火種
「よし・・・巡回の兵士が行ったから今のうちにここから入るぞ」
王都を囲む壁も飛行魔法を使い2人を抱えて王都へ潜入すれば問題はない。気配を絶ち音も立てないように王都へ忍び込む。
「マスクの準備もいいか?あとは、普段通りにしていれば国民に紛れ込めるだろう」
潜入に成功した3人は、連れだって王都の中を歩く。すれ違う人や兵士も3人を特に気にする事はなく通り過ぎていく。
「心配なさそうね」
「ああうまくいったみたいだな」
「それでこれからどうするの?」
「今の王都の情報が欲しいな。食事でもしながら周囲の話しでも聞くか」
3人は、混雑する飲食店を選び席につく
「ご注文は?」
「そうだな。肉料理と魚料理を2種類ずつお任せで」
「かしこまりました」
注文をとる店員に食事を頼むと3人は耳を澄ませる。
「昨日だろ・・・兵士達が戻ってきたのは・・・見たかかなりこっぴどくやられたらしいぞ」
「ああ・・・それで王もかなりお怒りの様子だな・・・指揮官や将軍を罷免するなんてうわさもあるくらいだ。自分は偉そうにしているだけなくせに責任も取りやしない」
「うちの隣の家の息子が今回の遠征で亡くなったそうだ。かわいそうになまだ若いだろう・・・」
「遠征が失敗って・・・これで連敗だろ。どうなるんだろうねこの先」
「いや相手が少ないからこちらが攻められることはないだろう。また遠征をするんじゃないか?」
「まあうちは・・・儲かればそれでいいさ」
「そういや聞いたか・・・遠征に同行した獣人たちが捕らえられたって・・・」
「ああ。昨日遠征から帰った従弟がそう言っていたな」
「所詮、獣人だよ。俺達に被害がなければそれでいいさ」
いくつか知らない情報もあったが、欲しい情報はなかなか聞き取れない。そのうちに食事が並べられたので3人は食事しながら他のテーブルの話しに耳を傾ける。
「まったく最近の王都は、物騒よね」
「何かあったのかい?」
「次々と他種族を襲うのはいいけどその旅に捕まえてくるじゃないの・・・この前も熊みたいな獣人たちが送られてきたでしょ」
「俺は見ていないからしらないよ」
「ちょうど私は、門のところで見ていたんだけどけっこうな数の獣人が連れられていたわよ」
「そんなに連れてきてどうするんだ?」
「私に聞かれてもわからないわよ。でもね・・・人質だって言っていた人がいたわ」
「人質ってその獣人がかい?」
「なんでもね・・・今回の遠征に同行させて使うつもりだって。でも、結局たいして役にもたたず捕まったって言うじゃない」
「じゃあ。人質はどうなるんだ?」
「さあ・・・役に立たなくなったら処分するんじゃないの?」
「ただ飯食わせるわけにはいかないってか」
「最近の王様は、何をやってもだめね・・・」
「おいおい。声を落とせよ・・・どこで密告されるかわからないぞ」
「いいのよ。みんな不満を言っているんだから、家族を兵に取られなんの手当もなく死んだってだけ言われたらその家族だって怒るに決まっているでしょ」
「確かにな・・・あの王じゃ先が知れているか・・・」
どこまで本当かはわからないが、人族の状況をつかむ事できた。熊族の所在まではさすがにわからないが、このままでは確かに熊族は処分されるおそれもある。負けた腹いせにそんなことをされてはたまらないからな・・・
「どうするの?」
「人質が100人にもなるのならこの王都でも収容できる場所は、限られるはずだ大きな建物を中心にそれとなく確認してみるさ・・・かえって警備が厳しい場所にいるってのが相場だろう」
3人は、食事をさっと終わらせると人込みの中にまぎれ本通りに出た。ちょうど夕食時の通りには、多くの人が行き交っている。
さすがに通りに面した建物に捕虜を置くことはないだろうと考え道を外れ大きな公共施設が並ぶ通りへと侵入する。さきほどの通りに比べると歩いているのは、仕事を終え帰宅する兵士の姿が多い。
「兵の屯所があるようだな・・・」
「側に捕虜をおいてもおかしくはないってこと?」
兵たちが出入りする建物の裏手に進み人気がない事を確認すると
「ちょっと中を覗いてくる」
隠密スキルで気配を絶ち影のようになったタクミが壁を乗り越え侵入する。内部に音も立てずに侵入し周囲を観察する。数名の兵士が任務に当たっているようだ。
「では、指示は明日捕らえた熊族を王都の北側に連行しそこで始末すると言う事ですね」
「そのとおりだ。汚らわしい獣の血で王都を汚すわけにはいかんからな・・・運ぶのも面倒だから歩かせて連行し・・・そうだな・・・王都の北に荒地があるだろう。あそこへ連れて行って処分する」
「兵士は何名くらい準備すればよろしいですか?」
「そうだな・・・逃げたり暴れたりされても困るから50名くらいは連れていけ」
「はっ!」
「まったく役に立たんわ・・・臭いわで結局必要なかったではないか・・・」
ぶつくさと文句を言う身なりの良い男が屯所を出ていく・・・気配を絶ったままメグミたちのところにもどるとタイミング悪く兵士に見つかった。
「お前たちそこで何をしている?」
「あ・・・あの・・・・」
メグミが答えにつまる後ろから
「逢引でちょっと女を連れ込んだんですよ・・・これは口止め料ってことで・・・」
タクミは懐から出したように見せかけ四次元ポケットから銀貨を取り出して兵士の男に渡す。兵士は銀貨を確認して
「ほどほどにしておけよ。今日は見逃してやる」
と言って去っていった。
「あ、危なかったね」
「警備があれではしれておるの・・・」
兵士の態度にがっかりしたミールが軽蔑した目で立ち去る兵士を見ている。
「まあ、おかげで良い情報を手に入れることができた。良いって言っても熊族には迷惑な事だけどな。明日、王都の北にある荒地へ連行して処分するそうだ」
「ぎりぎりだったね・・・あと1日遅れていたら大変なところだったよ」
「だが、これは助かったのかもしれないな。大勢の熊族を王都からどうやって脱出させるのかを考えていたからその手間がなくなっただけでも朗報だよ」
「明日までどうしようか・・・」
「せっかく王都まで来たから色々と情報を集めたいな・・・撤退した兵士たちの処遇によっては次の戦いが大きく変わるからな」
「セレスに会えないかな」
「王城の警備は、いよいよって感じだからな。セレスが街に出てくれでもしないと会うのは難しいだろ」
「そっかーミールにも紹介しようと思ったんだけど」
「機会があればまた会えるさ」
「そうね・・・それじゃ宿屋でもとってから酒場にでも行ってみる?」
「メグミは酒を飲めないだろう?」
「そうなんだけど・・・情報収集って言ったら酒場じゃないの?」
「それはどこの情報だよ?」
「あの建物はなんですか?」
夫婦漫才をよそにミールが指さした建物を見る。
「あれは教会だな」
「教会とは、信仰する神に祈るところね」
「見てみたい・・・」
水龍にとって人族の信仰と言うのは興味があるのかもしれない。
「なら少し教会に寄って行こうか」
3人は、教会の門を通り、教会の中へと入っていく・・・人が多いな何かイベントでもやっているのかもしれないな。教会の中は、武器の携帯が禁止されているようで教会の職員のような人に入り口でチェックさらた。ずいぶんと厳重だな・・・。ちょうど教会の中では祈りがささげられているところのようで、静寂の中にきれいな祈りがささげられている。
ちょうど空いていた席に3人で腰かけ儀式をながめる。厳かに進む儀式は特に信仰心がなくとも清々しい気持ちにさせてくれる。中央にいる修道女が神に祈りをささげると儀式は終わりを迎える。
「なんかよかったね・・・」
「ああ。思ったよりも気持ちよく見ることができたな」
「素晴らしいですね・・・これが信仰と言うものでしょうか」
ミールも満足したのか感動しきりだ・・・。儀式を終えた修道士や修道女が挨拶しながら談笑している。ふとそのうちの1人に目がいく・・・
「セレス・・・だよな」
「え?どこどこ?」
「ほらあの中央の修道女は、セレスだろ?」
「ちょっと待ってろよ」
『セレス!しばらくだな・・・今後ろからそっちを見ているよ』
念話が聞こえたセレスが急にあたりをきょろきょろ見ている。隣の修道士にどうしたのか聞かれているな・・・
『一番後ろの席に3人いるだろう。顔を変えているからわからないと思うがちょっと用があって王都に来ているんだ』
セレスが頷いた。
『どこかで話しができるいいんだが・・・メグミが会いたがっているんだ』
セレスの顔が笑顔になった。セレスは、周囲に挨拶するとこちらに向かって歩いてくる。
「本日は、神への報告会に参加いただいてありがとうございます」
周囲に気取られないように配慮した会話だ。どうやら一案あるらしい。
「はい。とてもすてきな祈りでしたね」
「そう言っていただけると・・・初めての方ですよね。よければ少し神のお話しを聞いてみませんか」
「ありがとうございます。是非お話しを伺いたいです」
セレスは、周囲の修道士に
「熱心な信者になるかもしれません。私が少し神のお話をしますので、洗礼室をお借りしてもよろしいですか?」
熱心に布教する姿勢を見せると修道士も満足したように
「それはもちろんです。どうぞお使いください」
「では皆さん。こちらへ」
セレスが、案内してくれるので3人でついていく熱心な信者を演じよう。洗礼室と呼ばれる部屋に通され椅子に腰かける。こみ上げる笑い声をぐっと抑える。
「しばらくぶりだな・・・」
「ええ。本当にメグミもしばらくぶりね。あと・・・あなたは?」
「ミールと申します。先ほどの祈りには感心させられました」
「あ、ありがとうございます。気持ちを込めてお祈りしていますので、そう言っていただけるとうれしいですね」
「セレスが、こんなにも修道女が似合うとは思わなかったが、大したものだな」
「どう言う意味よ・・・。それよりも良くここがわかったわね」
「たまたまだよ。ミールが教会に関心があったから覗いてみたらセレスがいて驚いたんだ」
「私に会いに来てくれたんじゃないんだ」
「私は、セレスに会いたいって思ってきたんだよ」
「メグミありがとね。それで・・・タクミ達は何をしに来たの?」
「明日、熊族の捕虜が始末されると聞いたから救出に来たんだ」
「ごめんね・・・。最近、父様に会う事を許されていないんだ・・・部屋に籠るかこうして修道女の仕事くらいしか許可がもらえないし」
「王の様子はどうなんだ?」
「あなたたちに負けたって聞いてからいよいよおかしいの・・・。色々な人に八つ当たりしたり、罪もない人を捕まえたり・・・もう私には何もできないわ」
「そうか・・・セレスもいよいよ辛い立場だな・・・どうだ・・・国を捨てる勇気があるか?」
「それって私もタクミの街へ行って良いってこと?」
「ああ。前には言えなかったが、今は状況が違う。俺はこの国の王の治世は長くないとみている。街でもかなりの不満の声があがっているからな。このままじゃそれほど遠くないうちに革命がおこるか、クーデターがおこるだろう」
「そうね・・・最近は王城でも小声でひそひそと密談をする人が増えているわね」
「どうだ?俺達は歓迎するが・・・」
「行く・・・」
「セレスは勇気があるな」
「でもね。それは私のためじゃないつもりだよ。今、タクミが言ったようにもしクーデターや革命が起これば王都はものすごく混乱すると思うの。派閥争いや醜い利権争いが次々と起きるわ。それで犠牲になるのは、弱い女子供ってことになるの・・・。人口が多い王都からたくさん難民が出ると周囲の街や村だけではとても受け入れきれない。だから・・・私は、タクミの街で人族を守る戦いをするわ」
さすがだな・・・
「俺の国のルールを覚えているか?」
「種族差別をしない事でしょ」
「ああ。俺は人族ってだけで差別するつもりはない。だが、覚悟しておけよ・・・あの街には親兄弟を人族に奪われたやつがたくさん住んでいる。中途半端な覚悟じゃ押しつぶされるからな」
「わかっているわ。覚悟も勇気も必要なのでしょう?」




