全力疾走人体模型 前編
「空木君! わたしがいなくて寂しかったでしょ? そうでしょ? そうって言って? 言わないと泣くから」
「オマエガイナクテサビシカッタヨ」
「心がこもってない!」
めんどくせー。女子特有の面倒くさい感じで攻めてくるんじゃない。僕はそういうの苦手なんだ。
野瀬思中学校七不思議攻略戦、五日目。
用事が片付いた笠酒寄も今日から参戦のようだ。
とは言っても、今まで特に困らなかったので今更感は拭えない。
こいつも僕達と同じホテルに宿泊することになったのだけど、幸いにして別室だ。
これで同室とかだったら僕の安息の時間が更に減少することになってしまう。
そんなは願い下げ。
「青春だな。私にはすでに遠い感情だ。こういうのをなんていうのかな? 日本語に詳しくないから表現できない」
絶対に嘘だ。
アンタ何年日本に住んでるんだよ。
なんなら僕よりも詳しいだろうが。
現在、百怪対策室のメンバーは室長の借りている部屋にいる。
室長はベッドに腰掛け、その隣に笠酒寄。僕は立ってる。
現在時刻はそろそろ夜と言ってもよろしい程度。『怪』が出現するのはふさわしい時間帯だ。
「で、笠酒寄が到着したのはいいんですが・・・・・・」
「よくない!」
「お前は脊髄反射で喋るな。僕に会えてうれしくないのかよ」
「うれしい!」
「あー。はいはい。ありがとう。・・・・・・コホン。とにかく、今日も今日とて『怪』というか七不思議の解決に向かうんでしょう? ・・・・・・なんですかその顔は」
ニヤニヤするんじゃない女子二名。
「いやあ、微笑ましいなぁ、と思ってな」
「実はやっぱり空木君もわたしに会えてうれしかったという感情を抑え切れないのを感知しました」
うっさい。
話が前に進まない。同じ地点で堂々巡りの足踏み放題だよチクショウ。
「当然のように今日も七不思議の調査と解決だ。期限を一週間と定めたからには、それ以上に関わる必要も無いしな」
ぺらり、と恒例のように白衣のポケットから取り出される紙。
いっつも思うんだけど、これの意味はあるのだろうか?
一応、どういう『怪』なのかを確認するために僕はそれを見る。
〈全力疾走人体模型〉
・・・・・・シュール。
これもまたここ数日と同じように夜の野瀬思中学校。
一つ違うのは、笠酒寄が隣にいるということだけか。
「・・・・・・一応、『怪』、というか七不思議の概要を聞いても良いですか?」
本音を述べるのならば、聞きたくはない。こういうとんちんかんなヤツは聞くだけで全身の力が抜けてしまうのだから。
「ああ、この野瀬思中学校の理科室には古い人体模型があるんだが、コイツが夜になるとグラウンドを全力疾走するらしい。インターハイなんぞ目じゃないぐらいの速度でな」
そりゃあ、まあ、人間じゃないだろうし、『怪』だろうし、人の尺度で測ることが間違っていることは重々承知の上で言わせて頂きたい。
誰がこんなアホな『怪』を作ったんだ⁉
今回の黒幕・・・・・・どうやら相当にファンキーな気質をしているようだ。もしくは、クレイジーか。どっちでもいいよチクショウ!
「人体模型運動会とかあるんですか?」
「ないだろうなぁ。あったら統魔が黙っちゃいないだろうし、ゴーレム法を専攻している魔術師やらが介入してカオスになるのが目に見えてる」
笠酒寄のアホな質問に大真面目で答える室長。やめてくれ。頭がおかしくなりそうだ。
ゴーレムの、ゴーレムによる、ゴーレムのための運動会。うへぇ。
この方向の思考は止めておこう。僕の精神衛生上よろしくない。
「・・・・・・と、とにかくっ、とっとと解決しちゃいましょう。どうやったら終わるんですか?」
多少強引ながらも、僕は話題の転換を図る。
「他の『怪』と一緒だ。トリックを暴いてやったらいい。現象に解体されてしまったら、それはただのいたずらに成り下がる。暴かれた神秘には何の価値もないからな」
なるほど。今回もなんらかのトリックが存在しているということか。
となれば、多少の推測は付く。
手前事ながら、僕が通う弐朔高校で起こった『怪』、『動く石像』。
あれの正体は単なる勘違いというか、思い込みと多少の錯覚だった。
人体模型が動くわけがない。これも、そういう人間の潜在的な恐怖心につけこんだモノなのだろう。
「人体模型自体はどんなのなんですか?」
笠酒寄が尋ねるけど、そういえば僕も知らない。
中学校にあるぐらいなのだから、標準的(?)な模型だろう。
全身四十カ所以上の稼働箇所があるとか、AI搭載しているとか、希少金属で構成されているということないだろう。そんなのあったらこの学校の評価を改めないといけない。
「こう言ったら何だが、普通の人体模型だったな。魔術も関わっていないようだった。特に仕掛けがあるようには見えなかったな」
すでに室長は下調べ済みらしい。
が、これで殆ど確定的だ。
人体模型自体にはなんの仕掛けもない。
グラウンドに現れるという、人体模型の振りをした『何者か』をとっ捕まえてしまったらこの『怪』は終了。
どうにもしょぼい『怪』というか、本来ならば七不思議にもならないような事件ばかりなので、今回もおそらくは情報操作によって発生した『怪』なのだろう。
しかも、どうやっても実行犯が必要になってくる。
実行犯が現れなかったら? そのときはそのときで考えるだけ。行き当たりばったりの運任せでもいいじゃないか。たまには。
そういう考えがいけなかったのか、それとも日頃の行いが悪かったのか、僕達はからりと窓が開く音を聞いた。
ついでに、「とうっ!」なんていう気合いの入ったかけ声も。
『何者か』は僕達の背後に着地した。
やけに音が硬質だったのが気にはなったのだけど、あえて無視した。
無視を続けていたかったのだけど、後ろに着地した人物は一言も発しない。
・・・・・・このまま我慢比べを続けていてもしょうがないか。
「いち、にの、さん、で振り向きましょう」
「・・・・・・さんせーい」
「同感だ」
初めてこの二人と同じ感情を持っている気がする。
「・・・・・・いち、にの、さんっ!」
勢いよく、戦闘態勢を取りながら僕達は振り向く。
笠酒寄は四肢を人狼化し、室長は右手を手刀と化し、僕はいつでも能力を発動できるように。
そして、見たモノは・・・・・・まごうことない人体模型だった。
「待った待った。ボクはそんな物騒なコトをやるつもりはないって。本当に! 見かけだけは確かに奇妙かも知れないけど、これでも理科室の紳士っていう異名で通っているんだぜ?」
おどけた様子で体を揺らしながら、やけに流暢に言葉を喋る人体模型がいた。
・・・・・・嘘だろお前本気で言ってるのなら脳みその具合を検査してもらえって脳みそ無いからこの場合はどういう点検をしたら良いのだろうか僕の脳みそのほうかそれなら三人とも検査が必要になってくるぞそんな偶然ってあるかボケェ‼




