無人演奏ピアノ 後編
なり損ない吸血鬼の筋力ならば楽器を動かす程度のことは問題ないし、その上に、僕には念動力がある。
見えている上に、動きもしない無機物相手ならば能力行使になんの問題も無い。
壊さないようには気をつけつつ、楽器を教室の中央付近に移動させる。
窓周辺は綺麗になった。
が、特になにもない。
『怪』の元になりそうな奇天烈なモノはない。
普通の壁があるだけ。
「……動かしましたけど」
何も言わずに室長は窓に近寄る。
そのまましばらく壁をなで回していたのだけど、何も見つからなかったらしく、戻ってきた。
「コダマ、スマホ出してくれ」
「は? なんでですか?」
「いいからいいから。私のはデモこれにログインできないショックで忘れてきたんだ」
「はあ、いいですけど……何に使うんですか?」
「探しものだ」
ポケットに入れていたスマホを室長に渡す。
特にロックはかけていなかったから、そのまま室長はスマホを操作する。
設定画面……?
室長は何をするつもりなんだろうか?
そうやってしばらく操作していたのだけど、室長は僕にスマホを返す。
「音楽の一つや二つは入っているだろう? ちょっと再生してみてくれ」
わけがわからない。
何か考えはあるのだろうけど。
素直に僕はリストを呼び出して、先頭にある曲を再生。
スマホからは音楽が流れなかった。
代わりに、中央付近に移動された楽器群、その中から僕が再生した曲が聞こえてきた。
何で⁉
困惑している僕を尻目に、室長は音の発生源に向かう。
ある程度の場所がわかっているので、すぐに何かを見つけてソレを木琴の裏から外した。
四角形の……なにか。
いや、曲はソレから流れているのだから、おそらくはスピーカーなのだろう。
「今回の『怪』のしょうたーい。それはこのスピーカーだ」
やっぱスピーカーなのか。
だけど、どういうことだ?
なぜこのスピーカーから僕の曲が流れている?
なぜこの『怪』の正体がスピーカーなんだ?
疑問が解けない。
「んあ? もしかしてコダマ……まだわかってないのか?」
ぐ……あまり悪意は感じない不思議そうな顔だけど、それがかえって腹立つ。
我慢我慢。ここで僕がヘソを曲げてもなんにも変わりゃしないんだ。
「残念ながらその通りです。僕には未だにさっぱりですよ」
「最近の若者がそのていたらくでどうするんだ。というか、キミはもしかしてこの機能を知らなかったのか?」
「どの機能ですか?」
「blue tooth」
なにそれ?
先に言い訳をしたい。
僕は別に技術オタクというわけじゃない。ゆえに、自分が所有している通信端末の性能限界とか拡張性に一喜一憂するような変態ではない。
当然のように、隅から隅まで説明書を読むということもなく、電話とネットができたら良いだろうぐらいの認識だった。
だから、別に初めて聞く単語があったとしても不思議じゃない。室長のほうが僕のスマホのことに詳しくってもまったく不思議じゃない。だって、この人大分オタク入っているし。
「キミなぁ……よぼよぼのおじいさんじゃないだからこの程度の技術は使いこなせなくても知っているべきじゃないのか? 便利な機能なんだから」
ゆえに、室長のこの諫めるような言葉は全く無意味だ。
興味がある分野は人それぞれ。きっと同じようになんとなくでスマホ使ってる高校生も大いに存在しているに違いない。
声を大にして言いたい。若者がテクノロジー使いこなしていると思ったら大間違いだからな!
「とっとと種明かしをしてしまおうか。このワイヤレススピーカーで曲を流す。そして、音楽室の鍵が開けられたら停止。これによってピアノを弾くことなく『怪』が成立する。多分窓から覗いてたんだろうな。ガラスぐらいは貫通する。以上、終わり。帰ろう」
おざなりにも程がある。
「ちょっとちょっと、ですよ」
「なんだコダマ。私は傷心中だから早く宿に戻って深夜アニメに備えたいんだ」
そっちのほうがどうでもいい。
「……『怪』の仕組みそのものはわかりましたけど……語り継がれていたんでしょう? 生徒側が仕掛け人だったとしても、その……ブルートゥース? っていう技術はそんなに昔からあったんですか?」
僕には思えない。
「そんなの簡単だ。『昔からそういう話があった』という噂を流してしまえばいい。元々学校の七不思議には音関係の不思議が必ずと言って良いほどある。この『怪』が仕掛けられたのはごく最近だろうが、元々そういう下地はあったんだろう。それを取り込んで、成立してしまったんだ」
つまり、この『怪』とは無関係に演奏されるピアノがあった?
ということは、まだ終わっていないんじゃないのか?
「コダマ、過去に存在した『怪』を取り込んでしまった以上、これで終了なんだ」
流石に学校内と言うことで多少は遠慮しているのか、室長はタバコを咥えはするが、火は点けない。
「実績を取り込んで活用してしまったからには、リスクも同様だ。解明されてしまったからには、最早この学校において、『誰もいないのに演奏されるピアノ』は存在できない。暴かれた神秘は過去に遡って己を殺すからな」
幽霊の正体みたり枯れ尾花。
現象に解体されてしまえば、過去の恐怖体験も一緒に解体されてしまう。
少なくとも、今まで通りに身を震わせることはなくなる。
そういうことか。
「それでも、一つ疑問が残りますね」
「なんだ? 言ってみろ」
「この『怪』を仕掛けたヤツは何を思ってやったんでしょうか?」
わざわざワイヤレススピーカーを購入して、木琴の裏に貼り付けて、更には何度も何度もトリックを実践。
それだけの労力、ほかに回せないのか?
「さあ、私にもわからん。子どもの考えることはいつでもわからない。私は大人だからな」
大人はゲームのキャラクターに入れ込んだりしないと思う。
「さあて、終わり終わり。とっとと帰ろう。そして全部おわったらガチャ回そう」
「はいはい」
こうして、三つ目の七不思議は終わった。
あと、四つ。




