王女の冒険
街の外壁の外側に作った堀に水がたまるまでにかなりの時間がかかった。最後に水の流れを作るため贅沢にドラゴンの魔石を使って作った排水装置を南門の下に取り付け排水できるようにした。これで、ため池から南門までゆるやかだが川のような流れができる。魚を堀に入れるにしてもきれいな水が循環していないといけないからな・・・。
水龍に堀ができた事を報告すると水龍が眷属に命じて堀に住みやすい環境を作るように指示した。確かに今のままだと住みにくいだろうしな・・・。水龍の話しだと水の流れがあれば1ヶ月もしたら藻や水草なんかが生えてくると言っていた。そのうち近くの川から魚を引っ越しさせよう。
「さて、堀もできたし俺も少し動くとするか・・・」
『やっぱり行くのかい?』
「ああ。そうだな・・・3日・・・いや4日留守にする。その間の事を頼む。メグミやロドス達には、俺から説明しておく。おそらく人族の斥候がそろそろ姿を現すだろうから対処してくれ。そうだな・・・狼がいて近づけないって報告をさせてくれれば良い」
『わかった。街には近づけさせないよ』
「ガスターンを連れていくからな」
『そうだ・・・タクミが戻ったら少し相談したいことがあるから』
「なんだ?今じゃだめなのか?」
『帰ってからでいいよ』
「そうか。なら帰ったら聞くからな・・・」
この後、メグミに説明し、ロドス達に不在の間の指示を出す。
「ちょっと王都まで行ってくるからな」
-----------------------------------------
予定した時刻に再び王女の部屋に忍び込む。事前に索敵スキルで部屋の中に兵士がいないかを確認するが、どうやら王女1人のようだ。
「信じてくれたのか?」
「まだあなたを信じたわけではないわ。でも、一晩あなたが言った事を考えたら・・・このまま何もせずにいる事は私にはできないと思ったから」
「どうやって不在をごまかすつもりだ?」
「修道院に籠ると皆には伝えてあるわ・・・。私は、たまに数日かけて神に祈りを捧げる習慣があるの。その間は、誰にも会わずに祈り続けるようにしているから今回も1週間くらい籠ってお祈りすると言ってあるわ」
「そうか・・・なら大丈夫だな。修道院に入った後、俺が連れ出せば良いか?」
「そうしてくれると助かるわ。でもどうやって王都から抜け出すの?」
「昨日見たてだろ?空を飛んでいくところを・・・君も一緒に空の旅に連れていくよ」
「ほ、ほんとにそんなことができるの?」
「見てただろ?それよりも時間がおしいからな準備してくれ」
「わかったわ。でも荷物も持っていけないから・・・」
「荷物があるなら預かるぞ。好きなだけ用意したら良いさ」
四次元ポケットを出して見せる。
「じゃ、じゃあ。この鞄をお願いするわ」
旅行鞄を用意していたようだが・・・
「これだけでいいのか?」
「そんなに持っていけるとは思わなかったのよ。もういいわ何とかなると思うし・・・」
「なら修道院で落ち合おう。北側の棟の端っこにあるのがそうだろう?」
「そうよ。よくわかったわね」
「一応調べておいたからな・・・じゃあ後程合流しますか」
俺は気配を遮断し窓から抜け出し北側の棟へ向かう。しばらくすると兵士に声をかけた後、王女が修道院に入っていった。修道院に設けられた窓から侵入して、王女が来るのをまつ・・・
「ちょっとまって・・・今着替えるから」
修道服を着てきたため、一度着替える必要がある。背中を向けて待つ・・・
「もういいわ」
着替え終わった王女が、準備万端とばかりに声をかける。
「なら気づかれる前に行きますか。少しだけ我慢してくれよ」
そう言うと遠慮なく王女をお嬢様抱っこして窓から一気に飛び出し上昇する。
「ちょ、ちょっと。ちょっと待ってーーーーーー」
王女が何か言っているが、見つかるわけにはいかないから一気に加速して雲の上まで上昇する。
「あ・・・すまん・・・」
安定飛行に切り替えたが、俺の手にはしっとりとした感触が・・・
「あそこで一度下ろすから少し我慢してくれよ・・・」
「・・・」
人目のつかない場所に王女を一度下ろし鞄から着替えを出す。王女は一言もなく着替えを済ませた。
「本当にすまない。飛ぶ前に少し言っておくべきだったな」
「もう良いわ。説明があっても同じだったと思うから・・・それと私の名前はセレスティーン・・・セレスでいいわ」
「わかった。セレス・・・俺はタクミと言う。ここまで信じてきてくれたのだからもう仮面はいらないな・・・」
仮面を取り名前を伝える。
「あら・・・人族・・・しかも若いのね」
「容姿は人族だが・・・違うかもしれないぞ。所詮ただの外見だからな」
「どう言う意味よ」
「羊の皮をかぶった狼もいるってことだよ」
「あら猫をかぶった人もいると思うわよ」
「人目につかないとこまでこれたから次はゆっくりと上昇するから心配しないでくれ!」
「もう少し大事に扱ってほしいわ。それと・・・あまり身体にはさわらないでよね。一応、王女なんだから色々と面倒もあるんだからね」
「ああ。すまないな。次からは背負って飛ぶよ。あと俺が飛べる事は秘密にしておいてくれると助かる。色々と面倒もあるんでな」
休憩をかねて簡単な食事を食べる。四次元ポケットからジャムパンとコーヒー牛乳を2つずつ出して1つを渡す。
「毒なんて入ってないからな・・・」
好きな方を選ばせ俺が食べ始めるとセレスも食べ始めた。さて、どんな反応をするか・・・
「へえ・・・美味しいじゃない。飲み物も甘くて飲みやすいわ」
今までの反応とは違うな。まあいいか。
「それで、この後どこまで行くのよ・・・」
「俺の国だ。ここからかなり遠いが飛べばすぐにつく・・・。俺の街に少し滞在して色々と見てもらうつもりだ」
「あなたの国?」
「ああ。俺が作った俺の国だ。街も俺が作ったからな。俺はそこの王様ってことだ」
「あなたが王様・・・ふーん」
「なんだよ。信じないのか?」
「いきなり空を飛んできた人が王様もしてますって言われてもね」
「まあ着けばわかるからな・・・」
休憩を終えたあとは、再び空を旅する。途中、今の王都の現状とそのことが与えている世界への影響について簡単に説明する。セレスは大方の事は理解していたが・・・
飛び続け街が見えるところまで来ると
「あそこに見えるのが俺の街だ。ここからは、歩いていくからな」
「ちょっと・・・あれが街?街なんて規模じゃないわ」
想像していた街よりも規模が大きくて驚いているのだろう。背中の上から指を指し興奮している。
「さあ、降りるぞ」
ゆっくりと地に降りる。
「なんであそこまで飛んでいかないのよ?」
「言っただろあまり目立ちたくないし、飛べる事は秘密だって」
「まあ。それ以上詮索はしないわ。早くあなたの街へ行きましょう」
街の中に興味があるのだろうな・・・俺をおいて足早に進む。王女だけあってこう言ったものには食いつきが良い。だが、覚悟しないと・・・
「とまれ!」
門番の獣人に止められる。
「え?獣人?」
「お、おまえは人族か!おい隊長を呼べ人族の女が来ているぞ」
獣人族の男が爪を向け警戒する。ようやく後ろから俺の姿が見えると
「これは・・・王の連れですか?」
「ああ。お勤めご苦労様。こいつは、しばらく俺が預かることになった。すまんが通してやってくれ」
「ですが・・・いくら王でも人族は・・・」
「構わん。通してやれ王命だ」
駆け付けたロドスが、門番をしていた部下に指示する。
「わかりました・・・」
門番は爪を下げ再び門番の仕事に戻る。
「こっちだ。はぐれないでついて来い」
動揺するセレスに声をかけ街の中へ進む。
「ねえ・・・あなたの国って獣人たちの国なの?」
返事せずに少し進むと前からエルフが歩いて来て頭を下げた。薬の調合をしている若い女性だ。それを見たセレスが、また口をぽかーんと開ける。
「どういう事・・・?」
「見たままだな。この国には、色々な種族が共存している」
「でも・・・」
「この街にはいくつかルールがある。そのひとつに種族差別の禁止がある。ここでは、あらゆる種族が公平に生きる権利があるんだ」
「でもさっき・・・」
「ああ。獣人族の門番だろ・・・あれはぎりぎりだな。あいつの家族は人族に殺されたか・・・連れていかれたかわかっていないからな。察してやってくれかわりに俺が誤っておく」
「・・・」
「さっき会ったエルフも人族に村を追われてここに来た。いまだに多くの仲間が捕らわれているだろう。そのほかにも猫族の獣人も避難してきている。そして種族もその数もどんどん増えるだろう」
「私達のせいよね・・・」
「そうだな。それは否定しない」
「さっきは、殺されるかもと思ったわ。それくらい強い殺意を感じたもの・・・。王城であなたが言った意味が少しわかったわ。もう・・・人族ってだけで恨まれているから・・・これで私の立場が分かれば私は磔にされる前に命がないわね」
この王女は、以外と自分が見えているのかもしれないな・・・
「それはどうかはわからんんが、そのくらい人族が恨まれているのは否定しない」
セレスを連れ自宅に戻る。ゲストルームに滞在させる事にして部屋に荷物を置かせ少し待つように伝える。
「メグミー・・・戻ったぞ」
「あれ?思ったよりも早かったね。もう用事は済んだの・・・」
「その用事をもってきたから紹介したいんだ。ちょっとついて来てくれ」
メグミを連れてゲストルームに腰を落ち着けたセレスを紹介する。
「メグミだ。俺の妻だからこの国の王妃ってことになる。年は近いだろうから滞在中わからない事は、メグミに聞いてくれその方が話しやすいだろうしな」
「それで・・・この女性はどちら様?」
メグミの機嫌が少し悪い気がするが
「王都のセレス王女様だよ。社会見学のために連れてきたんだ」
頭を抱えるメグミ・・・
「まあ・・・いいわ。タクミは王女様を誘拐してきたの?」
「違うぞ。ちゃんと事情を説明して自分の意思で来てもらったからな」
「そう・・・ならわかったわ。私は、メグミです。セレスさんでいいかしら?」
「ええ。あなたも王妃なら敬称なんて気にしなくていいわ」
「俺はこの後、少し作業したいから・・・そうだな夕食前には戻るからそれまで相手してやってくれ」
あとは女性同士情報交換なりしてくれるといいな。
-------------------------------------------
「まず、先に言っておきます。タクミは私の・・・私だけの夫ですから絶対に恋愛感情は持たないでくださいね」
「ちょ、ちょっとまってよ。私はそんなつもりはないから誤解しないで」
「それが心配なのよね・・・。どこかで変なフラグ立てているような気がして」
「ふ、フラグって何よ」
「まあ・・・どんなフラグだって折って見せるから・・・」
「それでこの後どうしたらいいのかな?」
「あ、ごめんね。タクミから何か聞いてない?」
「来る前に色々と見せたいとは言っていたような気がするけど・・・この街を見ただけで驚きの連続だわ。どうやったらこんなすごい街が作れるのよ・・・」
「この街はね・・・タクミがほとんど1人で作ったんだよ。なんでもできちゃうすごい旦那さまなんだからね・・・」
「あなたのノロケ話はいいわ・・・。さっき、トイレに行ったけど・・・勝手に水が流れたりするなんて技術は見たこともないわ。こんな技術なんてどうなっているんだろう・・・」
「上下水道ね・・・この街では・・・ちょっと見ててね」
蛇口をひねると水が出る・・・
「水が・・・」
「こうやってね。この街の家にはみんなこの蛇口がついていてこうやって回すと水が出るようになっているの。だから水を汲みに行ったりする必要はないわ。使った水やトイレの水は、下水管って言う水が通る道を通って排水しているから捨てに行く必要もないの・・・。水は途中で綺麗に浄化されて畑なんかで農作業に使われる事になるんだよ」
「ずいぶんと便利な仕組みね・・・これもタクミが作ったの?」
「そうよ。ほとんど全部がタクミが作った物だからね・・・今、タクミを持ち帰ろうとか思わなかった?」
「だから警戒しすぎよ・・・そりゃちょっといいなとは・・・」
「ほら危ない。油断できないな・・・もう・・・」
「そう言う意味じゃないわよ」




