表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かぐやのゆめわたり  作者: 桐島ヒスイ
1章 胡蝶の夢
2/27





 闇を切り裂く眩い光に思わず目を瞑る。

 ――な、何事!?

「――かぐや!!」

 間近で緊迫感のある声が響いた。

 あ、さっき扉を叩いていた人だ――。そう認識した直後、がばりと何かに包まれた。

「――――!!??」

「かぐや、かぐや!」

 いや、違う。私は誰かに抱きしめられているんだ。ぎゅうぎゅうと、溺れる者が縋るように、あるいは捕まえた者を逃がさないように必死に。

 いや、でも人違いですから!私の名は「かぐや」じゃない。

 その人の背を叩く。

「は、離して…!人違い…」

 あんまりにも強く抱きすくめられて、息が出来ない。

 私の弱々しい声に、その人ははっとしたように腕を緩めてくれた。私の両肩に手を置いて、そっと身体を離して私を見下ろした直後。

 再度がばりと抱きしめられた。

「ちょっ…」

「何故帯を締めていない」

 耳元で唸るような獰猛な声で言われた。

「あ」

「あ、じゃない。…俺を試しているのか」

 試すって何をだ。よくわからないけど、叱られているようだ。

 私は眉根を寄せた。元はといえば、私の許可を待たずに扉を蹴破ったこの人が悪いんじゃないか。私はちょっとムッとした。

「…貴方が勝手に扉を壊したからでしょ」

 そう言うと、その人はぐっと奥歯を噛んだようだった。

「…そうでもしなければ、俺はおまえを失うところだったんだ」

 悲痛な声だった。私は咄嗟に言葉を返せなかった。そ、それなら仕方ないか?と思ってしまいそうになる。

 …いや、どうにもこの人は私を誰か他の人と勘違いしているようなのだが。それは早目に言わなければならないだろう。けれど私が口を開くより早く、その人が言った。

「……まだ、怒っているのか」

「…………」

 とても哀しそうな声に、私は胸を衝かれた。この人は「かぐや」さんと喧嘩でもしたのだろうか。「かぐや」さん、赦してあげてーと言いたくなる。それくらい、その人の声は切なそうだった。

 …大変言い難いではないか。人違いですよ、などと。

「……あの」

「……なんだ?」

 その声はとても優しかった。甘いというべきか。不意打ちに、私の胸がドキリと鳴ってしまった。

「……や、だから。……ひとちがい…」

「…かぐや…?」

 その人は怪訝そうに私の顔を覗きこんだ。私はその時初めてその人の顔を見た。出会い頭に抱きしめられていたから、顔も見えなかったのだ。

 その人は深い紺青色の綺麗な髪の持ち主だった。その不思議な色合いに私は驚いた。けれどそれよりも私の心を射抜いたのは、その人の強い琥珀色の瞳だった。

 心の奥底まで見抜かれそうな、鋭い眼差し。その人はとても美しい顔立ちの青年だった。

 こんなに綺麗な人、見たことがない。そんな美青年に抱きしめられて、強烈に見つめられて、私は何も言えなくなってしまった。

 その時、すうっと辺りが明るくなった。といってもそれは月明かりのように柔らかな光だ。

 あれ?そういえば扉が開いた後、何故か眩しい光に目を閉じていたんだっけ。その強烈な光は今はなく、いつの間にか薄暗くなっていたところに月光が差したという感じだった。

「…光が戻った。…かぐや、おまえのお蔭だ」

 その人は改めて柔らかく私を抱きしめた。愛しそうに後頭部を撫でられる。

 いや、だから…。

 美形にときめいている場合じゃない。誤解を解かねば。

 私はその人の胸元を押して拘束を逃れた。けれど辺りの景色に頭が真っ白になった。

「…ここ、どこ…?」

 辺りは竹林だった。

 え!?私は寝室で着替えていたはず。この人がその扉を蹴破ったのではなかった?

 後ろを振り返ると、一際大きな竹がすっぱりと斜めに割られていたが、驚いたのはその大きさではなく、竹の内部が光っていたことだ。

 その光は徐々に小さくなり、消えた。

「……………」

 私はなんとも言えない気持ちになった。光る竹、そして彼が私を呼ぶ名は「かぐや」。

「かぐや姫…?」

 呆然とする私に構わず、彼は素早く私の手に握られたままだった帯を奪い取ると、私の腰に巻き付けてくれた。直後に身体が持ち上げられた。

「!?なに…!?」

 お姫さま抱っこというやつだ。

「屋敷に戻ろう。異界に行って、記憶が混濁しているのだろう。ゆっくり休めば思い出すはずだ」

 青年は少し切なそうに微笑んだ。彼は私がどこか他人行儀なことに気付いて、傷付いたのだろうか。

 私は何と言えばいいのかわからなかった。けれど考えられたのはそこまでだった。徐々に瞼が降りてくる。意識を保てない。ああ、夢から覚めるのだな、とぼんやり思ったのを最後に、私は意識を手放した。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ