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終わる世界で龍は唄う  作者: シャリ・クラゲ
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第一節 終わった世界

終わる世界で龍は唄う、投稿は私シャリオの方でやらせて頂きます。


……はい、本当に大変長らくお待たせいたしました。

ちょっと編集してから投稿すると言って約半年(多分)……やっと投稿まで漕ぎつけました。


いや、色々あったんですよ。

自分で改めて読み返してみて、個人的にどうしても「ここを直したい」「何処をこうしたい」という点が多々ありまして、それを全般的に改修したものを投稿するつもりで新しく設定も一部変えながら書いていたんですよ。

でも……


一回完結させた話を一部設定変えて再編集するって案外キッツいもんでした(^q^)


全然話も上手く纏まらず、初心者の分際で分不相応な試みしてるんだろうなと思いまして、結局どうしても気になった数か所だけ直した元の話ほぼそのまんまを投稿する形となりました。

散々長引かせた挙句この様な結果となってしまい、申し訳ありませんでした。

色々と問題も多い稚拙な出来ではありますが、皆様どうぞ温かい目でご一読ください。


では、終わる世界で龍は唄う――どうぞお楽しみください。

 そこに、一匹の龍が居た。


 自身の身体をかき抱くかの様にその細長い身体を丸め。

 双眸を閉じ、身動ぎ一つする気配も無い。

 背部や尾端に生えた玉虫色の細毛は、龍の僅かな息遣いに小さく靡くばかり。

 全身を覆うのは、薄色の翠玉を思い起させる翠色の混じった美しい白鱗。

 そしてその龍の身体は、全身の至る所を、淡い緑色の結晶によって覆われていた。

 ほぼ全身を覆う結晶。

その様は正しく幻想と呼ぶに相応しい、煌びやかな結晶の棺。

 僅かな光しか射さない、この暗く寂しい殺風景な閉鎖空間が、その綺麗さを一層際立たせる。

 この場所に、外の世界の光は届かない。

 四方を岩壁に囲まれ、隔絶されたこの場所に灯るのは、岩と岩の間から顔を覗かせた、龍の身体から生えているものと同じ結晶の淡い光ばかり。

 届かないのは、何も光に限った話ではない。

 音も、風も、地に侵食する雨水の一つでさえも、ただの一つとしてこの場所には届かない。

 何の変化もきたす事の無い、暗い岩と結晶だけで形作られた不変の景色。

 そんな光景がひたすらに……ただずっと、永遠に続く。


 この何も無い虚構の様な空間で、龍はただ一人(・・)、悠久とも言える時を過ごして来た。

 以前の彼が過ごした時間は、既に遥かなる過去となり。

今の世界に彼の存在を知るものは、片手に数える程しか居ない。

 かつて情愛を交わした者も、見慣れた街の影も、彼という存在が世界に在った頃の面影は、もうほとんど見受けられない。

 仮に残っていたとしても、彼がそれを目にする事は、もう二度と叶わない。

 それは凍える程の孤独と、寂寞そのもの。

 しかし、彼がそれを苦に思う事は無い。

 ――否。

正確には、彼にそんな孤独を感じる機能など、もう何処にも残っていなかった。

 感情は、とっくの昔に殺した。

 自我や意識は、己の身体の奥底に封じ込めた。

 今の彼は、生とも死とも区別の付けられない状態で、ただひたすらに世界を保つ為の力の源泉として、エネルギーを放出しているだけの〈核〉に過ぎない。

 それでも、自己を失い生きる事を忘れた今の状態にあってもなお、彼の中に後悔の念は無かった。

 これが――己の選び取った結末なのだから。

 大切な人の為にと、自ら選択した未来であり。

そして今は、その未来を守る事ができているのだから。


 ――だから龍は。

 今日もただ一人、この終わりゆく世界の片隅で。

 変わる事の無い、静かな唄を奏で続ける。


  ◇


「カーイ! ちょっとカイってば!」

「…………ん」

 遠くから、少年を呼ぶ少女の声がした。

 人気(ひとけ)の無い場所にそびえる小高い丘の上。

 そこにひっそりと佇む一本の大木の下が、少年のお気に入りの場所だ。

 元の立地が平野部と比べて高所にある為、人の住む集落も、その周囲に広がる森と、彼方まで広がる白き灰の海までを一望できる。

 そして背後の山以外には陽を遮るものも無いので、麗らかな日光は大木の葉の間を擦り抜けて木漏れ日となり、木陰に寝転がる少年を優しく照らす。

 この場所が、彼にとって最も心の安らぐ所であった。

「……シエラ。どうした、そんなに急いで?」

 寝ぼけ眼を擦りながら上体を起こし、少年――カイは緩やかな上り坂を駆け上がって来る見知った少女に尋ねた。

 灰色の髪と灰色の瞳。

色白の頬は、上り坂を駆け上がった事による体温の上昇で僅かな朱を帯び。

余程急いで来たのか、靡いた髪の間から見える額にはほんのりと汗が滲んでいる。

 身に纏うその着衣はインナーの黒い衣の上に、所々赤色のアクセントが付けられた、軽装な白色の和風装束を着込んだもの。

 カイの昔馴染みであり、〈レィミア〉集落の現族長である男、ジンダイの孫娘に当たる少女――シエラが、息を荒げながらカイに抗議の声を浴びせる。

「ちょっと……こんな時だっていうのに呑気に昼寝とか……」

 坂を上り切り、膝に手を付いてゼイゼイと息を切らす少女のその着衣は、先刻の運動の所為で所々着崩れてしまっている。

 その上、真正面からこちらに向いて前傾姿勢を取ってしまっている為、前開きの装束の胸元が僅かにはだけ、その下にある控えめな胸元が露わになっていた。

 熱気の籠った胸元からは、何処となく甘い香りが微かに漂い、カイの鼻孔をくすぐる。

 これが女子特有の、フェロモンなるものなのだろうか。

(――はてさて、これは指摘しようかするまいか……。別に他の誰が見ている訳でも無いし、俺としても眼福ではあるから、もう少し見ていたいというのは正直な感想ではある訳だが……。まず、仮にこの事を言えば、確実に平手は飛んでくるだろう。何の利点も無しに、好き好んでわざわざ痛い目を見に行く趣味は無い。かと言ってこのまま放置しておくのも、コイツに悪い気がしなくもないし。さてどうするのが最適か……。…………にしてもコイツ、ホントに胸無いよなぁ……)

 失礼極まりない感想を寝ぼけた頭に思い浮かべながら、思案という名目の下にカイは平然とラッキースケベを堪能し続ける。

「ちょっとカイ、何黙って……」

「いや何でもない気にするな」

 顔を上げたシエラに、すぐさま視線を胸元から外して若干早口で捲し立てた。

「それよりも。寝ぼけてて気付かなかったが、この気配……」

 カイの視線が問い掛ける。

 返る答えは――肯定。

「うん。西側に幻獣型(ファンタメイル)の群れ。もう完全に交戦状態に入ってる」

 世界を脅かしている謎の超常生命体――アヤカシ。

 その内、伝承や創作に登場する翼を持った巨大な爬虫類――竜の様な姿をしたものに対して付けられた、分類学的名称。

 このアヤカシ共を淘汰し、自らの住む世界を守る事が、彼ら封術士と呼ばれる者達の使命なのだ。

「ほら! 目が覚めたんなら早く行くわよ!」

「了解、了解」

 短く返事を返し、カイが一つ深呼吸する。

 その特徴的な色彩の髪と同色の、翠色の瞳。

 その瞳孔が、獣の様に縦に細まった。

 同時にその身体から漏れ出すのは、花弁を思わせる無数の燐光。 

 その光の一つ一つが鱗の様に折り重なり、カイ自身をあっという間に包み込んでゆく。

 そして少年を呑み込んだ光の奔流は、やがて一つの形を成す。


 蛇を思わせる様な細長い胴体。

 その全身を覆うのは、翠色がかかった白鱗と、尾や背に生えた玉虫色の体毛。

 四足での歩行に適した形の脚部には、鋭く伸びた鉤爪が生え、柔らかな草の地面を踏み締める。

 鼻先は前方へと伸びて、そこから一対の長い髭を靡かせる。

 小柄な頭部には、後方へと伸びる立派な四本の頭角。

 僅かに開いたその口からは、得物を引き裂く鋭角的な牙が覗く。


 明らかに人とはかけ離れたその姿。

 数多の伝承にその姿と力を刻みし獣――龍となったカイが、そこに居た。


『じゃ、行こうか』

〈カイ〉の声が、直接シエラの頭に届いた。

「――うん」

 龍の声に頷く少女。

 乗り易い様にと脚を曲げて腰を落とした〈カイ〉の背に、シエラが跨る。

 そして十メートル程はある身体をうねらせながら、白龍〈カイ〉は午後の陽が照らす空へと飛び立った。


  ◇


 この世界には、巨大な大陸も広大な海原も一つとして存在せず、世界のほぼ全域は、海原の如く広がる白き灰に包まれている。

 その白き世界において、唯一の緑を湛えた楽園とも呼べる場所が、この〈レィミア〉だ。

 獣は森に。

 魚は川と湖に。

 そして人は平地に集落を作って。

 まるで世界から切り離されたかの様なこの大地で、生き物は独自の生態系を形成して日々を過ごしていた。

 そしてそんな〈レィミア〉を取り巻く白き灰の世界に住まう、巨大な超常生命体。

 それがカイ達守り人の戦う敵――アヤカシだ。

 彼らは灰の世界に適応した生物群であり、〈レィミア〉に生きる生命とは完全に別の存在となっている。

 強靭なる生命力と、破壊と殺戮に特化したかの様なその能力。

 存在そのものが、まさしく厄災とも呼ぶべき脅威。

 そして彼らアヤカシはその脅威を以てして、〈レィミア〉に対し襲撃をかけて来るのだ。

 普通に考えて、そんなものとても人間如きが太刀打ち出来る相手ではない。

 しかし人間という生物は、それでおいそれとやられてしまう程、潔い生物では無かった。

 生き残る為、その闘争に勝つ為に、彼らはその叡智を絞り、抵抗する術を探る。

 そして導き出された結論は――生命エネルギーの利用だった。

 あらゆる生物が生まれながらにして持つ体内エネルギー――霊力。

 その存在自体は有史より認識されていたが、これまで大した利用法が見付からずにいたそれを、霊具と呼ばれるデバイスを使う事で攻撃手段として転用する。

 それは即ち、侵略者であるアヤカシの持つ能力(ちから)の模倣であった。

 そしてその霊具を用いて、アヤカシと対峙する戦士達が、カイやシエラ達――守り人と呼ばれている戦士だ。

 言わば彼らは、超常の存在から人々を護る、人類最後の要。

 彼らの敗北は、それが世界(レィミア)の終決に直結し。

 彼らの勝利は、この世界の明日へと繋がってゆく。

 小さな世界の命運を背負い、幾度も戦い続ける者達。

 そしてその者達の犠牲の上に成り立っているのが、今のこの〈|レィミア(世界)〉の姿だった。


  ◇


 ――その場所には、二種類の影が飛び交っていた。

 一つは、二本の足に二本の腕、直立歩行に適した形の姿を取った哺乳種族――人間。

そしてもう片方。

前者よりも争う事に特化した体つきの、大柄な獣。

 全身を覆う、鼠色のくすんだ甲殻。

 目の無いのっぺらな頭部と、黒い牙を生やし、後方に裂けた様に大きく開かれた顎。

 鞭を思わせる細い尻尾と、腕がそのまま変質したかの様な、翼膜を広げた翼。

 鬼火の様なブレスと共に、耳障りな叫びを放つ小型の(ドラゴン)――幻獣型(ファンタメイル)

 黒雲を成す巨大な獣が大群を成して、〈レィミア〉防衛団と交戦していた。


『ギィィエエァァァァ……!』

 防衛団側から放たれた霊力の光弾が翼膜を薙いで、一匹の翼竜が灰の中へと落ちてゆく。

 幻獣型(ファンタメイル)の強みは、個々の戦闘力ではなくその数だ。

 一匹が落とされようとも、その隙間を即座に別の個体が埋め合わせる。

 落とされた同胞の仇と言わんばかりに、群れの中に開いたその穴を即座に別の個体が埋め合わせ、反撃の火球が放たれる。

「来るぞ! 撃ち落とせぇぇッ‼」

 現場の防衛団を指揮する一人の青年――防衛団一番隊隊長であるヴェネトの号令に従い、密集陣形をとった人々の一団から幾つもの光条が繰り出される。

 光条と火球――二つのエネルギーが無数にぶつかり合い、爆音と共に大きな黒煙が虚空に咲く。

「まだだ! 休まず撃ち続けろ!」

 視界を覆い尽くす程に広がった黒煙が両者を分断してもなお、ヴェネトの攻撃指示は止まらない。

 黒煙のカーテンを突き破り、まるで背景の黒煙に溶け込む様な鈍色の竜達が爆撃機の如く降り注いで来たからだ。

 飛び出したヴェネトが持つ、白色の槍の形をした霊具が、残光を引いて閃く。

穂先の付け根に煌く僅かな遊色を孕んだ白玉(コア)が、持ち主の熾した霊力に反応して光を呼び起こし、槍の刃に尖角的な幻刃を纏わせる。

「おぉぉらああぁぁぁッ‼」

 ヴェネトが槍を振るい、瞬間的に刻まれ、交錯した複数の斬線。

 その閃きが刻まれた地点にいた八体の幻獣型(ファンタメイル)が、瞬く間にその翼を、首を、全身のあらゆるパーツを寸断されて灰の海へと沈む。

 しかし全員が彼の様に眼前の怪物を屠れるかと言われれば、そうとも限らない。

「ぐっ……!?」

「ゼブリオ!」

 三十路手前の男に、黒牙を剥き出した大きな翼竜が激突する。

 ロングライフルの形状をした彼の遠距離型霊具では、近接の敵に対抗するのには不利だ。

 銃身を盾の様に持ち、噛み合わさる凶牙を防ぐゼブリオ。

「あっ!」

 しかし抵抗虚しく、力で勝る翼竜の顎が霊具を掴み離す事無く、力づくで彼の手から得物を奪い去った。

「ぁが……」

 間髪入れず、獰猛な鋭牙が丸腰となった彼の骨肉を引き裂き、竜に首筋を咥えられた男の顔が、苦痛と恐怖に歪んだ。

 しかし、その苦悶も一瞬。

 ほとんど何の抵抗も無く、強靭な脚部の爪と不気味な黒牙によって、その身体が無残に引き裂かれた。

 鮮血と肉片が飛び散って、その下に広がる灰の白を赤く上塗りする。

 血染めの地に落ちた男の得物が、乾いた音と共に砂地に似た灰の海へと突き刺さった。

「化け物が……よくもっ!」

 憤るヴェネトが、手にした槍型の霊具から霊力弾を撃ち出す。

 その一撃は辛うじて羽ばたく翼膜を焼いたものの、無力化には遠く及ばない。

 艶の無い甲殻を血に染めた翼竜が、肉片を投げ捨てて再び動き始めた――その時。

『ギャイッ!?』

 横合いから撃ち込まれた無数の礫が甲殻ごとその身体を穿つ事で横合いに弾け飛ぶ。

 撃ち込まれた礫の正体は、光を纏った白い手の平台の龍の鱗。

 それは持ち主の霊力を物質化させた、霊力の塊。

――ヒュイイィィィィィィィィィィィッ‼

 東の空――集落の方から響き渡る咆哮。

 茜の中に僅かな暗みを孕み始めた空の中、戦場へ向けて飛翔して来る一つの白。

「おせぇよカイ!」

『すまない。遅れた分の仕事はする』

 滑翔する〈カイ〉の口に蒼が煌き、直線状のブレスが迸る。

 空を切り裂く蒼き炎が過たず幻獣型(ファンタメイル)を呑み込み、一瞬の内に消し去る。

 黒い影の様に膨らんだ群れの輪郭に、薙ぎ払った蒼炎が直線の空白を刻んだ。

『ギッ、イィィイイイィィィィィィ‼』

 失った陣形を即座に再構築。

続け様に放たれたブレスを軽微な損壊で流し、群れの穴を埋めた幻獣型(ファンタメイル)が〈カイ〉へ攻撃の手を向け始めるが、それよりも早く〈カイ〉とは別の光が、群れの一角を焼いた。

「これ以上は、好きにやらせない――ッ!」

〈カイ〉の背に跨るシエラが構えた弓――かつて守り人として〈レィミア〉を護る為に、アヤカシと戦い、非業の戦士を遂げた父の形見の霊具に霊力を注ぎ、第二波の射撃体勢に移る。

 矢をつがえる事無く引き絞られた弦。

 本来はつがえられた矢尻が光る筈である場所に浮かぶのは、圧縮された霊力の塊。

 矢を構える事など到底出来ようも無い、胴から大腰にかけて鋭く肥大化した独特の形状の弓に込められた霊力が一点に集結し、やがて一息に放たれた。

 一筋の直線を描くのではなく、まるで弾ける様に無数の光の矢が生まれて、流星の如きスピードで幻獣型(ファンタメイル)に降り注ぐ。

 群を成す黄金の矢が、二度鈍色の群れを強襲し、数十体単位の翼竜が眼下の灰海に沈む。

 しかしそれだけの削りもなお、巨大に蠢く群れのほんの一部に過ぎない。

 依然、膨大な密と質を以てして無数の凶牙を打ち鳴らす竜の黒雲は、眼前に佇む少女を乗せた白鱗の龍に向き、恐ろしくも猛々しき咆哮を響かせて迫る。

「隙ありだ、トカゲ野郎!」

 しかし自身に攻撃の手が緩んだその隙をむざむざ見過ごす程、防衛団の面々も抜けてなどいない。

 ヴェネトの槍撃が複数の幻獣型(ファンタメイル)を瞬く間に喰らうと同時、ブレスを吐き散らす〈カイ〉がその隣に滑り込んだ。

『状況は?』

「大体半分って所だな。折り返し地点までは来てる筈だ。後はアイツらが戦意喪失するまでタコ殴りにしまくれば済む話だろう」

 ヴェネトの口角が僅かに持ち上がり、浮かべられる確かな笑み。

 確証に近い勝利の予感が、その端に見え隠れしていた。

『なら俺が(かしら)を討つ。目星は?』

「多分上の方に飛んでる奴だ。一匹、他より図体のデカい奴がいる。取り巻きのガードも固いからほぼ確定だろうな」

 ヴェネトが顎で示す方向を見、対象を視認。

『了解した。――五分でやる。シエラ』

「――分かった」

 背中に跨ったまま光矢を放ち続ける少女を、一つ呼ぶ。

「降りて皆と雑魚の掃討に当たってくれ」という言外の意図を酌み、霊力を熾してシエラが龍の背を降りる。

「……気を付けて、ね」

 白鱗の背を二、三度と撫でてからシエラが手を離す。

 横目に頷き、常人のそれよりも数段強力な霊力を沸きあがらせて、黒い影を孕んだ夕暮れの空を目指し〈カイ〉が飛翔した。

 ぐんと視界に映る景色が歪んで風が唸り、積乱雲の如き獣の大軍の只中を白龍が単身で突き抜ける。

 蛇を思わせる細長い身体は、敵味方の入り乱れる戦場を容易くすり抜け、最速を以て目標に接近。

 滑翔する〈カイ〉に対して一匹の竜が牙を剥き出し、大きく後方へと裂けた大顎をいっぱいにこじ開けて肉薄した。

 噛み合わさる黒き牙。

 しかし前脚の引っ掻きに妨害されたそれは獲物を捉えず、空気のみを食らって耳障りにぶつかり合う。

 間髪入れず、〈カイ〉の突顎が幻獣型(ファンタメイル)の甲殻に覆い尽くされた首を食らい、その首を力任せにへし折った。

 折られた首をぶらりと垂れ下げた、物言わぬ肉の塊と化した翼竜の身体をポイと投げ捨て、一声咆えるや〈カイ〉は再び黒影の頂を目指す。

『ギギィィィッ!?』

 高速で群れの中を突っ切る〈カイ〉の存在に気付いた、一匹の大柄な翼竜が、視界など働きようも無い筈の目の無い頭部を〈カイ〉の方向へと向けた。

 胴回りだけでも他の個体のおよそ二倍はあるであろう、一目でわかる程の恵まれた体躯。

 甲殻の一部が変質を起こし、背中から首、翼にかけてのラインには茨の様な棘が発達している。

 それが〈カイ〉の狙う敵の(かしら)――この群れの統率者(リーダー)だ。

 体格だけなら〈カイ〉にも追い付かんばかりの巨体が翼を打ち鳴らし、真正面からカイに立ち向かう。

 二つの咆哮が天地を揺るがし、二匹の龍が激突した。

 翼撃と共に迫る、甲殻よりもなお黒みを増した固い翼棘。

 難なく身を捻ってそれを回避、同時に見舞う蒼炎の連撃が空を薙ぐが、優れた飛行能力を持つ幻獣型(ファンタメイル)の機動力がモノを言い空振りに終わる。

 なおも追い討ちのブレスを二、三度と放つ〈カイ〉。

 その背後に迫る複数の翼竜の姿が、目まぐるしく入り乱れ移り変わる〈カイ〉の視界の端に移り込む。

 統率者個体に向けていたブレスをすぐさま反転。

振り返り際の薙ぎ払い軌道で、背後の雑兵の一団に一撃を見舞う。

 瞬時に駆け抜ける青色の煌きが鈍色の竜を屠り、仲間の残骸と迸る霊力を掻い潜り迫った竜の首筋に、鱗に覆われた鞭の様にしなる尾による尾撃が叩き込まれる。

 強烈な殴打が翼竜の平衡感覚を奪い去り、もがく様に翼をバタつかせる翼竜は呆気なく灰の海に落ちた。

 しかし残るのは、十四匹にもなる軍勢の織り成す黒牙と凶爪の雨。

 すぐさま対応するべく力を溜め始める〈カイ〉であったが、それを解放するよりも早く、下方より来る金色の光矢群がその一団を呑み込んだ。

「カイ、行って! ここは私が請け負うから!」

 弓の霊具を構えたシエラが叫び、翼膜を引き裂かれた竜の群れを再び流星群の如き超連射の嵐が貫いた。

 翼竜の叫喚が耳を貫き、穿たれた獣が次々に下方へと沈みゆく。

『すまない。――後ろは任せる』

 少女に一つ礼を述べ、〈カイ〉が再び統率者を落とさんと翔け出した。

 相も変わらずトップを護る様にその周囲に展開している配下の幻獣型(ファンタメイル)が、矢継ぎ早にありったけの火球を降らせる。

 揺らぐ紅の光を前に、〈カイ〉の全身を覆う白き龍鱗がまるで膨張するかの様に逆立ち、翠玉(エメラルド)を思わせる澄んだ翠の煌きが一層その光を増して剥離――展開される。

 瞬間、剥離した龍鱗の一つ一つが光の尾を引いて撃ち出され、礫の雨となり、竜の群れに降り注いだ。

 それ自体が物質化された霊力の塊である〈カイ〉の龍鱗は、霊力の活性化に伴ってその強度も攻撃性も増幅され、その大きさには見合わない程の破壊力を発揮してアヤカシの大軍を襲う。

 翠を引いて空を滑る白き礫鱗が装甲そのものとも言える幻獣型(ファンタメイル)の固い甲殻を撃ち砕き、柔らかな肉体を抉っては貫き、穿つ。

 ハチの巣同然となった取り巻きに一瞥もくれてやる事無く、ただ一匹の得物を求めて〈カイ〉が飛翔する。

『ギェルルァァァアアア‼』

 耳を劈く様な怪奇な狂騒を上げ、向き直った統率者がブレスを溜める。

 しかし牙の間に垣間見えた焔が形を成すよりも寸分早く、敵が向き直るのを予測して放たれた〈カイ〉の先読み攻撃が見事に、溜め込まれていた霊力の(ブレス)を直撃した。

 翼竜の口内で凄まじい爆発が発生し、その姿が完全に爆煙に呑み込まれて消失する。

しかし姿が見えずとも――、

『ギッ、ゲェェェェェェェェ――‼』

 煙の中から響く苦悶の叫びが、統率者に致命傷を与えたという確かな確証となる。

 そしてその悲鳴の聞こえた地点を、龍化によって格段に向上した〈カイ〉の五感――聴覚が正確に突き止め、視覚が黒煙の中に悶える影の輪郭を捉え、躊躇も無く白龍が煙の中へと突っ込んだ。

 色濃く漂う煙の中で、大きな獣同士が争い、激しくぶつかり合う衝突音だけが周囲に届き、やがて静寂に包まれる。

 東の空から吹いた強い風が黒煙を浚い、煙の晴れたその場所には――。

 ――ひび割れた甲殻と、牙が砕けてボロボロになった大顎を力無くぶら下げて絶命した大きな翼竜が。

 そして鋭い前脚の鉤爪に翼竜の亡骸を掴み、天に向けて咆哮する白龍の姿があった。


 ――。

 ――――。

『ギッ……』

『ギャア、ギャア――』

 指揮役の喪失によって統制を失った幻獣型(ファンタメイル)の群れは、やがて攻撃の手を緩め始め、次第に撤退を開始――文字通り最果てまで続く、白い灰の彼方へと退散して行った。

「――敵の撤退を確認。戦闘終了だ。お疲れさん!」

 夕暮れを過ぎ、半分以上を暗がりの色へと変えた空に竜の群れが消えた事を確認し、ヴェネトが額の汗を拭いながら宣言する。


 総合被害――負傷者、防衛団全体の凡そ十七パーセント。

 内、死者六名――ネウロ、アビティ、パルシャ、ゼブリオ、ヘルバ、オルソ。

 集落へのダメージ――軽微。

 非戦闘員被害――無し。

最後の大地〈レィミア〉――――未だ健在。


 戦果としては――上々たるものであった。


  ◇


(……まただ)

 終戦に沸く空の下、地上に降り立った〈カイ〉は、心の片隅に小さな疑念を抱えていた。

(聞こえる……。子守歌の様な、優しい音……)

 先程は雑音が多くて意識していなかったが、今こうして戦闘の音が止むと確かに聞こえてくる。

 それはまるで竪琴の旋律の様に、柔らかくて、そして何処までも澄み切った唄声の様に、〈カイ〉の意識に直接語り掛けて来る。

 別にこの音に、何かの悪影響を受けている訳ではない。

 むしろその逆だ。

(……何処か懐かしい……暖かい……。この感覚は、一体……)

 この音は、今になって聞こえ出したものではない。

 以前より、彼は龍となる度にこの音色を耳にしていた。

 しかしその理由も、音の出所もその正体も、彼自身よく分かっていない。

 しかしそんな謎だらけの音色でも、〈カイ〉の中には何故か拭い切れない懐旧の念が渦を巻いていた。

「カイ? どうかしたの?」

 ボーッとし出した彼を不思議に思ってか、シエラが〈カイ〉の顔を見上げて問い掛けた。

『いや、何でもない。――お疲れ様、シエラ』

 視線を下に下げて、労いの言葉を発する。

「ならいいけど。それよりもほら、怪我人を乗せるからこっちに来て頂戴。一足先に神殿まで飛んで、医療班に診て貰わなきゃ」

『分かった。すぐに行く。すぐに行くから、その髭を手綱感覚で引っ張るのは止めてくれ。それ結構しっかり神経通ってるんだぞ……』

 シエラに(物理的に)引っ張られて、〈カイ〉は再び自分の役割に専念する事に。

 彼の中にあった答えの見付からない数年越しの物思いは、自然と中断を余儀なくされた。


  ◇


「負傷者が来たぞ!」

「速やかに医務室まで運べ! この後もまだ来るぞ!」

〈レィミア〉内陸平野地帯の集落。

 その最奥にある大きな神殿が、封術士達の本拠地となっている。

 特徴的な本殿の楼閣が高くそびえ、遥か天に向かってその頂部を真っ直ぐに伸ばし。

 神殿の白い壁が、僅かに顔を覗かせた月の灯りに照らされる。

 神殿と言うが、この場所は決して何かの神々を祭る場所という訳ではない。

 この場所は族長の住まいであると同時に、集落に住む者の議会の場。

 アヤカシと戦う為の霊具の保管庫。

 狩りや農作業で得た食料を貯蔵する為の貯蔵庫。

 アヤカシとの戦闘で親や家族を亡くした子供達の為の養育院。

 そういった多様な役割を担う、集合施設の様なものである。

 そしてその役割の中には、負傷者の為の病棟施設という側面も含まれており、故にアヤカシとの戦闘を終えたばかりのこの時間の神殿は、負傷者やその手当てに追われる人達で非常に騒然としていた。

「まだもう少ししたら他の人達がきますから! 大部屋も開けておいた方がいいかもしれません!」

 重症人を〈カイ〉の背中から下ろして、医務室の方へと運んで行った医療班の者達の背中にシエラが告げた。

「あいわかった!」と、後ろ手に手を上げる男性医師の背中が見えなくなった所で、

「はぁぁぁぁぁ……。疲れたぁぁぁ……」

 シエラの緊張の糸が、やっと切れたようだ。

 無意識に抑えていたのであろう息を、「ぷはーっ」と勢い良く吐き出す。

 背中に乗られたままの〈カイ〉にも、強張りを抱えていた彼女の身体から余計な力が抜けたのが伝わって来た。

『お疲れ様。今日は雑魚だけでもやたらと数が多かったから、結構疲れたな』

「本当よ、もう……。今日は折角、非番でお風呂を早めに済ましてたのに、洗い直しだわ」

 まったくもー、と小言を言いながら、

『……は?』

何とも自然な動作で、シエラがうつ伏せに倒れ込み、その顔面を〈カイ〉の背中に押し付けた。

 頭部の二対の角の間から首、背中へとかけて生え揃った彩色の細毛がその重みを柔らかく受け止め、シエラの顔前面は完全に〈カイ〉の背中に埋もれる形となってしまう。

「ん~~~~~~っ……」

 ぐりぐりぐりぐり。

 その顔を更にめり込ませんと言わんばかりに、ぐいぐいと鼻先を押し付けて来るシエラ。

 鱗に覆われているとは言っても、シエラが顔を押し付けているのは紛う事無き〈カイ〉自身の背中。

 超至近距離の彼女の呼吸や吐息、ぴったりと押し付けられるその身体の柔らかさと温もり等は、しっかりと伝わってくるのだ。

 そして今でこそこんな(なり)ではあるものの、〈カイ〉だって一人の年頃の男児である。

 つまり、非常に居心地が悪い。

『……えーと……。どったの、シエラさん?』

 突然の出来事に、長い首を曲げて振り向いた白龍から、その端麗な外見とはあまり似つかわしいとは思えない間抜けな声が発せられる。

 もしも今の彼が少年の姿になっていたら、きっと何処か戸惑った様な、呆れた様な、何とも言えぬ微妙な表情をしている事だろうと安易に想像がつく、そんな声音だった。

「うーん……ご褒美? 今日もこうして、頑張った訳だし?」

『はぁ?』

〈カイ〉が欠片も合点の行ってない声を上げた。

 一体これの何処がご褒美なのか。

 される側としては、ただひたすらそちらの呼吸がくすぐったいだけなんだが……。

 そして何故疑問形で返した。

「あんたにじゃないわよー。私へのご褒美ですよーだ」

『は、はあ……』

 ますます合点がいかない。

 本格的に訳が分からなくなり、仕舞いには半分呆れの様な感情が籠った目を向け出す〈カイ〉。

 そんな彼の視線と込められた感情など気にも留めず、くるくるとその細い指先で龍の色鮮やかな毛先を遊ばせながら、シエラは心底羨まし気な声を上げた。

「はぁ……。あんたって何でまたこんなに毛が柔らかいのかしらねぇ。しかも凄くいい匂いがするし……」

『何でって言われても……。俺だって知らねぇし……』

「男の癖にー。龍の癖にー。羨ましい……」

『龍の毛質に嫉妬するとかお前……。女としてそれはちょっとどうなんだよ……?』

「罰として、しばらくこのまま居させなさい。もうちょっとあんたの匂いを嗅がせなさい」

『ちょっと待て。どんな罰だ、それは。ていうか何で罰されなきゃいけないんだ。しかも最後本音漏れてるぞ、おい』

 そんな言い訳をしながら、シエラは一向に〈カイ〉の背から降りようとしない。

 挙句背中にうつ伏せにしがみ付いたまま、「すーはー、すーはー」と深呼吸し出す始末だ。

(一体何がしたいんだよ、コイツは……)

〈カイ〉の頭では、依然として疑問符が無限増殖を続けている。

 別にこのまま人の姿になってしまえば、何の苦も無く抜け出す事ができない訳ではないのだが、その場合、うつ伏せになっているシエラが、顔面から派手に地面に落っこちる事となるのは必然。

 いくら気の知れた仲であるとは言っても、流石に年頃の女子にそれは酷いと思わなくもないのでどうにも気が引ける。

(はぁ……。全く、昔馴染みと言え、コイツの考えている事はよく分からん……)

 でもまぁ、悪い気分では……ないか。

 もうシエラの気が済むまで、このままで居させようと妥協した時、

「シエラ。それにカイも。皆よくやってくれた」

 神殿の奥から、隻腕の老人が声を掛けてきた。

 白髪の頭と年相応に皺の寄った顔。

 蓄えられた立派な髭の下に、固く結ばれた口元。

 そこいらの子供が道端でばったり出会ったら、思わずガン見か二度見はしてしまいそうな威厳を放つ、長身の老翁。

 全封術士を束ねる〈レィミア〉集落の長。

そしてシエラの実の祖父に当たる男――ジンダイが、愛用の杖の霊具を突きながら〈カイ〉の元へと歩んで来た。

『長。お怪我はありませんでしたか?』

「心配には及ばん。お前達が岸壁で幻獣型(ファンタメイル)を抑えてくれたお陰で、集落の方はほとんど被害を被らずに済んだ。それに多少のものなら、今の私にだってある程度迎撃する事はできる」

 腕の無い左の袖を微風に靡かせながら、ジンダイは答える。

 過去の戦闘によって重傷を負い、封術士として戦う事が困難になってしまった彼は、現在前線には出向く事は無い。

 その為今は、術士達の統括役としてこの神殿で各方面への指揮を担っている。

 戦う事のできなくなった今でこそ褪せて見えるその姿ではあるが、現役時代のジンダイの実力は、当代随一とも謳われていた程だ。

 後方指揮のポジションに落ち着いた今でも、その敏腕っぷりは健在であった。

「怪我と言えば、お前達の方こそどうなんだ。特にカイは、今の我々の戦力の要であるのだから、体調の管理を怠ってはならんぞ?」

『心得ています。御心配には及びません』

「とか言いながら、最近よくボーっとしてる事が多いじゃない。やっぱり何かあるんじゃないの?」

 埋めていた顔を上げて何やらほくほく顔になったシエラが、跨ったままの背中から声を上げた。

『だから何でもないって。ちょっと変な音が聞こえてくるだけだからさ』

「音……?」

 ジンダイが、〈カイ〉の台詞に眉を潜めた。

 こうも彼があからさまに反応を返すというのは、かなり珍しい事であった為、〈カイ〉としては若干の意外感を覚える。

『えぇ。今に始まった事じゃないですけども……何て言うか、鞴みたいな小さな音が聞こえてくるんです。他の人達には聞こえてないみたいですし、俺もこの姿にならないとほとんど聞こえないんですけども』

「鞴の音……」

「うーん……。私は聞こえないなぁ……」

 ジンダイは微かに呟きを漏らし、シエラは顔を顰めて耳を澄ましてみるが首を傾げるに終わる。

『それでも、昔よりは聞こえなくはなってきてるんですがね。どうにも、音が小さくなってきているみたいで。まぁ、その音によって変な影響を受けている、なんて事もありませんから、気に留める事は無いと思いますけども』

「……そう、か」

「お爺ちゃん?」

「いや。何でもない」

 何か思う節でもあるのだろうか。

 僅かな違和感が、〈カイ〉の頭の片隅に引っ掛かり続ける。

 ジンダイの表情からそれがどんなものなのか、読み取る事はできなかったが。

「まぁ、悪影響をきたしている訳ではないのであればいい。しかし、もし何かある様ならば、すぐに知らせてくれ」

『承知しました』

「では私は役目に戻ろう。二人共、今日はゆっくりと身体を休めるといい」

 それだけ言い残すと、ジンダイは踵を返して神殿の奥へと姿を消した。

『何か知ってるのかな? 長の反応、いつもと少し違った様な気が……』

「さぁ? でも少なくとも私はそんな話をお爺ちゃんから聞いた事は無いし……。そんな奇妙な音なんて聞いた事無いしなぁ……」

『お前も何も知らないのか。……そうなると、長に詮索を掛けるだけ無駄かもしれないなぁ……』

 悩まし気に首を傾げる〈カイ〉。

 それに倣う様に、シエラもまた首を傾げる。

『ま、これまでそんなに気にしてた訳じゃないし、いいとしようか。ほらシエラ。もうそろそろ降りろよ。顔面ぶつけるぞ』

「え? あ、ちょ……!」

 前置きの注意だけをして、〈カイ〉は龍化を解除した。

 白鱗の身体が光に溶け、光の粒子と溶け去る龍鱗が花弁の様に風に流れて、幻想の様にふわりと崩れ去る。

 当然シエラの跨っていた背中も消え去る訳で、支えを失った少女の身体は重力に逆らう事叶わず、地面に向かって落下し始める。

「よっ、と」

 しかしそんな彼女の身体を、カイはその脇の下に手を掛ける事で支え、きちんと足で着地できる様に援助。

 着地から一拍の遅れを取って、バッとシエラが自らの肩を抱いた。

「ちょ――!? あんた何処に手を突っ込んで……!」

「お前がいつまでも降りようとしないからだ。顔面守っただけ有難く思えってーの」

 顔を僅かに赤くしたシエラの抗議の声に対して、カイはひらひらと手を振って完全に受け流す。

「ほれ。それよりもこれで俺達の出番は終わりだろ? 早く部屋に戻って休むとしようぜ」

「あ、ちょっと……待ちなさいよ、もう!」

 一人でそそくさと歩き出したカイの背を、シエラが足早に追いかける。

 日の入りを告げる鳥の声が、彼方の空に響いては消え。

 やがて出で来る月の光が、静謐な宵を優しく見守る。

 先刻の戦乱などまるで嘘であったかの様に、太陽の熱を帯びた大気は時間と共に静かに風に流されて。


 忙しない彼らの変わりない日常は、こうしてまた一つ、終わりを迎えた。



ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。

この作品に関しては、既に完結まで書いてある物ですので、多分一日一回程度のペースで投稿して行くと思います。

文字数は今回は途中で区切ると非常に中途半端だと思いましたのでかなり多めになってはいますが、次回以降は出来るだけ調整して行くつもりです。


……あとこれで手が少しは空きましたので、だらだら続いている天ブレの方は最低月二回更新くらいにはペースを上げて頑張ります。

なので天ブレの方もどうか温かい目で見守ってくださいお願いします何でもしますから!


では、また次回更新までお待ちください。

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