を被ったのだ。

 中心となる神殿は、集落は、一体どんな惨状になっているのか。

 刺す様な悪寒が、カイの脳裏を巡る。

 逡巡を抱えた彼らの頭上に、使徒型(アポスウェル)の第二波が降り注いだ。


  ◇


――〈レィミア〉集落地。

「ぐ、ぁ……っ!」

 土煙の中で地に膝を突き、四つん這いのヴェネトがフラフラと起き上がる。


 通常、短期間に連続してアヤカシが襲撃してくるという事は滅多に無い。

 一つの襲撃を乗り切れば、次のアヤカシの襲撃まではある程度の期間が空く。

 これは過去の、数多に及ぶアヤカシとの闘争の歴史において証明されていた法則。

 鉄則、とも言ってもいい。

 だからこそ、前回の襲撃よりまだ然程の時間が経過していない今であれば、敵襲の可能性は無いと、皆そう信じていた。

 ――が、現実は違った。

 突如として現れた、過去に類を見ない程の巨大な使徒型(アポスウェル)

 その透過能力から、先の対戦で〈カイ〉が突き飛ばしたもの――仕留めたと思っていた二体目の使徒型(アポスウェル)であるという事は即座に判断できた。

 ――戦闘は、まだ終わっていなかったのだ。

 しかし今となっては、そんな考察など何の意味も無い。

 予想外の事態に舌打ちを一つ打ちながらも、即座に槍を携えて、ヴェネトはいの一番にアヤカシと対峙した。

今は、もうカイはいない。

――分かっている。

そんな事は織り込み済みで、俺達はカイとシエラを行かせたんだ。

 だから俺達は――俺は、アイツらが居ない分、もっと強くあらねば。

 アルトの大切な場所をこれからも護って行ける様に、もっともっと強くならなければ――!

 そんな思いが、ヴェネトを駆り立て、体内の霊力を轟々と煮え滾らせ。

 そしてその思いが、優秀な戦士である筈の彼の感覚を、少しばかり鈍らせた。

 もしかしたら、強力な戦力であったカイが抜けたという事で、彼自身の中にも無意識の内に焦りの様な感情が生まれていたのかもしれない。

 先行し、他の者達よりも頭一つ抜けた位置に居たヴェネトの目の前で、使徒型(アポスウェル)が機械的な唸りを上げた。

――そう思った次の瞬間には、折り重なって迫り来る極太の光条の数々に、視界全体が埋め尽くされていた。

「――っ!」

 反射的に、手に持っていた槍が複雑な軌道を描いて舞い踊る。

 霊力を纏った穂先が鋭い残光を引き、降り注ぐ光線の数々を弾く。

 周りの術士達も、驚愕の声を上げながらも気圧される事は無く、即座に霊力を熾して反撃に出た。

 光弾等のエネルギー体での迎撃。

近接型霊具による撃墜。

障壁や結界による防御。

 しかし、そんな彼らの対抗も長くは続かなかった。

 真正面から迫る光線の一つに、ヴェネトが横から槍の刃を滑らせる。

 彼の目論見の通りに事が進めば、その攻撃の軌道は霊力を帯びた槍によって捻じ曲げられ、地平の彼方に広がる灰の海へと吸い込まれる筈であった――のだが。

「ぐうっ⁉」

 槍に纏った霊力刃が触れるよりも早く、使徒型(アポスウェル)の攻撃が中空でひとりでに爆散した。

 いくら霊力を纏わせた槍の一薙ぎと言っても、流石に至近距離で巻き起こった爆発の衝撃を打ち消す事はできない。

「ぐわああぁっ‼」

「がはぁ……っ⁉」

「あ、がっ……⁉」

 同じ様なフェイントにやられたのだろうか、彼の後ろでも同様の悲鳴が上がっているのがヴェネトの耳に届く。

 が、今は他人の心配をしている場合ではない。

 爆風に飛ばされるまま、ヴェネトの身体は地上に激突した。


 地に突き立てた槍を支えに立ち上がり、ヴェネトは荒い息のまま視線を上げる。

 先の光の嵐を無事にやり過ごした者達が攻撃を放ち続けるその向こうで、途方もなく強大で重厚な巨影がじわじわと地面に差し迫って来ている。

 天に座し、悠然と地上を見下ろすその様は正しく、墜ちゆく天の星。

 圧倒的理不尽。

そして絶対的なまでの脅威の権化。

 その無言の重圧が、ヴェネトの膝を折らんと重くのしかかる。

「……誰が……!」

 しかし、男は折れない。

 張り上げた威勢が。屈する事を知らぬその心根が。

ヴェネト自身の身体に痛烈なまでの鞭を打ち、その身体を持ち上げる。

 槍を持ち直し、再びヴェネトが飛翔した。

『――――――――』

 結晶の身体の至る所より撃ち出される第二波の光線。

 防衛団の迎撃が、ヴェネトの握り締める槍が、再び光線と相まみえる。

 地上より閃く、小さな無数の軌跡。

天空より飛来する、暗い影を落とした〈レィミア〉の空に舞う強烈な光線の残光。

 二つが幾度となくぶつかり合い、削り合い、幾つもの火花が虚空に咲く。

 光弾を槍の先から撃ち出す合間に幾度となく、ヴェネトの槍が迫る光線にその刃を走らせて撃墜していく。

 しかしヴェネトがアヤカシの攻撃と切り結ぶその度に、何やら奇怪な音がその得物より響いていた。

 決して大きな音などではない。

 ほんのちょっと。ほんの少しの違和感。

 しかしそんな違和感もやがて着々と蓄積していき、そして――、


 バキィィッ‼


「っ……‼」

 槍の軌道の合間を縫って迫った光線の一撃に対して、力任せに得物を叩き付けたその瞬間、鈍い金属音と共にその穂先がへし折れた。

見開かれたヴェネトの視線の向こうで、へし折られた槍の穂先が宙に舞う。

 一瞬の硬直。ほんの僅かな隙。

 しかしそれが、取り返しのつかぬ決定的な瞬間となった。

 武器としての機能を失った槍を握ったままのヴェネトに、鋭い一射が撃ち込まれる。

(マズい! 回避を…………間に、合わない――ッ⁉)

 咄嗟に、手元に残っていた槍の柄を用いて防御の体勢を取る。

 どうにか機能していた武器の霊核に霊力を注ぎ込み、柄そのものに霊力を纏わせて光線を受け止める。

 しかしそれはあくまで、肉体への光線の直撃を防いだに過ぎない。

「がっ‼」

 再び爆風に煽られ、ヴェネトの身体が紙切れの様に吹き飛んだ。

 間近に受けた熱線が、胴と頭を護ろうと咄嗟に交錯させられた彼の両腕を瞬時に焼く。

 暴風に四肢を攫われて減速を図る事もできず、吹き飛ばされた勢いそのまま、辛うじて形を留めていた家屋に背中から激突した。

 受け身をとる余裕などある筈もなく、壁をぶち抜き、硬い地面に叩き付けられた衝撃がヴェネトの身体を貫通する。

 かひゅっ、という掠れた音がその喉から漏れ、血と共に肺の空気が一気に押し出された。

「う……ぐ」

 息が苦しい。景色が霞む。

 そして次第に感じ始める、右足の違和感。

「…………ッ!」

 砕けた梁の破片。

握り拳程の大きさの木片が、ヴェネトの右腿に突き刺さっている。

 砕けた壁の跡に寄りかかり、脂汗をかきながら項垂れる彼の視線の先で、腿より溢れた血がどくどくと地に流出していく。

 とてつもない激痛で、上手く足に力が入らない。

(それでも……。俺は、まだ……っ!)

 奥歯を食いしばり、立ち上がるべくもがく。

しかし言う事を聞かぬ脚は縺れてしまい、ヴェネトはそのまま前のめりに倒れ込む。

「くっ、そ……!」

 悔し気な視線が、空に向けられる。

 その空の向こうより、一筋の閃光が彼の視界を塗り潰した。


 爆音。爆風。思わず目を閉じた。

 痛みが、全身を駆ける衝撃が、彼の脳髄を刺激する。

 しかしそれは、彼がまだ生きているという確固たる証拠でもあった。

(…………?)

 ゆっくりと瞼を持ち上げる。

 見えたのは、暴力的なまでの激しい閃光ではない。

 温かく、柔らかな燐光が、幻想の様に舞っている。

 そしてその中に一つ――少年の面影が映った。

 面影は、静かに振り返る。

 如何にも大人しそうな顔立ち。

 優し気な目元。

 小さく持ち上げられた口元と、消え入りそうに儚げなその微笑みは――。

「アル……ト?」

 思わず呟いた。手を伸ばした。

 これが死に間際の走馬燈というやつなのだろうか。

 それともアルトの霊が迎えに来てくれたんだろうか。

 どちらにせよ、構わない。

「アルト――‼」

 もう一度、呼んだ。

 遠い影にその手を伸ばした。

 面影は微笑みを浮かべたまま、少しだけ辛そうな色を浮かべて。

『後は、俺がやる。だから、ゆっくり休んでて。――兄貴(・・)

 一筋の涙が、ヴェネトの頬に零れた。

 小さな笑みが、その口元に浮かんだ。

 あぁ、そうだ。お前は――そういうやつだったな。

 優しくて。お人好しで。いつも、いつも――。

「ばか――やろう――――……」

 そうして、ヴェネトは静かに目を閉じた。



これで終わ龍も残すところ後一回となりました。

また明日、大体これくらいの時間に投稿すると思います。


では、また明日の投稿で――。

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