開戦前夜
「よし。そっちにも仕掛けてくれ」
指示に従い慎重に罠を設置する獣人たち・・・ミクスの街の東部と南部の要衝に踏むと槍が飛び出した槍が相手を貫くと言う罠を設置する。
ドワーフが作った罠だが、相手が馬や徒歩で近づき踏み抜くと斜め前方に隠されている槍が相手に向かって飛びだすいやらしい罠だ。
「こんな戦い方があるんだな・・・」
関心する獣人たちも罠の性能に驚いている。
「こっちは数ではどうやっても勝てないからな・・・ここを使うんだよここを・・・」
ヘイストが部下の頭をぐりぐりする。
「よし、これであらかたの罠の設置は完了だな。一度、戻って全体で確認をしようか」
ヘイスト達と街へ戻り代表者を集めた打ち合わせ会議を行う。
「みんな・・・すでに聞いていると思うが、索敵の報告によれば人族の軍はここからあと1日の距離まで侵攻してきている。できる準備はあと1日だけだ。気づいた事ややり忘れがあったら指摘してほしい」
「避難所となるシェルター内のベッド数が少し足りません。怪我人が出たばあいに備えもう少し増やしておきませんか?」
「量産したポーション各種を配る良い方法がないでしょうか?」
「城壁の上に新たに設置した固定弓は、矢の数がまだ足りんかもしれんな」
細かく確認して用意する優先順位を考える。
「明日は、相手の出方によってこちらの動きも変えるから長丁場になるかもしれない。今日は早めに各自帰宅し、家族がいるものは家族とゆっくり過ごしてくれ・・・それ以外のやつは中央公園に集まるんだな。とっておきの物を用意してやる」
責められると言う緊張感は、誰にとっても強い不安を感じさせる。ゆっくり寝ろと言っても眠れるものではないだろう。それでも家族の時間を過ごしたり、仲間との時間をすごしたりすることで不安を減らしてもらいたい。
「とっておきの物って・・・まさか?」
「ああ。ようやくこの街で最初の酒ができたからな・・・量はまだ少ないが今晩は酒を用意してやる。ついでに俺から肉を差し入れるからちょっとした祭りになるだろう。参加は自由だが、酒はあるだけしかないからな・・・」
言ったそばからいそいそと準備をするものがいる。
「ならば今日はこれで上がらせてもらうぞい。早く作業を終わらせて参加せねばならん」
ボンゴはぶれないな・・・
「女たちも飲みやすいようにベリーで作った果実酒も用意したから家族でも仲間でも連れて来たら良いさ。俺とメグミは、料理するから余裕のあるやつは、会場作りを手伝ってくれ。但し、明日の準備が終わってからだぞ」
緊張感が強かった場が和む・・・明日への不安を隠すかのように・・・
夜の宴は盛大に行われた。結局家族がいる者も家族で参加するものが多く、中央公園にほとんどの住人が集まった。宴は種族の枠も家族の枠もなく・・・酒を飲み・・・肉を食い・・・歌う者や踊る者が会場を沸かす。舞台を作っておいてよかったな・・・
酒が周り、宴も半ばに差し掛かろうとしたとき
「そろそろ王から一言くらいもらわんといけないな」
と酔っぱらった男達が騒ぎはじめ、無理やり舞台に上げられる。さっきまでがやがやとにぎわっていた中央公園が一瞬で静まった。全員の視線が俺を見つめる・・・
「ああ・・・これは緊張するな・・・」
笑い声があがる
「みんなが協力してくれたから、この国はここまで来れた。俺は、みんながいるから明日にも希望が持てる。俺はわがままな王だ・・・みんなが誰一人かけることなく、またこうして一緒に酒を飲みかわしたい」
しんと静まる
「明日勝つのは俺達だ。一緒に戦おう!」
「うおおおおおおおおお!!!」
会場からあふれんばかりの歓声があがる。吠える者や叫ぶ者も多い。今、街は一つになった。
酒を飲み切り、食べ物もあらかた食べつくしお開きとなった公園から少しずつ人数が減る。片付けをしながら声をかけあったり、肩を抱き合ったりしていく・・・
片付け終わったら結構遅い時間になってしまった。
大方片付いた後は、メグミとミールを連れて俺も自宅にもどる。
「お疲れさま・・・色々助かったよ。2人には色々と迷惑かけたな・・・」
「もう・・・一緒なら迷惑とかないからね・・・」
「タクミ様が言った事なれば・・・何の不満もありませんよ」
「ねえ?タクミ・・・今日はみんなで一緒に寝ようか?」
「なんだよ突然・・・」
「へへへ・・・なんだかそうしたいって気がしてね。ミールもいいでしょ?今日はタクミと一緒に寝ようよ」
「わ、私はお邪魔であろう・・・」
「うーうん。違うよ~。タクミを逃がさないように左右からしっかりと見張らないといけないの。だからミールにもしっかりと守ってもらわないと」
「そ、それならば・・・仕方ないですね」
「おいおい。俺はもう一人で逃げたりしないぞ・・・」
「いいの!」
メグミに押し切られて3人で床につく。広いベッドの真ん中で右手をメグミに握られ、左手をミールに握られた。動けないし寝返りもできないな・・・
今日の疲れもあってか二人はすぐに寝息を立てだした。
「明日か・・・」
小さな声でつぶやいた。やはり、犠牲者を0にする事は難しいだろうな・・・。それでも・・・できるだけ犠牲は減らす事ができるようにしなければならない。
しばらく明日の戦闘の予想をしていると疲れも手伝って俺も意識を手放した。
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「ほう・・・ではすでにドワーフ族の姿はないと言う事ですか?」
「はい。斥候の報告によればこの先のドワーフの住居に人影はなく、ここ数日煮炊きをした跡も確認されませんでした。また、別の斥候の報告でここからさらに東にあります犬族の集落にも人の気配がないとのことです」
「すでに逃げたか・・・」
バラカム将軍が両腕を組んで応える。どっかりと落ち着いた雰囲気のこの男は、年こそ50代と少し高めだが、筋肉隆々の偉丈夫で多くの戦場で活躍した歴戦の戦士でもある。
「将軍がおっしゃるようにこちらの接近を知り、逃げたものと考えます。さて、逃げるとしてどこへ逃げたかとなりますが・・・。おそらくは、この元エルフの村の西・・・報告にあった巨大な街に逃げたと考えるのが妥当でしょうね」
「して・・・その巨大な街とやらの情報は入っていないのか?」
バラカムが伝令の男に聞くと
「はい。多くの斥候を放っておりますが、戻る者がおりません。捕らえられたか殺されているものと思われます。ただ、報告で森に複数の罠を確認しております。すでに数名が犠牲となりましたが、槍が飛び出してきたと聞いております」
「罠か・・・獣人族などがそのような罠を使うと言う話しは聞いた事がないな」
バラカムが経験から話す
「ええ。将軍の言うとおり・・・それは獣人族の手配ではないでしょうね。もっと頭の切れる者が指揮を執っているのでしょう。斥候への備え・・・罠の設置・・・そうまるで我々人族のように・・・」
「解決策はあるのか?情報がなく軍を進めるのは愚か者のする事だぞ」
「はい。すでに手配は済ませてあります」
「ほう・・・セイオス審議官のお手並み拝見としよう」
「いえいえ・・・私には大した事はできませんので・・・それではさっそくその手配をすすめさせていただきます」
そう言って天幕より出たセイオスは、別の天幕へ足を向ける・・・
「準備はいかがですか?グリフォール卿・・・」
「おお・・・すでに完了しておるわい。何体か失敗したようじゃが、まあ些末な事じゃ・・・」
「ほう・・・これが卿の言っていた魔道具の効果ですか・・・化け物どもが一層化け物じみましたね」
「うひゃひゃひゃ・・・。まったくじゃ・・・さあ化け物どもよ先陣を切ってもらおうかの」
グリフォールの前には不気味な鎧を着こんだ兵士達が並ぶ・・・生気のない顔が不気味さを一層掻き立てる。
「さあ。楽しい祭りの始まりですよ・・・」




