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かぐやのゆめわたり  作者: 桐島ヒスイ
3章 帝の檻

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 青焔さんが出て行って、私は漸く詰めていた息を吐いた。

 よ、よかった。危機は去った…。いや、全部私が自分で招いた危機だったのだけど。

 帝を殴ったのはまずかったと思うけど、青焔さんがMでよかった。

 青焔さんは私というか香紅夜さんに全体的に甘い気がする。なんでも許しているような。

 いや、でも。

 肝心の私を瑚白の元へ帰して欲しいというお願いは結局黙殺されている。それと、瑚白を殺すと言ったことは取り消してくれたのだろうか。大丈夫、だよね?

 俄かに不安になる。



 ――瑚白。

 紺青色の髪と綺麗な琥珀色の瞳が脳裏に浮かぶ。

 離れてまだ半日も経っていない。なのに既に何日も会っていないような感覚がする。

 不意に喉の奥にせり上がって来るものがあった。

「………っ!」

 ……淋しい。会いたい。

 いつの間に私はこんなにも瑚白に心を持っていかれていたのだろう。この世界で目覚めてからずっと側に居てくれたから?私を必要としてくれたから?

 だって仕方ないじゃないか。…最初から瑚白は優しかった。私を香紅夜さんと勘違いしていたからだけど、そうじゃないと知った後も態度は変わらなかった。右も左も分からないこの世界で優しくされたら絆される。あんなに大切にされたら…惹かれずにいられない。

 私は零れそうになる涙を意地で引っこめて、ぐっと顔を上げた。

 ……よし、逃げよう。

 いや、瑚白に会いに行こう。




 瑚白に会いたい。

そもそも青焔さんと結婚なんて出来ないし。ここにはいられない。

……一瞬、青焔さんの切なげな表情が浮かんで胸がきりっと痛んだけれど、……彼は私が香紅夜さんと別人だとは知らない。彼が求めているのは私ではなく香紅夜さんだ。

だから私が逃げ出してもいいのだと自分に納得させて目を閉じる。心のどこかでそれなら別人だということを彼に伝えるべきだと訴える声が聞こえるけれど、今は聞こえない振りをする。

それを伝えるのは瑚白の許可を取ってからだと理性が告げる。一応、そういう契約を結んだから。でも感情では青焔さんを騙していることと、黙って逃げるように出て行くことに罪悪感を覚えている。

いや、でも。そもそも脅されて連れて来られて帰さないなんて、騙されたのは私の方か。それならお互い様だから私が罪悪感を持つ必要はないのかもしれない。

私はさまざまな感情を一旦封印してともかくここからの脱出を最優先することにした。


 私は勇ましく立ち上がり、脱出しようと妻戸を開けた。するとすぐ外にいた穂積さんがにっこりと微笑んで「御用ですか?」と言った。

 ……見張りがいないはずがなかった。

 私が一瞬言葉に詰まるのと同時にぐぅ、と間抜けな音が響いた。私のお腹が鳴ったのだった。

「……これは失礼いたしました、香紅夜さま。すぐに食事をお持ちいたしますね」

 穂積さんは礼儀正しくお辞儀をしてパン、と手を打ち鳴らすと、どこに潜んでいたのかわらわらと侍女さんたちが現れ、素早く膳の用意をしてくれた。

 ………。

 ま、まぁ腹が減っては戦は出来ぬというし。これから脱出するためにも食事はした方がいいだろう。既に囚われてから半日以上が過ぎて、二日ぶりに目覚めてから軽い食事しかしていなかった私は空腹の限界だ。



 食事を摂りながらも私はちらちらと侍女さんたちの動きを確認していた。

 逃げ出す隙を伺っていた、という方が正しいだろうか。

 ところが食事を終えた途端、急激な睡魔に襲われ、意識が揺らいだ。

 ……あ、れ……。

 なんとか意識を保とうと、ぐっと唇を噛んで痛みで身体に刺激を与えようとするけれど、感覚が麻痺しているのか、痛みは感じられない。

「……お疲れなのでしょう。どうぞお休みください、香紅夜さま」

 子守唄のように優しい穂積さんの声に、私は抗うことが出来なかった。






 夢の中で誰かが私の頭をそっと撫でた。

 ……こはく?


「……ごめんね、香紅夜」


 寂しそうな、哀しそうな声。私は腕を伸ばして彼の頭を抱えて撫でた。

 ……待ってて、すぐ帰るから。


 どこかでこれは夢なのだと分かっていた。だけどきっとこの想いは瑚白に届く。何故かそんな確信があった。

 淋しがらないで。私も淋しいけれど、我慢するから。


 夢の中の瑚白はぎゅっと私を抱きしめてくれた。







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