連続少女落下窓 後編
何も痕跡を残さずに飛び降り続ける少女の『怪』。それを室長は肩すかしだという。
この場合の肩すかしというのは、多分、しょぼいってことなんだろう。
僕には全然わからない。
こんなホラーでしかないような光景が何度も何度も繰り返されてしまったら、それは恐怖しか起こらないだろうし、生徒だったとしたら、不気味さにも拍車がかかるだろう。
しかし室長と僕は再び三階に来ていた。
「では解説、というか、引導を渡してやろう。まったく、この程度で『怪』になってしまうとは……ここの生徒と教員の将来が心配になってくるな」
からり、と室長は窓を開ける。
どうするというのだろうか。『怪』に引導? つまりは、何らかのトリックを暴いてやると言うことか? だけど、僕には見当も付かない。
「今回の怪談の不気味さっていうのは何だ?」
唐突な質問。だけど、これが必要なんだろう。解決には。
「窓から女子生徒が何度も飛び降りるという繰り返しと、落ちたはずの場所に何もないって事ですね」
「そうだ。どっちか片方の要素だけでは『怪』にならない。二つそろって初めて『怪』になる。では実演してやろう」
言いながら室長は窓を開けて窓枠に腰掛ける。
「外からは後頭部が見えるわけだから、このように座っている状態だ。浮遊」
ほんの少しだけ、室長の体が浮く。
「そして体を捻りながら落下する」
ゆるゆると、落下。
使った魔術のおかげで、室長の小柄な体はゆっくりと落下していく。
窓から身を乗り出して僕はそれを見ている。
「この辺りだな」
一階の窓らへんで室長はそんなことを言った。
かと思うと、あらかじめ開け放っていた窓から校舎内に侵入。
地面に降り立つことなく、窓から落ちた室長は中に入った。
三分後、何事もなかったかのように室長は戻ってくる。
「これが真相だろうな」
「いやいや、魔術使ったじゃないですか。まさか生徒やら教員やらに魔術師がいたっていうんですか?」
そんなん反則じゃないか。
大抵の事はやり遂げられてしまう。
「アホか。今回は流石に準備が間に合わなかったから私自身で実演してやっただけの話だ。本来は人形、いや風船みたいなモノを使ったんだろうな」
は? 人形? 風船?
「まだわかってないのか。飛び降り続けていたのは人間じゃない。人間に似せた作り物だ」
作り物……そう、か。確かにそうだ。僕が見たのは後頭部と制服。肌の露出部分はほとんど無かったし、その上に着ている制服でかなりの部分を判断してしまっている。
落下した少女がどういう顔をしているのかさえも、僕は見ていないんだ。
人型の風船でも持ってきて、それにカツラをつけて、制服を着せる。
手先は手袋でも何でもしてりゃあいいだろう。
中身はほとんど空みたいなモノ。落下エネルギーは制服分考えれば十分。
その上に、使い回せる。
確かに、これなら何度でも飛び降りる、いや、飛び降りさせることが可能だ。
まて、だけど……。
「落下したんなら、跡ぐらいは残るんじゃないですか? いやいや、もっというのならば、落下直後に人が駆けつけてしまったら台無しですよ。一度露見したら全ておじゃんな『怪』なんですから」
「それがもう一段の肝だな。飛び降りが実行されるときには少なくとも二人が協力している。三階の人間と、一階の人間。三階が人形を突き落として、一階の人間が校舎内に回収して、即座に隠蔽していたんだろう」
隠蔽? 風船みたいな人形を? ……あ!
「そうだ、気付いたみたいだな。使っていた人形が風船みたいな代物ならば隠すのは簡単だ。空気を抜いてしまったらぺらぺらになってしまうからカバンにでも入れたらわからない。そして、それを実行するのにはちょうどいい地理的条件もそろっている」
トイレ。
そこには、個室がある。
一階に待機しているヤツは、窓から人形を引き込み、そのままトイレに直行。
空気を抜きながら、制服やらを剥ぎとる。
後は、自分が着れば良い。
それまではジャージでもなんでもいい。
最後に何食わぬ顔でトイレから出てくれば、目立つような状態じゃないだろう。
つうことは……。
「そう、今回の『怪』は複数で製作されたモノだが、少なくとも一人は女子がいる。何を思ってこんなアホなことを仕掛けたのかはわからないが」
至極つまらなそうに室長は肩をすくめる。
地理的条件と、複数の人間が関与していたことによって可能になった仕組み。
これが、少女が飛び降り続ける窓の正体というわけだ。
しかし、どうやって解決したものだろうか。
手法がわかっても、これを防ぐことは難しい。
旧校舎によって、一階部分が目隠しされてしまっている現状では。
情報の上塗りしか、ないのだろうか。
「解決法でも考えているのか?」
お見通しか。
「ええ。犯人が人間だったっていうのはちょっと安心しましたけど、これをどうにかするのは大変ですよね。防ぎようが……ないし」
「防ぐのは簡単だ」
なにぃ⁉
「どうやってですか?」
「こうやってだ。頑強封鎖」
ぽわんとした淡い光が窓全体に広がる。
「何したんですか?」
「この窓自体を『固定』した。ぶっ壊さない限りは開かない」
……なんとも、力業。
確かに、窓が開かなければ飛び降りようがないのだけど。勝手にこんなことをやってしまっていいのだろうか。今度はこの窓自体が『怪』になるんじゃないのか?
「心配するな。建て付けが悪くなってきて開かなくなってしまった、とでも言っていればいぶかしむ人間はそうそういない。不都合なのは『怪』を創り出そうとしていた犯人共だけだ」
そして、詮索するようなヤツはいたずらの関係者、か。
一石二鳥どころじゃない。
「トリックの情報を開示しつつ、犯人達の動向探る感じですか?」
「そういうことだ。とりあえずはこの程度の処置で今は十分だろう。解決済みボックスに放り込んでおけ」
そんなのは用意していないし、用意する予定もない。
が、少女が飛び降り続ける窓はこれでとりあえずの解決といった所みたいだ。
落としどころとしては、確かに肩すかし。
だけどまあ、いいんじゃないだろうか。
犯人がバレないいたずらがあっても良いと思う。
少なくとも、僕は。
「あと五つか。……まったく、面倒くさい」
僕はもっと面倒くさい。




