敗戦の先に
「それで、潜入した街で出会った仮面の女は剣術でサントスさんよりも強かったと?」
「ああ。俺の剣術スキルはレベル8だぞ・・・ここまで高い奴は今までに会った事はねえからな。俺が弱いんじゃねえ。あの女が異常なんだよ」
「でもサントスさんは、身体強化スキルもおもちでしたよね?」
「そうだ俺の切り札だよ。当然、そいつ相手にも全開で使ったよ・・・身体強化だってレベル7だぞ!王都の兵士で身体強化を持っている奴だってせいぜいレベル1か2ってところだ」
「じゃあ。身体強化も相手の方が上だってことですね・・・」
「ああ・・・そもそもステータスで負けているかもしれねえな・・・人物鑑定持っているボルドがいれば相手のレベルもわかったかもしれねえが・・・もしかすると俺よりもレベルが高いのかもしれん」
「でもサントスさんよりも若い女だったらレベルはそこまで高くはならないでしょう」
「普通ならな・・・あいつは普通じゃないかもしれねえ。あとな・・・ノールが相手した別の女も化け物だとよ・・・俺は対峙しちゃいねえから詳しくはわからねえが、軽装の若い女だったって言うじゃねえか。ノールが短剣使って手も足もでなかった奴なんてそんなにいるもんじゃねえぞ」
「その女も仮面をしていたのですか?」
「いや・・・その女は普通に素顔だったと言っていたな」
「じゃあ。サントスさんよりも強いような若い化け物女が2人もいたってことですかね」
「まあ。ノールが俺よりも強いかもしれんと言っていたから実際にそうかもしれねえな・・・」
「やはり・・・魔族が絡んでいると考えても良いかもしれませんね。いっその事今回の戦は魔族の妨害で敗戦って事で報告しちゃいましょうか?。クライス審議官も話しを聞けば賛同してくれそうですし・・・まあどちらにしても負けた責任を取らされるんでしょうが・・・」
「だな、これで人族側の2連敗だろ。あの王がそれを許すとは思えねえな」
「そこですよね・・・もっと楽しい遊びをするにはそこを何とかしないといけませんからね」
「がっはっは・・・まだ遊び足りねーからな。どうだ?いっそのこと王を簒奪してやろうか?」
「おや。魅力的な提案ですがそんなことができるのですか?」
「あんな城の兵士どもを蹴散らすのは、そんなに難しくないぞ」
「まあ。兵士は何とかなるでしょうが、王都の国民がそれを認めますかね?」
「そんなもん。王を殺した後でどうにでもできるだろ・・・適当に王女でも嫁にしちまえばいいんだよ」
「そんなもんですか・・・。ですが、自分で好きに国民を動かせるのは魅力的ですね、やっぱり遊びは自由になんでもできる方が楽しいですから」
「あと邪魔になりそうなのは、クライスくらいなもんか・・・」
サントスが指を折りながら考えるが1本折って数えるのをやめた。
「あはははは・・・なんか人族の国って言っても大した事ないですね・・・」
「ああ。つまらねえな・・・」
「じゃあ。ほんとにやっちゃいましょうか簒奪・・・」
「がはははは!そうこなくっちゃいけねえな。これであの俺を馬鹿にしたような目で見る王をぶっ殺せるってもんだ。ついでにうるさいクライスもやっちまって俺達で好きにしちまおうぜ。セイオス・・・お前が王をやれよ・・・俺は今のままでいいからよ」
「あとは、グリフォールさんあたりを誘って見ましょうか。彼も大好きな実験をできるって聞けば協力してくれるでしょうから」
「がっはっは・・・そうにちげえねえ。あいつも俺達以上に異常者だからな・・・きっと楽しいだろうよ」
「じゃあ。私は、少し策を練りましょうかね。どうせやるなら楽しく簒奪してみせましょう」
王都へ撤退する兵士の士気は低い。どのような処罰があるかもわからない。しかし、サントスとセイオスの顔には、陰湿な笑みが浮かぶ・・・
「さあ。まだまだ遊びは終わりませんよ」
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「やっぱりだめか?」
「私はだめって言ってないよ。一緒に行くって言ってるの」
人族の侵攻を防ぎようやく落ち着きを取り戻したミクスの街は、再び活気を帯び始めた。大軍を寡兵で退けた満足感は自信へとつながり、犠牲者がいなかったことは安心感へと昇華する。
すでに街の修復は終えており、新たな脅威に備えて体制も強化を図った。街の内部に作った二の丸を撤去し、各門の外に出丸を作った。
活気を取り戻す街の中で元気がないのは、熊族の戦士達だ。いまだに王都に家族を捕らえられており、安堵することも笑う事もできない。聞けば、捕らえられているのは一族の年寄と子供がほとんだと言う・・・熊族のリーダーの男オーボーと話したタクミが王都へ救出に向かうと言い出したのは昨日のことだ。
「タクミ様・・・私達をお連れいただく事が条件です」
ミールもメグミの味方だ。タクミの単身での王都への潜入は認められないと言いメグミと共に同行するつもりだ。
『タクミ・・・もう観念しなよ。留守は僕達が守るから3人で一緒に行ってくるといいよ』
ホクトは、自分の子供を鼻先でじゃれさせながらタクミを説得する。ホクトおまえもか・・・
「ああ。わかった。わかったよ・・・そのかわりちゃんと言う事を聞くと約束してくれ」
「うーん。内容によってだけど指示には従うよ」
「タクミ様が危険になる指示だけは聞けません」
内容によるのか・・・最近ますます2人の仲がよい気がするな
「じゃあ。明日王都へ向けて出発する。ロドス達にも負担をかけるけど留守を守っていてくれ」
「獣人仲間を助けるためだろう・・・留守は命をかけても守るよ。だから熊族も助けてやってくれ・・・」
ロドスやヘイスト達がいるから不安はない。しかし、人族の王都へ潜入するのはこれで3回目だ。警備もこれまで以上に厳しくなっているだろう。
「今回は、王都の北西側から潜入するつもりだ。一度、魚人族の湖へ抜けてそこから南下しよう。それとミールにこれを渡しておく」
ミスリルのブレスレットを四次元ポケットから出してミールに渡す。
「これは・・・」
「ああ。仲間たちがつけている特製のブレスレットだ。仲間がいる方向や大体の位置がわかるようになっている」
ミールはブレスレットをつけうっとりとした顔で眺めている・・・
「よかったねミール。お揃いだよ」
「はい。とてもうれしいです」
この後、種族の代表を集めた会議で今後のミクスの体制についてや捕虜の取り扱い方針について相談する。熊族は、俺達の帰りを待つことになり、人族の捕虜は当面収容所で生活してもらうことになりそうだ。もしかすると外交的に利用させてもらうかもしれない。
翌日、準備を整えたタクミ達3人は、大勢に見送られながらミクスを出発した。
「ねえ・・・潜入はいいとして捕らえられている熊族をどうやって助けるの?」
「それは、ついてみないとなんとも言えないな。人数は100人くらいって言っていたけど実際100人を拘束するのは簡単じゃないからな」
「そうですね。食べ物も必要でしょうし場所だってかなりの広さが必要になりますから」
「潜入に成功したら情報を集めるつもりだ。捕らわれている場所をまず確認する事。次にその警備の状況ってところだな」
「私は、王都に住んでいたからある程度わかるけど。ミールは王都は始めてでしょう?」
「ええ。良い経験だと思っています」
「そうだ・・・。ミールは敵兵に顔を見られているんだよな」
「確かに数人に顔を見られたと」
「ならミールにもこれを渡しておくぞ。偽装の仮面の改良版だ。これをこうやって使うと・・・どうだ?」
「あ!タクミじゃなくなった」
「これはな・・・仮面ってよりは別の顔のマスクだな。これがあればより怪しまれずに潜入する事ができるはずだ。潜入してしまえば身分証明も必要ないだろうし、街中の移動もできるようになるだろう」
「タクミ様はなんでもお作りになれるのですね」
「へへへ・・・すごいでしょ」
「メグミが自慢するところじゃないだろ。後な・・・今回の敗戦で人族の王都もどうなっているかわからない。混乱しているかもしれないし、ピリピリしているかもしれない。どのような状況になっていても熊族の救出を優先するからな」
「しばらくぶりにセレスに会えるかな?」
「王城の警備は一番きついからな・・・」
「セレスとは、何者なのです?」
「えっとね・・・人族の王女様なんだけど私達の味方なんだ」
「それはまた・・・」
「ああ。辛い立場だな。何とかしようとしても父親も周りも耳をかさないと言っていた」
「セレスが、王様になればいいんだけどね」
「そんなに簡単にはいかないだろう。だけど、将来はわからないからな・・・そうすりゃこんな争いはなくなるんだがな」
セレスの人柄を考えれば争いを望むとは思えない。取り巻きや権力を持つ配下に操られる可能性もあるが、意思のしっかりした子だし案外良い王になるかもしれないな。
「さあ。今は先へ進もう」




