黒瀬功と王女
「おう!しばらくぶりだな・・・えっとクロセイサオだっけか?」
大きな声が静かな天幕に響く・・・
「誰かと思えばサントスさんでしたか? 今の私の名前は、セイオスですよ・・・あなたじゃないですか。私の名前を聞き間違えてそう呼んだのは・・・。今でも感謝していますよ一人森で震えていた私王都まで連れていってくれた事を」
親しい友人に再開したかのように声をかける
「ああ。そうだったな。それにしてもいつぶりだ?お前が審議官になったとき以来か?」
「そうですね。それ以来になりますよ」
「それで王都の審議官まで上り詰めたお前はここで何をしているんだ?」
「それが少々トラブルがありましてね」
「トラブル?」
「ええ。今回の遠征軍を指揮していたグラム将軍がどうやら戦死したようなのです」
「なに・・・負けたのか?そのわりには兵士達の数もそろっているように見えたが」
タクミ達の街を襲った兵士は、元エルフの村であるここに避難していた。エルフの村を襲ったグラムは、逃げるエルフを追撃せんとセイオスに占拠した村を任せて自らは追撃に出たのだが、そこには情報にもない巨大な街があり、ほとんど満足に攻撃もできずに撤退した。
セイオスは、逃げ帰った兵士からグラム将軍が戦死した事と巨大な街について報告を受けていた。
「どうも兵士の報告があやふやで正確かどうかはわからないのですが、巨大な街があった。街は高い壁に覆われていて攻めることができなかった。街の中に獣人族の姿があった。恐ろしい魔法を使う者がいたと」
「なんだそりゃ・・・まともな話しじゃねーな」
「数人から同じ話しを聞いたので間違いとも決めつけられないのですが、何か幻術のような魔法をかけられたのかもしれませんね。本当にそんな街があったら王都よりもすごい設備って事になりますからね」
「それでお前はこれからどうするんだ?」
「指揮官がいなくなってしまった事を王都へ報告しました。おって王都から指示が来るでしょう」
「ここから王都までは馬でもかなりの距離があるからそれなりに日数もかかるだろう。お前の事だからそれまで黙って待っているわけじゃないだろう?」
「はい。すでに斥候を放ちその街の情報を集めさせていますよ。あとは、捕らえたエルフあたりも何か知っているかもしれませんからこの後お話しを聞こうと思います」
「おまえにかかれば何でもしゃべっちまいそうだな」
「そんな事はありませんよ。それよりもこちらにはしばらく滞在できるのですか?」
「ああ。ようやく面倒な仕事も終わったからな。お前とつるんでいると面白いことができそうだからこっちに遊びに来たんだよ」
「面倒な仕事とは、王の密命を受けて行った魚人族の捕獲でしょう?」
「ああ。あいつらには散々逃げられたからな・・・ようやく1匹2匹と捕まえて人質にしてやったら残りの奴らも取り戻しに出てきたから返り討ちにしてやった。人魚って女の魚人を捉えて王に献上してきたから報酬はたんまりいただいたぞ。
「相変わらずですね。まあ・・・あなたくらい強ければなんでもできるでしょうから」
「馬鹿言うな。俺にだって勝てない化け物みたいなのがこの世界にはたくさんいるだろうよ。まあ、その数は少ないだろうがな」
「今回、あなたの仲間は一緒なのですか?」
「いや、あいつらは人魚の報酬握ってしばらく遊行するって言ってたからな。ほら獣人族の女どもが大勢王都の裏町に並べられているって話だからな。かわいそうによ・・・あいつらの相手したらもうまともな身体じゃいられないぜ」
「ああ。南方で捕まえた猫族や犬族なんかですね。いいんですよ・・・どうせ人じゃないですから」
「まあ、そうだわな」
「せっかく来てくださったのですから少々手伝ってくださいよ。今からここの村の元責任者の年寄エルフを尋問しますから・・・得意でしたよね尋問・・・いえ拷問でしたっけ?」
「自慢じゃないが、おれは聞き上手だからな」
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「父上・・・このようなお戯れは、もうおやめになってください」
王城の王の間に甲高い声が響く・・・。やれやれと言った顔で声の主である自分の娘を見るのは、この国の国王だ。甲高い声を出す娘は、正妻の子ではなく自らが手を付けた女官の娘だ、そのうち政略結婚にでも使うつもりでいたが、その後も正妻は子供に恵まれず、側室が産んだ子も病や事故が続いたため今では貴重な1人娘となっている。
「父上話をちゃんと聞いてください。これ以上、他の種族をないがしろにすればいつか手痛い報復を受けます。まして、捕らえた女子供見世物や・・・慰み者にする事はおやめください」
「わかった。検討しておこう。もう下がってよいぞ」
当たり障りのない返答でにごし、退席を促す。
「ふう」
退席したのを確認すると王は、ため息をつく
「まったく頭の固い奴め・・・それより、例の者はどうしておる?」
側に控える者に確認する。
「はっ。現在は、水槽と共に王城の1室に控えております」
観賞用に捕らえるように命じた人魚をようやく手に入れた王は、暇があれば人魚を鑑賞しに足を運んだ。その姿を見る娘は歯噛みするが・・・諫める者もいなかった。
王都は、獣人や他種族から奪った金品や素材を糧に潤いを見せる。笑顔で走り回る子供たちがいる道の1つ奥の道には、怪しげな店が立ち並び、捕らえ連れてきた獣人たちを見世物にしたり売り物にさえした。この王都には、異種族が安心して過ごせる場所はすでにない。
王都や辺境の町に住んでいたわずかばかりのドワーフ達は、人知れず街を去った。自らが巻き込まれる事を避け山へ向かう。捕らえられれば自分たちもただではすまない・・・そんな恐怖が異種族を襲う。
「だめね・・・もうどうしようもないわ」
自室でため息をつく王女・・・
「ああ。どうしようもないな」
自室にこもり一人事言ったつもりが、返事があって驚く
「誰です?」
部屋の中を見ても誰の姿もない。
「ああ。こっちだよっと」
そう言って窓から入ってきたのは、人族の男だが・・・ここは王城の4階だ。窓からは、王都の様子が見えるくらい高い位置にある部屋にどうやって・・・
「どうやってここに」
懐から短刀を出し身構える。すぐに兵に伝えなくてはと考えたが・・・ついさっき兵士にはしばらくひとりにしてほしいと頼んだばかりだ。
「別にあんたを襲うつもりはない。ちょっと用事があってきただけだ」
「用事?」
「ああ。さっき王にこの国の現状を訴えていたじゃないか」
「なぜ、あなたがそれを・・・」
「聞いていたからな。俺は賛成だぞ・・・異種族とこれ以上争えば必ず痛い目を見ることになる」
「あなたは誰?なぜそんな仮面をしているの?」
「顔と名前は勘弁してくれ・・・あまり有名にはなりたくないからな。今日はあんたにお願いがあって来た
」
「お願いって・・・何を」
「今、この国の兵士が他の種族を攻めているのは知っているな?」
「知っているわ。止めたいけど・・・もう私には止められそうにないわ」
「残念だがそうみたいだな・・・王都の活況を見ればそう簡単には止める事はできないしな。だが、確実に怨恨は強まっている・・・家族を子供を奪われた異種族の怒りの声が聞こえないか?」
「・・・」
「君には父親である王を止めることができない・・・父親は話しを聞いてもくれないからな・・・。だが、君が王女であることに違いはない。もし、仮にこの国が他種族に蹂躙されたら君は確実に捕らわれの身となるだろう。そして、すべての恨みを背負って無慈悲に殺される事だろうね」
「何が言いたいの?」
「君にこの国の行先を変えてほしいと思っている。そのためには、君はもっとこの世界を知らなくてはならない。ただ言葉で知っているのではなく本当の意味で知る必要があるんだ」
「お願いって?」
「君は世界を見たくないか?この窓から見える世界じゃない・・・広い世界を・・・」
「それがお願い?」」
「君に世界の一端を見せてあげようかと思ってね。1週間くらい時間をとれないかな?」
「何をするつもり?」
「旅だよ。君に見せたい世界があるから一緒に旅をしないか?1週間後には、ここに帰れるようにするって約束する」
「名前も顔を教えられない人を・・・私は、どうやって信じれば良いの?」
「拒否してくれても良いよ。俺は無理強いはしないから」
「え?」
「さっき言ったように捕らわれて殺される道も君の選択だ」
「なにを・・・」
「君は、この国を変えたいなら・・・変えたいと思うのなら俺と旅するべきだ。だが、その旅に出るかは君が決めて良い。旅に出る覚悟があるなら明日もう一度ここに来るから返事をしてほしい。どうやって1週間姿を隠すかは君が考えてくれ・・・じゃあまた明日」
窓から飛び出すと飛行魔法で一気に上空へ避難する。すでに目では見えない高さまで上昇した。
「さて、どんな返答をするかな?」
『さらっていくつもりだったのではないか?』
ガスターンにそう聞かれたので
「少し予想していた王女ではなかったからな。うまくいけば引き込めるかもしれない。明日まで時間があるから王都の北の山あたりで時間をつぶすか」
まだ捨てたもんじゃないかもしれないな人族も・・・




