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家牢   作者: 詞奇
飛師家編
8/14

縞 亜来サイド 四話 邂逅

 長く待たせてすみません。

 四話目です。

 亜来の苦難はまだまだ続きます・・・。

 その日、私が見た夢はごく普通の日常だった。

 人間サイズの私が、普通に朝起きて学校へ行って、普通に授業を受け、終わったら下校して帰って夕食を作って食べて、勉強してお風呂に入って寝る。

 その夢の中にはレズで巨人で変態な後輩や、魔女と名乗る意地悪な金髪少女の巨人も出てこない平和で平凡な夢。

 でも、今私が一番求めているものがそれだった。

 小さくされて、しかも見た目、中身共に子供な後輩にペットにされて、プライドを地の底まで叩き落された私が望む一番の願いだった。

 そう、私の世界にあんな後輩はいらないのだ。決して・・・。


 その後輩(私から見たら巨大娘)の飛師 栞がお昼にガチでプロポーズしてきた。

 ちなみに私は女(栞から見たら縮小娘)で年齢もまだ十四で結婚できる年齢じゃない。

 そしてレズなわけでもない。

 あの後輩が勝手に告白し、勝手に了承させたのだ。

 まあ、私もコイツなら悪くはないかな、と少しだけ思ったことは認める。

 ただ、今にして思えば、あの時はちょっとおかしくなっていたかもしれない。

 栞の姉(巨人)に見つかって、痛めつけられ、更には大事な髪を切られて、心身共々傷ついていた私を栞が介抱してくれたせいか、彼女に対して少し情を抱いていてしまった。

 でも・・・・・・改めて考えるとやっぱり嫌だ。

 栞と仲良くなって婚姻というふざけたことをしたところで私が元に戻るわけでもないし、コイツにされた数々の所業は今も私の体に深く刻まれていて、心を許すなんてことはまず有り得ない。

 逃げられるものならとっととあの巨大な家から逃げ出したいくらいなのだ。

 さて、ここで疑問。

 さっきまで見ていた世界がだんだん大きくなっているのですが、どうしてでしょうか?

 それと体が燃えるように熱いんですけど・・・。

 そして今現在、見覚えのある巨大な少女に握りしめられているのはなぜでしょうか?


 金髪少女(巨人)の介入により、夢から現実に引き戻された。

 ソイツはいつもと変わらず小さな私を見下していて馬鹿にしたように笑っていた。

『あれぇ、髪切ったぁ?』

 第一声にそれを発し、私の髪を嫌がらせみたく、ゆ~っくりと指でなぞる巨人。

「き、気持ち悪い! 触るなぁ!」

 四肢を塞がれている私が出来ることは頭を動かす(無駄)ことと叫ぶ(これも無駄)だけ。

『あっ、そういえば髪触られるのは嫌だったっけ。体は熱いくせに鳥肌立ってるし』

 なぜ知っている? あんたに言った覚えはないのに。

 それにまだ髪を触ってきているし。

『それにしても体が火照って・・・発情期?』

 は、発情期!?

「ち、ち、違うわよ!! そんなんじゃないわよ」

 発情しているのは後輩だ!!

『じゃあ繁殖期かなぁ?』

「それも違う!!」

 私が否定すると首を傾げた魔女だけど、何かを思い出したように笑い始めた。

『ああ、そうかぁ。ワタシが入れた媚薬が効果あったみたいだねぇ』

「び、媚薬ですって!?」

 なんてものを・・・いったいいつ入れたのよ!!

『君の飼い主さんに勧めてみたんだけど、なぜか断られちゃってぇ。なんでも自分の力で君をモノにしたいんだってぇ。頑固だねぇ、君の飼い主は。だから嫌がらせとして君たちがお昼に飲んだドリンクにこっそり入れておいたんだぁ』

 エヘンっと手で胸で叩いて誇らしげに語る自称魔女。

 まさか、熱いのはこれが原因?

「そこは本人の意思を尊重しないさいよ!! このサディスト!!」

 道理で栞も様子がおかしかったわけだ。

 急にプロポーズをしてきたり、ただ漏れ妄想をし始めたりと・・・。

『あっ、ちなみに普通の人間には全然効果がないから、それ』

「な、なんですって?」

 意味が解らず聞き返す。

『だから、君の飼い主さんには効果がないの。君のように熱がってなかったでしょ、飼い主さんは』

 確かに、私が水浴びしたいって言ったときも『えぇ~結構寒いですよぉ~?』って反応してたけど・・・。

「でも、あの告白や妄想は絶対媚薬のせい!! そうに決まってる!!」

『まるでそうであってほしいみたいな言い方だね・・・」

 そりゃそうだ、あの時のアイツの妄想を思い浮かべるだけで鳥肌が立つくらいだのに。

 あれは媚薬のせいだと思いたい。

『ワタシとしてはさっさと飼い主さんと仲良くなって欲しいんだよねぇ』

「どうしてよ?」

 仲良くなるどころかさっさと離れたいんだけど・・・。

『せっかく置いてもらったお家を出ていこうなどというお子様みたいな考えを留めさせるためだよ』

 なぜ知っている? あと、子供扱いするな。

『不服そうだねぇ。せっかく危険だと忠告しているのに』

「どうせ簡単には死なない体にしてあるんでしょ。言っとくけど猫とかに食べられるとかだったら覚悟の上よ」

『分かってない、解ってない・・・。まあ知らないのも当然かぁ~~。教えてないもんねぇ』

「何のこと? もったいぶらずにさっさと教えなさいよ」

『・・・そのつもりだったけどや~めた~。チビちゃんには身をもって知ったほうがいいと思うしぃ~。まあ知ったころにはもう遅いけど』

 魔女は握りしめた手を広げた。

『それにしても面白い格好してるねぇ。普段からそういう格好しているの~?』

 手のひらの上にいる私をからかうように指で突く魔女。

 気になって私も服装を確認・・・。

「えっ、いつの間に、どうして!?」

 夢の中ではごく普通のジャージを着ていた筈なのに・・・。

 今の私の恰好はデフォルメされたクマが真ん中にプリントされたTシャツといつも穿いている無地の白パンツ。今日の私の寝間着姿で、決して人前では見せられない格好だ。

『やっぱり発情期なんじゃないのぉ? こんな格好で飼い主さんを誘惑してるんじゃないのぉ?』

 わかっているくせにこの言い方。本当に腹立つ。

「ち、違う!? パジャマがないし、熱いのよ!!」

 あんたが用意しなかったせいだ。

『それにしてもつまんないわぁ。せっかく可愛いおパンツを一杯あげたのにどうして着ないのぉ~? せっかくサイズも合わせたのにぃ』

「あんなもん誰が穿くもんですかぁ!!」

 そもそもなんで私のサイズを知ってるのよ。

『そりゃあチビちゃんが眠っているときに調べたからに決まっているじゃない』

 勝手に心を読んだらしい魔女は普通に答えた。

「何普通に答えてんのよ・・・ってぇ、調べたってどういうことよ!!」

『どういうことってそりゃあ・・・身に着けているものを全て剥がして虫メガネで細部まで観察したり、物差し等を使ってチビちゃんのスリーサイズとかを測ったりしただけだよ』

 それを聞いた途端、体は熱いはずなのに背中に寒気が襲った。

「そ、それ本当・・・?」

 恐る恐る聞いてみた。

『嘘言ってどうするの?』

「・・・・・・」

 見られた・・・幼い少女に全てを・・・。

 れ、冷静になれ、私!! 相手は少女よ。それに私は好みじゃないって言ってたじゃない。

『そりゃあそうだよ。別に邪な考えなんて起きなかったし、ワタシ自体はチビちゃんのサイズを測りたかっただけなんだから』

 なんかそれはそれで腹立つ。

 測ったならもっと私に似合うような服を用意してほしい。

『なんか不服そうな顔をしているね。もしかして、人形の服そのままの大きさの方が良かった? チビちゃんにはダブダブで着られないと思うけど・・・。それともハンカチが希望? あっ、葉っぱとかもあるかも・・・』

「ま、満足よー、ピッタリって最高だわぁ・・・」

 完全な棒読み。

 でも、魔女が挙げたものを着せられるよりかはマシ。

 あの下着シリーズは絶対に穿かないけど。

『まあ穿くことになるんだろうけどねぇ』

 なんか魔女との会話が成立してるし・・・。

「ぜ~ったいに、は~か~な~い!! その根拠はどこにあるのよ!!」

『だって、ワタシが含んだ媚薬の作用でねぇ、飼い主さんのことしか考えられなくなると同時にチビちゃんみたいな体でも一回だけ尿意を催すんだよねぇ。時間的にそろそろ来ると思うんだけど。言ってる意味、解るぅ?』 

「・・・・・・」

 黙ってしまった。なぜならすぐに解ってしまったからだ。

 つまりこのままだと・・・。

『じゃあ、が~んばってねぇ~!!』

「ちょっと!? せめてトイレまで連れて行け!!」

 魔女はいつの間にか消えていた。

 途端に襲ってくる尿意。

 そして、あることに気付いてしまった。

 ほんの数秒前までは栞と変態として引いていたのに・・・。

「・・・栞はどこにいるの・・・。私・・・栞に触りたい・・・栞の傍に居たいよ・・・」

 媚薬の効果が今頃になって表れてきたみたいだ・・・。

 頭の中はすでに栞で一杯だった。

 全身から力が抜けていき、意識が薄くなっていった。

 

 それからの記憶は私にはない。

 朝起きて絶望するまで、私は一体何をしていたのかを。

 っていうか、思い出したくない。


 

 

「・・・・・・もう好きにすればいいじゃないの。私はあんたのペットで拒否権なんてないんだから。縞 亜来という人間は昨日死んだわ。今の私は人の形をしたよくわからない小さい何かよ。いっそのこと握りつぶして殺してほしいわ。これ以上プライドが崩れるくらいなら死んだほうがマシよ。さあ、煮るなり焼くなり好き勝手しなさいよ!! このスケベ、変態、レズビアン!! 死んだらあの魔女に化けて出てやるんだから」

『先輩・・・、そうなりたくなる気持ちもわかりますが・・・とりあえず落ち着いてください』

「落ち着いてらんないわよ!! あんたに何がわかるのよ!!」

『そりゃあ、先輩の飼い主はあたしですから先輩のことなら何でもわかりますよ。だから頭冷やしてください』

「きゃっ、つめたっ!? 水を掛けないで!」

『もう落ち着いてください。実際怒りたいのはあたしなんですからね。フェルモン出してくれるのは別にいいですけど、その後始末が大変だったんですからぁ』

「うっ・・・ふぇ、フェルモンじゃないもん・・・」

『じゃあ、はっきり言いましょうか? 先輩のプライドを傷つけないためにオブラートに包んだんですが・・・』

「フェルモンのどこがオブラートよ!!」

『・・・・・・先輩が年下のあたしのベッドでオネ・・・』

「やめてぇ~~、それ以上言わないでぇ!! ごめんなさい! 私が悪かった!!」

『うん、あたしは素直でいい子な亜来ちゃんが大好き』

「あ、頭撫でないで!! あとその呼び方やめてぇ!!」

 ちなみにこのやりとり、早朝のお風呂場でしている。

 周りに丸聞こえかと思われるが、身長十センチ以下の私が大声を出したところでたかが知れてるし、実は栞も私と居るときは小声で話している。

 それと媚薬の効果はとっくに切れているので今の私は栞のことをただの変態としか見ていない。

 今の配置を説明すると床に置かれた洗面器にお湯を入れて、そこに浸かっている私を隣の大きなお風呂で湯船に浸かっている栞が見下ろしている状態だ。

 お空の上から大きな少女の童顔が私を潤んだ瞳でこちらを見ているようで本当に怖いです。お湯に浸かっているのに寒気がします。

 これでも大きなお風呂にこのまま入れられたり、お椀に入れられて湯船に浮かべられるよりかは大分マシだけど・・・。

 栞が珍しく不機嫌なのはもちろん、今朝のせい。

 今朝の後始末は全部彼女がやったのだ。

 その間、私はというと完全な放心状態で学校のグラウンドぐらいの広さはある巨大なベッドの上でただぼーっと突っ立っていた。

 ペットの不始末は飼い主の責任。

 仮にも私の飼い主なんだからそれぐらいで不機嫌にならないでほしいと思う今日この頃。

 実際、あんたよりも・・・私の精神的ダメージの方が遥かに大きんだから!!


『亜来ちゃん・・・いや、あーちゃん。う~ん、微妙・・・じゃあくぅちゃん・・・・・・それもいいけど・・・、きぃちゃん・・・それだ!!』

 真上の巨人が変なことを考えてる。

「一応聞くけど何を考えてんの?」

『えっ、先輩の新しいお名前』

「そんなもん考えんでいい!!」

『だって先輩が言ったんじゃないですか? 縞 亜来という人間は昨日死んだわって・・・だから』

「あれは言葉のあや! こんな体でも自分の名前を捨てる気にはならない」

『・・・縞 亜来という女の子は先輩で小さくなって、後輩のあたし、飛師 栞のペットになって今日はあたしのベッドでおもら・・・』

「わかった!! わかったからぁ~。これ以上、言わないでぇ~お願いだからぁ」

 完全に弱みを握られ、後輩の手玉に取られる私・・・。

 言われるくらいなら・・・と思うけど、それは辛うじて残っている私のプライドが許さなかった。

 これ以上、恥じな部分を見せたくない。

『じゃあ何て呼んでほしいですかぁ? チビちゃん、とか?』

 どこの魔女!?

「それにしたら絶対にあんたを信用しないから」

 今でもしていないけど・・・。

『・・・じゃあ、きぃで、そういうわけだからよろしくねぇ、きぃちゃん』

「わ、わかったわよ・・・・・・うぐぐぐ・・・」

 嫌な名前・・・でも、否定するとまた・・・。

 ここは素直に頷くしかなかった。

 それから、飼い主からは先輩とも亜来ちゃんとも呼ばれなくなった。

 まあ、そもそも私は亜来って名前はそんなに好きではなかったけど・・・。

 だって私を捨てた母が命名したそうだし・・・。

『ところできぃちゃん、大事なこと忘れてな~い?』

「な、なによ」

 まるで赤ん坊に語り掛けるように言う後輩。

 もはや私に対する尊厳の意思は微塵に感じられなかった。

『きぃってば、大事なパンツを自分で汚したじゃん。だから魔女さんがくれたアレを穿くしかないことだよねぇ?』

 傷ついている私に容赦ない追撃。

 傷口に塩を塗るとはこのこと。

「あんたが洗ってくれたんでしょ。乾くまでタオル一枚で過ごすわ」

『・・・ええっと実は・・・』

 何故か明後日の方向を向いて言いたくなさそうにする後輩。

「言いたいことがあるならはっきり言いなさい。どうせあんたと私しかいないんだから」

『・・・じゃあ、言うけど・・・きぃのパンツ、あたしのパジャマと同時に洗濯機に入れちゃって・・・』

「それがなによ・・・」

『あっ、一緒に入れる自体はいいんだけど・・・。あの小さなパンツを洗濯機の中から見つけられるかどうか・・・』

「・・・・・・」

 私は絶句した。

「は、早く出て洗濯機を止めなさい!! そして探してぇ!!」

『は、はい~~』

 栞は湯船を飛び上がり、すっぽんぽんのまま駆け出した。

 私はというと栞(巨大娘)が飛び出したと同時に出てきた大量の水しぶきをまともに喰らい、栞が起こしてくれるまで気絶していた。


 結果だけ言うとパンツ自体は見つかった。

 しかし、あんな小さな布切れなので洗濯機に耐えきれなかったのか、破れてしまっていてもう穿ける状態ではなかった。

 結局、魔女の予言通りあの下着シリーズを穿く羽目になった私だった。

 ・・・うん、縞 亜来という人間はもう死んだことにしよう・・・。

 これ以上縞 亜来という人間が惨めな姿にされるのはもう見たくない。

 これからはきぃという飼い主がつけた名前で生きていこう、そうしよう・・・。

 そう誓った今日この頃。

 


 私こと、きぃが知る飯島 李可は基本何事にも興味を示さず、クラス委員長でありながらもクラスメイトと距離を置き、どんなことにも一歩下がって傍観するような女子だ。

 外見的特徴を説明すると、人間だったころの私より少し低めの背丈で、髪型はショートボブ。肌は生きているかどうかも疑うほど青白く、長い前髪に隠れている両目は常に半目で生気がなく、光が籠っていなかった。

 別に彼女と仲良くしているわけではない私がなぜそこまで語れるのかというと、私も彼女と同じように人と距離を置き、目立つことを避けてきたからだ。私のような奴から見れば、彼女は誰よりも目立っていて、自然と彼女の姿が目に入ってしまうのだ(別にどこかの後輩のように恋愛感情を抱いていたわけではない)。

 もっとも、彼女は私のことなんてまるで眼中にないような雰囲気だったけど・・・。

 なぜ私が今更、元クラスメートのことを語っているのかというと・・・。

「あなた・・・本当に縞さん? まさか一、二週間程度でここまで落ちぶれているなんて・・・予想外。こんなに早く飼い主(百合ガキ)に調教されるなんて思いもしなかった」

 彼女が現在、学校で見ている姿と全く同じ姿で、かつ私と同じ等身で栞の部屋に侵入しているからだ(ちなみにこいつは窓ガラスをすり抜けて入ってきた)。

 その時点でこいつは普通じゃないことがわかった。

 飼い主、この部屋のセキュリティをもっと強化しなさいよ。人外に対して・・・。

「シマサン? 誰、それ? 私そんな名前じゃないわ。きぃって名前だし」 

 数日前に名前を捨てた私はわざとらしくとぼける。

「何があなたをこんなことにしたのやら・・・」

 飯島 李可は同情と言わんばかりの大きく溜息を吐いた。

 それは小さくされて年下にペットとして飼われ、玩具扱いされて、大事な髪も切られて・・・・・・と一、二週間という短い時間でそこまでされたら誰でも落ちぶれます。

 っていうかなんであんたまで小さくなってんの?

「そもそも見知らぬ誰かに私を語られたくないわ」

 あくまで他人の振り。実際、私の知っている彼女はここまで流暢に喋る奴ではなかったし、ここまで表情豊かな奴ではなかった。

「酷い。あれだけあなたと関わっていたのに・・・。友達と思っていたのは私だけだった?」

「へ、へぇ・・・。 あんたみたいな奴と友達なんて、そのシマさんって人、かなり特殊ねぇ・・・」

 私が知っている限り、コイツに友達はいない。私もそんなにコイツと関わっていない。

 私を怒らせて墓穴を掘らせようって魂胆だろう。

「残念ながら人違いよ。私、あんた知らないし・・・」

「・・・意外と冷静なのね。まあいいか。縞さんだろうがきぃだろうが私はあなたに用があるんだし・・・」

 本当にどうでもいいように言った。

 


 あの媚薬の騒ぎから一週間。

 後輩に羞恥の姿を見せてしまってから私の中の何かが粉々に砕け散り、その日は完全な上の空でほとんど記憶がない。

 あれから私の服の着せ替えも何故か栞が楽しそうにやっているし・・・。

 着せ替え人形になった私は全然楽しくない。

 嬉しかったことと言えば切られた髪がこの一週間で元の長さに戻ったことくらい。その半面、この体のことといい、明らかに人間ではなくなってきている自分に不安を覚える。

 元の大きさに戻ったとして普通の生活に戻れるだろうか。っていうかそもそも元の大きさに戻ることすら絶望的なのに・・・。

 ちなみにあれから栞は私を学校へ連れて行かなくなっていた。

 あの騒ぎのせいかと最初は思ったけど違うみたいだった。

『最近、同じクラスの女に付き纏われているの。きぃで遊びたいのは山々なんだけど、誰にもきぃを見せたくないの。だって見せたらそいつ、絶対きぃを誘拐されちゃうし・・・』

 そんな突っ込みどころ満載の理由はともかく、そのおかげで彼女が学校に行ってる間。私はこのドーム並みに大きな部屋で自由で平和な時間を過ごせるというわけだ。せいぜいその子と仲良くなって、ずっとその子に拘束されていればいいのよ。その分、私は平和に暮らせるわけだし。あれから大魔王(栞の姉)もこの部屋に入ってきていないし。

 話は変わってこの大きな部屋に階段が置かれた。

 その階段は彼女の所持している漫画。

 単行本一冊分の厚さなら私でも上ることが出来るのでそれをベッドと机の間にうまく積み重ねることで私のような小人でもベッドだろうが机にも上ることが出来るようになった。

 それに関してだけは彼女に感謝している(ちなみに漫画は全部百合もの。そんな絵柄の表紙を見ながら上らなきゃいけないことには複雑だけど・・・)。

 それともう一つ・・・。

 栞は私を学校に連れていかない代わりに毎朝、眠っている私を掴んで、大きく振って気絶させた後、何かをして学校へ行っているみたいだ。

 目が覚めると私は洋服に着替えていて栞はすでに学校に行っていて、私は衣服が乱れた状態でベッドの上にいて、全身を触られたような寒気と吐き気に襲われるというのが日課になっていた。

 何をしているのかを聞いてもちゃんと教えてくれないし、学校から帰ってきたら常に私を肌身離さず持ち、自由は奪われる。夕飯もお風呂も寝るときも常に一緒(飢えているの?)。

 これじゃあ私はまるで栞のアクセサリーじゃない・・・。

 


「しかし、飼い主(百合ガキ)に気に入られたいからってそんな似合わないドレスを着て求愛行動しているなんて・・・」

 思わなかった、とでも言いたいのだろうか・・・。

 薄い桃色の生地で出来たフリル付きのドレス。腰には赤いリボン。そして足が見えないくらい長いスカート。

 確かにこんなお姫様みたいな服装。私に似合わない(実際、着せたのは栞だし)。

 まあ一応私も女の子だし・・・一度くらいはこんな可愛い服に憧れたくらいはあるけれども・・・。

 それを栞、ましてはコイツに話す義理はない。

 しかもそれは五、六歳くらいの頃の話だし・・・。

 きっとあの金髪少女は私をそれくらいの女の子と同じ扱いにしている(その証拠にブラジャーを一着も用意してくれてない)。

 あの姿、顔、笑い声・・・思い出しただけでも腹が立ってくる。

 そもそもアイツに出会わなければこんな目に遭わずに済んだのに・・・。

 全てはアイツのせい、アイツがすべて悪いのよ!

「ぺ、ペットが飼い主に求愛するのは当然じゃないの?」

 八つ当たりをしたいという衝動を必死に抑え、心にもないことを言い、精いっぱいの笑顔で返す。

 こうなったら縞 亜来ではなくてきぃというキャラを演じよう。

 今の自分が縞 亜来だと思われたくないし、思いたくない。

 まあ、コイツは気付いてるかもしれないけど。

 さすがに出会って五分も経ってない、それも自分と同じ小人にキレるわけにはいかない。

 それにコイツなら何か知っていそうだし・・・。

「・・・じゃあ、きぃは故意でそういうドレスを着ていると?」

「そ、そうよ・・・。私だって可愛いものが大好きだもん・・・。お、女の子だし」

 私は可愛いでしょと言わんばかりにこの姿でくるっと一回転。

 危うく転びそうになった。

 着慣れていない証拠だ。

 本当はこんなの着たくない。

 そんな私の必死な演技に飯島 李可は・・・。

「・・・プッ」

 後ろを向いてしゃがみ込んで口を両手で塞いでいた。

 今笑った!! 絶対笑った!!

「おい・・・笑ってないで用件だけ言え・・・さもなくばここから叩き落す・・・」

 怒りが頂点に達した私は静かに脅す。

 ちなみに今いる場所は栞の勉強机の上、私のような小人からしたら高層マンションの屋上辺りに匹敵する。

 あんたみたいな小人が落ちたら大怪我じゃ済まないはずだ。

「・・・やってみれば?」

 飯島 李可は立ち上がったと同時にステップで机の端に移動。

 悔しいことに、さっきの私の一回転が馬鹿らしく見えるほど華麗なステップだった。

「十円玉すら持てそうにないあなたにそんなことができればの話だけど・・・」

「言ったわねぇ!!」

 彼女の挑発に我慢できずに突進・・・と思ったらスカートの裾を誤って踏んでしまい、バタンと転んでしまった。

「・・・ププ・・・」

「また笑った!! もう許さない、絶対に落としてやる!!」

 すぐに立ち上がり、彼女に近づく私。

 そして彼女の胸を両手で思いっきり押した。しかし・・・。

「あなた・・・どこを触ってるの?」

「えっ、嘘!?」

 思いっきり押した筈なのに・・・。

 彼女はビクとも動かず、私は彼女の貧相な胸をタッチしたまま・・・。

 ドレス少女と制服少女の奇妙な態勢が出来上がっていた。

 どういうこと? 彼女は私より華奢で細いのに・・・。

「いつまで触ってるの? もしかして飼い主と一緒になった?」

「し、栞と一緒にしないでよ」

 慌てて胸から手を離そうとした・・・けれど、もう目の前に彼女はいなかった。

「そんな悪い子にはお仕置き」

「ひゃあっ!? ・・・いやぁああああ!!!!」

 いつの間にか背後にいた飯島 李可にお尻をチョンと突かれて、慌てた拍子に下へ真っ逆さま。気付いたら、絨毯の上でみっともなくうつ伏せになっていた。

 身体的ダメージよりも精神的ダメージの方が遥かに大きかった。

「こんなドジでカッコ悪いお姫様はさすがに童話でも見たことない」

 彼女は大笑い。凄くムカつく。

 でも、あれ? 声が近い・・・? ってことは彼女も降りたということ。

 自ら殴られに来たってことでいいわよね?

 さっと立ち上がり、制服少女に狙いを定めて飛び掛かる。

「・・・今度は何する気?」

「嘘・・・?」

 ドクン、ドクン・・・と互いの胸の鼓動がはっきり伝わる。

 すぐ目の前には彼女の小顔。

 っていうか、本当に私は何がしたかったんだ?

 結果を言うと飛び掛かっても押し倒すことはできなかった。

 つまり私は今、立っている飯島 李可の上半身にがっしり摑まっている状態。

 彼女より背が高い私が、彼女に抱っこされているという変な状況(お姫様抱っことはちょっと違う)。

 ドレス少女と制服少女の奇妙な態勢その二。

 このあり得ない展開と飯島 李可の甘い香り(香水だと思う)で私の頭は真っ白。さっきまでの怒りはどこかに消え去ってしまった。

「はぁ・・・ほんとうにみっともない」

 思考停止中の私に溜息と共に告げてきた。

 最早呆れられていることがよくわかる。

 彼女は半目でこちらを睨んでいた。

「これで少し目を覚ましなさい」

「何を・・・えっ・・・きゃぁああああ!!!」

 彼女が私にしたこと・・・それは簡単に抱っこしている私を投げ飛ばしただけ。

 まるでボールのように放物線を描くように天井近くまで飛ばされ、栞のベッドの上に一度バウンドして、そこで数秒間大の字になってポカンとしていた。

 こんな漫画みたいな展開ってありなの・・・?

 そしてさらに驚くことに今の私の視界は彼女で埋め尽くされていた。

 いつの間にここまで上がってきたんだ?

 大の字で倒れている私の顔の両端に飯島 李可の両腕が・・・そして、再び目前には彼女の顔・・・。それに彼女の匂い、体温、胸の鼓動がまた私を襲う。

 これを第三者が見れば人形女A(飯島 李可)が人形女B(私)をベッド(人間サイズ)という大きすぎる舞台で押し倒している光景と見ると思う・・・。

 つまり、さっきと反対。攻めと受けが入れ替わった状態。

 今度は私が押し倒されています・・・。

 ドレス少女と制服少女の奇妙な態勢その三。誰得の人形劇なんだこれは・・・。

 さっきも思ったけど・・・・・・近くで見ると彼女って結構可愛いい顔している・・・。

「どうしたの・・・? 頬を赤らめて・・・」

 う、嘘! 赤くなってる!?

「ち、ちゃう(違う)!?」

 あまりの恥ずかしさに噛んでしまう私。

「ちゃう・・・?」

 無表情で首を傾げる飯島 李可。

「そしょにふえうにゃぁ(そこに触れるな)!! いいやひあえはあえよ(言い間違えただけよ)!!」

 嚙みまくりで何言っているのか絶対通じていない。

 それでも彼女は暫し黙考した後、行動に移す。

「・・・ここを触ればいいの?」

 そう言って飯島 李可は胴を起こし、押し倒しから馬乗りの状態になり・・・。

「ひぃっ!?」 

 小枝のような細い手が突然胸に触れてきて、悲鳴を上げてしまった。

「さっきのお返し。私よりちょっと大きい・・・」

「にゃめにゃしゃい(やめなさい)!!」

 何故か抉るような感じで私の胸を揉んでくる彼女のせいでうまく声を出せず、噛みまくりだった。

「・・・?」

 揉むのを止め、再び首を傾げる彼女。

 また私の言葉を解している・・・と思ったら更なる珍行動に出た。

 再び胴を倒し、私に迫ったと思ったら・・・。

「ひゃぁっ!? にゃ、にゃ、にゃにしゅんにょよぉへんにゃい(何すんのよ変態)!!」

 全身に寒気が襲った。

 彼女の桃色のざらざらした舌が私の頬をゆっくりなぞったのだ。

「舐めなさいって言ったから・・・」

「いっちぇにゃい(言ってない)!! いいにゃにゃはにゃにぇにぇ(いいから離れてぇ)!!」

「・・・・・・?」

 私の言葉を解しているらしく、彼女は私を押し倒したまま思考中。

 いつまでこうしてる気!?

 さっきの彼女の一連の珍行動によって力が抜けてしまい、彼女を押しのけることも出来ない。

 そして思考終了したらしい彼女はようやく離れてくれた。

 しかし、立ち上がる気力もない私はそのまんま。

 いったいあんたは何がしたいのよぉ・・・。

 胸の鼓動がまだ収まらないし・・・。

 私、一体どうしたんだろう?

 同性にこんなにドキドキするなんて・・・。

 まさか飼い主の影響?

 いや、そうじゃない。きっと押し倒されたのが初めてで動揺しただけだ。

 そうに違いない。そうに決まってる。

 私が同性に惚れるなんてあり得ないんだから!!


 そして数分後。

 立ち上がれない私に彼女は何かを私に被せてきた。

「その恰好、着せられている感じで本当に似合わない。見てるこっちも不快だから早く着替えて」

「ん・・・?  これは・・・制服・・・?」

 見覚えのある紺色の一着に歓喜。でも、似合っていないは余計。自分でもわかっているけど他人に言われたら私も不快だ。

「縞さん。いい加減、茶番は終わりにしたら?」

 やっぱり気付いているし・・・。

「・・・・・・わかったわよ。正直、演技も疲れてきたわぁ」

 立ち上がって、腰のリボンを外す。

「お望みならば私が着せてあげるけど、お人形さん?」

 クスリと彼女は笑った。

「いい、自分でできる」

 着せ替え人形はもうコリゴリよ。

 動きにくかったドレスをさっと脱ぎ捨てた。

「・・・なんかあなたが自分を偽りたかった理由がわかった気がする」

 下着姿の私を見て、彼女は呟いた。

「あ、あんまり見ないでよぉ。同性でも恥ずかしいんだからぁ・・・」

 ノーブラだったことに気付き慌てて彼女に背中を向けた。

 子供向けアニメのキャラが描かれたパンツと靴下に魔女がくれた赤い靴。

 それを見れば彼女でも察するだろう。

 もう一つの手で上着を取り、素早く着て、スカートもさっさと穿いた。

 って、これあんたのサイズじゃない? 若干キツイし、短くておへそ丸出し状態だし・・・。

 

 

 着替え終えた私は彼女と向かい合うように座った。

「七十八ミリメートル」

 突然呟く彼女。

「なにその数字」

「今のあなたの身長。元々百五十六センチメートルだったんじゃなくて?」

「・・・そうだけど」

 いつ測った?

「私は七十六ミリ。今のあなたは二十分の一に縮められている。フィギュアの丁度半分くらい。それがどういうことか解る?」

「さあ? 知らないわよ」

 実際、フィギュアの半分だろうとそうでなかろうと小さいのは変わりないんだし。

 彼女はそんな私の言い分に呆れたように溜息を吐いた。

「・・・今の私達は、フィギュアの丁度腹の部分までしかない。仮にフィギュアの大きさを普通の人間世界の大人に見ると私達はどう見える?」

「・・・幼児、とでも言いたいの?」

 今までの扱いからしてそうだろう。

 飯島 李可も頷く。

「あなたを小さくした人間はそういう風な扱いにしている。外見も、中身も」

「で、それが?」

「いや、それだけ。今のあなたは幼い子供扱いされていることに疑問を持っているように見えたから教えてあげただけ」

「不服に思ってるの!! 私中学三年生よ! 受験生よ!! そんな私がなんで年下の人形遊びに付き合わなければいけないのよ!!」

「この時期になってもまだ志望校が決まっていなかった、学校嫌いの元受験生の言うセリフとは思えないのだけど・・・」

「・・・うるさい! 一々揚げ足を取るな!」

 それと元を付けるな。今も私は受験生よ。

「・・・ひょっとするとあなたってキィキィ喧しいから飼い主(百合ガキ)にきぃと言う名前を付けられたの? すぐ怒るし・・・」

「知らないわよ!」

 思い当たる節はあるけれども・・・。

 っていつまでもコイツと茶番を続けたくない。

「・・・それで? 結局あんたは何しに来たの? まさか私を冷やかすためだけにわざわざそんな大きさになってここまで来たわけじゃないでしょ?」

 コイツのことだから、私を助けに来たってことはないと思う。

 きっと他の目的があって私に接触してきたに違いない。

 身構えていると、飯島 李可は一息ついた後、半目だった目を大きく開いて喋り出した。


「縞さん、お家で遊ぶのはもうやめてお外で遊ばない?」


 彼女のセリフとは到底思えない、小学生みたいな誘いに私は口をポカンと開けたまま、固まっていた。

 本当に何なのよ、あんたは・・・。


 

 






 


 




 

 

 

 


 

 

 本当に長く待たせてしまい、すみません。

 次話も失踪しない程度に頑張ります。

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