魚人族
アトランの肉は、千人で食べても食べきれないほどの量だったので、残った肉は、各家庭に持ち帰り冷凍庫のお世話になっているだろう。
冷蔵庫と冷凍庫の使い方も女性陣を中心に理解が進み、今では必需品となっている。
今日の朝の会議の議題にアルコールについての話しが出た。ドワーフを中心にどの種族も酒をたしなむから何らかの酒をこの街でも造ってはどうかと言う提案だ。王に一任するとのことなので近いうちに答えを出したい。
俺には、酒造系のスキルもあるから作る事は問題ないが・・・できれば街の産業にしたいな。酒作りできる者はどの種族にもいるが、せっかくなので美味しい酒を造りたい。設備や美味しい水には、問題がないが、そのためには材料となる麦や米、芋と言ったものが大量に必要になる。この街ではまだ農業はそこまで発達していないから材料となる素材を考えなくてはならない。
この世界にも小麦や大麦はあるようなのでどちらも生産するように頼んでおいたからそのうち、ビールや度数の高い酒も造れるだろう。米もそのうち作るつもりだ。日本酒が作れるからな。
それまでは裏の森で採れるベリーなんかを酒に加工しておくことにしよう。
そんな事を考えたりしていたら来客があった。
「えっとどちらさまですか?」
来客は、高校生くらいの女の子・・・。俺に知り合いはいないはずだが・・・
「ミールです。これからこちらでお世話になります」
人化の法とは聞いていたが・・・。となりにいるメグミも驚いている。
「きれいなお嬢さんね・・・」
「失礼だが、この方は?」
ミールがメグミを指して聞くので
「ああ。俺の妻で、メグミと言う」
ミールはメグミを頭の先から足の先まで見ると
「ふーん・・・」
何か納得したような表情でうなずく
「まあ、私は構わないけどね・・・。それで、私はどこに住んだらいいのかしら?」
何を構うか構わないかはわからないが・・・
「ああ、それなら。居住区の好きなところ「私はここがいいわ」
有無を言わさぬ物言いで、ここに住むと言う。
「だけどな・・・一応ここは」
「ええ。わかっているわ。あなた方夫婦の家と言うのでしょ?お邪魔はしないわよ。離れにも部屋はたくさんあるようだし、私はそこの一部屋もらうわね。たまにご飯を一緒するくらいならかまわないいでしょ?」
水龍からの預かりものだし、無下にもできないしな。
「わかったよ。離れを少し改装するからそこに住むといいさ。一応離れは来賓客が宿泊できるように作ってあるから問題はないよ」
「なら決まりね・・・少しお借りしていくわね」
メグミにそう言うと俺の手をひいて離れへ連れていく・・・
「タクミ様・・・こちらの事はほとんどわかりませんので・・・これから色々とよろしくお願いしたしますね」
さっきまでの言葉使いとは大きく違うような気がする。
「ああ・・・俺にできることならな。あと、到着してすぐで申し訳ないが魚人族との交渉にも力を貸してくれ」
「そのような事でしたらいくらでも力をお貸ししますわ」
部屋をいくつか案内して場所を決めてもらい希望にそうように改装した。人化している間は、ほとんど人を変わらないそうだ。人化の法は、龍族の中でも限られた者にしか行えない高位なスキルとのことだった。
旅立つ前にとメグミが作ったごちそうを食べる。その後、ホクトとナントを紹介したが、ナントのお腹が大きくなっていたので子供が誕生する日も近いようだ。
のんびりと風呂につかって部屋に戻るとさっきまでと違いメグミとミールが仲よく談笑している。女同士仲良くしてくれるのは良いが・・・
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30分ほど前
「それで、譲るつもりはないと言うのか?」
「ええ。夫を譲るつもりはないわ」
「なら少し覚悟してもらおうかの・・・」
庭に出た二人は、対峙するとそれぞれ武器を出す。剣術を使うメグミに対して人化したままのミールは、手の先から水でできた剣を作り出す。
剣と水でできた剣がぶつかり合う。目に見えないくらいの速度で剣を交える。
「本気を出しても構わないようだの・・・」
「ええ。本気で来なければ勝てないわよ」
身体強化したメグミに対してミールも本気で剣を振るう。さっきよりもさらに加速された剣は糸を引くようにつながっていく・・・
剣術で勝負がつかないと見たミールが、片手を剣から離すと掌から小型のブレスのように水を吹き付ける。メグミは剣に魔法剣に切り替えそれを迎え撃つ。ミールの小型のブレスを切り裂いたメグミが肉薄するが、ミールが作った水の壁に阻まれいったん後方に宙返りして距離をとる。
ミールが片手に水を集め盾を形成し、剣を槍へと変化させる。スタイルを変えたミールに対してメグミは、精霊魔法を行使し、水に相性が良いウッドゴーレムを召還して対応する。
召還されたウッドゴーレムがミールの相手をしている間に、古代魔法を形成しミールを覆い尽くすほど巨大な雷撃を放つ・・・ミールも水の壁を周囲に展開しそれに対応するが、古代魔法の威力の方が勝っておりすくなからずダメージを与える。
それでも体制を立て直そうとするミールの首筋にメグミの剣が突き付けられる。
「わ、私の負け・・・」
「いえ、引き分けにしましょう」
「な、何故じゃ?私を馬鹿にしているのか」
「そうじゃなくて・・・。タクミをミールに譲ってはあげられないけど、ミールはタクミと一緒に戦ってくれる仲間なのでしょう? だったら私には勝ち負けはどうでもいいの・・・。次の旅もそうだけど私が側にいてあげられない事だってあるわ。そんなときにもしミールが一緒にいるなら、私に変わってタクミの事を守ってあげて欲しいの・・・」
「お主はそれでいいのか?私は・・・」
「タクミはね私の事を・・・いいえ違うわね。みんなを守るためなら平気で命をかけて戦うの・・・。いつも危なくて・・・心配で・・・。でもね・・・そうやって頑張っているタクミを私は応援してもあげたいんだ。だからお願い・・・タクミのためにも力を貸して」
「私より強いくせに・・・そんなにも好きなのか?」
「ええ。それは誰にも負けないわよ」
「なら勝負はお預けじゃ。今は勝てんでもいずれ乗り越えてみせよう」
「タクミは渡さないっていったでしょ?」
「協力はするが、それとこれは別の話しじゃ。私はタクミ様をあきらめんからの・・・それとこれからお主の事はメグミと呼ばせてもらうからそのつもりでおるのじゃ」
不思議な折り合いがつき、2人は共闘を約束する。
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翌日、留守を守るメグミには、有事の際の対応方法を伝え、ロドス達族長にも細かな指示を出し、魚人族に会いにミールと共に旅立った。
ご機嫌なミールに昨日メグミと何かあったのか?と聞いたが
「女同士で腹を割って話したから心配無用」
と返事があった。
さすがにステータスが半端なものではないミールの動きは滑らかだ。疲れもなく走るようなスピードにもついてくる。
途中、休憩したときに食べたいものを聞いたら、食べた事がない物と言うので試しにパフェを出して食べさせた。さすがに驚いた顔を見せたが一気に食べきりおかわりを所望された。
やっぱりミールも女の子なんだな・・・
空を飛ぶよりは遅いが、かなりの速度で道なき道を進む。途中で現れた魔物は、ミールがほとんど倒してしまうので俺の出番は回収だけだ。回収作業をする俺に、便利な魔法じゃな・・・とミールが言っていたが、龍族でも無限に収納できるようなスキルは持っていないそうだ。
2日後には、目的地であった湖にたどり着くことができた。しかし、そこは・・・
「ひどいな・・・すでに人族の手が・・・」
「誰かおらんのか?」
ミールが湖に声をかけるがなんの反応もない。湖のほとりに建ててあった小屋のような建物は燃えつきている上、湖の周りには争った跡と血の跡が残る。
「俺を人族と見て隠れているのかもしれないな。ミール・・・湖の中を見てきてくれるか?」
「たやすい御用じゃ」
ミールはそう言うと湖に飛び込んで潜っていく。俺は周囲の様子でも見て回るか・・・。しばらくあたりを探索したが、生き物の気配がない。
仕方なく湖のほとりに腰を下ろして待つことにした。
しばらく経つと湖からミールの姿が現れ、続けて男達が顔を出した。
「タクミ様の予感が当たったようじゃ」
残念そうな顔を見せるミールは、濡れた様子もなく湖から出てくる。後ろには魚人の男たちが連なるが・・・
「人族ですか?」
男達に聞くも返事はない。
「この方は、お前たちも含め他種族を守ろうとされているから心配する必要はないぞ」
とミールが話してようやく口を開いた。
「人族が来て・・・われわれは戦った。だが、女子供が捕まり人質にされた。王も必死になってなんとか抵抗したが、捕らえられてしまった」
「魚人族の王が人族に捕らえられたのか?」
「王は、我らの盾になるべく最後まで人族と交渉に及んだが、あいつらは最初から王をさらうつもりでいたんだ。王は、捕まり、残った我らを殲滅せんと人族は執拗に責めてきたから、湖の奥底に隠れるしか方法がなかった」
「王がさらわれてどのくらいの時間が経つ?」
「すでに1ヶ月がすぎる・・・。我らにはもう先がない・・・」
遅かったか・・・1ヶ月以上前にすでに魚人は襲われていた。ひょっとすると王都へ行ったときには、捕らえられていたのかもしれない・・・
「王は、なぜ捕らえられた?」
「王が・・・美しい女性だからだろう・・・」
悔しそうに魚人の男が拳を握る。取り返しに行きたくても水場を離れられないため、それも難しいのだろう。しかし、それなら・・・もしかすると王はまだ生きているかもしれない。
「俺が王都へ行こう・・・。魚人族の王の安否を確かめたい」




