第一次ミクス防衛戦
「鐘の指示に従い、南門、西門は閉じました。残りは東門だけです」
サボり男が緊張しながら報告する。中央公園にある鐘を操作し、敵襲を伝達する仕組みを設けた。鐘の音で閉じる門を知らせる事で迅速な対応を可能にする。
同時に女子供は、俺の自宅隣に作った公共施設であるシェルターに避難させる。シェルターは、贅沢に鉱石を使い外部からの攻撃を遮断できる。女子供などの非戦闘員は、避難を知らせる鐘がなったら集まる訓練を繰り返した。
東門を開けているのは、逃げてきているエルフやドワーフを匿うためだ。門には、ロドス達戦士が待機しており、人族の侵入に備える。少数ながら動きがすばやい猫族は、門の上と街の四隅に作られた櫓の上から周囲を警戒する。櫓には、鐘がつるされており、敵が近づくと鐘をたたいて知らせることになっている。
ミクスの街を守る兵士は、狼族が150人、猫族が10人だ。十分な数とは言えないが、この街の機能を考えれば不安は感じない。そう言う街にしたのは俺自身だしな。
俺は、東門の櫓に上り、東を睨む。
『間もなくエルフが』
上空から索敵するガスターンがエルフたちの到着を知らせる。
『ホクト!』
『わかった。エルフたちが無事に逃げ込めるように誘導するね』
『頼む。無理はするなよ』
ホクトとナントは、シルバーウルフを率いて逃げるエルフを守るために出陣する。
『無理はしないよ』
返事したホクト達が街の北側から姿を現すと。門の櫓にいる獣人たちが雄たけびをあげる。
『メグミ。そっちはどうだ?』
『こっちは、避難を終えたよ。みんなシェルターに避難終わったから私もそっちに向かうね』
『了解だ。』
「ロドス!計画どおりに進んでいる。間もなく前方にエルフたちが見えるはずだ。話したとおりにうまく進めてくれ」
櫓の下にいるロドス達に大声で伝える。
「聞いたか。いよいよ訓練の成果を見せる時だ。準備はいいな」
「「「うおー」」」
戦士たちが雄たけびをあげる。支給した兵士の装備は数が揃う事でより威圧感を増す。緊張感が増していく門の周辺・・・。ホクト達の姿が櫓の上から見えなくなるころ、避難誘導に当たっていたメグミが、隣に立った。
「まだ、エルフさんたちは、来てないの?」
「ガスターンの報告だとすぐそばまで来ているようだが、まだ見えないな。無事に到着できると良いのだが」
数日前、人族の攻撃を警告しにエルフとドワーフの村へ顔を出したが、両種族共に移動を拒否した。昔から住み続ける自分たちの村を離れると言う発想がない両種族は、心配いらないと俺の提案を蹴ったが、何かあれば受け入れるから逃げてくるように伝えておいた。
「挨拶に行ったときに理解してくれたらよかったのにね」
メグミがそう言うが、簡単に故郷は捨てられない事情も理解できる。
「今は、一人でも多くを助け、受け入れる事だな」
『主・・・人族の軍勢が迫っている。数えられないくらいの数だ』
敵は数千人規模か・・・
『エルフはどれくらいいる?』
『100と少しだろう』
エルフの村には800人くらいいたはずだ。かなり少ないな・・・。
「おじいちゃんエルフ大丈夫かな?」
老エルフは、逃げることができたのだろうか?
「見えたぞ!」
横にいる獣人の男が指を指す。確かに何かが見えるな。
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おじいさまの言う事は間違いだった・・・
「早く進め・・・後ろを振り返るな・・・」
これまでに村が攻められた事などないから大丈夫だと・・・
「ぎゃー」
我らには、魔法があるから大丈夫だと・・・
「女子供を逃がせ!先に行かせるんだ!早くしろ!」
あんな数の人族が押し寄せて来たら・・・
「アリヒア!先に行け、ここは俺が止める」
優しいラムセル兄が私に命令する。
「兄様、私も戦います」
「ばかを言うなお前は落ち延びろ!」
どうして・・・私達は、あの男の提案を断ってしまったの・・・
「でも・・・」
背後から鎧を身にまとった人族の兵士が現れる。
「行け!」
人族の剣を受けとめながら兄が進めと私に命じるが、すでに私のすぐそばに兵士が迫っている。ダメ・・・これ以上逃げられない。怖い・・・だれか助けて・・・。
私に襲い掛かる人族の兵士の顔がにやりとゆがむ。もうだめ・・・。目を閉じ身体がこわばる・・・が・・・
『走れ』
頭に響く声・・・。おそるおそる目を開くと私を襲おうとした人族の兵士が倒れている。倒れた兵士を踏みつける狼が私の顔を見る。
『はやく行け』
神狼さま・・・。エルフ族の信仰する神の使い・・・。走らなくちゃ・・・。私は無我夢中で走りだす。今の私は、人に見せられないような姿をしているだろう・・・でも走らないといけない。
夢中で走る私の側を兄も・・・仲間も走っていた。エルフは、優雅におしとやかになんておじいさまには言われて育ったけど・・・そんな事は今の私達には意味がないの・・・
神狼様の同じようにそばを狼たちが走る・・・きっと私達を守ってくれているのだろう。わずかな希望にすがるように走り続ける。心臓が口から飛び出すようにバクバクと動いているけど・・・いまだけは走らせてほしい。
門が・・・街が・・・見えた。あそこが、あの男が話していた街・・・。少し前には何もなかった場所に今は、私たちが暮らしていた村よりもはるかに大きな街ができている。
「もう少しだ。頑張れ・・・」
ラムセル兄様の声が聞こえる。もう少しであそこに・・・。門の入り口が近づくにつれ、その門の大きさに驚きを覚える。門の上に作られた櫓に、あの男がいた。
「早く中へ!」
言うことを聞かず、無視した私たちを受け入れてくれる・・・。獣人族の男達が
「こっちだ。早く!」
と私達を誘導する。門を潜ると転がるように地面に顔から崩れ落ちる。限界まで走った身体が悲鳴をあげている。
「ここで休め・・・。今、水を持ってくるからな」
私たちが時に馬鹿にする獣人族・・・プライドが高い私達エルフが優越感に浸るために比較する種族・・・。優しい言葉が・・・私を責める。
「怪我人はいないか?こっちだ!ここに寝かせろ」
あの男が櫓から降りてきて、怪我した仲間を治療する。私にも治癒魔法は使えるけど・・・見ただけであの男が使う魔法のレベルの高さがわかった。私なんて・・・レベル4の治癒魔法が使える事を自慢していたのに・・・自分が恥ずかしい・・・
「大丈夫か?」
治癒魔法を終えた男が、私に安否を確認する。
その男に言った最初の言葉は
「ごめんなさい・・・」
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「どうなっている?」
エルフたちの応急手当を終えると門の上の櫓に戻る。
「ホクト達が、かなり頑張ったみたい。でも後ろから真っ黒い塊みたいな兵士が迫っているから」
「千人を越える兵士ってのは、あんな感じに見えるんだな・・・」
「準備ができました」
合図を見た獣人の男が報告する。収容が終わったか・・・
「よし。東門も閉じるぞ」
俺の指示に門が閉じられていく。これで、この街に侵入するのは簡単じゃなくなる。攻城兵器なんてものが、用意できるなら別だが、この世界にそれほどの物があるのかはわからない。
門が静かに閉じられたころ、街から1kmくらいまでに迫った人族の兵士たちにもこの街の城壁を捉えたことだろう。動揺もあるのか、人族の進軍速度が遅れる。指揮官のような男が前に出て、兵士に隊列を築かせる。縦横きれいに整列させるとゆっくりと前進を開始する。
「メグミもこれを使ってくれ」
偽装の仮面をメグミに渡す。
「顔を隠すのね」
「ああ。一応、これを使えばすぐに人族ともわからなくなるからな」
櫓の上にロドス達も上がってくる。迫る人族の塊にだれもがごくりとつばを飲み込んだ。前進する人族の塊が、目と鼻の先まで来ると相手の顔も見えるようになった。
「代表者は、前に出ろ」
人族の指揮官が吠える。
「俺だ」
俺も前に出る。仮面越しににらみつける。
「開城しろ。さもなくば攻め落とす」
「えらい挨拶だな・・・断る」
「この数を見ても抵抗する気か?」
「その程度の数は、恐れるに足りんからな」
指揮官の男がにらみつけてくる。
「後悔するなよ」
「そっちこそな」
指揮官の男が剣を抜く・・・静寂があたりを包む。
「かかれー!」
指揮官の合図に兵士たちが一斉に門に殺到する。俺は、まだ待機として指示を出さない。門に殺到した兵士だったが、高さ5mもある壁の前まで来ると右往左往を始める。剣で門を切り付ける兵士もいたが、剣の方が折れるだけで門には傷ひとつつかない。
弓矢を使って櫓の上にいる俺達を射かけようとするが、俺が張った結界に遮られて矢は途中で落ちていく・・・。
「どうした?攻めてこないのか?」
俺が指揮官の男を挑発する。
「調子にのるなよ」
怒りの形相をした指揮官が
「魔法兵前に出ろ!」
と指示するとローブをまとった一団が前面に押し出される。
「やれ!」
と言う指示にローブの兵士たちが、一斉に魔法を放つ。しかし、城壁や門に火や風の魔法を放っても、傷すらつかない。当然、結界に守られた櫓の上にも魔法が届く事はなかった。魔法兵のスキルはそれほど高くないのだろう。
「もう終わりか?そこの指揮官さん」
そして、メグミに目をやり、2人で前に出る。
「メグミ・・・覚悟はいいか?」
「もちろんだよ。だって、この人たち、こんなにひどい事するんだよ。私だって絶対に許さないから」
思ったよりも大丈夫なのかもな・・・。
「おい!そこの指揮官。手加減してやるから連れて帰れよ。死体を片付けるのは面倒だからな」
そう言った俺は、メグミと呼吸を合わせ魔法に集中する。
「ライトニング」
「ライトニング」
2人共、予定どおり雷魔法を広範囲に行使する。威力を弱める代わりに範囲を拡大し、スタンガンをイメージして放つ。
大気が震え、稲光が走ると兵士がばたばたと倒れていく・・・当然、馬に乗った指揮官も落馬して背中を強打した。
「ぐあ!」
指揮官の悲鳴ともいえる声が聞こえた。
「撤退しろ!そして二度と来るな・・・次は手加減をするつもりはない」
俺の警告を聞いた兵士が後ろに後ずさる。門の前に殺到していた兵士も1人また1人と背中を向けて走りだした。
「何をしている!逃げる者は処罰するぞ!」
ようやく起きた指揮官が怒鳴り声をあげるが、逃げ出す兵士がどんどん増えていく。もはや、指揮系統などあってないようなものだ。
櫓の上から獣人たちの雄たけびがあがると、逃げる兵士は一気に増えた。我先にと逃げる兵士をひとしきり眺める。すでに兵士の塊は、散り散りになって壊走していく・・・
そんな中、まだ、俺を睨みつける指揮官の男がいる・・・ようやくだ。
「ロドス・・・待たせたな」
「配慮感謝する」
勢いよく飛び出したロドスは、5mはある城壁の上から飛び降りる。城壁を2回、蹴るようにして勢いを殺し着地するとゆっくりと指揮官の男に歩み寄る。
「おまえには随分と世話になったからな」
「おまえは、ロドスか・・・あの時逃げた奴がこうしてまた現れるとはな・・・」
「ああ、おまえに会える日を楽しみにしていたぞ。仲間の仇を打たせてもらおう」
ロドスが太刀を抜刀する。太刀の先からこっちにもロドスの怒りが伝わってくる。指揮官グラム将軍も剣を抜いた。
「獣人ごときが俺に勝てると思うのか・・・」
侮蔑した笑みをしたグラムがロドスを詰る。
「やってみればわかるだろう」
グラムが両手で構えた剣でロドスを襲う。確かに剣筋は早く重そうだ・・・それなりのレベルとステータスがあるのだろう。だが、かつてロドスが見せた動きから考えればそれほどでもない。
「ちっ!」
グラムは、すべての剣を受けられ、会費されることに舌打ちする。グラムの身体がわずかに光る。強化魔法か・・・。先ほどよりもさらに早い剣がロドスを襲うが、それでもロドスはグラムの剣をさばいていく・・・。
「こんなことが・・・」
ようやく形勢が不利な事をグラムが悟る。形勢逆転できる手段もなく後ろに下がりはじめる。
「どうした?お前たちが馬鹿にする獣人ごときから逃げるのか?」
下がる足がぴたりと止まる。
「ふざけるな!」
大きく振りかぶった剣でロドスへ襲い掛かったグラムをロドスが切り返す。カランと腕がついたままの剣が、地におちる。両手の中ほどから断ち切られた腕から大量の血が流れた。
「これでお前たちとの因縁は打ち切らせてもらう」
すでに抵抗できないグラムの首をロドスが跳ね飛ばす・・・。ロドスは、グラムの遺体に背を向け俺の方に振り向きなおすと膝をつき臣下の礼をとった。
そのとき、すでに人族の兵士の姿は見えなかった・・・




