ひとつの
「それで、ここが街の治療院よ」
メグミの案内でセレスは街を見て回る。
「治療院って怪我や病気を治すところよね・・・ポーションなんかが売っているんだけど」
「ここには、怪我した人が来たら街の人なら無料で治療してくれるの。病気が怪我が治るまで時間がかかりそうなときには入院する事もできるわ。薬局が薬やポーションも売ってくれるからそれを買ってもいいけど治癒魔法の方が確実によくなると思うわ」
「ええ?治療が無料なの?」
「そうよ。この国に住む人は税を納める必要があるけど、その代り怪我や病気をしたときには治療を無料で受けることができるの」
「しかも治癒魔法まで・・・」
「ええ。あそこにいるエルフの女性が、治癒魔法を使って治してくれるわ」
「少しお話しできるかしら?」
「邪魔しなければ大丈夫だと思うわ」
治療が終わるのを待ち手が空いたのを確認して声をかける。
「アリヒアさん。少しいいかしら?」
「これはメグミさんと・・・どちら様ですか?」
「えっとね。タクミが連れてきたお客さんね。今街の案内をしているの」
「そうですか・・・王が連れてこられた方なら大丈夫なのでしょうね。私にどのような用でしょう?」
「この子が、あなたと少しお話ししたいと言うので、お仕事の邪魔にならない程度で結構なので」
「ええ。今治療を終えた方で、待っている方はいませんからかまいませんよ。それで何をお話しすれば良いのですか?」
「あの・・・ここには、エルフの方以外にも?」
「ええ。見ていたとおり今治療した方は、獣人族の方ですね。王は、差別する事なく治療するように言われましたから私はそのとおりにしています。最初は、互いに抵抗がありましたが、今は特に気にならなくなりました。みなさん、ありがとうってお礼を言ってくれるので私はそれだけで満足していますよ」
「ひ、人族が来ても・・・?」
おそるおそる聞いてみる・・・エルフが人族に襲われて避難している事を聞いているから。
「正直、まだ、整理できない気持ちもありますが、私は治療するでしょうね」
「なぜ、そんなことが・・・」
「最近気がついたのですが、どの種族にも良い方がいると言う事です。お話してみるととて優しい方だったり、親切な方がおりました。見た目だけでその方の事を決めつけていた自分が今は少し恥ずかしくも思えます。治療院に務められてよかったと思っていますよ・・・たくさんの方とお話しすることができますから」
「ごめんなさい・・・あなた方の町を襲ったのは、私達人族です・・・私が誤っても何もならないかもしれないけど・・・本当にごめんなさい」
「あなたが悪いわけじゃないでしょう。でも、ありがとう・・・その気持ちだけでもうれしいわ」
「アリヒア・・・どうもありがとう。お仕事の邪魔しちゃったね」
「いえ、いつでもお越しくださいね」
治療院を出る。セレスは少し涙していた・・・。この後、居住区や公園、試験開店している獣人の店などを見学して歩く、どこでも最初は険しい顔で出迎えられたが、メグミが混ざって話しをしていると最後には笑顔で送り出してくれた・・・
「私は・・・なんて思い違いをしていたんだろう」
「どうかしたの?」
「みんな優しい人ばかりだった・・・」
「うーん。そんなこともないと思うけどね」
「私は人族なのに・・・恨まれても殺されたって・・・仕方ないと思っていたわ。人族はそれくらいひどい事をみんなにしているのに・・・。自分は、王様に何を言っても聞いてもらえないから・・・仕方ないって思っていたの・・・。でもね・・・みんなの姿を見たら・・・仕方ないなんて言葉で逃げる事は絶対に許されないと思う」
すでに顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
「セレスは優しいね・・・。そんなセレスみたいな優しい人は人族にもたくさんいるの・・・。でもね今人族は、ちょっとおかしくなっているんだよ。このままだと・・・誰かが止めてあげないときっと大きな悲劇を生むと思うの・・・。でもそれはセレスだけじゃ止められないと思うんだ。だからセレスも同じ考えの仲間を持ち、力をつけなくちゃいけないと思う」
「私に何かできるかな・・・」
「そうだね・・・きっとできる事があるんだろうね。タクミがここに連れて来たってことは、きっとセレスに何かを期待しているんだと思うよ」
「私に?」
「そう。タクミの見る目はすごいんだから・・・」
「また、あなたののろけ話になるの?」
「そうよ。私の自慢の夫なんだもん」
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「やはり斥候が出ているか・・・」
『かなりの数が森に来ていたから丁寧に対応しておいたよ』
「となると次は・・・」
『エルフか・・・ドワーフを人質に使うかもね』
「ああ。俺もそれを考えている。一番やっかいで・・・俺の嫌いな方法だ。一度、うまくいくと味をしめて何度でも同じ事を繰り返すだろう」
『どうするつもりだい?』
「警告を与えておいた・・・その方法をとればどのような報いを受けるかを・・・。そろそろ前線にも伝わるはずだ。それをもっても防げないなら・・・」
『なら・・・?』
「やめておこう・・・きっと何とかなるはずだ。そこまで馬鹿ではないだろうからな」
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「それで?王都へ戻れと・・・」
「はい。セイオス審議官は、直ちに王都へ帰還せよとのご指示です」
「困りましたね。ようやくこの先の街の姿を見れると思ったのですが、王命となれば戻るしかないでしょう。わかりましたすぐに王都へ帰還いたします」
報告した兵士を下がらせる。
「なんでえ・・・せっかくこれからって時に帰還命令かよ」
「王都で何かあったようですね」
「で?交渉に使うために作ったやつは、どうするんだ?」
「次に私がいつ戻れるかはわかりませんからね・・・もったいないですけど壊しちゃいましょうか」
「しゃーねーか。で、そいつに乗っける予定だったエルフ共はどうするんだ?ほら新しく捕まえたやつがいただろう?」
「ああ。ラムセルとか言う捕らえたエルフですか?聞けば、あの年老いたエルフの孫と言うじゃないですか?一緒に始末して・・・そうですね・・・あの街の側に捨ておきましょうか」
「はっはっは・・・。ほんとにお前は面白いな・・・そうしようぜ。きっと奴らの仲間を大喜びだろうよ」
腹を抱えて笑うサントス
「あなたも一緒に戻りますか?」
「ああ。ここにいてもお前がいないんじゃ面白くないからな」
この日、エルフの里を占拠していた人族は王都へ撤退を開始。この撤退で人族の版図は、辺境の村から東のロドス達狼族の森、その南方の猫族の森となった。人族は、版図を拡大する事で多くの資源や森の恵み、いくつかの未踏破ダンジョンを確保することができた。人族の遠征は人族に多くのものをもたらしたが、それは、多くを奪われた獣人たちの犠牲の上に得られたものだった。
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「それで、他にはあったのか?」
「いえ、他には発見されておりません」
王都は今パニックを起こしている。王都への宣戦布告とも言える一文が発見されたのは先日の事だ。王城の城壁に書き込まれた文章は、好景気に沸く王都に冷や水を浴びせた。
「おごる人族に告げる。これ以上の無法は許さない。非道な行いには、無慈悲に応えよう。直ちに捕らえた者を解放しろ。多種族に害なす者は、探し出し必ずその報いを受けさせる」
文章自体は、それほど警戒するものではないものだったが、その文章が書かれた場所が、王が住む王城の城壁だったことが問題となった。
王都の民なら誰もが眺め見ることができる城壁に書かれた文字は、簡単に消すこともできないところに書かれていた。そうそこは、空でも飛ばなければ近づくこともできない場所だったから。
右往左往する兵士をよそに否応なく王都の民は、城壁に書かれた文字を目にしてしまう。獣人を売買したり、いかがわしい事をしていた者は、その警告文を見て冷や汗をかいた・・・
「王城の守りはどうなっているんだ?」
「どうやってあの城壁にあんな文章を書いたのだ?」
「潜入している獣人がいるんじゃないか?」
「王への不満分子が裏で暗躍しているのでは?」
「魔族の仕業ではないか?」
「獣人を連れていると襲われるかもしれない」
王城では、あわてて城壁の文字を消そうと工夫たちが足場を組み始めたが、すべての文字が消されるにはまだ時間がかかるだろう。
「クライス審議官・・・犯人は見つかったのか?」
「いえ・・・」
「兵は何をしていたんじゃ。あれほど大きな文字を書かれていて誰も気づかんとは・・・」
「さきほど王都を出入りする者の検査強化、王都内の他種族たちの監視を指示しましたので、ほどなく王都内は落ち着くと思いますが、王城に簡単に潜入されたことは否定できません。警備を一新し増強するようにいたしましょう」
「ふん!当たり前じゃ。それで犯人の心当たりはあるのか?」
「現在、侵攻しているエルフか獣人たちの仕業と考えるのが正しいでしょう。しかし、私は、以前王城から逃げた魔族の線もあると考えています」
「お前が言っていた魔族か・・・」
「はい。容姿は我らと変わりありませんが、おかしな魔法を使うなどその実は人族とは思えません」
「それで、魔族だとしてなぜこのような事をする?」
「そこは私にも・・・」
「エルフ共の仕置きはどうなっておる?」
「兵の報告では、エルフの村を占拠したと聞いております。ただ、グラム将軍が戦死したとも聞いております」
「その辺も詳しく聞かんといかんな。一度、兵を引き上げて様子を見る。セイオス審議官には撤退を指示せよ」
「それが良いかと・・・獣人たちから奪った森から十分な富を得ることができておりますので、王都の経済にも問題はありませんから・・・」
「わしは、何も侵攻をあきらめたわけではない。一度体制を整えるだけじゃ・・・」
「わかっております」




