熊の親子
「セレスの覚悟はわかった。だったらすぐにも行動を起こさないとならないな」
「そうね・・・一度王城に戻ったらセレスが外出できる機会はほとんどないのでしょう?」
「身体一つで行くしかないわね・・・」
タクミは四次元ポケットからミスリルのブレスレットを出してセレスに渡す。
「これがあれば、俺達は互いの居場所をある程度知る事ができるからつけておいてくれ」
さらに仮面を取り出し
「これを使えば今の俺達のように顔を変えることができるからここから出れば怪しまれないですむだろう」
セレスがすぐマスクをつけると別人の顔になる。
「鏡をみたいところだけど後でいいわ。で・・・どうするの?」
「セレスに着替えてもらってそこの窓を破る。それで、セレスが見知らぬ男たちにさらわれたと俺達が騒げば・・・」
「そうね・・・王女がさらわれたと焦って捜索にでるでしょうね」
「そういうことだ。顔と服装が違えば人数までは意識しないだろうから。その後ゆっくりと出れば良いさ」
メグミのマジックバックからメグミが着替えをいくつか出しセレスに着替えさせる。着ていた服をマジックバックにしまう。
タクミが洗礼室の窓を椅子で破り、大げさに叫ぶ!
「た、大変だ・・・」
声を聞いて慌てて修道士や兵士達が入ってくる。窓を指さして
「お、お話しを聞いていたら突然窓から男達が入ってきて・・・修道女様を連れて出ていった」
少々大根役者だが、兵士達はタクミの報告を聞いて慌てて駆け出していった。腰を抜かしたように演技するタクミと震え涙する女を3人が演じている。
兵士たちが去ったあと、教会の職員に肩を貸されて退室し、怪我はないと伝えると予想どおり帰宅するように勧められた。
「うまくいったわね」
「演技がよかったんだろう?」
「かなり棒読みだったけどね」
「お上手でしたよ皆さん」
街中には急激に兵士が増えた。どうやら王女の探索のために兵士が招集されたのだろう。
「どうするの?」
「このまま北の荒地へ向かおう。王都の北門は警備が厳重だろうし、身分証明書もないから潜入したときのように壁を超えるしかないな」
北門から少し東寄りに見つけた人目につかない場所で二往復して壁を超える。一人をおぶり、一人を抱きかかえるようにしたが、誰が抱きかかえられるかで少しもめた。
無事に王都から脱出し北にあると言う荒地へ向かい歩く・・・。ほどなく開けた場所に荒地を見つけたのでおそらくはここがそうなのだろう。心配なのは、王女の誘拐事件が熊族の処遇に影響しないかだが、こればかりは祈るしかない。もし、明日熊族が連れてられてこなければ再度侵入しなければならない。
タクミはコテージを出して寝床を用意する。コテージは、改良しておいたので前の形よりも若干大きくなっているが、3人分しかベッドがない。
「女性陣は、少しコテージで休んでいてくれ俺は見張りをしているからな」
タクミは結界を張ると四次元ポケットからコーヒーを出して飲み始める。しばらくの間星空を眺めながら過ごし今後の事を考える。熊族の事も考えてやらないといけないな・・・
気がつけば梟が鳴く声の他にパキパキっと小枝を踏む音が聞こえる。
「飲むか?」
不意に後ろに声をかけると
「うん」
と返事があった。四次元ポケットから暖かいココアを出してセレスに渡す。自分にはもう一度コーヒーを出した。
「不安なのか?」
タクミの隣まで来るとセレスは、そこに腰かけ頷いた。
「私・・・恨まれたりするのかな・・・」
「なぜだ?」
「だって・・・王都の人を裏切ることにならない?」
「セレスは、王都の人を救いたいと考えているだろう?」
「うん」
「なら。その考えに自信を持つことだな。自信を持って自分にできることを精一杯する事だな」
「タクミは王としてそうしているの?」
「俺はわがままな王だってみんなには言ってある。俺が思った事を俺が思うようにするだけだ。良いか悪いかなんてのは、見る奴の価値観や見方で変わるもんだ。だからそんなのはいちいち気にする必要はない。自分が正しいと思う事を正しいと思うやり方で進めれば、同じ考えを持つ奴は喜んでついてくるだろうさ」
「タクミは怖くないの?」
「怖い?そうだな・・・仲間が傷つく事や仲間が苦しむのは怖いな・・・」
「タクミにはかなわないね・・・私は、自分が傷つく事が・・・怖いよ・・・」
「わからない事や見えない事、先の事を不安に思うのは当たり前だぞ。それにセレスには特別何か力があるわけじゃないだろう?」
「え?」
「背伸びする事はないんだよ。自分の身の丈にあった事をするんだ。セレス1人で人族を背負う必要なんてないし、背負えるわけがない」
「でもタクミはたくさんの獣人さんやエルフさんたちからも慕われているでしょ?」
「全員じゃないさ。俺の考えに賛同した一部だよ・・・。どんな種族にも色々な考えを持つ奴がいる。アリヒアの兄さんなんて最後まで俺の考えを否定していたよ」
「そう・・・なんだ」
「ああ。だからセレスもセレスと同じ考えを持っている一部の人だけ考えればいいんだよ」
「私の考えっておかしくないかな・・・」
「さあな・・・どれが正しいなんてことはないだろうしな。俺の考えだって俺の勝手なもんだし、自分の
わがままでいいんだよ」
「わがままか・・・私はね人族の中にも平和とか融和を目指している人がいるって信じているの・・・みんながみんな他種族を嫌ったり避けたりしているわけじゃないの。だけど、今の王都ではそんな事を言ったら何をされるかわからないからみんな口をふさぐの・・・タクミの国なら口をふさがないでそう言えるよね?
」
「ああ。当然だ。俺の作ったミクスはそう言う国だからな」
「よし!元気でてきた。私はまずできる事を頑張るしかないな」
「ああ。ならさっそくミクスで捕らえた兵士達をどうにかしてくれよ。リーダーはいないし、捕虜のまま置いておくわけにもいかないからな」
「それが私の最初の仕事だね」
「違うぞ・・・まずは熊族の捕虜を連れ帰る事からだ。今日からは俺達の仲間なんだろ?仲間とは力を合わせて戦うもんだ・・・頼りにしているぞミクス国人族リーダーセレス」
「頼りにしてるわよ。ミクス国国王タクミを」
セレスと握手していると・・・
「何よ・・・二人で良い感じになって・・・」
「仲間はずれはいけないのでは?」
とメグミとミールもやってくる。みんなの分のココアを出してカップを合わせると
「新たな仲間と新たな夢に・・・「「「乾杯」」」」
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翌朝、コテージを収納した4人は、荒地が見える場所に2人、王都の方が見渡せる位置に2人と別れ様子をうかがう。ほどなく熊族の一団を連行する兵士たちが視界に入る。
「よかったな・・・中止されたら困るところだったぞ」
「でもどうやって助けるの?みんな紐で縛られているし、兵士も結構いるみたいだけど」
俺とペアを組んで兵士達の隊列を見ているセレスが聞いてくる。
「それはメグミ達と合流してから説明するよ」
2人は、メグミ達のところへ合流すると
「予定通り熊族が連行されてきた。隊列は縦に長く兵士が前後を固めているようだ。熊族は隊列の中心にいるから前後のどちらかを抑え、中央の熊族は俺が結界で守るつもりだ。メグミとミールは、前方から兵士を挑発してくれ隙をついて俺が中央を抑える。セレスは今回は見張り要員だな」
「ごめんね、役に立てなくて」
「気にすんな・・・それぞれ役割ってのがあるからな」
タクミの指示どおりに配置につくとほどなく隊列が予定した場所に到達する。
「何者だ!仮面をするとは怪しい奴め!」
「少し遊んでさしあげますわ・・・」
「ふざけるな女2人だとっとと拘束するぞ!」
仮面と安っぽい挑発に前方を守る兵士に加え後方の兵士も集まってくる。メグミとミールを取り囲んだ兵士たちが、一斉に襲い掛かるが、メグミは剣を出すと兵士達を簡単に倒していく・・・ミールは素手で兵士に向かい手刀だけで制圧するつもりのようだ・・・
「なんだこいつら・・・手ごわいぞ一気にいけ」
さらに多くの兵士がメグミ達に集中する。熊族を抑えるのはわずかな兵のみだ。タクミは、兵士たちの視線がメグミ達に向かっているのを確認すると背後から接近し熊族を拘束する縄を切る。
「オーボーに頼まれて熊族を救出に来た。この円から出ないでくれ」
結界を張り、熊族に結界内にとどまるように伝える。年老いた熊族が子供を抱きかかえるように円の中央に集まった。オーボーの名前が効果を発揮したのか皆指示に従ってくれた。
「なんだこいつ・・・女たちの仲間か」
慌てて兵士がタクミの元へ向かうが結界が邪魔をして進めない。
「いいぞ!」
タクミがメグミとミールに合図すると時間をかせぐ必要がなくなった2人が少し本気を出すと次々と兵士は倒れていく。
「もう大丈夫だ。この中に怪我人はいないか?」
数名の熊族が手をあげたり、仲間を指さす。
「今治療するからな・・・メグミも頼む」
2人がかりで怪我を治療する。その間にセレスとミールには食事と水を配ってもらう。生きている人族は、縄で縛って転がしておいた。
傷の治療を終え、食事と水をしっかりとった熊族に事の顛末を説明する。年老いた熊族の女性が
「オーボーの母でございます。この度は、息子ともども大変お世話になったようですね」
「いえ、こちらが勝手に協力しただけですからお気になさらずに、それよりもこれから息子さんが待つミクスまで帰らなくてはなりませんので準備が整い次第出立したいと思いますが」
「あらあら、じゃあ私達は頑張って歩かないといけないわね・・・子供と年寄しかいないからご迷惑じゃないかしら・・・」
「大丈夫ですよ。それを知ってでも迎えに来ましたから。皆さんのペースで進んでくれてかまいません。護衛は俺達がしっかりとしますし、食料なんかも心配ありませんから」
「至れり尽くせりってことね」
当面はオーボーの母親に熊族をまとめてもらう事にして子供たちを引率するように歩き出す。子供たちも獣人だから身体能力自体は低くはないが、年寄はそうはいかないようだ。
休憩を増やしゆっくりと歩く100人ほどいた熊族の70人くらいが子供で30人くらいが年寄だからその30人に合わせて歩くことになる。
どうしても4人の容姿が人族と言うこともあり、子供たちはおびえる事が多かったが、時間と共に恐れや不安は解消されていく。一緒にご飯を食べて一緒に寝る。コテージを出して順番に風呂にも入れていった。
熊族との旅も1週間を過ぎるころには、子供たちから怯えは消えていた。もう少しでミクスの南の森へと到達すると迎えに来ていたアイオロスと遭遇する。
アイオロスに頼んで疲れて歩けなくなった年寄を3人くらい乗せてミクスに運んでもらった。それから間もなく、熊族の戦士たちが迎えにあらわれ自分の家族と涙の再会を果たす。
「お袋ぅ・・・無事でよかったな」
身長が2メートル以上ある巨漢の男が母親に再会して涙している。
「あんたは、もう子供じゃないだろうさ」
ため息つきながらも息子の頭をなでる。年をとっても母親は母親なんだろう。
「こうしてあんたの顔を見れたたのは、タクミさん方のおかげなんだから。あんたは、これから精一杯恩を返さんといかんよ」
「ああ。お袋に言われんでもわかってるよ」
熊族の戦士たちは、自分たちの家族を抱えたりおぶったりしながらミクスに帰っていく。ミクスの街に新たに加わる仲間が増えた・・・ときだった。




