縞 亜来サイド 一話 女難
サイズフェチのお話です。
男性の登場予定は今のところありません(ガールズラブですので)。
そちらを期待していた方は申し訳ございません。
暑かった夏休みが終わり、二学期が始まって二日目の出来事だった。
朝、登校して下駄箱を開けると、そこには一通の手紙が置かれていた。
『今日の放課後 校舎裏で待ってます』
鉛筆で殴り書きしたような文字が書かれていた。
果たし状? それとも、ラブレター?
この学校も三年目になるけど、特に目立った覚えがない自分に、好意を抱かれることはないと考える。
じゃあ、果たし状か? 喧嘩はしたことないんだけど・・・。そもそも、自分を倒して何の得がある?
結局、今日はそのことで頭が一杯になり、授業もまともに聞けなかった(受験生なのに・・・)。
そして、放課後。
「・・・これ、進路調査・・・。再提出だって・・・」
「あっ、うん・・・ありがとう」
あれこれ思案している間に、目の前には女子生徒が立っていた。
その女子は用紙だけ渡すと、すぐに去っていった。
ざっと百五十センチちょっとの背丈で、やる気のなさそうな目を隠すように伸びた前髪。
この生徒は、飯島 李可だ。
出席番号一番の女子で委員長をしている。
あまり人に関わらない彼女自ら、渡しにくるのも珍しい。
そう思いながら、用紙に目を通す。
用紙は今朝書いた進路調査表。
何処の高校を受験するか、という中学三年生なら誰もが書く用紙。
さすがに未定じゃダメか・・・まだ、決まってない・・・。
用紙をカバンに仕舞って、颯爽と教室を出た。
校舎は一つしかないので、ここで間違いないはず・・・。
誰もいない、校舎裏でじっと待つ。
ラブレターだったら嬉しいけど、果たし状だったら・・・・・・一方的にやられて、さっさと終わらせよう。
ていうか、こんな手紙、無視したほうがいいのに、どうしてここに来た?
心のどこかでラブレターだと期待しているのか?
校舎裏は簡潔に言えば小庭で、大木(名前は知らない)が数本植えられているだけで何もない、地べた。
ここは冬近くになると、地面一杯に落ち葉が溜まって、掃除をするのが大変というどうでもいいステータスもあるけど・・・。
その中の一つの大木に背を掛けて、送り主を待っていた。
それから数分後、送り主が現れた。
「縞先輩! あなたが好きです!! あたしと付き合って下さい!!!」
果たし状の線で間違いないと思っていた矢先。送り主が告白してきたので、動揺した。
潤んだ瞳でこちらを上目遣いする少女。
よく見てみると、校内で美少女と囁かれている、後輩の飛師 栞だった。
百四十センチ前半の背丈の童顔のツインテール。
間近で見ると、本当に人形みたいな綺麗な子だった。
このシチュエーションは一部の男性なら、すぐにOKを出すと思う。
「ごめん。・・・そっちの趣味、ないから・・・」
しかし、そんな告白をあっさり切り捨てる。
理由は単純。
「・・・男子じゃなくて、女子なんだけど、私」
私は縞 亜来。正真正銘の女子だ。
スカート穿いている時点で気付け!
「あたしは女子の縞先輩が好きなんです!!」
「はぁっ!?」
つまり、この後輩は私を女子と知って、好きだと告白し、付き合おうとしているのだ。
ちなみに私が飛師 栞と会話するのはこれが初めて。
部活に所属していない私を後輩が知っているはずもないのに。どうして彼女は私に・・・?
「だから、私はそっちの趣味はないのよ!!」
ショックで固まっている後輩を無視して、私は踵を返す。
さてと、受験も控えてるし、帰って勉強しよっと。
「あたし・・・絶対に諦めませんから!!」
その叫びも私は無視。
大体、彼女は私のどこに惹かれたの?
部活もしていなければ、友達もいない、そんな影の薄い私に。
全然思い当たる節がない。
彼女は本気みたいだったけど、私からしたらからかっているとしか思えなかった。
結局は損。
手紙のせいで授業に集中できなかった時間を返してほしいくらい。
そんなモヤモヤを抱えながら、帰路に就いた。
最近、私は母とうまくいっていない。
というのも、母の仕事の時間上、顔を合わせられないのだ。
母はちょうど、今の私ぐらいの年齢で私を産み、独りで育ててきた。
私は父親の顔どころか、名前も知らないし、祖父母にも会ったことがない。
私が聞いても、全然教えてくれない。
それでも、中学に入るまでの関係は良好だった。
しかし、中学に入るとすぐに、母はパートの掛け持ちを始め、家にいない時間が多く、次第に会話も減っていった。
たまに一緒に食事をするけれど、お互いに目を逸らして会話が少ない。話したいと思っているけど、話題がない。
ただ、母の顔を見ると、時々、邪魔者を見るような眼を私に向けていた。
ただただ冷めていく家庭に、今日、とうとう止めが入った。
「あなたが縞 亜来さんですね」
ボロアパートの二階に陣取っていた少女は、私の姿を確認すると、明るい声で訪ねてきた。
低い背丈で金髪なので、どこかの国から留学してきた小学生に見えた。
黒いローブを羽織っているので、違うと思うけど・・・
「・・・そうだけど。何か用?」
「いえ、あなたのお母さまがワタシのところにやって来て、こう言いました。私の娘はいりませんか、と」
言っていることはよく分からないけど、馬鹿にされていることは分かった。
「はぁ!? あんたふざけてるの! あんたみたいなチビに母がそんなこと言うわけないでしょ!」
「その言葉、忘れませんからね」
少女を無視して、自室まで速足で行き、部屋に入った。
さっきの件で、モヤモヤしていたせいか、少女にきつく当たってしまった。
少女の背丈が栞と同じぐらいだったせいかもしれないけど。
普段はあんな汚い言葉を使わないのに。
それだけイライラしているの、私は。
今日は女難の相でも出ているのか?
男子にモテるならまだしも、女子にモテてもしょうがない。
そもそもなんで私がこういうことで頭を悩ませなければならない。
受験生なら勉強に集中しなくちゃ!
そんなこんな考えている内に部屋に到着。
「これ、どういうこと!?」
勉強机も洋服箪笥もベッドも何もかも消えていた。
試しに他の部屋を覗いてみたけど、特に変化はなかった。私の私物がないことを除いて。
まるで、私が最初からいなかったみたいに。
「おかしいよ・・・こんなの・・・」
「別におかしくありません。だって、もうあなたには必要ないのですから」
さっきの金髪少女が後ろから語り掛けてきた。
「どういう意味よ! それは!」
振り向いて少女の胸元を掴み、睨んだ。
「こういうことですよ!」
少女は手に持った何かを私の顔面に吹きかけた。
冷たい水が掛かった感触を認識したとともに、私の意識は闇に沈んだ。
全身に冷たい何かを掛けられた感触とともに目が覚めた。
水か何かを掛けられたらしく、全身がびしょ濡れ。
立ち上がって、辺りを確認するけど白い床が延々と続いていて、五十メートルぐらい先には大きな白い壁があった。
天井には巨大な電球がぶら下がっていて、今にも落ちてきそうで怖かった。
ただ壁と電球があるだけの部屋で他は何もなかった。
その場に座り込んで考えようとした時だった。
『おはよぉ、チビちゃん。随分、可愛くなっちゃてぇ』
天井から大声が響いたので見上げたら、見覚えのある巨大な顔があった。
「ひぃ!? ちょ、ちょっとあんた! な、なんでそんなに大きくなってんのよ?」
先ほど、ボロアパートで待ち伏せしてた金髪少女だった。
その少女は私を馬鹿にしたように笑い始めた。
『チビちゃんが小さくなったんだよぉ。お母さまは君をワタシにくれたんだぁ。だから、これからはワタシが君の飼い主だよぉ。よろしくねぇ、チビちゃん』
小さくなったのは私!?
嘘だ・・・。こんなの絶対嘘だ! 夢に決まっている!
試しに頬をつまんでみるけど・・・風景が変わることはなかった。
『あっ、そういえばさっきワタシのことぉ、チビって馬鹿にしたよねぇ? お仕置きしなきゃ~』
少女の巨大な手は私を簡単に捕まえ、巨大な顔に近づけた。
「な、なにする気!!」
目の前の巨大な顔はにやりと笑い始めた。
「いやぁあああああああああ!!!!」
少女は掴んだ手を思いっきり握りしめた。
いままで味わったことのない激痛が私を襲う。
『どぉ? こんな弱い体になって? 君みたいなチビなんて簡単に殺せるんだよぉ』
「はぁ、はぁ・・・」
少女は握りしめた力を緩めたので、今のうちに息を整える。
なんで私はこんな目に遭っているの?
『まぁ、簡単には殺さないけどね。せっかく手に入れた玩具をすぐに殺すのも勿体ないしねぇ』
再び私を白い部屋の中に戻しても、笑うのをやめない少女。
その姿はもう、私には畏怖の存在でしかなかった。
『あっ、ワタシのことは魔女って呼んでねぇ。それともう、元の大きさに戻すなんてことはしないから。そのつもりでねぇ』
嫌なことを言い残して、魔女は私の視界から消えた。
これから、ずっとこの大きさで過ごすの? しかも、年下のペットとして。
思いつく先が地獄しか浮かばず、それの恐怖と濡れた体のせいで寒気が治まらなかった。
これは夢だ、夢だ、夢だ!!
現実逃避を試みるも、魔女に握りしめられた痛みと感触が未だに消えなかった。
あれから数時間が経ち、痛みが消え、制服も乾いていて喋る気力も戻っていた。
しかし、巨人の大きな瞳がずっとこちらを見ていて、気分は良くなかった。
「そもそも、こういうのって、母じゃなくて、私の許可が必要じゃないの?」
私は母から何も聞いていない。
なぜこうなっているのかも分からない。
白い壁の向こうから、観察している魔女は一枚の用紙を私に見せてきた。
その用紙も私の五倍くらいの大きさがあって、内容は契約書。
そこには母の名前が書かれていた。
「話聞いてた? なんで私に許可を取らないの?」
聞いていても絶対に許可はしないけど。
『君は契約書に犬とか猫の名前を書くのぉ? 普通は書かないと思うけどぉ?』
「それらと私を同列にするなぁ!」
激高して、魔女を睨む。
しかし、本人は面倒くさそうな顔をして、人差し指で私の胸を軽く突いてきた。
それだけで、私は転倒。
『今の君には人権がないのだから当然だよ。少しは立場を弁えてよね。それとも、頭が悪いの?』
「馬鹿にしないでよ! これでもあんたよりは生きているんだからね!」
『忠告しても、まだ立場を弁えない・・・。君はおバカァ? 少なくともワタシは三百年は生きているけどね』
「嘘でしょ? そんなの」
阿保らしい数字にちょっと笑ってしまった。
魔女はムッとして、私の足を摘まんで持ち上げた。
「やめて!? 頭に血が上るからやめて!!」
逆さまな状態でスカートを抑えながら、訴えるがやめてくれない。
『大丈夫だし。だってチビちゃんはちょっとのことでは死なないように魔法で強化してあるもん。例えば、こうしてもね』
私の足を掴んでいる手を少し高く持ち上げて、手首をクイッと捻り、私は反動で手の甲に頭をぶつけた。
「イタッ!? ちょ、ちょっと、何をする・・・きゃぁああああああ!!!」
今度はその手を勢いよく振り下ろし、私は白い床に思いっきり叩きつけられた。
私の周りは赤く染まっていた。
それは全部私の血。
絶対に死んだと思ったけど、微かに意識が残っている。
朦朧とする意識の中、顔を魔女の方向へ向けた。
『ねぇ。死なないでしょ~? 普通なら顔がグシャグシャになって、体がバラバラに千切れていてもおかしくないのにさぁ。血がちょっと出ただけで済んでるじゃない。これぐらいじゃないと虐めがいがないからさぁ』
嗤っている魔女に抱いたのは恐怖よりも、怒りだった。
「・・・あんたねぇ。仮にも私はあんたのペットでしょ。もっと大事に扱いなさいよ・・・」
痛みに耐えながら声を絞り出す。
しかし、その掠れた声は嗤う彼女の声で掻き消されてしまう。
気分の悪さと激痛と、魔女の声で狂いそうだった。
その状況に耐えられなくなった私はいつの間にか意識が消えていた。
「ねえ? あなたは怖くないの? どうして魔女に逆らうの? 言う通りにしていればそんな目に遭わないのに」
「はぁ、はぁ・・・絶対に、嫌!!」
この生活も四日目。
気分の悪さが治まらない。
ついさっき、さんざん頭を叩きつけられたせいか、それとも、踏みつぶされた悪影響か。
この白い部屋に、もう一人の来客がいた。
血塗れの私を心配そうに介抱している彼女。
白いエプロンドレスを着た、長い黒髪の彼女は、私より数か月前に魔女に捕まったらしい。
私があまりにも反抗するので、その度に治癒をするのが面倒になった魔女は、別の部屋で飼っていた彼女をここに連れてきた。
魔女は彼女に布切れを渡し、それで私の体を拭かせていた。
その布切れには治癒の効果があるらしい。
今、魔女はここにはいない。
別の少女がいる部屋に行っている。
つまり、今はこの女子と二人きり。
マキという名の彼女は高校二年で私より二つ年上だった。
「あんたこそ、こんな扱いされてていいの? プライドはないの?」
「私だってプライドはあったよ。でも、何もかもへし折られたわ。さんざん玩具扱いされて、着たくもない洋服を何着も着せられたのよ。逆らったら虫のように痛めつけられるし。もう、人間として終わってるじゃない、私たち」
涙ながらに私に訴えるマキ。
この姿になって一週間も満たない私は、彼女がこの数か月の仕打ちを耐えてきた痛みも気持ちも理解できない。
きっと魔女も今のマキのように、私の全てをへし折るつもりだ。
「あなたも、さっさと諦めたほうがいいよ。あまり痛めつけられると体がおかしくなっちゃうよ」
マキは諦観した眼差しで私に説得をしてきた。
もともと背丈が7センチほどだったり、なかなか死ななかったりと色々おかしくなっている。今更だった。
「私は絶対に屈さないから!」
「わかった。・・・もう言わない」
簡単に説得を諦めるマキ。
私は何も期待していない・・・そう思わせる顔だった。
今のマキは本当の人形のように綺麗で無機質で、静かだった。
『ワタシ、チビちゃんに飽きちゃったぁ』
次の日、私の部屋を覗いた魔女は唐突にそういった。
「急にどうしたのよ?」
目を擦りながら、魔女を見上げる。
朝早くから何の用なの? 眠いんだけど・・・。
『だって、可愛がっても泣かないし、逆らうし、血生臭いし』
「そんなの知ったことじゃないわ。血生臭いのはあんたのせいでしょ!」
『こんな風にワタシが相手でもそういう口調で話すしねぇ』
お仕置きと言わんばかりに人差し指で突かれ、転倒。
その程度のことで突くな!!
あっという間に眠気が吹き飛んでしまった。
転倒した私は巨大な手によって鷲掴みにされ、大きな顔に近づけられた。
『感触でわかるよぉ。怖いのでしょ? 体が震えているよぉ』
怖い、というよりは、魔女の冷たい手に握られる感触が気持ち悪くて、震えていた。。
魔女は口から息を私に吹きかけてきた。
「ゴホッ、ゴホッ! 臭い! 何食べたのよ!?」
生暖かい風とともに酷い悪臭で咳を出してしまった。
『さっきにんにくを食べたのよぉ。これで少しは血の匂いが消えるでしょう?』
「うぇっ、なんてものを食べてんの!!」
きっとこれがしたいために食べたんだ! このサディストめ!
両手は体とともに魔女に握られているので、鼻を摘まむことが出来ない。
「普通に、消臭剤か香水をかければいいじゃない!? うぇっ、くさっ・・・」
マジで吐きそう・・・。
『それじゃあ、つまんないも~ん。あっ、もし吐いたらお仕置きね』
「っ!?」
反射的に歯を強く噛んで、口をギュッと閉じた。
その姿に魔女は上機嫌に大笑い。
『黙っていれば可愛いのに・・・。本当に残念・・・』
うるさい! 余計なお世話だ。
『そんなチビちゃんに朗報~。今日でマキちゃんとお別れよぉ~。ワタシともねぇ』
お別れってどういうこと? 元に戻してくれるの?
『あっ、元には戻さないからね。マキちゃんもそんな寂しそうな顔をしちゃダメだよぉ』
心を読まれた!?
『チビちゃんを他の誰かに渡すだけよぉ』
誰に渡すつもり・・・?
『そう言えば・・・。チビちゃんは小さくなる前に告白されたんだってねぇ?』
「っ!?」
なんでそれをあんたが知ってる!? まさか・・・。
『今、ビクッてしたよねぇ? 君の考えてる通りだよぉ。おチビちゃん』
「そっ、それだけ—―ゲホッ、ゲホッ! それはやめて!!」
思わず口が開いてしまった。
まさか、あの子に私を渡すつもりなの!?
『さ~てぇ、チビちゃん。臭いからお風呂に入りましょうねぇ~』
「いやぁあああああああ!!」
私は鷲掴みにされたまま、その部屋を出た。
最後に寂しそうに私を見つめるマキの姿が見えた。
久しぶりのお風呂は最悪だった。
猫用のボディーソープを付けたタオルで全身をゴシゴシ擦られるわ、湯船に放り投げられて溺れそうになるわ、ドライヤー(強風)で吹き飛ばされそうになるわとまるで拷問だった。
血だらけで汚れていた制服も、下着も全部、私が風呂から出たころには綺麗になっていた。いつの間に洗濯したの? てっきり人形の服を着せられると思ったんだけど・・・。
そのことを、私で徹底的に遊び尽くして満足な笑みを浮かべている魔女に聞いてみたところ・・・
『君はワタシの好みじゃないもん。本当は裸でもいいんだけど、風邪をひいてうつされても困るしぃ』
と、私のことは全然考慮に入れてない回答をした。ムカつくけど、人形の服を着せられたり、裸にされるよりかは十分マシ。
その後、魔女は人形一つぐらい入る白い小箱の中に私を入れて蓋を閉める。
中は暗くて見えないけど、下には布が敷かれていて、居心地は悪くはない。
本当にあの子のところに連れて行く気なの?
つまり、私を後輩のペットにしようとしている・・・?
この魔女はどこまで私のプライドを貶めれば気が済むの?
そこまでして私を屈服させたいのか?
揺れる小箱の中で私は無駄とは分かっていても、思考を巡らせていた。
「・・・後はあんたが知っている通りよ。箱が開いたと思ったらあんたの顔があって、しかも大きな声で叫んで・・・本当にびっくりしたんだからね!!」
さすがに一通り語ると疲れる・・・。
まあ、お椀のお湯に浸かりながらだったので、割とリラックスしながら話していたけどね。
ここは飛師 栞の家のお風呂場。
まだ時間的には昼だけど、どこかの変態な後輩にジャム塗れにされたり、入りたくもない牛乳風呂に入れられたり、ファーストキスを奪われたりと、心身共々汚されてしまった私は入浴を要求した。
いつか復讐してやると、無謀な誓いを胸に秘めながら。
そして、現在の私の飼い主はお椀の中の私をイヤラシイ目で観察しながら、真剣に話を聞いていた。
そんな後輩対策に私は、小さく切ったタオルで体を隠していた。
『でもぉ、その魔女のおかげで先輩はあたしのペッ・・・コホン、あたしと一緒に暮らせているんだよねぇ?』
・・・真剣には聞いていなかったみたいだ。
「さっきペットって言おうとしたよね? この変態! レズビアン!!」
小さいからよく聞こえる。
しかし、飼い主はその発言にピリッときたらしい。
『あたしを罵倒する先輩も可愛いけどぉ、泣き叫ぶ先輩のほうが可愛いんだよねぇ・・・』
「っ!?」
嫌な予感がして、身に着けているタオルを強く押さえた。
『いやいや、あたしってまだ先輩の全てを見たことないんだよねぇ? 服を脱ぐときも隠してたし・・・。てなわけで脱がしていい?』
「いいわけないでしょ!!」
このスケベ、と言おうとしたけど余計怒らせてしまうだけなので、堪えた。
今の私に上目遣いでおねだりする戦法は通用しない。つまり、どんなに可愛い声で言っても無駄。
飼い主は『ちぇ~、わかったよ。先輩が自分から脱いでくれるまでしないよぉ』と引き下がってくれた。
絶対にそんなことはしないから。
『ずるいよぉ。先輩はあたしの全てを見ているのにぃ』
何も身に着けていない状態で湯船に浸かっている後輩は、自分の胸を触りながら愚痴ってきた。
そもそもあんたは汚れてないのだから、入る必要ないはずだけど!!
私だって好きで見ているわけじゃない。
綺麗な肌をしているらしいけど、小さい私から見たら、産毛とかシミとか毛穴とかが大きく目立って、見ていて気持ちいいものじゃないんだからね!!
それに小学生に間違われるだけあって、とある部分も残念だし・・・。
『今、すごく失礼なこと考えているでしょ?』
「痛っ!? 別に考えてないわよ!!」
頭を指で突かれて本当に痛かった。
しかし、バレていたとは・・・。
『栞ちゃ~ん。これからは私を好きにしていいから変なことするのはやめてぇ、とお願いすれば、あたしも大事に扱うのにぃ』
「なにその下手くそな物真似。好きにしていいって言ったら絶対あんたは変なことするでしょ!!」
『チッ、バレたか・・・』
「誰でも分かるわ!! どこまで私を馬鹿にすんのよ!!」
これ以上、この姿でいるのも身の危険を感じるので、上がろう・・・。
「ねえ? そろそろ上がりたいのだけど・・・?」
飼い主に交渉。
『だ~めぇ! まだやってないことがあるもん!』
交渉はあっさり失敗した。
この後輩、何をやるつもりだ・・・?
一度風呂場から出て、洗面所から持ってきたあるものを、後輩は湯船に浮かべた。
『ゲーセンとかにあるでしょ? コインを入れたら動く乗り物ぉ』
それだけで何をされるかを察知してしまい、背筋が凍りついた。
逃げようにも逃げられるわけがなく、私は巨大な手に捕まり、それに乗せられた。
飛師 栞にとっては片手で掴めるほどでも、私にとっては乗り物として起用してしまう。
黄色くて丸みを帯びた、その背中はちょっと揺らされただけ落ちてしまうほど、不安定な場所。
『うん、アヒルの玩具に乗ってる先輩、可愛い~! 写真撮って待ち受け画面にしたいくらい可愛い~』
後輩は手を叩きながら興奮。
こいつはどんだけ私をコケにしたら気が済むの?
腸が今にも煮えくり返してしまいそうなほど、ムカムカした。
「ねえ、変態。私・・・もう上がりたいのだけど、いい?」
殺気を十分に込めた眼で後輩を睨んだ。
『ひぃ!? せ、先輩・・・小さいくせに怖いですぅ・・・わ、わかりましたぁ!?』
小さいは余計だ!!
でも、効果は抜群。
後輩は玩具ごと私を持ち上げようとしたけど、持ったときの揺れで私は湯船に落ちてしまった。
「ちょっ、早く助けなさい!? 溺れちゃう!!」
慌てた後輩は私をさっと掴み、手のひらに置いた。
ふぅ~、助かった。
「ありがとね」
後輩を見ると、なぜか頬が紅潮し、うっとりした目で私を見ていた。
『せんぱ~い。可愛くて綺麗な体してるぅ~? まさか、自分から見せてくれるなんてぇ~』
まさかと思い、下を見ると・・・。
「きゃぁああ!! 変態!! 見るなぁ!!」
落ちた反動でタオルが脱げていて、今は何も身に着けていなかった。
慌てて体育座りをして、見せたくない部分を隠した。
『いいじゃないですかぁ? 女の子同士なんだしぃ』
後輩は私が身に着けていたタオルをいつの間にか回収していて、それを見せつけていた。
「いいから早くタオルを寄越しなさい!!」
小さな私の叫びはお風呂場中に響いた。
まだまだ未熟ですが、よろしくお願いします。




