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イレギュラーデイズ  作者: 立川龍大
6/6

成功と失敗

今回は文字量がいつもの倍ほどです。

時間があったのでスムーズに書けましたが、チェックしてないのでいつもより誤字脱字が倍カモです(汗)

「こちらが魔術技実験を行う実験室ですよ」

 生徒会長が何故か自慢げに言っていた事を最初は気にしたが、嶺緒はすぐにその考えを頭から追い出された。

 何故ならガラス越しに見える実験室の巨大な構造に目を奪われたからだ。

 ここは学校の地下二階、魔術技実験という魔術を使えない者にも魔術を使えるようにする実験を行う場所だ。

 実験室は巨大だがとにかく地味だった。

 壁はコンクリートが剥き出しになり、床も壁と同じコンクリート。地下なので窓も一切無い。

 そして何より部屋を地味にしているものは、部屋は巨大なのに物がほとんどない事だ。

 あるのは部屋の中央のベッドと隣にある何に使うかもわからない装置があるだけだ。

「さあ、こっちです」

 生徒会長の言葉に誘われ、ガラスで仕切られていた観測室のようなところとさっき見た実験室を隔てる重厚なドアを開けて中に入る。

 やはりコンクリートだからか部屋は冷たく、嶺緒は右手で左腕を擦っていた。

「ここが魔術技実験室?ベッドしかないじゃん」

 誰に話しかけたわけでもなかったが、敬語ではなかったので生徒会長じゃなく自分に話しかけたと思ったらしい砂月が自慢げに答えてくれた。

「えっとねー実験っていうのは被験者がすることは無くて、あのベッドに寝てるだけでいいんだよ〜」

「そうなんですよ、簡単な事なんですが失敗する事が多いので被験する人がいないのですよ〜」

 砂月のおっとりした喋り方を真似して、生徒会長は頬に右手をわざとらしく当てながら少し困った顔をしていた。

「ほうほう、そうなんですか・・いろいろ大変ですね。砂月も教えてくれてありがとなー」

 生徒会長、嶺緒、砂月がそんな話をしていると先ほど自分たちも通って来たドアから知らない男性1人と女性1人が入ってきた。

 その男女は部屋中央のベッドにいる俺たちに近づいてくる。そして目の前に立つと自己紹介もせずに話を進め始めた。

「お前が神崎嶺緒だな?」

「は、はいーーそうで・・・」

「分かった、ではそこのベッドに寝ていろ。準備が終わったら合図を出す、合図が聞こえたらベッドの隣の機械に繋がっている装置を頭に装着しろ」

 俺の言葉を遮ってまで説明をした男は、助手らしき女に何かを伝えてそそくさと実験室から出て行き、観測室に準備をしに行ったようだ。

 俺がそんな男に呆気を取られていると女助手が話しかけてきた。

「じゃあ、そこのベッドに寝てもらえる?」

 女助手はそう言うと手をベッドの方に向け寝るように促してくる。

「あの、今頃なんですけどーーこれって本当に大丈夫ですよね?」

「ええ、大丈夫ですよ?そうですよね?」

 寝ている俺の体のチャックをしているのか顔を覗き込ませていた女助手は上半身を砂月たちの方に向けて同意を求めた。

「は、はいーーそうですけど・・・」

 砂月が答えると生徒会長が鋭い指摘をしてきた。

「いえ、失敗したら大丈夫じゃなくなります。失敗したらーーし、死んでしまう可能性も出てくるほどです・・。そこまで至らないでもーー壊れます・・。

 顔はいつに無く真面目で場の雰囲気が一瞬凍りついたようだった。更に何が壊れるかを敢えて言わなかったように聞こえる生徒会長の言葉に、俺の心は周りの空気より一層冷やされた。

 だが勇気を出して聞かなければ進まないと思い、勇気を冷えた心から出して、重たい口を精一杯広げ、言葉を振り絞った・・・。

「ど、どうなるんですかーー?俺の・・どこが壊れるんですか」

「貴方の記憶ですーー貴方の記憶が全て消えます・・・」

 生徒会長小さい声ながらも俺の目を見てしっかり言った。

「す、全てって・・冗談ですよねーー名前も?家族も?ーー砂月の事も?」

 俺は生徒会長の目から顔を背け、驚きのあまりベッドから起き上げっていた体を猫背のように曲げ、絶望のオーラを出す。

 そんなリスク知らなかった。ただ砂月がやったというのを聞いて、軽い気持ちでやろうと思っただけだった。

 まさか失敗のリスクがここまでデカイなんて思いもしなかった・・。

 そんな絶望の淵にいた俺にふと疑問が浮かぶ。だったら何故砂月は受けたのか?何故そこまでして魔術を使えるようになったのかーー俺との記憶も失われたかもしれないのに・・・。

 俺は砂月に聞く前に考えた・・何も考えずに聞いてしまって砂月を傷つけてしまったらデリカシーのない男だと思われてしまう。

 そう思ったがーー考えても考えても考えても答えは出てこなかった。仕方なく俺は暗い顔を整え・・・ショックが大きかったせいか、整えようにも引きつったままの顔で、言葉だけはできるだけ明るくして聞いた。

「なあ・・お前はなんで受けたんだ?下手すれば何もかも失ったかもしれないのに・・・」

 砂月は一瞬驚いた顔になるが、すぐに優しい顔になった。

「そんなの決まってるよぉ〜嶺緒くんを守るためだよ?」

 ここで砂月の優しい顔がニッコリとした笑顔で更に優しくなり冷え切った俺の心を溶かしていく様だった。

「そっかーーありがと・・ありがとな」

 俺は少し涙目になりながら言った。これ以上の言葉を口から零したら、涙も一緒に零れ落ちるというのが分かったので、ただそれだけを砂月に伝えた。

 俺はすぐに零れそうだった涙を手で擦り、広い実験室にーーいや防音ガラスを隔てある観測室の中までにも響き渡るようなはっきりした声で言った。

「実験受けさせてください!よろしくお願いします!」

 その声に生徒会長や砂月、女助手などがビックリしたような顔をした。

 だが早くに心を沈めた女助手が先ほどまでと同じ冷静な顔に戻り口を開いた。

「はい、わかりましたーーあと大きな声は出さないでください。いくら防音だからと言って準備中の稲垣先生に聞こえて支障が出るやもしれないので」

 女助手の言葉に口に手でチャックのジェスチャーをした嶺緒に合図のアナウンスが聞こえる。

「おい終わったぞ。さっき言ったとおりしろ。機械を装着したら麻酔が掛かる。手術は一時間程度で終わる」

 スピーカーなどないこの部屋にどうやってアナウンスを流しているか疑問に思ったが、そんなことは今どうでも良いので深く考えずに片付けた嶺緒は、アナウンスに負けないほどの大きな声をーー出そうと思ったが今さっき注意されたばかりなので、普通の大きさで答える。

「わかりました!」

 一言だけ言って装置を装着して横になる・・。横になった数秒後に周りの声が薄れてきた事に気がついた嶺緒は麻酔の効果が出てきたことを悟る。

「嶺緒くん頑張っ・・・」

 砂月の安心する声を聞きながら嶺緒は目を閉じた。


「嶺緒くん!嶺緒くん!」

 目を閉じた時と同じ声で意識を覚醒し始めた嶺緒は体が少し軽いことに気がつきながら目を開ける。

 目を開けば女助手、生徒会長、砂月、稲垣の実験を受ける前にもいた四人が変わらず居たことに安心する。更に四人の名前を覚えてた事に実験が成功したという事実が生まれるーーその生まれた事実に心底安心する。

 だがいつまでも物思いに耽っているのはいけないので、体を起こして考えたことを確認する。

「実験は成功したのか?俺は魔術を使えるように・・・?」

「そうだよ〜嶺緒くん!良かった〜良かったよー」

 そう言ってベッド座っている俺に砂月が抱きついてくる。

 いつもなら止めろというのだが、今は砂月から手を離すことが出来なかった。

 そんな俺たちを笑顔で見守っていた生徒会長も祝ってくれる。

「すごいです!皆さん失敗してきたリスクの高い実験を砂月さんと共に成功させちゃうなんて・・・本当におめでとうございます」

「ーーありがとうございます・・」

 稲垣と女助手も祝ったりなどしてくれてその後20分ほど経過し、落ち着いた頃ーー。


「嶺緒さん、貴方はまだ魔術に慣れていないはずです。そこでなんですが・・・明日新入生を対象とした私との実施訓練イベントがあるんですがーーそのイベントに特別枠として参加しませんか?」

 とい生徒会長がいきなり言い出した。

 俺はその言葉に一瞬戸惑うが、すぐによろしくお願いしますと言ってしまった。何故なら実験前砂月が俺を守ってくれると言った時に俺も砂月が守りたいと思ったーーしかし砂月を守るには訓練がいる。

 そこで生徒会長の申し出は願ったり下がったりだったからだ。

「分かりました。それでは明日を楽しみにしておきますね。私は生徒会の仕事がまだ残っておりますので、この辺で失礼しますね」

 と言った生徒会長は一回頭を下げて、実験室から出て行こうとしたが俺が呼び止めた事により足を止めた。

「せ、生徒会長!場所と時間は!?知らないんですけど・・・」

「ーーっと!すみません、忘れてました・・。えっとですね・・場所は学校南側にある訓練場2号地で、時間は正午12時です!」

「え?明日学校休みなんですか?」

 と内心喜びを込めた質問をした。

「そうですよ、入学式で言ってませんでしたか?明日は朝から歓迎祭をやるのですよ」

 生徒会長の言葉に喜びながら聞いた俺の間抜けさに嫌気がさしてくる・・。

 そう言われると入学式で言ってたような気がする。

「そうでしたね・・・ありがとうございます。明日こちらこそ楽しみにしています」

「もぉ〜嶺緒くん入学式ちゃんと聞いてたぁー?」

「はは、聞いてなかったかも・・」

 俺たちの会話が一段階ついたのを見計らったのか女助手がメガネを上げながら言う。

「そろそろ解散しましょうか」

 稲垣もそれに続けて言う。

「そうだな、解散するか。おいお前ーー嶺緒と言ったか?定期検査も兼ねて来週も少し顔を出せ?いいな?」

 稲垣の相変わらずの口の悪さに少し行きたくなくなるが嶺緒は社交的な事も考えて冷静に答える。

「分かりました。来週もよろしくお願いします・・。時間は何時でもいいですよね?」

「ああ、構わん」

 その言葉を聞き五人は解散したーー。


「すっかり夜になったなー」

 と寮に帰るまでの人がまだパラパラ通っている学校の道で砂月に話しかける。いつぞやの廊下の時のように独り言にはならないと安心していたのか、少しオーバーに声を出した。

 しかしーー返事は帰ってこない・・。いつまでも返ってこない・・・。

 さすがにおかしいと思い隣を見るーー。

 誰も居なかった。途中まで居た砂月が居なかった。そして思い出す・・女子寮は男子寮より実験室に近いということにーー。

 つまり途中で別れたということだ。しかし嶺緒はこれまでずっと話してきた、そうずっとだ・・・。

 ということは嶺緒は浮かれすぎて砂月と別れたことに気づかず、独り言をこれまでずっと話してきたということだ・・・。

 周りを見てみるといつぞやの廊下と同じように素行の悪そうな男子たちがこちらを怪しげな目で見ているーー。そして、あいつおかしいのかと聞こえてくる。

 嶺緒は失敗したあああああああと叫びながら後悔と明日のこと砂月のことを頭に浮かべながら男子寮に向けて全速力で走って行ったーーーー。






今回も楽しんで頂けたら幸いです。

次はスケジュールが空いてないので来年になるかもしれませんが気長に待って頂ければと思います。

ではまた次回お会いしましょう。

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