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空木コダマの化生/剣豪録  作者: 中邑わくぞ
最終怪 七不思議学校
41/51

不可能脱出倉庫 前編

 野瀬思中学校七不思議攻略戦、四日目。


 このうんざりするような事件もやっと中間地点。これを越えてしまったらあとは折り返し。そうなったら、やっと僕もこのくだらない調査から解放される。

 そう、くだらない調査なのだ。


 今回の『怪』は今のところ全部が全部『いたずら』程度で済まされてしまうような案件ばかりだ。

 正直、不思議でならない。

 この程度で『怪』になってしまうのか?


 もしそうだとしたら、日本全国の学校という学校で怪談やら怪現象が頻発していても不思議じゃない。不思議なのに。

 だけど、実際はそうじゃないのだ。


 僕の母校である九臙脂中学校。

 当然のように七不思議伝説はあった。しかしながら、『動く標本』以外に現実となったようなモノはない。少なくとも僕の知っている限りは。

 野瀬思中学校だけが特別なのか、という推測もしてはみた。


 けれども、それじゃあ納得できそうにもない。

 実は、時間に余裕がある昼間に僕は調べていた。

 町の図書館には郷土史の参考文献になりそうな本ぐらいはいくらでも存在している。

 ゆえに、調べることには苦労しない。

 そして、僕が出した結論というのは、野瀬思中学校は特別でも何でもないという結論だ。


 特に由来も無く、いわれもなく、血なまぐさいエピソードも存在していない。

 もちろん、情報が隠匿されているという可能性だってあるだけど、どうやったって完全に遮断することはできない。どこかしらから漏れてくるはずだ。

 だけど、そんなのはなかった。


 約四十年前に建てられた中学校。


 特にスポーツの強豪校というわけでもなく、学業における進学実績があるというわけでもない。

 普通の生徒達が、普通の学校生活を送っているだけの中学校だ。

 そんな場所で七不思議が実現してしまうような要素が満たされるとは思えない。


 現実には、しっかりと起こっているのだけど、どこか納得できない。

 僕としては、そういう考えだ。


 「へえ、キミもキミなりに考えるようになってきたじゃないか。百怪対策室の助手としての自覚が芽生えてきたのかな? だとしたら、私の手腕には感嘆するほか無いな。無気力主義者のコダマにここまでの労働意欲を喚起させてしまったんだからな。ああ、自分の才能が怖い」

 「ごまかさないでください室長。言ってたでしょう? 何者かが黒幕にいるって」


 一週間ほど借りているホテルの一室。室長の部屋。

 ちょっとばかり話があると言って、僕は今の考えを述べたのだった。


 やたらぶっとい葉巻を咥えている室長はベッドに腰掛けたままで薄く笑う。

 ……シーツに灰が落ちたら怒られそうだ。


 「黒幕、それは当然いるだろうな。野瀬思中学校の七不思議を現実化させようとしている黒幕は存在している。かなりの数の生徒達が団結しているとかならば話は別だろうが、中学生程度で音頭を取って、統率できる人間がいるとは思えない」


 全校生徒数は三百人程。


 数で言ったら大したことないのかも知れないけど、人をまとめるというのは大変だ。

 その上に、今回の事件では一カ所情報が漏れてしまったら、連鎖的に全体が瓦解してしまう。

 統制を敷く人間は、どれほどの緻密さを要求されてしまうのだろうか。


 そして、関わる人間の数が増えるということは、意思統一の難易度は跳ね上がってくる。

 生徒達ならば、教員からなんらかの事情聴取を受けることになるだろう。

 それに対して、ずっと真実を守るということができるのか?

 裏切り者の問題だって出てくる。

 情報管理っていうのは、思っているよりも大変なのだ。


 「……黒幕は野瀬思中学校の人間じゃない。外部の仕掛け人だろう。それぞれの『怪』を実行した生徒自身は野瀬思中学校の生徒だろうがな」


 生徒に協力者がいるのは確かに否定できない。

 連続飛び降りも、無人演奏ピアノも、生徒自身じゃないと実行できない。


 「……黒幕の正体を知っている生徒はいる、と?」

 「わからん。生徒自体に接触するのは今回控えるように言われているから、なんとも言えない」


 そういう規制は先に言っておいて欲しい。僕が直接生徒に話を聞きに行っていたらどうするつもりだったのだろうか。


 「……僕達は目の前の『怪』を解決するしかない、と」

 「そういうことだ。今日は夕方ぐらいに出発しよう。時刻は関係ないしな」

 「……?」


 時刻が関係ない? 

 わけがわからなかったのだけど、室長はスマホゲームを始めてしまったので、僕は渋々退出した。


 



 夕方。春休みだけど練習をしている部活動も流石にこの時間まではやっていないようで、校内に人の気配はない。

 隣で白衣をはためかせている少女の見かけをした約四百歳はそれを埋め合わせるぐらいの存在感を放っているのだけど。


 「……今回も、やっぱり準備しているんですか、アレ」

 「当然だ。ほれ」


 ポケットからこれまでと同じように紙が登場。


 〈不可能脱出倉庫〉


 ……意味が、わからない。





 野瀬思中学校のグラウンドの端にあるぼろぼろの倉庫。

 そこが、今回解決するターゲットだ。


 「で、この倉庫がどういう『怪』なんですか?」


 見た感じ、幽霊でも出そうだ。非業の死を遂げた野球部員の亡霊とかが夜な夜な用具整理をやっているとかの『怪』だろうか?


 「この倉庫に入ると、他の場所に放り出されてしまうらしい」

 「……はい?」


 なんだそれ。


 空間に穴でも空いているのだろうか? それとも、転送魔術とか?

 いけないいけない。この学校で起こっている『怪』は人間の手によるモノだ。今回もなんらかのトリックが潜んでいると考えた方が良い。

 詳しく、聞く必要がある。


 「聞いた感じだとまったく不気味さが伝わってこないんですけど」

 「そうだなあ……一番多いのは人間だな。この倉庫に閉じ込められてしまった人間は、殆どがいつの間にか脱出しているんだ。周りを他の人間が見張っていても関係なしだ。まるでフーディーニだな」


 有名な脱出マジシャンの名前を出してきた。

 ということは、今回の肝になるトリックは手品的なものだということだろうか?


 「一番多いのが人間っていうことは・・・・・・他にもあるっていうことですか?」


 脱出したのが人間だけじゃないというのは、ちょっと気になる。

 能動的に動くことが出来るのは、動物か、人間かぐらいだ。


 「まあ、聞いた話だから話半分といったところなんだが、しまったはずの中の用具が外に放り出されていることはあったみたいだな」


 ならばそこまで大型じゃないだろう。

 となってくると、鈍い僕でも大体の見当は付いてくる。


 「・・・・・・室長、今回の『怪』って・・・・・・」

 「たぶんキミが想像しているとおりだろうな。倉庫自体に仕掛けがあるタイプだ」


 なるほど。今回は楽勝そうだ。


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