王都再び
「危険じゃ・・・」
「だが、他に方法はない。ミールには、魚人族を俺の街まで案内してほしい」
ミールが王都への潜入を止めるが、一刻も早く魚人族のためにも王の安否を知る必要がある。あわよくば王を救出し魚人族ともどもミクスで保護したい。
「俺が言うのもなんだが、俺の国は種族差別もなく様々な種族が暮らしている。魚人族の受け入れも考えている。王は俺が何とかしてみよう・・・お前たちはそれまで俺の国で待っていてほしい」
「しかし・・・我らには・・・」
「街の方は私が保証しよう・・・祖父もそばに住んでいるが豊かな水に囲まれた街だから水棲の者も安心して暮らせるだろう」
魚人たちは顔を見合わせあう。
「王は俺が何とかする・・・」
「だから君達だけでも生きながらえてくれ・・・」
俺は頭をさげる・・・
「わかった・・・水龍様の言葉もあるし、お前にそこまでされてはな・・・どうか王を頼む。王は、我らの希望なのだ」
わかっている・・・
「すまないミール・・・頼んでばかりだが、皆をどうかミクスまで頼んだ」
俺は、言うや否や走り出す。後ろからミールが必死に止める声がするが・・・俺は・・・
駆けだした俺は、魚人たちの目が届かないところまでくると空へ向かう。一気に加速し空から王都へ飛ぶ・・・。無事でいてくれ・・・
王都の上空から見ても人族の警戒具合が見てとれた。以前に書いた城壁の文字のせいで警備は大幅に増えている。
「少しやりすぎたかもな・・・」
忍び込みやすい時間になるまで近くの森に潜伏していたが、その森にすら兵士が顔を見せる。王都の警戒は厳重だ。
日が沈むまで潜伏し、王城に松明の灯りがついたころ、王城への潜入を試みる。魚人族の王が捕らえらえるとすれば王城以外にないとの予測からで、おそらくは高貴な者へ渡っているはずだ。それに・・・この城にはセレスがいる。もしかすると情報を得られるかもしれない。
セレスの部屋の周りにも兵士が詰めているが、俺は窓があるベランダに潜入し
『セレス聞こえるか?聞こえたら窓を開けてくれ』
ほどなくして窓が開けられる。口に指を立て静かにと伝える。静かに窓を閉めると部屋の中に入る。
「突然ですまない・・・。急用ができたんだ」
「こんな夜にどうしたの?」
「ああ。君に頼みがあってね・・・。この城のどこかに魚人族の王が捕らえられているだろう?その場所をしらないか?」
「魚人族って・・・ああ・・・知っているわよ。父様が、時々会っているって城の女官が言っていたから。確か今は、5階の来賓室にいると思うわ。魚人族の人は水がないと生きていられないって水槽に入れていると言っていたわ」
「助かったよ。これで何とかなるかもしれないな」
「え?もしかしてその魚人族の人を助けに来たの?」
「そうだ。このままじゃ魚人族は不幸になってしまうからな」
「ごめん・・・なさい。いつも私達がみんなを苦しめているんだね・・・」
「セレスのせいじゃないさ。それよりもありがとな。この借りは必ず返すから・・・」
「そんなのいいよ・・・でも警備が厳重になっているから十分に注意してね」
「ああ。ありがとな・・・。じゃあこれで・・・」
静かに窓を開け闇に溶け込むように外に出る。ふわりと浮いて5階の窓の1つから潜入する。通路には兵士が巡回しているようで、さすがに歩くとわかるだろう。少し考えると行動に移す。仮面を装着して顔を隠す・・・
廊下の角に立ち巡回する兵士が廊下を曲がろうとしたとき口を押えて動きを拘束する。催眠術スキルを発動して誰も見なかったと認識させた。スキルレベルが低いので話しを聞き出したりはできないが、認識を妨害する事は可能だ。
兵士の口をふさぐことに成功したので廊下を使い来賓室に向かう。部屋に耳を立て中に誰かいないのかを確認するが、ほとんど気配がない。
いくしかないか・・・。静かに音を立てないようにドアを開け中に入る。目を凝らし部屋の中を見るが・・・誰も・・・いない・・・。部屋を間違えたか?
しかし、部屋の中に何かを引きずった跡がある。水槽か・・・どこかへ運んだのかもしれないな。連れていく部屋・・・いやなところしか思いつかないな。
ここで待てば戻されてくる可能性もあるが・・・朝まで戻らない可能性もある。
だが、待つなら動けだな。水槽にはキャスターがついている。運べるのは同じ階である可能性が高い・・・。この階の部屋だな・・・
次々と部屋の入り口を確認していくが、5階奥の部屋の前に兵士が立つ部屋があった。
「ここだよな・・・」
部屋の前の兵士を沈黙させたいが・・・。催眠スキルを使うには距離がありすぎる。探せ・・・この現状を打破できるスキルを・・・こんな時のために無駄なくらいの資格を取ったんだろ。
沈黙させるには・・・さっきの催眠スキルのよな物が便利だが、無力化できるならばなんでも良いか・・・。寝てもらうか・・・確か睡眠魔法があったはずだ。睡眠系の資格があったからな。
睡眠魔法を使うと兵士はうとうとし始め、そのうち壁にもたれて寝てしまった。
そのまま少し様子を見て安全を確認すると部屋のドアに耳を立てる
「それにしても良い眺めですな・・・」
「まったくだ。これほどの物とはしりませんでしたよ・・・」
「そうだろう。数多の女を組み敷いた我らでもこれほどの女はそうは見られないからな」
上機嫌な男が2人?くらいいる男に自慢している声が聞こえる。最悪、行為に及んでいる可能性もあったが、どうやらそうではないらしい。と言っていかがわしい事をしている事にはかわりはないのだろう。女性にとってこれほどの屈辱はないはずだ。
笑い会う男達を黙らせるためドアをほんの僅か開けて兵士を眠らせたように睡眠魔法を行使する。靄のようなものが部屋を埋め尽くしていく。
「おやおやこれはいけませんな・・・飲みすぎましたのか少々睡魔に・・・」
「おや・・・あなたもですか・・・実は・・わた・・・」
「おお。お主らもか・・・」
物音がなくなったのを確認し、静かにドアを開け中に入る。四角い水槽に裸にされた女性が閉じ込められており、それを鑑賞できるように設置されたソファーに男3人がだらしなく寝込んでいた。
最悪の趣味だな・・・この場で・・・騒がれても困るか。水槽の中の女性も眠っているようだ。
水槽の拘束をはずし蓋をあけ水槽の中から女性を引きずりだす。四次元ポケットから服を取り出して女性に着せた。申し訳ないが裸を見てしまった許してほしい。
服を着せた魚人族の王を背中に括りつけ、部屋を出る・・・まだ兵士達は眠っているようだ。廊下を出て・・・
「だれだ?」
巡回中の兵士に見つかった。仕方なく急いで窓から外へ出る。わらわらと兵士が集まりだし、俺を指さす・・・。急がないと危ないな・・・飛行に集中したとき・・・背中の女性がふいに意識を戻す・・・。
「なにを・・・」
急に背中を両手でつっぱられてバランスを崩す・・・不幸が重なり、兵士が射た矢が俺の右足を貫いた。
「ぐう!」
痛みで飛行魔法の集中が切れ、落下する。何とか地面に落ちる前に体制を戻すが、地面に転がるように落ちてしまった。周囲からはアリのように兵士が集まってくる。
「あなた、まさか・・・」
「ああ。お前を助けに来たんだが・・・」
ドジを踏んだ。これじゃあメグミにも怒られてしまうな・・・。
「もう一度、飛ぶから黙ってつかまっていてくれ・・・」
足の痛みをよそに再び集中し空へ向かう。兵士の矢が飛び交うが何とか避ける・・・しかし、あまりの矢の数に回避も限界に達し、矢が魚人族の王へと向かう。咄嗟に手で受け止めたが、矢は俺の掌を打ち抜いた。歯を食いしばり、痛みに耐え、少しでも遠くへと空をかける。
やばい・・・足からも手からも嫌なくらい血があふれている。治癒魔法を使えば治せるけど・・・今は空を飛ぶことに集中しないといけない・・・。途切れそうになる意識を歯噛みして取り戻し飛び続ける。
王城から北に飛びだし山の麓まで何とかたどり着くが・・・俺の意識はそこで途切れた。
「ねえ・・・しっかりして・・・」
俺を呼ぶ声に目を覚ます・・・
「ここは・・・?」
「どこかはわからないけど・・・たぶん簡単には見つからない場所だわ」
水の流れる音が聞こえる。動こうとしたが、激痛が走る。
「くうっ!」
「まだ動くと傷が開くわ」
手足には服を割いて作った包帯が巻いてあるが・・・。そうか着せた服を使ったのか・・・。最近、強くなったと思ったけど・・・魔法の併用ができない時や怪我をした時にすべてのスキルが使えるわけじゃない事を学んだな。高いHPがあるから簡単には死なないだろうが、出血がひどければ意識も失うのか・・・。身体強化すれば矢だって防げるくらい身体は頑丈になるが、ずっと使っているわけにもいかない。
仮面を取り四次元ポケットにしまう。
「おれもまだまだってことか・・・よくわかったよ」
傷ついた手を見ながらつぶやく。
「あなたはなぜ私を助けに?見たところ人族のようですが?」
「俺は、自分の国を持っている。ミクスと言う国だ。まだできて間もない国だが、そこにはたくさんの種族が暮らしているんだ。人族が他種族を襲うようになってから獣人たちやエルフやドワーフが襲われているる。1つの種族だけでは人族の数にはどうしてもかなわない・・・。だから俺は俺の国に色々な種族をかくまって人族に対抗している。魚人族にも声をかけようと湖に向かったが、湖に着いた時には王がさらわれていると聞いた。魚人族の仲間から王の救出を頼まれたから助けに来たんだ」
「あなた・・・たった1人でですか?」
「ああ。その方が早いし確実だからな」
MPは大丈夫だな・・・、治癒魔法を使い手の傷を治すとそのまま足の傷も治す。
「すごい・・・あなた治癒魔法が使えるのね・・・」
「ああ。色々できるからな・・・王は怪我とかしていないか・・・」
「私に・・・怪我はないわ。それといちいち王と言わなくていいわ、ただ種族の代表をしているだけだから。名前で呼んでちょうだいサラでいいわ」
サラか・・・気丈に振る舞っているが人族から受けた心の傷は軽い物ではないだろうに・・・。
「何か食べるか?さすがに腹が減った」
「でも・・・食べるものなんて・・・」
四次元ポケットを開き、メロンパンなどの菓子パンを出す。
「パンは食べられるか?」
「食べるものは、人族とそんなにかわらないわ・・・それよりもどこから出したの?」
「便利な袋があるんだよ・・・。飲み物も出すからまずは食べて飲んで元気になってくれ」
甘いパンを中心に選んだのは、疲労回復と体力のためだ。2人でしっかりと食事をすませる。
「それでここはどこだ?」
「ここは、あなたが連れてきた場所から少し歩いたところにあった滝の裏側よ。外には兵士がたくさんいて私たちを探しているわ」
それで水音がすごいのか・・・おかげで声も届かないだろうな
「ならさっさとここから脱出しないといけないな。空は安全かもしれないが、どうしても目立つからな・・・少し陸路を使って途中から空へむかうか・・・。少しなら陸路も大丈夫か?」
「今、水の中にいたからしばらくなら大丈夫よ・・・そうね6時間くらいなら」
けっこう持つもんだな。それなら大丈夫か・・・
「わかった。それと・・・もう一度服を出すからこれに着替えてくれ・・・目のやり場に困る」
俺の手当てに使ってくれたのだろうが・・・ほとんど服が原型をとどめていない。出した服をおとなしく着てもらう。
「よし・・・これで大丈夫だろう」
再びサラを連れ俺は逃避行を開始する。




