脱出
見張りもいなくなった檻にたどり着くと俺は剣で檻を次々壊す。ミリアを抱えることができるくらいまで回復したロドスにHPポーションを持たせ、怪我の程度低い者に飲ませるように頼む。
檻を壊し終えた俺は、重傷者に治癒魔法をかけていく。時間がないのでⅯPポーションを飲みながら治療を続ける。ガスターンが、兵士たちの気をそらすように執拗な攻撃をかけてくれている間に歩けることを優先して治療した。今はここから離れることが重要だからな。
「こっちだ」
歩ける程度まで回復した獣人たちを誘導しながら北へと向かう。しかし、怪我人が多い上、体力も低下しており、進む速度はあがらない。治癒魔法をかけるにも時間が足りない・・・
「水や食料はあるからな。もう少し進んだら休憩もとる。そこまで何とか頑張るんだ」
檄を飛ばし鼓舞し続ける。
「先に逃げた仲間が仲間が帰るのを待っているんだ」
俺は背にミリアを担ぎ、少しでもロドスの負担を軽くする。気力で歩く獣人たちの背中を押すように進む。北へ歩きはじめ時刻も夜を迎える。本当ならしっかりと休ませてやりたいが・・・今は距離をとることが先決だしな。倒れる獣人にポーションを飲ませ歩かせる。時には治癒魔法をかけて歩かせる。
俺は索敵を繰り返し追っ手に備えながら進んだ。
かなり距離が稼げた頃、体力の限界に近い獣人たちに休息を与える。十分な量の食事と水を渡すと皆死んだように眠りについた。
一人、警戒を続ける俺に
「これからどこへ向かうのだ。仲間を保護してくれていると言っていたが?」
ロドスが俺に尋ねる。
「ああ。前に話していただろう俺は国を作ると・・・ここから北に俺が作った国が・・・俺の街がある。とりあえずそこに身をよせてもらうつもりだ。だから今は休んでくれ・・・まだそこまでには距離があるからな」
満身創痍のロドスに休むように指示するが、長の務めと言って周りの獣人たちの数や状態を把握しようと動く事をやめない・・・これが責任を負う者の姿か・・・
「おまえの街とやらには、どのくらい落ち延びることができた?女子供とまだ若い男達を先に逃がしたのだが・・・」
「そうだな・・・正確な人数は確認する時間がなかったが、男が30人くらいと女子供で70人くらいはいただろう。ヒルデが頑張って誘導してくれたからな。今は、俺が連れている狼たちが、森ではぐれた獣人たちを捜索している」
「そうか・・・何から何まですまないな・・・人族に包囲された時にいくつかに分散して女子供を里から脱出させたからな。最終的に北へ向かうようには言ってあるから途中で会う可能性もあるな」
「最善の指示だろうな。それよりもすごい数の人族の兵士がいたが、ロドス達が負けるとも思えなかった。里で何があったんだ?」
「わし達は、女子供を避難させた後、戦士を中心に抗戦した。多少数が多くても森で戦うなら我らの力の方が上だからな。場所を選んでかなりの人族を打倒したんだが、逃がした女子供の一部が人族に捕まって人質にされた。ミリア達を殺すと脅され戦士たちは、それ以上・・・戦う事ができんかった」
こぶしを握り締める。
「ロドスの里にはどれくらい人がいたんだ?」
「あの時、里にいたのは、500人くらいだな」
「そうか。ここにいるのが、100人と少しくらいだからあと300人近く・・・」
「人族に殺された者がそれなりにいるだろうな。それに捕らえられた女子供の一部が人族の街へ連れられて行った可能性がある。俺をなぶりものにしていた男と一緒にいた男が、何人かを街へ連れていくと言っていたからな」
ロドスは、すぐに救出に向かいたいのだろう・・・。そして、それができない悔しさがロドスの爪を掌に食い込ませる。
「気持ちはわかるが、今は一刻も早く仲間を安全な場所へ連れていく必要がある。今は耐えてくれ」
本当ならもっと眠っていたいだろう獣人たちを起こし、再び歩かせる。わずかに眠ったことで体力のある獣人は幾分動きがよくなった。これならと淡い希望を感じたとき、索敵に人の気配を感じ取る。
「ロドス!」
「敵か?」
「ああ。少し先に行っていてくれ。始末してくる」
ロドスにそう告げると気配へ向かう。人を襲うことに少し躊躇するかと思ったが、一連の行いを見て聞いた今はためらいは感じない。
気配のある場所まで行くと四次元ポケットから太刀を出す。俺の姿に戸惑う人族が
「なぜ?人族がここにいる?」
と聞くので
「俺は、人族じゃないって言ったのはお前たちだからな。命が惜しければこのまま立ち去れ」
俺達を魔族認定したのが、お前らだろう
「くっ!そんなわけにいくか。俺達は獣人どもを捕獲す・・・」
時間が惜しい。太刀を一閃すると首が離れる・・・俺が何をしたかも見えないだろう。それにこれ以上、獣人たちを傷つけたくないし、俺の姿を報告されても困るからな。
索敵スキルで他の追っ手も見つけ次第、首をはねていく、剣や弓で対抗しようとするが、俺のステータスなら少し強化すれば捕らえることは難しいだろう。そもそも人族の戦士の強さがわからないしな。
十数人を始末すると気配を感じなくなったのでロドスのもとに戻る。
「何とかなったのか?」
ロドスが確認するので
「気配はすべて始末した」
「良かったのか?」
覚悟してやったことだ。メグミを連れてこなかった理由の1つが、人を殺すかもしれないからだったからな。まだ、メグミに人殺しはさせたくない・・・
「ロドス達をこんな目に合わせた奴らだ。前にも言ったとおり俺は種族差別はしない。良い奴は良い奴だし悪い奴は悪い奴だ。どんな種族にも両方いるだろうからな。あと、俺の国は、種族差別を禁止しているから人族だとか獣人族だとかと言うだけで争うなら許さないからな」
「お前が言うとな・・・」
「さあ!もう一息だ。もう少しで安心して眠れる場所につくからな気力を振り絞ってくれ!」
俺は獣人たちに大声で伝える。追っ手をまいた一団は黙々と北へ歩く。追っ手を殺した影響かそれ以降の追撃はなかった。向こうも警戒したのかもしれない。
『主・・・』
「ガスターン! 怪我はないか?」
『問題ない。怪我するような相手もいなかった』
「負担をかけたな先に戻っていてくれてよい。ゆっくり休んでいてくれ」
『少し先に狼の群れがいる。迎えに来たのだろう』
そうかホクト達が迎えに来てくれたか。
「わかった。苦労かけたな」
『問題ない。では先に戻り警戒しておく』
ガスターンは再び空へ戻る。
「おまえは、狼だけじゃなく鷹も連れているのか?」
ロドスが、ガスターンを見て驚いている。
「ああ。俺の仲間だよ。すぐ先まで俺が連れていた狼が迎えに来てくれている。これで街までは無事につけるぞ」
「お前が連れていた狼か?あれも尋常じゃないレベルの魔物だったが・・・」
「頼りになる奴らだからな。俺の家族みたいなもんだ」
ほどなく狼の群れが現れる。ホクト達の事を知らない獣人たちが警戒したが、仲間だと伝えると警戒を解いた。半信半疑の者もいたようだが、統率された群れの動きを見て安心したようだ。それにしてもホクトの統率は完璧で整列して動くシルバーウルフが頼もしく見える。シルバーウルフはレベル50くらいあるかなり強い魔物なのだが・・・ホクトが規格外の強さを持っているからな。森や山でホクト達に見つけられたら勝てる者はいるのだろうか・・・
『タクミ。迎えに来たよ』
「助かった。怪我人が多くてな。ヒルデ達はどうしている?」
『今は、向こうも怪我人の治療や安否の確認でいっぱいみたいだね。森に隠れていた獣人たちは、僕達が街へ連れて行ったから人数もかなり増えたんだ。メグミが頑張って仕切っているよ』
「そうか・・・どれくらいの獣人を保護できた?」
『そうだね。100人くらいは増えたと思うから街には200人くらいがいるよ』
「ロドス。街では200人くらいが保護されているようだ」
ロドスの顔を少し安堵の表情になる。
「そうか・・・ここにいる者も合わせれば300以上は落ち延びたか・・・あの惨状を思えば・・・皆頑張ったのだな」
『僕達は引き続き捜索を続ける。街まではもう少しだからこのまま護衛するよ』
「頼む。ホクト達は、ロドス達をヒルデ達のところまで連れて行ってくれ。俺はもう一度、人族に潜入して連れられて言った獣人たちを取り戻す」
『これからまた向かうのかい?タクミでもさすがに厳しいだろう?』
「少しでも早い方が良いからな。単独ならそれほど危険はないし、いざとなれば・・・手段はたくさんあるからな。メグミには、心配するなと言っておいてくれ」
『仕方ないね。言いだしたら聞かないだろうし。その代りメグミを泣かせたら覚悟してもらうよ』
「ああ。そんなことはさせない」
ホクトにロドス達を託す。
「ロドス、俺はもう一度、人族の中に潜入して連れていかれた獣人たちの行方を追う。ロドス達は、このまま俺の街まで行ってヒルデ達と合流してくれ。ロドスが戻れば指揮系統が機能するだろう。まずは、傷の手当てと休息を優先してほしい。その先の事は、俺が戻ってから相談したい。時間が惜しいから俺はすぐに出る」
「おまえの責任じゃないだろう。なぜ、わしらのためにそこまでお前が動く・・・」
「いや・・・俺の勝手な想いだ。俺がそうしたいと思うからそうするだけだ。すまん、本当に時間が惜しいからもう行くぞ。後は、そこにいるホクトと言う狼についていけば案内してくれるし守ってくれる」
俺はそれだけ言うと瞬く間にロドスの前から消えるように出発する。ロドス達の気配を感じなくなるくらい走ると飛行魔法で空へ飛ぶ。
「俺の勝手だ」




