悲劇の先にあるもの
『タクミ・・・少しいいかい?』
「何かあったのか?」
数日、ミクスに滞在したセレスを王城に連れ戻し、ミクスに帰還するとホクトが顔を出した。案内され向かった先にあったのは・・・
まるでごみでも捨てるかのように転がされているエルフの死体・・・
「ラムセル・・・」
そこには、ラムセルの遺体と共にかつて会った老エルフの遺体もあった。どの遺体にも生々しいくらい拷問された跡があり、手足の爪ははがされ・・・身体中に痛々しいほどの傷があった。
しばし、茫然と考えていたが、神聖魔法を使い遺体を浄化した。とてもではないが、この姿をエルフたちに見せることはできない。
『こっちへ』
ホクトに連れられて進むとかつてエルフたちが住んでいた村へ着いた。すでに人族が撤退したとの報告はガスターンから得ていたが、そのあまりにもひどい惨状には吐き気さえ覚えた。
打ち捨てられたエルフたちの遺体が残され・・・自然と共に暮らしていたエルフたちの住まいは炭になっていた。
遺体はすべて魔法で浄化した。人族の残した爪痕を見ながらエルフの村をまわり、多くの遺体を浄化していく。炭になった家屋をさらに炭化するくらい燃やしてその痕跡を消した。
『タクミ・・・』
「ああ・・・。俺の仕事だ」
エルフの村に石碑を建て墓にした。このような悲劇が繰り返されないように祈る。
ミクスに戻ると各種族の代表者を集める。
「・・・という状況だ。」
「そ、そんな。兄様が・・・」
アリヒアが倒れこむ・・・メグミを呼んで一度退室させる。
「王都を見てきた・・・捕らわれた獣人たちの姿もあったが・・・」
「もう・・・覚悟はできているにゃ・・・」
ロドスもカイルも顔を伏せる。
「俺は、これ以上の犠牲は望まない。もう一度、周辺種族へ働きかけ、賛同してくれる種族にはここへ避難するように説得するつもりだ」
「賛成だ。エルフの森の先に住むドワーフや犬族たちにも声をかけるべきだろう。どこも人族ほどの規模の兵士はいないだろうしな」
「他に知り合いの種族とかはいないか?情報だけでも渡してあげないと被害が増えるからな」
「そうだな・・・今言った種族の他には、ここからかなり遠いが湖に住む魚人族がいるな。さらに遠くまで行けばまだ他にも種族がいるかもしれないが、そこは人族から見ても遠いから大丈夫だろう」
「なら、ドワーフ、犬族、魚人族あたりに声をかけるか」
「犬族は任せてくれ。あそこには知り合いもいるからな」
ロドスが引き受けてくれたので任せる。
「俺は、すぐにでもドワーフを説得に行く。その後は魚人族に接触してみるつもりだ」
細かな指示を出すと各自の役目を果たさんと席を後にする。
『タクミ』
席を立ってすぐ、ホクトに呼ばれる。
『どうした?』
『ドワーフが面会に来ているよ。城門のところだ』
「そうか・・・話しが早くまとまるかもしれないな」
ドワーフの代表を会議室に案内する。以前にドワーフの村を訪ねた時にあったドワーフだろう。初めてこの街に来たから街の威容に驚きを隠せないでいる。
「わしは、ドワーフ族の村を代表してきたボンゴだ」
「前にお会いしたとおもうが、この国ミクスの代表をしているタクミだ」
「今日は、わしらからお願いがあってやってきた」
「お願いとは?」
「エルフの村を見たか?」
「ああ。ひどいものだった」
「わしもあの村を見てな・・・本当にひどいもんじゃった。エルフとはそれほど付き合いがあったわけじゃないが・・・隣人としても放置できるものではない。前にお主が言ったように我らが抗ってもエルフ族と同じ目に合うのだろう・・・」
「人族は、数が多い。単独の種族で対応できる種族はないだろう・・・」
「そこでお主への頼みなんだが・・・我らの村の女子供を受け入れてくれまいか?」
「お前たちは来ないのか?」
「わしらは、鍛冶の民じゃ。鉱石を山から掘り出し・・・加工するのが生きがいでもあり、使命だとも考えておる。火事場の炉の火を落とす事はできんのだ」
「鍛冶ならここですれば良いだろう?」
「お主は、鍛冶場を見たことがあるのか?簡単に引っ越したりすることはできんのだぞ」
「俺も鍛冶をするからな・・・鍛冶場の事はわかっているつもりだ」
「なんと・・・お主は鍛冶をするのか?人族は鍛冶が得意ではないと思っていたが・・・」
「ああ。俺は特別だからな・・・どうだ?この街の火事場を作るつもりでもいたし一度見てみないか?」
「それならお言葉に甘えよう」
ボンゴを連れて街を歩く。
「それにしても見事な街だな・・・。あちこちで使われている鉱石もずいぶんと奮発しているではないか?」
「さすがにわかるか?」
「城壁なんかにも鉱石を加工して使っているからな・・・ちょっとやそっとじゃ壊れたりしないぞ」
見る者が見ればわかるもんだな・・・。アーケード街まで来るとリル達の店が開いていたので、声をかける。
「どうだ?うまく行っているか?」
「あれ・・・王様と・・・ドワーフ?」
「ああ。ドワーフの代表の方だ。これから南の工業区へ行くところだ」
「もしかしてドワーフもこの街に住むの?もし、そうだったら包丁とかお鍋とか頼みたいのよね」
「この建物はなんじゃ?」
「ああ・・・まだここしかないが、物を売り買いする店だよ。この街は、ミールって言う通貨で物のやり取りをしているからここで欲しい物を求め、売りたい物を売るんだ」
「ほう・・・おもしろい事を考えるもんじゃな」
「ドワーフさんもこの街に来たら色々作ってね。私達が売ってあげるから」
リル達と別れ工業区へ向かう。
「この公園を抜けた先が工業区だ。今はまだ試験的な鍛冶場しかないが、すぐに作れるように資材なんかは準備している」
試験的に建てておいた鍛冶場を見せると
「なんとも・・・広く贅沢な作りじゃな。炉も我らの物よりも・・・?」
「ああ。少し構造が違うかもしれないな。より高い火力を出すために炉にも鉱石や魔物の素材を組み込んでいるからな」
ドワーフの食いつきが半端ない・・・。作業道具の配置などを確認しているのかきょろきょろと辺りを見る。
「これはなんじゃ?」
「ああ。水道って言って、その蛇口をひねると水が出るようになっている。トイレも水で流れるようになっているからな。この街の家は全部そうなっているから」
蛇口をひねると水が流れ・・・絞めると止まる。何回も繰り返し・・・
「面白い事を考えるな・・・」
「生活を豊かにする知恵ってやつだ」
「この街は宝箱じゃな・・・次から次へと好奇心が満たされる・・・わしらにとって、物づくりへの興味は何よりも重いもんなんじゃ。城門にいた獣人族の兵士が着ておった鎧も武器もお主が作ったんじゃろう?あれは大したもんじゃ。我々にも学ぶところがふんだんにあると感心しておる」
「それで、どうするんだ?」
「わしは、ここに住んでも良いと思った。周りが行かないと言ってもわしはここで鍛冶をしたい。新たな発見や知識を身に着けたいと思う。おそらく仲間も同じように考えるじゃろう・・・女子供だけ避難させようと言ったが、ここなら女子供でも仕事ができそうじゃし・・・やはり家族と一緒に暮らしたいと思う」
「この街に来る以上この街のルールには従ってもらうぞ」
「それは約束しよう。わしが責任をもって仲間にも伝える」
ボンゴと細かな打ち合わせを行い。鍛冶場の数や配置を決める。ドワーフは、居住区よりも鍛冶場で寝食を共にしたいと言うので居住スペースを併設することになった。一定額の税金を支払えば、鍛冶場は自由に使って良い事にした。こちらとしても作った道具をリル達に売ってもらえれば生活雑貨が豊かになるだろう。
「ボンゴ。村に帰るならこれを持っていってくれ・・・」
四次元ポケットからミスリルで作ったナイフを取り出した。
ミスリルのナイフ +5
攻撃力 25(+50)
付加 自己修復
「これは・・・」
「俺が作ったナイフだ。見て通りの物だが、それ以上の物も作ることができる。興味がある仲間がいれば説得に使ってくれ」
「わ、わかった。こんな物作れるなら・・・。仲間はわしが説得して全員を連れてくるよ。受け入れの事よろしく頼む・・・」
ボンゴは、ミスリルのナイフを大切にしまうと仲間の元へ帰っていった。
これで、ドワーフ達は襲われる事がなくミクスに合流することができる。およそ500人近い数のドワーフが街に来ることになれば街の人口もおよそ1000人にまで増加する。
「次は、魚人族だな・・・水か・・・」
山から得られる豊富な水源があるミクスならと考えたが、どのような生活空間が必要か想像ができない。
「一度会って細かいことも聞かないと移住どころじゃないか・・・」
まずは、ドワーフの移住計画を進めるのが優先だな。鍛冶場は、世帯分欲しいと言っていたが、ドワーフは結構な大所帯だと言うからとりあえず鍛冶場付住宅を量産しておくことして、あとで細かな注文を聞けばいいか。
『タクミ』
「どうした?」
『前に言いそびれていたけど・・・』
「ああ。相談があるって言ってたな」
『実は、ナントに子供ができた』
「???」
『聞いているのかい?』
「あ、ああ。ち、父親はホクトだよな」
『そうだよ。それでしばらくナントには無理をさせないでほしい』
「当然だろ。そうか・・・ホクトも父親か」
『メグミにはもう言ってあるからね』
「そうか・・・ホクトもしばらくは無理しなくていいぞ。ナントの事をきちんと守ってやれよ」
失われる命があれば生まれる命もあるか・・・




