俺の一人旅 4
タクミは、ロドスの書斎に案内された。2人は、あえて正面には座らず立派な庭を見るように座り、庭を眺めながらの会話となった。
「それで何を知りたい」
「そうですね。問題がなければこれまでに獣人と人族の間にあったことをお聞かせ願いたい」
タクミの問いにロドスは深いため息を吐く
「娘たちから何か聞いたか?」
「いえ、2人には何も・・・」
「そうか・・・。あれらにはな・・・母がいた。まあ当然だな・・・母がいなければ子は生まれはせんからな・・・。あれらの母親、つまりわしの妻はな人族に殺されている。この里の周囲はな2つの人族の国に挟まれているのだが、そのうちのひとつこの里のはるか南東にある聖キリシア王国と言う人族の国は、我ら獣人を迫害する国策を取っているのだ。我らの同胞は、捉えられたりすれば奴隷として扱われ、抵抗すれば・・・殺される。そうだな、このような事がもう長い年月続いている。親や家族を失えばその恨みは募る。我らも当然人族に容赦はしないし、争えば殺すだろう・・・。」
ロドスの告白は、タクミの想像の中にあるものと相違はなかった。獣人と人との争いの歴史、それぞれに思うところや理由はあるのだろうが・・・
「争いの連鎖が続いているのですね」
「そうだ。だが、3年前になるか、それを変える転機があった。長い争いの歴史に誰もが疲れていたからな、我ら獣人の連合と聖キリシア王国の間で不可侵条約を結ぶと言う話が出た。それに関わったのがわしの妻であり、あの子らの母親であるリリアだ。人族を信頼できない仲間を説得し、時には罵られながらも話しをまとめた。わしは反対だったからな・・・口もきいてくれんかったよ。賛同した仲間たちと聖キリシア王国の貴族との間で調印式を取り交わすところまでこぎつけた。あとは、それぞれが署名するところまで行ってリリアたちは、人族に裏切られた。わしはその場にいなかったから見ていないが、それは凄惨なものだったそうだ・・・」
何もできず、側にもいられなかったロドスの後悔の念は、想像を超えるものだろう。
「お話しくださり、感謝します」
「わしも全ての人族が憎いわけではないのだ。だが、同胞を守るには鬼にもならなければ・・・大切な者も守れないのだ」
この後、ロドスは、人族と獣人の間にあった様々な争い事や関わりを語った。タクミは、それをすべて聞き終えると姿勢を正し礼をする。
「それで、お前はこの後どうするのだ?」
話し終えたロドスはタクミに答えを求める。
「正直まだわかりません。この後、聖キリシア王国にも行き目と耳でその姿を見なければならないと思います。私は、まだこの世界の事をよく知りませんのでもう少し色々なことを知らなければならないと思います」
「そうか・・・好きにすると良い。この後の事を決めたら教えてくれ」
ロドスは、そう言うと席を立った。タクミも与えられた自室に戻ろうと廊下を進むとヒルデとミュアが待っていた。
「えっと、何かようか?」
タクミが、2人にそう聞くと、ミュアが
「きちんとお礼を言えていなかったから・・・」
「気にするな俺も助かったからお互い様だろ」
タクミは、ミュアの頭にポンと手を置くとそのままなでた。
「そうだ。またパンでも食べるか?」
タクミは、四次元ポケットからチョココロネを取りだしてミュアに渡す。
「この前とは違うやつだけど甘いパンだから嫌いじゃないだろ?」
ミュアの顔がぱっと明るくなる。どこか餌付けしているみたいにも見えたが、喜んでいるので良いだろうとタクミは考えた。その後ろにいる人物がどのような顔をしているかをタクミはあえて見ていない。チョココロネを始めて食べたミュアがむしゃむしゃしているとヒルデが
「ね、ねえ?少し私達の扱い方に差があるようなんだけど・・・」
「うん?おまえもほしいのか?」
タクミも意地悪く聞く。タクミは、ヒルデの答えも予想しているので前と同じパターンになると考えていたが
「お、お願いします。私にもください。あの時食べたパンの味が忘れられなくて・・・」
タクミの予想に反した答えがかえってきた。少し考えたタクミだったが、四次元ポケットからカレーパンとピザパンを取り出してヒルデに渡した。2つもらったことに喜びを隠せないヒルデがパンにかぶりつくと・・・予想と違うパンの味に驚いた顔をしてタクミを見る。
「えっと・・・おいしいんだけどさ。なんで私のは甘いパンじゃないの?」
ヒルデの返答にタクミは、吹き出し笑い出した。ミュアもつられて笑っている。
「いや、悪い悪い。あまりにもお前の反応が面白くてな・・・。」
お腹を抱えながら笑うタクミを見てヒルデの顔が赤くなる。
「もう知らない!」
ヒルデは真っ赤な顔をして廊下から立ち去っていく。やりすぎたな・・・と少し思ったタクミだが、四次元ポケットから新たにチョコパンやジャムパンなど幾つかのパンを出すと
「ミュア。この中から好きなの取っていいから残りをヒルデにも渡してやってくれ。悪かったってな・・・」
「はい。でもお姉ちゃんは、恥ずかしいだけで怒ってはいないと思うよ。あんな顔したお姉ちゃん初めてみたもん」
タクミは、そうかと頷き、ミュアの頭をなでる。ミュアは、両手でたくさんのパンを抱えて姉の後を追っていく。
「俺達とこいつらの何が違うってんだろな・・・」
立ち去るミュアの背にむけてタクミはつぶやいた。




