王都異変
・・・およそ3ヶ月前・・・
「ふぅ~」
王城の廊下を歩くクライスが、ため息をつく・・・。呼び出された理由もおおむね想像がつくので、なおさらため息は深くなる。
王都のダンジョンが攻略されてからの王都は、見る見るうちに活力を失っていた。ダンジョン都市としてダンジョンからの恵みを受けて王都民は暮していたため、いざダンジョンからの恩恵がなくなるとすぐに立ち行かなくなった。
王都には、冒険者がいなくなり、その冒険者を相手にしていた商人や宿屋が潰れていった。魔物の素材やダンジョンで手に入るマジックアイテムの供給が途絶えため、王都の住民は必要な生活用品が手に入らなくなる。ダンジョンが機能しなくなって1か月もすると閉店する商店が出始め、王都から立ち去る者も増えてきた。
王都の住民の減少は、王都の税収低下へとつながる。さらにこのことは、王の権威を低下させ、国民の不満は高めていった。
この日、クライスが呼び出されたのは、その打開策を考えるように指示されたためだが、クライスにも打開策があるわけではない。
「まったくあの魔族の女どものせいで・・・」
ダンジョンが機能しなくなって1年と少しが経過するが、拘束するように手配した魔族の男女が拘束されたと言う報告はない。最後の目撃情報が王都の東側にあったため王都の東へ逃走したのだと推測されたが、以降の目撃情報はなかった。怒りの矛先を失った王は、日々イライラしながら過ごしており、クライスもそのイライラをぶつけられるため辟易していた。
「クライス審議官」
ふと廊下の角で声をかけられ立ち止まる。視線を声の先にむけると同じ審議官の男が立っていた。立場は、クライスの方が上だが新進気鋭のやり手の男だと聞いている。確か、セイオスと言ったか・・・
「なにようかな?」
クライスが尋ねると。セイオスは、歩み寄り耳元で小声で話す。
「辺境の町の南東に住む獣人族の村を魔族が逃げるのを助けたと理由をつけて攻めとりませんか?」
「魔族は、南東の獣人族の元へ行ったのか?]
「いえいえ。そのような情報は僕は持っていませんよ。ですけどね南東あたりの森には、ちょうど良い魔物の狩場と鉱石が採掘できる場所がいくつかあると言う事は知っています。ですから・・・」
そういう意図か・・・。
「なるほどな・・・」
「僕のような小心者の小物が進言しても聞き入れられるかはわかりませんが、クライス審議官なら王の信も得られるでしょう?うまく運べば、現在王都が抱えている難問にも答えがだせるのではないかと愚行いたいしますが・・・」
理由を取ってつけられる獣人どもには、迷惑な話しだろうが、八方ふさがりの王都にとっては悪い話しではない。王が俺を呼ぶタイミングでこの提案を俺にするセイオスに危険な雰囲気も感じるが、上策と言える内容だろう。
「貴公の進言は、覚えておく」
さて、これで王への進言内容が概ね決まったな。俺が用意していた情報を組み合わせ、矛先を決めるとするか。
後日、王命が下される。
「王都の民よ魔族の脅威を防ぐため、魔族に加担する獣人どもに鉄槌を下せ」
不景気の影響にやり場のない不安と怒りを覚えていた国民は、この王命に奮起する。職を失った者は、兵士として集められ職得る。遠征に必要な物資が集められる事で王都に活気が戻る。
「指揮は、誰が担うのだ?」
王城の窓から集まる兵士を見ながら王が問う。後ろに控えるクライスが
「軍は、グラム将軍が率いらせ、参謀にセイオス審議官をつけましょう」
「グラムは、以前に獣人どもを蹴散らした事があったな?」
「はい。まだ将軍となる前の事ですが、少数の精鋭を率いて獣人族と接触し、策を用いて獣人族を捕え殲滅した実績があります」
「ふむ・・・審議官のセイオスはどのような者なのだ?」
「切れ者と思っております」
「おまえがそう言うのだからそうなのであろうな・・・。わかったお主の進言を受け入れ、グラム将軍に遠征軍を率いさせる。セイオス審議官には、軍の参謀として参加させよう」
「かしこまりました・・・」
「これで、王都に活力が戻ると良いのだが・・・」
「それはご安心を・・・すでに獣人族が支配する森を中心に斥候を放っております。探索調査にあたっている者から、いくつかの鉱山とダンジョンを確認した報告を受けております。辺境の町を中心に冒険者どもを囲い、得た素材や鉱石を王都へ流通させれば新たな産業も起きることでしょう。それとまだ先の話しとなりますが、その森の北部にエルフやドワーフが住む村があると商人どもから情報を得ています。獣人どもを平らげた後は、機を逃さずその2種族も支配下にと考えております。さすれば、もたらされる富はこれまで以上の物となりましょう」
「そうか・・・準備が整い次第軍を起こすと王都の民に伝える。出陣式は盛大に行うぞ」
王は遠くの空を見る。
「はっ!御意のままに」
後日、およそ3千人にもなる遠征軍が王都を出陣する。
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・・・現在・・・
「ねえねえ」
朝ごはんを食べているところに妖精ガールズがノックもなく乱入した。
「何かあったのか?」
箸をおいて聞いてみると
「あのねあのね。私たちの池にね。水龍様が戻ったの」
「そうそう。昔住んでいたのだけどいつの間にかいなくなってたの」
そうか・・・水龍は、妖精たちの池に住む事にしたのか。
「それでそれで伝言を頼まれたんだよ」
追いかけるように入ってきた妖精のホルトが
「置いてかないでよ。水龍様の伝言を聞かないで出ていくんだからこまっちゃうよ」
ごめんねと謝る妖精ガールズをよそに
「それで伝言ってなんだ?」
と確認を入れると
「えっと。水龍様の伝言です。『しばらく池に住むことにしたので用があったら連絡する』って言ってたよ」
そうか、水龍は、池に住むことにしたのか。ご近所さんになるなら付き合いも考えておかないといけないな。
妖精たちが池に戻って行った後、俺は再び従魔を増やすために探索に出かける事にした。途中、ガスターンに声をかけ周辺の調査や索敵を依頼する。ガスターンなら時速200km以上の速度で飛べるし索敵スキルも持っているからな・・・
今日は、リッチのいたダンジョンのさらに西へと足を向ける。時間を短縮するため途中までは飛行していった。
山と森の間を進むとトカゲの魔物や植物の魔物を見つけたが、どれもテイムするには物足りない。仕方なく休息し昼食を食べているとガスターンが戻ってきて大きな羽をたたんだ。
『主・・・ここから南に獣人族の姿を見つけた。数が多いので正確にはわからないが、怪我している者や女子供が多い』
「獣人族が?」
『何かに追われるように北へ北へと進んでいるようだ』
何があった・・・南と言えばロドス達のいる方向だが・・・
「わかった。これから様子を見に行く」
すぐに昼食をリュックに戻し、代わりにリュックから魔物の肉を取り出す。
「ガスターン。これ食べててくれ!」
そう言うとすぐに空へ飛ぶ・・・嫌な予感がしてならない。かなりの速度を出して街に一度立ち寄る。
「メグミ!」
自宅にいるメグミに声をかける。
「どうしたの?」
と聞くメグミに
「南から獣人たちが北上してきている。様子が少しおかしいからこれから会いに行くつもりだ。何が起こるかわからないから気持ちだけでも備えておいてくれ」
「う、うん。わかった緊急事態かもしれないもんね。えっと一応留守は私が責任を持って守るから大丈夫だよ」
「頼んだぞ。後、ホクト達にも伝達しておいてくれ」
時間が惜しいので再び空へ向かう。
「わかった。タクミも気をつけてね!」
見送るメグミに手を振り先を急ぐ。




