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俺に異世界にいく資格はあるのか?  作者: 花山 保
俺達の国を造ろう
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セイオス審議官

「何があったのか詳細に報告せよ」


 ローブに身を包んだ男が狼狽する兵士を問い詰める。


「で、ですから私達は、魔物の急襲を受け交戦しました。しかし、魔物への対処が困難なため森へ撤退し、機をうかがっておりました。魔物の襲撃が途絶えたのを確認してここに戻りましたら。捕えていた獣人達の檻が破壊されており、逃げだされていたと申し上げました」


 必死に報告する兵士を叱責する。


「もう良いですよ。あなたは、さがってくださって結構です」


 報告した兵士を下がらせる。


「セイオス審議官・・・良ろしいのですか?」


「仕方ないではありませんか、私達が留守の間にここが急襲されることなど予測できなかったのですから。それよりもウードさんは、グラム将軍に伝達を頼みます。この後の事について相談したいと伝えてください」


「承知しました」


 ウードと呼ばれたローブの男は、指示にしたがい天幕を出る。


「魔物の急襲・・・魔物がわざわざ人の軍を襲うかね。裏で動く奴がいるな・・・。いるか?」


 誰もいない天幕の中にセイオス審議官が声をかけると


「ここに」


 と返事があった。


「わかる範囲で良いから獣人達の動向を探れ」


「御意に」


 姿は見えないが返答が戻る。


「さて、こうなると次の一手も想像がつきますが・・・。私が今から戻っても残念ながら間に合いそうにないですね」



------------------------------------



 飛行魔法で上空から道をたどる。ロドスが捕えられるときに連れ出された獣人達がいたと言っていたから連れて行くなら辺境の町を経由するはずだ。王都までの道をたどればどこかで追いつくことができる。

 馬車を使って護送すれば1時間でもかなりの距離を移動できるから捜索する範囲は時間と共に広がってしまう。ここまで急いできたのは、それが一番の理由だ。


 暗がりを馬車で走らせるのは、難しいだろうからおそらくは辺境の町で一晩拘束するのが大方の予想だ。想像通り、辺境の町までの道のりには、影ひとつ見えなかったのでそのまま街の上空まで辿りつく。

 音をたてないように気配を絶ち、町の中にゆっくりと降下する。


「顔を隠すか・・・」


 念のため顔を隠す。指名手配されている以上、余計な詮索は無用にしたいからな。余興もかねて作っておいたマジックアイテム「偽装の仮面」を装着する。このマジックアイテムは、実際には何も顔にはつけていないが、見る者には仮面をつけているように顔の認識を阻害する魔法がかけてある。


「さて、捕えた獣人を隠しておくには・・・」


 人族が考えそうな事を予測する。かつて暮らした事があるこの町の地理も覚えているので、大方兵士の詰所あたりにいるのだろうと目星をつける。


 闇夜に紛れ詰所まで行くと予想どおり、複数台の馬車が止まっており、布がかぶせてあった。見張りが2人いるな・・・。声を出されるとやっかいなので、気配を消して後ろから近づき口を押えて首を捻る。力のステータスの高さは、強化をしなくてもたやすく首をねじり上げることができる。倒れる音もたてさせず、しずかに馬車の下に置くともう1人の見張りも同じように処理する。

 馬車の布をめくり中をのぞくと獣人族の母娘が眠っていた。他の馬車には、獣人の里から略奪した金品が積まれており、どうやら連れられてきたのはこの母娘だけなのだろう。


 しかし・・・少し予想よりも数が少ないな・・・少し気になり、詰所の中をうかがう。兵士の男達の嬌声が聞こえる。兵士たちは、酒も飲んでいるようだ。

 わずかに開いた窓から中の様子をうかがうと獣人の女性たちが兵士の男たちの前で、手を縛られたまま服をはぎ取られ犯されている光景が飛び込んでくる。


 何をして・・・。人族の浅ましき欲望・・・、蹂躙される弱い女性の姿を見て頭の中が白くなる。こんなことが許されるのか・・・。


「誰だ!」


 あまりのことに気配を絶ち切れず、兵士に見つかる。嬌声をあげていた兵士もそばにあった武器を手に詰所から雪崩をうつように外に出てきた。


「あやしい奴め!捕えろ」


 えらそうな兵士の男が俺を指さし、捕えるように命令した。剣を出す間もなく襲いかかってくる兵士を拳や蹴りで一蹴する。


「手向かうか!縄を打て!」


 ボーラーを手にした兵士が次々と投擲する。よけずに受けると鎖がくるくると俺の手足を拘束するが


「ふん!」


 と身体強化し力を込めれば、鎖ぐらいなら引きちぎることができる。それよりもこの展開を早く脱却しなくてはならない。仕方ないな・・・毒魔法を霧状に放射する・・・これ以上時間をかけると声を聞いた兵士が集まってくるし、人質を取られても困るからな。


「ぐあ!」

「うげ・・・」


 うめき声を出し喉を抑えるように苦しみ口から血を吐く兵士たち・・・。すぐに脱出を図らなければ・・・。詰所に飛び込み、四次元ポケットから衣服を取り出して女たちに渡す。


「いきなりですまない。信じられないと思うが俺はロドスの仲間だ。君たちを救出に来た、必ず仲間の元へ連れていくからすぐに準備してくれ・・・」


 すすり泣く獣人の女たちに声を張り上げる。


「いそげ!すぐに追手が来るぞ・・・」


 しかし、すぐには女たちは動かない。


「もう・・・帰る家もない。このように辱められ戻ることもできない・・・」


 弱弱しい声で涙しながら女が答える。


「仲間が待っている。ここであったことを忘れろとも・・・なくせとも言えんが、ここに残っても・・・ここで命を絶っても・・・何ひとつ変わらないし、取り戻すこともできない。だが、間違いなく言えるのは仲間が家族が悲しむ事だけだろう。」


 そう。地獄を見ても苦しくても帰りを待つ仲間が涙することだけは変わらない。


「ここにいた兵士は俺が全員殺した。俺と今いる仲間が口を閉ざせば、このことを知る者はいない。だから負けないでくれ・・・戦ってくれ・・・一緒に仲間の元へ帰ろう」


 顔を伏せ泣き続ける者・・・ただ涙する者・・・目がうつろな者もいる。俺の言葉がどこまで届いたかは、わからないがようやく立ち上がり衣服を着てくれた。


「そうね・・・死ぬのは後でもできるわよね。教えて・・・仲間は皆逃げることができたの?」


 いち早く立ち上がった女が俺に声をかける。


「ああ。ロドス達も捕えられていたが、さっき解放して避難させたから大丈夫だ。300人以上が里から落ちのびている。仲間が帰るのを待っているぞ」


「そう・・・よかった。ホラン!エルト!シビイ!モーラ!、泣いてないで一緒に帰るわよ。例えどんな事があっても種族の誇りまで捨てないで・・・一緒に・・・仲間の元へ帰りましょう」


 しっかりした人だな・・・女性のリーダーができそうだ。ようやく女たちが動きだし、全員が衣服を来た。外にはまだほかの兵士は現れていない。

 外に出た俺達は、馬車から1組の親子も救出し俺を加えて8名で脱出する事になった。


「名前は?」


 声を出してくれた女リーダーに尋ねると


「リシュル・・・リルって略してくれていいわ。あなたタクミって言う名前じゃない?」


「リルだな。確かにタクミだが、なぜ知っている


「1年前くらいに里に来てロドス様のところにいた人族でしょ」


「それなんだが、俺は人族からは魔族って言われて追われる身なんだ。それで顔をここでは隠している。それよりもこの町から早く脱出したい。俺が兵士の相手をするからリルは他の女子供を守ってくれ、これを渡しておくからな。但し、無理はしないこと逃げるのが優先だからな」


 俺はミスリルのナイフをリルに渡す。


「わかったわ」


 女子供と言っても獣人なので動きは人よりも早い。寝静まる町を静かに抜け門まで来るが、門は閉ざされており、行く手をふさぐ。さすがに夜に門を開ければ誰かが気づくだろうし・・・

 仕方ないな・・・


「今からこの門を越えるんだが、少し我慢してくれないか?」


「え?何をするの?」


 俺はリルをお嬢様だっこすると飛行魔法を使って門を飛び越える。門の外にリルを下ろして戻ると次々と門の外へ連れだした。人族から受けた仕打ちを考えると同じ人族の容姿をした俺に触れられるのは苦痛だろう・・・。


「すまん。我慢してくれ・・・」


 震える女たちに謝りながら作業を続け、全員を門の外へ連れ出すことに成功する。


「こっちだ・・・」


 辺境の街の北へ向かう。以前に鉱石を採掘に向かった場所だ。東に行く方が、近道になるが、兵士と鉢合わせる可能性が高いので避けた。説明すると女たちも事情を理解してくれた。

 親子で捕まっていた獣人の母娘は、途中でリルから事情を聴いたようで、おとなしくついてきてくれている。リルの話しでは、この母娘は王に献上される予定で手を付けられなかったのが幸いしたようだ。


 鉱山へ向かう道の途中で向きを東に変え、道なき森を進む。さすがに獣人たちは、慣れたもので苦もなく森を進んでくれた。本当なら暖かいスープでも作ってやりたいが、今はそう言うわけにはいかないので、四次元ポケットから甘いパンを取り出して食べさせた。

 甘く柔らかいパンをかじる女たちが、再び涙を流す・・・今後も何度も繰り返し襲いかかるだろう現実が彼女たちを苦しめる。彼女たちがあの悲劇を忘れることができる日が来るのだろうか・・・


「飲み物はどうだ?水でもいいが、甘いものや飲んだことがないような物も用意できるぞ」


 少しでも気分転換できるように働きかける。サイダーやコーラ、果物ジュースなんかを並べて見せ、1つをとって飲んで見せる。おそるおそる手を出したのは、女の子の獣人だ。

 手に取ったサイダーを口に含むと盛大に噴き出した。


「げほっげほっ!」


「ちょっと大丈夫?」


 慌ててリルが女の子の背中を撫でる。


「う、うん。ちょっとびっくりしただけ」


 女の子が気を取り直して再びサイダーを口にする。


「あのね。すごいの・・・口の中がシュワーってなってね」


 女の子が一生懸命身振り手振りで説明する。他の女たちも恐る恐る口をつける。


「「あまーい」」


 そう。俺はこんな笑顔を笑顔を守りたい・・・



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