誇りとは
「神狼様・・・ど、どこへ行かれるのですか?」
アリヒアが道を聞くが
『もう少し先』
とだけ答える。
『君たちの祖父は、まだ生きているのかい?』
兄妹は顔を見合わせる・・・
「いえ・・・最後まで村を守ると言って村に残りましたので・・・おそらくは・・・」
『身内なんだろう。君達は助けには行かないのかい?」
「で、ですが・・・村は人族に占拠されておりますから」
『あきらめるんだね』
「いえ、そんな。決してあきらめているわけでは・・・」
2人は顔を伏せた・・・
『別に君達を責めているつもりはないけど。いつからエルフは誇りを失ったのだろうね』
「な・・・いくら神狼様でもそれは・・・」
ラムセルが否定する
『おや・・・違うのかい?僕が知っているエルフは、仲間のために犠牲になることを恐れなかったし、仲間を助けるためには命をもかけて戦っていた。そして彼らはそれを誇りと言っていたよ』
「誇り・・・」
『そうだね・・・彼らが約束をやぶることはなかった。約束を破るのは一族の名誉を貶めると言って約束したことに命をかけた。約束を命を懸けて守る姿をみてエルフを称える者が増えた。確かにその約束のために時には命を落とす者もいたが、彼らは笑顔で死んでいったよ「よかった皆の名誉を誇りを守ることができた」と言ってね・・・』
「・・・」
『さあついたよ。下を見てごらん』
たどり着いたのは、崖の上・・・崖の上から見下ろすように促す。
『何が見える?』
「馬型の魔物の群れですが・・・」
『そうだね・・・そして今、馬型の魔物は襲われる』
茂みからシルバーウルフが現れる。すぐに馬型の魔物は逃げようとするが、次々とシルバーウルフがそれを防ぐように現れ、馬型の魔物をとり囲んでいく。
『これで馬型の魔物は逃げることができない』
「はい。これではもうどうにもならないですね」
『僕は、そうでもないと思うけど・・・』
「それはどういう意味ですか?」
『見ててごらん』
シルバーウルフの囲みが徐々に狭まる。するといよいよ追い詰められた馬型の中の1頭が、大きく嘶くとシルバーウルフに立ち向かうように突進した。実力ではとてもかなわない相手だが、それでも猛然と襲いかかる。それを見たもう1頭がさらに後に続く・・・。
無駄な突撃・・・無意味な抵抗・・・しかし、その隙に生まれた退路を使い残りの馬型の魔物は囲みからの脱出に成功する。
「・・・」
「あ・・・仲間を逃がすために・・・」
『そうだね。魔物がどこまで理解しているかは僕にはわからないけど、魔物だって仲間や家族を守るために自らを犠牲にするみたいだね。君たちは、今の行為を見てどう思う?』
「・・・」
「すごいなと・・・」
『僕はね・・・今の行為をとても誇らしく思っている。これは種族なんか関係なく生きる者としてね・・・仲間を助けるために勇気を振り絞り活路を開く・・・自分のできる事をする。君は好きじゃないかもしれないけど、タクミは以前にお世話になったと言う理由だけで、関係のない種族を助けるために命をかけて人族の軍に潜入して獣人たちを救出した。獣人族のロドスは、仲間を逃がすために殿を引き受け自分達親子が捕らえられた。でもね、彼らはそのことを自慢もしないし、誇りだなんて一言も言わない』
「・・・」
「・・・」
『君たちは、今種族の責任を負う者なんだろう? 君たちの判断次第で君たちの種族の存亡が決まるんだ。そのことをきちんと理解しなくちゃならない』
「私にどうしろと言うのですか?」
「存亡が・・・」
『僕は立場上、導く事はあっても何をするかを決めるのは結局君達だよ。その結果も君たちの選択の結果だ。だけど覚えておいてほしい。君たちの手が血に染まっても、惨めに泥にまみれたとしても、それが一族や仲間、家族ためなら何も恥じる事はない。だけど・・・どれほど着飾り言いつくろっても一族や仲間、家族を犠牲にする事には恥じなくてはならない』
「それが・・・答えですか?」
「私は・・・」
『僕の話しは、ここまでだ。2人でしっかりと話しあって今後の事を決めたら良い。だけど、1つだけ忠告もしておこう。今いる街には、僕の大切な仲間や大切にしている人が住んでいる。その仲間たちを傷つける事は絶対に許さない。もし、君たちの選択が僕の大切な仲間を傷つけるのなら僕はためらいもなく君達を牙にかけるだろう』
「・・・」
「ひっ!」
一瞬、威圧し警告する。威圧は、すぐに解いたが・・・。少しやりすぎたかもしれないな。あとは、2人がどうするかだ。
『僕は、先に帰る。君たちは、ゆっくり帰るといいさ』
僕は、2人の前から姿を消す。あとは、2人が決める事だ。
------------------------------------------
南門から西門にかけての堀作りが進む。あと二日あれば完成しそうだな。今日中に西門までたどりつければ、明日は西門から北のため池まで進めよう。
『ただいま』
「お、戻ったか?」
堀を作るためスキルを使っているとホクトが戻った。報告があるのだろう休憩もかねて堀に足を投げ出し腰を下ろした。
「それでどうだった?」
『一応、2人には大事な事は言っておいたけど半々ってとこだね』
「そうか・・・半々なら上出来だろ」
『ちゃんと警告もしておいたから、残るにしても出ていくにしても害はないと思うよ』
「脅したのか?」
『警告しただけだよ。街に害をなすなら覚悟しろと』
「立派な脅しだな。だが、助かったありがとうな・・・俺が言わなくちゃならないとこだったからホクトのおかげで言わなくてすんだ」
『僕は大した事をしてないよ』
「そんなことはないさ。ホクトがいなくちゃ俺は安心して自由に飛び回れないからな」
『タクミは少し自重してくれた方がありがたいだけどね。タクミがいないとメグミが毎日心配しているから相手するのも大変なんだ』
「それは迷惑をかけているな。今日はそのお詫びにとっておきの肉でもごちそうするか・」
『それはうれしいけど・・・ほんとに少しは自重もしてほしい。王が朝から晩まで1人で土木工事している国はないだろう?』
「全部守りたいからな・・・俺がやれることはすべてやっておきたい。話の勢いで言うが、また人族の王都に潜入するつもりだ」
『さすがに王都は危険だろう?』
「ああ。わかっているよ。だけどな・・・色々と準備しておかないと心配なんだよ」
『どうせ止めても無駄なんだろうけどね。とっておきの肉も多めに奮発しておいてほしいな。ナントや仲間にも分けてやりたいから』
「ああ。もちろんだ。群れのリーダーが一人で食べるわけにはいかないだろ。夕方頃に北の森へ行くから集めておいてくれよ」
『わかった。楽しみしているよ』
「その代り、またメグミの事は頼んだぞ」
『仕方ないな・・・』
そう言うとホクトは北の森へ走っていく。お前がいるからってのは本当だからな。
「さて、大切な仲間のためにももう少し頑張りますか!」
身体を十分にほぐしてから作業に戻る。
--------------------------------------
翌朝、再び、朝の会議室には、2人のエルフの姿があった。
エルフは、アリヒアを代表として街に残る道を選んだ。ルールにも従う事を約束する。ラムセルは、祖父の安否を確認するため単独で人族が占拠するエルフの村へ潜入すると言う。
祖父や仲間の安否を確認し、捕らえられている者がいれば救出を考えたいと言った。力を貸すと言ったが、固く断られたので尊重した。せめて武器くらいは持てとミスリルの短刀をラムセルに渡すと頭を下げた。準備を終えたラムセルは、街の門を後にする。
「アリヒア。エルフの居住する場所は決まったのか?」
「はい。種族の者と相談したところ郊外の一軒家を使わせていただきたいと思います。皆、どちらかと言うと人込みが苦手ですので・・・」
「そうか・・・家の構造なんかで注文があったら遠慮なく言ってくれていいからな」
「はい。それとこの街での私達の仕事なのですが、戦士はすくないですが、弓と魔法が使えますのでいくらかはお役に立てると思います。女子供は、マジックアイテムや衣服の生産、薬の調合などができます。それと・・・お願いがあるのですが、この街に治療院を作りたいのですが許可をいただけますか?」
「治療院・・・ああ病院か。アリヒアは、治癒魔法を使えるのか?」
「はい。タクミ様のようには使えませんが、少しくらいの怪我や傷なら治すことができます。それともしよろしければ治癒魔法の秘訣を教えていただけませんか?」
「治療院は、考えていたからすぐにでも作るよ。街の北側に作っておくからアリヒアに任せるよ。街の人が治療を求めたら無料で治してやってくれ、その代り毎月アリヒアにはミールを税金から支給するから。治療院ができたら必要な物も言ってくれればこちらで用意するから言ってくれ。治癒魔法は、時間があるときに教えてあげるよ」
「はい。わかりました。よろしくお願いします」
治療院は、重要だから早く作りたかったんだが、魔法が使えるのが俺しかいないので困っていたんだ。
「そうだ。薬を作れる仲間がいたら治療院に併設して薬の調合ができる建物を作るから一緒に管理してくれ。怪我や病気は一元管理したい」
「はい。HPポーションや解毒ポーション作りが得意な者もいますので、私と一緒にお勤めさせていただきます」
「よかった助かるよ。薬の調合も時間があったら教えてあげるから。MP回復ポーションも量産してくれると助かるな。麻痺、石化、呪いなんかの解除もできるポーションも作り方を教えてあげるから」
「え?タクミ様は、そんな高度なポーションも作れるのですか?」
「まあな。早く覚えてもらえれば俺の負担がそれだけ減るから期待しているよ」
この後、すぐに勢いで治療院を作る。治療院の中には、外来スペースと入院できる部屋、薬局を作った。アリヒアに連れられてきたエルフの男女5名は、少しながらも治癒魔法や調合スキルをもっているとのことだったので指導すれば任せることができるようになるだろう。
エルフの引っ越しなんかは、街の住人の協力で順調に進んでいるので任せて、俺はあと少しになった堀作りに戻る。急がないと夕暮れになりそうだな。
「タクミー!」
メグミか・・・
「どうした?」
「帰りが遅いから迎えに来たよ」
「ああ。悪いなもう少しで堀が完成しそうなんで少し待ってくれないか」
「うん。ここで見ているね」
メグミに応援されながら作業を繰り返す。メグミが来てから1時間も経つと北側のため池と堀が接続され、一気に水が流れていった。
「ふうー。これでようやく堀が完成だ」
「頑張ったねタクミ!」
ああ。お前達のためなら頑張れるさ
「さあ。今日は帰って飯食って寝るかー」
「えええ?。私にかまう時間はないの~」
「さあ、それはお前次第だな・・・」
「じゃあ。タクミの好きなご飯作るからちゃんと相手してくれる?」
「そうだな約束しよう」
2人で一緒に家に歩いて帰る 幸せな時間を守るため 明日も頑張ろう




