王の帰還
「よし・・・いいぞ」
茂みに身を隠し進み、兵士がいないかを索敵する。気配がないことがわかるとサラを呼び誘導する。サラをつれて王都から脱出してからちょうど1日が経過する。途中で水場を見つけるとサラを休ませなければならないので余計に時間を必要とする。
それでもようやく兵士の包囲網から脱出することができそうだ。
「そろそろ人の目もなさそうだし、空から一気に脱出するつもりだ。一応背負っていくつもりだけど覚悟はいいか?」
「覚悟って?」
「ああ。以前に一気に空に昇ったらあまりの恐怖で・・・な」
「わかったわ。しっかりと覚悟しておく・・・」
サラの覚悟を確認したのでサラを背負う・・・が、少々俺にも覚悟が必要なようだ・・・。背負う背中に立派なものがしっかりと感じられるからな・・・。しかし、しっかりつかまってもらわないと危ないから仕方ないだろう・・・
「行くぞ・・・」
一気に上昇を開始する。目につくとすれば離陸したときが一番危険だから少しでも早く上空へ避難する必要がある。矢が届く距離が最も危険なのは、王城でも体験済みだしな・・・
幸い兵士の目には、止まらずに済んだようで上空まで問題なく上昇することができた。首に手を回すサラの手に力が入る・・・。怖いのかもしれないな・・・
「サラ!大丈夫か」
「あんまり大丈夫じゃないかも・・・」
目を閉じて必死に抱きついてくる。
「こ、これは、仕方なくだからね」
顔を赤くしながらも言い訳するあたり、魚人族の王も純情なんだろうな。
「サラは、いつから魚人の王になったんだ?」
緊張と不安を和らげるために話をふる
「私は、生まれたときに王になるって決まったわ。別に私の親が王ってわけじゃないけど、一族の決まりで満月の夜に生まれた女児が王になるの」
「それで王か?」
「そう・・・そのあとは、その時に王だった人に育てられて・・・王としての知識や心構えを身に着けるの・・・」
「なるほどな・・・」
魚人族の風習か・・・。何かしら意味があるのだろう。
「ところで、私たちの仲間はどうしているの?」
「俺の街でサラを待つように頼んでおいたよ」
「じゃあ。これから向かうのはあなたの国ね」
「そうなるな。何か問題あるか?」
「そうじゃないけど・・・生まれ育った場所だから・・・」
思い入れがないわけがない。
「また、いつでも行けるようになるさ」
「そうね・・・生きていればまた故郷にも行けるから」
苦しく辛い思いも故郷に・・・仲間の元にいくためならか・・・
「さあ、急いでいくぞ。みんなが俺達を待っているからな」
------------------------------------
「まだ戻らないのか?」
公園のベンチで何気なく空を見るメグミにロドスが声をかける。
「まだもどらないね・・・」
魚人族の元へタクミとミールが旅立ってから5日が経過するがいまだに戻る気配はない。公園にはそんなことを知らないかのように色々な種族の子供たちが走り回っている。
学校を作ってからは、種族間の子供の交流が増えたから一緒に遊ぶ姿も見られるようになった。走り回る子供が、コテンと転がり膝でもすりむいたのか泣き出したのでそっと起こして頭をなでた。
「泣いちゃだめよ。強くならないと・・・」
自分に言い聞かすように子供にそう言うと子供は
「王妃さまありがとう・・・」
と言ってまた元気に走りだした。
『メグミ!西門に魚人族がきたみたいだよ』
ホクトの念話を聞くや否や西門へ身体強化して走る。少しやりすぎかもしれないけど少しでも早く顔を見たいから・・・
西門では、ミールに連れられた魚人族の人たちであふれていた。門番があたふたと仕事をこなすが、タクミやミールが出かけた目的は、皆が知っていたので混乱はなかった。
ミールの姿を見つけたので、駆け寄って話しを聞く。ミールも私を見つけたのか走り寄ってくる。
「おかえりミール・・・タクミは?」
「・・・ごめんなさい」
ミールがどうして悲しい顔をするの?
「止めたんだけど・・・1人で王都に救出に行くって言って」
「落ち着いてミール・・・タクミは、王都へ行ったの?」
「魚人族のところへ行ったらもう人族に襲われた後で・・・魚人族に話しを聞いたら魚人族の王が人族に捕えられたって聞いたの・・・そしたら王都にいるだろうから助けに向かうって言って・・・私も止めたんだけど・・・」
「ミールは悪くないわ・・・そんなときにタクミを止める事はできないもの・・・。そうか・・・また王都へ行ったのか~
仕方ない仕方ない・・・
「ミールもお疲れ様だったね。ごはんをたくさん作るからいっぱい食べて休んでね。魚人族の皆さんにも住む場所とか案内しないといけないね・・・」
伝達を受けて集まった兵士に魚人族が住めるように改装した住宅へ案内してもらう。魚人族のために魚人族が住む予定の家の寝室にあたる場所には、山からの湧水が引き込まれておりいつでも水の中で休む事ができるようになっている。また、大きな一軒家を改装して中庭にあたる場所に大きな池を作って堀やため池と接続しておいた。これで、水の中を潜れば堀やため池・・・さらに妖精の池までも移動することが可能になる。
「食事は、何を食べるのかな?長旅で疲れているだろうから・・・少し軽めのものにしたほうがいいよね?」
「メグミ・・・」
ミールが心配そうな顔を向ける。
「大丈夫だよ。ほらミールも休んで休んで・・・。私には、まだお仕事があるから・・・ね」
魚人たちを誘導するのを手伝い。家の使い方などを説明する。食事の手配をして、怪我人がいないかを聞いて回る。
およそ100人ほどの魚人たちに休める場所と食事を手配し落ち着くまでにそれから半日がかかった。
「ふう~」
「お疲れさまです」
手伝ってくれたアリヒアが、声をかけてくれる。最近、治癒魔法を一緒にタクミに習っているから仲が良くなった。時間がかかったけど、私にも治癒魔法が使えるようになった。先輩のアリヒアはメキメキと上達しているから私も負けないように努力しなくちゃならない。
「これで大丈夫ね?」
「そうですね。落ち着くまでには時間がかかるかもしれませんが・・・やはり中心になるリーダーの方がいないと皆さん元気がなさそうです」
聞けば、魚人族には王がいて種族のカリスマ的存在となっているとのことだ。その王が1か月以上も不在となっている今・・・元気がないのもうなずける。私も・・・そうだから・・・
自宅に戻ってミールに声をかけ一緒にご飯を食べることにした。ミールも元気がないので、気合を入れて美味しいごはんを作ろう。
色々とアレンジしていつもより豪華なごはんを作ってみようかな・・・。お肉とお野菜と・・・そうだタクミの好きなお芋の・・・
なぜか涙があふれて止まらない。ぬぐってもぬぐっても涙が・・・。知らないうちにキッチンの前でふさぎ込んでいた。ミールが後ろからぎゅって抱いてくれるけど・・・涙が止まらない・・・
考えないようにしても嫌な事ばかりが頭の中に溢れ、不安ばかりが募る。
「タクミの・・・馬鹿・・・」
「おいおい・・・帰宅して聞く最初の挨拶がそれか・・・」
ビクッと声に振り返ると待ち人の姿がそこにある。
「えっ?」
「今、帰ったぞ。心配かけたな・・・悪かったよ」
手も足も・・・よかった怪我はないのね。
「何よ・・・遅いじゃない。無理しないでって言ったのに・・・」
そんな事言うつもりじゃないのに・・・
「悪かったよ・・・でも魚人族の王を助け出すことができた。今、魚人族の所へ連れていってきたから向こうも感動の対面ってことになっている。元気のない魚人族のみんなもこれで元気になるだろう」
満足そうに言うタクミを誉めてあげたいのに
「いつも1人で無理して・・・それで何かあったらどうするの!タクミは1人しかいないんだよ!タクミに何かあったらこの国のみんなはどうなるの!」
そんな事を言うつもりはなかったのに・・・
「いや・・・本当に悪かったよ。ちゃんと反省する・・・メグミの言うとおりだな・・・ここで俺に何かあればみんなに迷惑をかけてしまうからな。今回は、俺にも良い勉強になった少しいい気になっていた自分がいたからな・・・自重するよ」
素直におかえりなさいって言うつもりだったのに・・・
「ミールも悪かったな。大変な仕事を任せてしまった」
「いや・・・私には対して事ではないが・・・。タクミ様はお強いが・・・何がおきるかはわからないのが戦の常・・・メグミも心配して言っているのだから・・・」
「ああ。本当に今回の事は俺が悪いと思っている。これからは十分に気を付けるから勘弁してくれ・・・。それとこの後の事をロドス達にも伝えないといけないから、少し出てくるから先に休んでいてくれて良いからな・・・」
タクミは申し訳なさそうに部屋を出ていく・・・。声をかけてあげられなかった・・・
「メグミ・・・もう許してあげないと・・・」
「うん。わかっているんだけど・・・お帰りって言ってあげたかったんだけど・・・」
「それくらい大切なんでしょ?」
「うん」
「じゃあ。もう泣くのはやめて良くやったとは・・・言わないほうがいいけど。無事に戻った事を誉めてあげましょう。もし、それ以上拗ねるのなら・・・私がその隙にタクミ様を・・・」
「それはダメ!」
ありがとうミール・・・。涙を拭いてタクミが好きなごはんを作って待っていてあげよう・・・ちゃんとお帰りって言ってあげないといけないから。




