外伝 暗闇
お待たせしました。
外伝です。
同時に投稿している亜来のお話の前日譚になります。
とある夢を見ました。
周りは黒絵の具で塗りつぶされたように真っ暗で、進んでいる道と真上に見える月だけが白い世界。
ちなみに進んでいると言ってますけど、私が歩いているわけではありません。
私を小さくして、ペットとして扱っていたあの女。
それによく似た少女が道を進んでいて、私はその少女の手の平の上に居ました。
あの女とは違い、髪はこの世界の月のように白く、そして顔つきもあの女とは全然違っていました。
共通点を挙げるなら背丈と髪型と性別が女であるくらい。
この少女は私に話しかけることもなく、私が話しかけても無視して、この道中、表情一つ変えません。
まるで人形のように無機質でした。
そんな無言の散歩が数分続いた先にある白い大きな建物が見えてきました。
私から見ると大体一山程の高さのその建物が近づいてきても少女は表情一つ変えず、そしてその建物に到着しても足を止めずその中に入りました。
ドアも窓もない建物をすり抜けるように・・・。
中は外とは一変していて一見ごく普通の家の中になってました。
普通といっても、人間サイズの基準なので人形よりも小さい私から見れば何もかも大きく、異常でした。
そしてその建物に入った瞬間、あちこちから視線を感じ、寒気がしました。
その建物に入った先に別の少女が待ってました。
外見は少女と全く同じ、しかし、少女の膝までしかないその少女に彼女は私を手渡し。
始めに私を運んだ少女は私を渡すと外に消えていきました。
背丈がそれぐらいの少女でも私の五倍以上ある少女は私を両手で掴み、家の奥へ。
視野が低くなったのと、しばらく進んでみた後、改めてこの部屋が異常だと気付きました。
どの部屋も玩具がたくさん散らかっていて、その玩具は傷があったり、破れていたり、泥だらけだったりととてもお店で見るような綺麗なものではありません。
まるでこの家そのものが玩具の墓場みたいでした。
きっと最初に感じた視線もこの玩具たちだと思います。
嫌な予感がして自分の服装を確認しました。
案の定、あの女が私に着せたエプロンドレスは所々破けていて、下着が丸見えになっていてとても人前では見せられない姿でした。
慌てて隠そうとするも、少女に両端を掴まれている状態で手の自由を奪われていました。
やがて少女は適当な部屋で私を適当に置いていき、壁の向こうへ消えていきました。
桃色の壁、天井に桃色の絨毯、と気味が悪いくらい桃色に染まっていて、ドアどころか窓一つもないこの部屋。
そして桃色の絨毯を埋め尽くすように置いてある壊れた玩具たち。
傍から見たら私とその玩具たちの見分けがきっとつかないでしょう。
少女のように壁をすり抜けれるか、試してみましたが出来ませんでした。
出口らしい出口も見当たりません。
やがて、私は何度も何度も狂ったように叫びました。
夢はここで終わりです。
後日談ですが、この夢はあまりにも生気がなく、人形らしくなっていた私に飽きたあの女が下見、ということで見せたのだそうです。
私の怯える姿を見たかったのでしょう。
その夢を見た翌日に私は夢と同じようにボロボロにされて、箱の中に入れられました。
あなたが拾ってくれなければ、私はあの白髪の少女に拾われて、あの玩具箱に連れていかれていた。
本当にあなたには感謝しているの。
「怖い場所ね。聞いただけでもゾッとする」
知ってはいるけど、敢えて知らないふりをした。
あの少女は壊れた玩具を拾って、そこに捨てに行くだけ。
菊谷 真規という生きた人間も、三寸近く縮められ、衣服がボロボロにされるとその少女に拾われる。
その玩具箱に入れられたら恐らく二度と出ることはできない。普通の人間は。
それと一つ、本当にどうでもいいことだが、なぜこの子は自分の体験を物語・・・というか童話みたいに話しているのだろうか・・・。
菊谷 真規を拾ったその日の夜。
小さな電気スタンドが点っただけの真っ暗な部屋で彼女の経緯を大まかに聞いていた。
彼女は所謂不登校児で学校をサボって自分の部屋で眠っていたら、いつの間にかあの金髪少女に攫われたらしい。
それから数か月間彼女に玩具にされて、飽きたから捨てられたみたいだ。
「・・・・・・ねえ、元の大きさに戻りたい?」
普段よりも多少明るめなで彼女に持ち掛けた。
スタンドに全身が照らされてもなお、何かに怯えるようにぶるぶる震える彼女。
『・・・戻れるの?』
上目遣いでこちらを見る手のひらサイズの女子高生の姿は中学生の私からすると複雑な気分だった。
「ええ、私は悪魔だから」
悪魔という単語に菊谷 真規は一瞬怯んだ。
きっと自身を小さくした人物でも思い浮かべていたのだろう。
さすがにこの自己紹介はダメか・・・。普通悪魔と言っても信じる人はいないだろうし。
反省した私は怯える彼女の頭を指で軽く撫でてあやす。
「安心して。アイツとは違う。これは取引」
『取引・・・?』
「うん。私があなたを元の大きさに戻す代わりにやってもらいたいことがある」
『それは私にできるの・・・?』
「ええ、女子なら誰でも・・・だって、ただあなたには私の代わりになってほしいだけだもの」
『やる。よくわかんないけどやる。元に戻れるならなんでもやる』
「いい返事ね」
すぐに了承した辺り、余程小さい体が嫌なんだろう。
なんでもやる、ということはあまり言うべきではないとこの少女に教えておくべきか・・・。
この子の将来が心配だ。
「じゃあ、これ飲んで」
ペットボトルのキャップに入れた少量の液体を彼女の隣に置く。
『これは・・・?』
「睡眠薬。あなたが眠っている間に全て終わらせるから期待してて」
菊谷 真規はすぐに飲み始めた。
子猫のように舌をぺろぺろさせて飲む光景は不本意ながらも可愛いと思ってしまった。
即効性の睡眠薬のせいかあっという間に大の字に倒れ、彼女は眠った。
「女の子が大の字なんてはしたない」
自分がそうなるように仕向けたのにも関わらず、つい呟いてしまった。
苦笑しながら彼女の身に着けているものを全て剥ぎ取る。
さすがの私でも衣服までは大きくできないからだ。
「やっぱり小人の・・・それも女の子の肌って綺麗だ」
アイツに目をつけられるだけあってスタイルは悪くない。
どこかの百合ガキなら何をするかわかったもんじゃない。
体に小さな布を被せ、私が使っている、彼女にとっては大きすぎるベッドに運ぶ。
完全に眠っていることを確認すると、机の引き出しをそっと開けて中からあるものを取り出す。
銀色に鈍く光る尖ったナイフを彼女の腹を布ごと躊躇なく突き刺した。
さっきの睡眠薬は実は麻酔入り。痛みは感じないが、普通、ナイフを突き出されたら何かしら行動を起こすもの。
ましてや今の彼女の二倍以上の大きさのあるナイフで、しかもそれを刺そうとしているのだからなおさら。
だから変なことをされる前に眠らせた方が手っ取り早い。
「やっぱり・・・」
彼女の胴体に布ごとナイフを突き刺した私は静かに呟く。
普通出血している筈だが、彼女からは血液どころか液体一滴出てこない。
それでも心臓はちゃんと動いている。
不思議な身体だ。どういう仕組みになっているんだ?
そして、当の本人は何事もなくすやすや眠っている。
既に彼女は人の体ではなくなっている。
人形という単語が適当かもしれない。
私は彼女を元の大きさ戻すだけであって、人間の体に戻すことはできない。
答えは単純で、それは魔法によるものではなくて薬品によるものだから。
実際、元の体に戻すなんて彼女に一言も言っていない。
第一、この状態で人間に戻ったら間違いなく彼女は死んでしまう。
このナイフは彼女に掛かった魔法を抽出するだけ。
暫く経つと銀色だったナイフが次第に黒く染まっていく。
そして、少しずつだけど、彼女の体が大きくなってきている。
案の定、彼女の縮小は魔法によるものだった。
それから一時間程経つと彼女は元の大きさに戻っていた。
彼女の胴体に大きく刺さっていたナイフも今は彼女の胸元に小さく刺さっている。
黒く妖しく光るナイフを彼女から引き抜く。
「これを刺せば私も小さくなれる」
そして、菊谷 真規という女子高生は、これから飯島 李可という女子中学生として生きていく。
後はお得意の記憶操作をするだけだ。
依然、その彼女は何事もなく眠っている。
「・・・う~ん、ちょっと中学生にしては・・・・・・成長しすぎ・・・か・・・」
小さいと可愛く見えた彼女でも、元の大きさに戻ると・・・。
背丈は私と同じくらいでもそれ以外は・・・・・・やっぱり彼女は高校生だった。
中学生というには違和感がありすぎる。
仕方ない、ちょっと約束とは違うけど少しだけ彼女を幼くするか。
断っておくと決して嫉妬なんていう私怨に囚われたわけではない。
それと・・・胴体の大きな刺し傷の治療と記憶操作も朝までに何とかしなければ・・・。
どうやら今夜は一睡も出来そうにない。
朝、菊谷 真規は起きるなり、元の大きさに戻っていた自分を見て嬉しそうにはしゃいでいた。
「嘘っ!! 本当に戻ってる!! あなたって本当に凄い。でも、あれ!? 私ってあなたより身長低かったんだ。同じぐらいかと思ったのに。それに顔だちもちょっと幼くなっているし、胸も少し小さくなっているような・・・気のせいかな?」
「今日からあなたは飯島 李可として過ごす。だから私の制服のサイズに合うように調整した」
「なんか幼すぎる気がするけど・・・・・・。まあ、いいか。ありがとね」
細かいところを気にしない彼女でよかった(何がよかったかは自分でもわからない)。
私は中学三年生だけど、彼女は中学一年生くらいまで若返らしている。
制服は着れる筈だから問題はない。それともう一つ・・・。
「いい加減、服を着たらどう?」
「あっ・・・」
頬を赤らめた彼女は慌てて傍にあった毛布で自分の体を隠す。
到底、女子高生には思えなかった。
菊谷 真規には朝食中に条件を説明した。
ただ彼女は私の代わりに飯島 李可として学校に通ってもらうだけだけ。
記憶操作は既にしているので彼女が飯島 李可だということに誰も違和感は抱かないはず。
単純に飯島 李可という人間の記憶を消せば手っ取り早い話だけど、とある理由でそれをしなかった。
菊谷 真規にはあの学校でやってもらいたいことがあるからだ。
「・・・監視、か・・・。あんまり気が乗らないけど・・・約束は守らないと・・・それで、誰を監視するの?」
「小さかったあなたを持ち帰ろうとした人物」
普通に答えた。
「いぃっ・・・!? ってことはあの子?」
案の定、彼女はブルブル震え始めた。
「そう、よろしくね」
そんな彼女を気にも留めず、不器用な笑顔で流す。
取引なんだから守ってもらわないと。
その気になればまた小人にだってできるのだから。
「大丈夫、その子もあなたを私として見ているから」
目の敵にはされているが。
「・・・とりあえずこれ」
財布を彼女に渡す。
「うわぁ!? 札束が一杯! こ、これでどうすればいいの?」
さっきとは別の意味で彼女はまた震えていた。
流石に入れすぎたか?
「お好きにどうぞ。生活用品とかいろいろ買いたいものがあるでしょ。私は疲れたから寝る。それじゃあおやすみ・・・」
「えっ、えっ、えぇ~! ちょ、ちょっと待って、き、急にそんなこと言われても!!」
慌てる彼女を無視してベッドに潜り込んだ。
日差しが眩しいと眠れない。
事前に取引を破ったらどうなるかは彼女に教えているから大金を持ったまま逃げるなんて無意味なことはしないと思う。
そもそも彼女を知っている人間はもういないのだから。
いや、ああ・・・あれがいた。
菊谷 真規を記憶操作しているときに思い出した、一人の元クラスメート。
名前は縞 亜来。
菊谷 真規の記憶に出てきた小さな姿。それと飛師 栞のこれまでの行動と挙動からして、彼女がそいつの家に囚われている可能性が高い。
近々、小さくなって行ってみよう。
会えないかもしれないが。
良ければ同時投稿されている四話も読んでくれれば幸いです。