潜入
ヒルデ達がゆっくりと静養できるよう手配を整えると後の事は、メグミとホクトに任せて準備を始める。
「ガスターン!」
『主・・・行くのか』
「頼んでばかりだが、頼めるのがお前しかしないんだ」
『気にすることはない。主と認めたのは我だ』
「これから南に向かう。獣人が捕らえられている場所まで案内してくれ」
『心得た』
「メグミ、ホクト、あとは頼んだぞ」
「ええ。タクミ達も気をつけてね」
ガスターンと共に飛行魔法で空に向かう。一度、振り向いて手を振ると一気に加速して南下を始める。急がないとロドスやミュアたちが心配だからな。
高速飛行を続けるとMPの減りも早いので、途中でMPポーションを飲みながら飛び続ける。1時間も続けて飛ぶと目的地まで到着することができた。飛行魔法のレベルがまたあがっているな・・・
『主・・・あそこだ』
ガスターンが示す場所は人族の軍がテントを立て野営している場所のすぐそばにある。簡易だが、檻のような物に閉じ込められているようだ。目を凝らし、ロドスやミリアを探すが、見つけることができない。
「ここからじゃわからないな。ガスターンはこのあたりで待機していてくれ」
『主はどうするのだ』
「俺は、隠密スキルを使って檻のそばまで潜入するつもりだ」
『危険ではないのか?主の強さは心配していないが、見つかれば面倒になるだろう』
「その辺は、注意してやるさ」
まずは、状況を把握しないといけないからな。そのためには、情報が必要だ。ガスターンに合図すると人気のない場所で急降下し、森に潜む。気配を遮断し影のように動く・・・周囲に悟られないように檻の中が見える位置まで近づく。幸い、食事中のようで見張りの意識もそれほど高くない。
檻は全部で5つあったが、一番安全に近づける檻を選び接近を試みる。近づくにつれ、檻の中の惨状が目についた。大けがを負っているにも関わらず、治療もされず放置されている者・・・四肢を欠損し血を流す者・・・それなのに縛り上げられ動くこともできないように転がされている。
ふと、その中に見知った顔を見つける。そこにいたのはダルカスだ・・・
『ダルカス』
縛られているが、ピクリと声に反応した。
『ダルカス・・・俺だ。タクミだ。念話でお前の頭の中に声を伝えている。もし聞こえていたら少し体を動かしてくれ・・・』
ダルカスの体がわずかに動く・・・どうやら聞こえているようだな。
『すまないが少し教えてほしい。ここにロドスやミリアはいるのか?』
ダルカスは動かない。
『ロドスやミリアはどこかに連れていかれたのか』
ダルカスの体が動く・・・。2人は別の場所か・・・
『2人は生きているのか』
再びダルカスの体が動く・・・
『わかった。2人は俺が何とか助ける手段を考える。苦しいと思うがもう少し耐えてくれ。必ず助けにくるからな』
ダルカスの体がわずかに動いた。必ず、助けるからな・・・。さて、考えをまとめるか。
ロドスは、この里の長だから、ほかの者とは扱いが違うかもしれない。ミリアがその子どもだと知れれば同様に扱われる可能性もある。処刑・・・尋問・・・拷問・・・慰み者・・・見せしめ・・・考えたくないが、人族の思考を考えると2人の扱いに想像がつく・・・
それなりの身分の人族の側か・・・俺は次にあたりをつける。偉そうなやつは、豪奢な天幕ってのが相場だが・・・。ああ、あれだろう・・・立派なテントが張られている。少し見張りが多いが、これから夕刻に向かうから潜入も可能だろう。闇にまぎれて近づくだけだ・・・
再び気配を絶ち、立派なテントに近づく。テントの側に近づくと中の音を探る。
ビシっ!
「がっ!うぅぅ・・・」
何かが振られる音が聞こえ、打ち付けるような音が鳴るたびに唸り声があがる・・・。
「いい声だ!散々我らに抵抗してくれた礼だありがたく思え・・・薄汚い獣が・・・おいおい・・・しっかりと立っていないとおまえの娘の命が危ないぞ・・・ひっひっひ」
ビシっ!!
「ぐうううう!」
「生意気な目をしやがって・・・ほら足元がふらついているぞ・・・しっかりと立て。まあ・・・お前の足の健はぶった切ってやったか・・・」
想像したくない現実が目と鼻の先にある・・・何を・・・いったい何をしている?
「ロドスと言ったな・・・お前が逃がしたやつらもじきに捕まえてやるから安心しろ。お前たちの次は、北のエルフやドワーフ達も同じように捕まえてやるつもりだからな。どこに逃げても無駄なことだ・・・。せいぜい、退屈な俺を楽しませてみせろ」
中の様子は見えないが・・・ロドスが拷問され、ミュア命が危険にさらされているのは、間違いないようだ。何か助ける手段はないか?飛び込んでもミリアやロドスを人質に取られるとやっかいだしな。
おとり・・・何かをおとりにして、拷問を続ける男をテントの外へ出し、その隙に2人を確保する。いったん2人を連れて離脱し安全を確保して・・・いや、そうすると他の獣人の命が危なくなる可能性がある。他の獣人も怪我人が多いから走って逃げることもできない。逃げるにも治療が先に必要になるだろう。
何かいい方法がないか・・・
強力な魔物がここを襲う・・・。立ち向かっても敵わないと人族が逃げれば・・・。足かせになる者は連れていかないだろう。この方が獣人たちを救える確率が高そうだな。そのためには・・・人族が恐れる魔物を出現させる必要があるな。
『ガスターン。聞こえるか?』
『聞こえるぞ主』
『無理を承知で頼みがある。少し騒ぎを起こしてほしいんだ。お前の力なら上空から人族を襲うこともできるだろう?』
『問題ない。だが、どのようにすれば良いのだ』
『そうだな。宙にいるガスターンを攻撃するには、魔法か弓矢くらいしかないから手段も限られる。最初に一方的に攻撃すれば、戦意を失うかもしれないから最初にでかいやつを見舞ってやってくれ』
『心得た』
ガスターンの返事が聞こえると間もなく空から巨大な影が振ってくるのが見えた。警戒していた人族の中でその影に気がついた者が大声で叫ぶと兵士の視線が一斉に空に向かった。
影は徐々に大きくはっきりと見えるようになり、そのまま地面にぶつかるのではと誰もが思ったとき、兵士が密集していた場所に巨大な風の塊が降り注いだ。
ゴウ!!!!!
音があとからやってくる。たたきつけられた風が、衝撃波を作り周囲にいた兵士を細切れにする。ダウンバースト・・・。影は再び上昇し見えなくなる。壮絶な光景に最初は、言葉がでなかった兵士が
「ま、魔物だ。仲間が一気にやられたぞ」
と叫ぶと現場はパニックを起こした。槍や剣を取り構えてもその相手ははるか上空にいて手も足も出ない。しかし、相手の魔物はピンポイントで人族を細切れにする力を持っている。およそ、魔法や弓を準備してもその影に命中させるのは至難の技だろう。
「何があった?」
テントの中でロドスをいたぶっていた男の声がテントの外に出た。騒ぎを聞きつけ慌ててテントから出たのだろう。側の兵士が、その男に進言する。
「グラム将軍!今しがた上空から魔物が飛来し、10名近い兵士が被害にあいました。魔物は、はっきりとは見えませんでしたが、鳥型の魔物だと思われます」
「ちっ!斥候からそんな魔物がいるとは、聞いていないぞ。それで、どう対処するつもりだ」
「そ、それが、あまりの速さに弓も魔法も・・・。今もはるか上空にいると思いますがどう対処してよいのか皆目・・・」
「集団陣形。盾を持ち上空からの攻撃に備えろ。一撃を防ぐと同時にボーダーを投擲し捕獲しろ」
「はっ!」
「ちっ。無能どもが・・・」
グラムと呼ばれた男の舌打ちが聞こえる。現場は、ガスターンへの備えに右往左往している。音もなくテントの端をめくりテントの中に踏み込む。まだ、グラムはテントの外で指揮をとっているだろう。
テントの中には、一本のロープを縛り付けられたロドスが、ふらふらしながら立っていた。ロープの先には、刃物つけられており、ロドスが倒れたらその刃物でミリアの首が飛ぶように仕掛けられていた。
ミュアは気絶していたが、命に別状はないようだ。すぐにミリアを解放し、抱きかかえるとロドスの側へ向かう。
「ロドス・・・大丈夫か」
小声でロドスに声をかける。
「た、タクミか・・・。なぜここに?」
殴られたせいか、顔はぼこぼこにはれ上がり、目もかろうじて開く程度にしか開かない。手足の健が切られているのかだらりとぶらさがっている。
「助けに来た。ヒルデ達は俺がかくまっているから心配いらない。ロドスとミリアを助け出し、他の獣人たちも解放するつもりだ」
「俺達はいい・・・他のやつを助けてやってくれ・・・」
「何を言っている。全員助けるに決まっているだろう」
「俺の身体はもうどうにもならん。逃げることもかなわんからこのまま捨てていけ」
「無駄口を言うな」
最大限の治癒魔法でロドスを治療する。瞬く間に全身の傷や切られた健が復元していく・・・
「何が・・・」
「今はだまっていろ」
1分にも満たない治療では、完治はできないが、最大限のレベルで治癒魔法を使ったのでMPはかなり減ったが、動けるくらいまで回復させることができた。四次元ポケットから水筒を出しロドスに渡す。
「ミリアも無事のようだな」
「ああ。ミリアは脅された恐怖で意識を失っただけだからな」
ごくりと水を飲むロドスがせき込む・・・
「だれだ!」
その音を聞きつけたのかグラムと呼ばれた将軍がテントの中に入ってきた。グラムがテントに戻った時には、すでにミリアの姿もロドスの姿もない。
「将軍!。再び魔物の攻撃です。集団陣形で対応しましたが、盾や鎧ごと切り刻まれて反撃することもかないません。10数人が犠牲になりました」
「ちっ!ここに何者かが潜入しているぞ。それとその魔物には、無理に抵抗するな。遮蔽物に身を隠すように指示しろ」
「わかりました」
指示を受けた兵士がテントを出ると同時にガスターンの攻撃がテントに降り注ぐ、最も立派だったテントも次の瞬間には、細切れの布へと姿をかえる。
「開けた場所は危険だ。いったん森の中に避難するぞ」
グラムの指示に兵士たちは一目散に森へと消えた。




