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プロローグ

 暗い部屋の中、少女が膝を抱えて泣いていた。少女の目には大きな隈ができており、身だしなみはまったくと言っていいほど整えられていない。周りはひどく散らかっていて、まるで強盗でも押し入った後のようである。コンクリートでできた床と壁はいくつもの傷と黒くなった血とまだ赤い血で点々と彩られている。

 そんなひとが寄り付かないような部屋の扉から鍵が開く音がした。少女はハッとしたように顔を上げ、上手く動かない体を無理やり立ち上がらせた。関節が軋み、削れるような痛みなど意に介さずに扉へ走った。その表情は期待と幸福感に満ち溢れていた。

 そうして開かれた扉の先の人物に少女は飛びついた。扉の先にいたのは腹を膨らませた女で、慣れたように少女を抱きかかえた。


 「ダメじゃない、こんなに傷つけ―――」


 「はやく!ちょうだい!」


 女の言葉を遮って少女は自身の欲望を主張した。女はそんな少女に困ったような顔をしつつも至って幸せそうに1本の注射器を取り出し、中の空気をゆっくりと押し出した。その様子を少女は幼い子供のように目を輝かせて見つめていた。


 「あなたは本当に可愛い子。あなたのことは何も疑わなくていいんですもの」


 子供……というよりペットを愛玩するような手つきで少女の頭をそっと撫で、少女の荒れた肌にゆっくりと薬が打たれた。途切れ途切れに息を吐き、少女の表情に落ち着きの色が見え始めた。


 これでしばらく少女が暴れ出すことはないだろう。最も、少女が暴れ出したところで女はその姿さえ愛おしく感じて余計に愛を深めるだけだ。

 しかし、2人の関係には愛情と呼べるような綺麗な言葉は当てはまらない。女のために少女が動くだけの主従関係には明確なギブアンドテイクが保障されている。そのように仕向けたのは女の方であり、少女にとってはそのことを不幸だと嘆く思考力も存在していない。


 「さあ、壊しましょう。今のクソ以下の世界なんてね」

 

 女の口から語られた危険な誘いにも疑うことなく少女はついていく。

 人を信じられなくなった女にとって動物同然の少女は癒しであり、世界を壊すために集めた部下の中で最も優秀な駒でもあった。

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