私には、覚悟が必要でした
ホクトに先導され、私は街へと向かいます。私の体力がないばかりに何度も休憩をしなければいけません。強くならなきゃ・・・私はそう強く思いました。
「あのさー。この世界は、レベルを上げるとステータスってのがあがるんだ。で、レベルをあげるには魔物を狩ったりしなければならない。君にはその覚悟はあるかい?」
ホクトが、私に確認します。私の覚悟・・・。そうね、変わりたいと私は思ったのよね。
「あるよ。ちょっと怖いけど。それが必要なのでしょう」
ホクトは、私を心配しているのね。
「・・・少し行ったところに狼がいるな・・・グレイウルフだろう。強くなりたいなら力も貸そう。どうする?」
・・・さっそくね。
「でも、私なにも力がないわ・・・」
「言ったはずだよ、力を貸すと、少し待っていて・・・」
ホクトは、走り出す。アッという間に姿が消えた。そしてわずかのうちに帰ってきたが、その口には、グレイウルフだろう狼が銜えられていた。後は、止めをさすだけ・・・
「止めをさしてごらん・・・」
ホクトは。メグミは、果たして止めをさせるだろうか?。女神さまには、助けてやれと言われている。だけど、それはこの子次第だ。何もせず、何も覚悟できない、もし、メグミがそんな子だったら僕はこの子を支えられない。支えたくない。
でも、それは、僕の杞憂だった。メグミは、近くにあった石を拾うとその石で狼の頭をなぐった。決して強い一撃ではなかった・・・。そして、メグミの顔は涙でいっぱいだった・・・。何度なぐっただろう。力がないから止めをさすのに時間がかかる。狼にとっては悲劇だろうな。僕は同じ狼の仲間とは思っていないが・・・
ようやく狼は息を引き取った。だけどメグミは石を振り上げ殴り続けた・・・
「もう・・・そいつ死んでいるよ」
僕はメグミにそう言った。メグミは、真っ赤に染まった石を足元に落とすと膝から崩れ落ちた。
「ごめんなさい・・・」
死んだ狼に謝るメグミを見てやさしい子だと思った。とてもこの世界では生きていけない弱い子だと思った。そして、僕は何があってもメグミを守ることを決めた・・・。
「レベルが上がったね。見てごらん」
メグミはレベルを確認する。
メグミ・タカキ
レベル3
HP 18(38)
MP 25(45)
力 10
体力 10
器用 13
素早さ 11
魔法 24
抵抗 22
「私、強くなってる・・・の?」
「そうだね。メグミの覚悟が君を強くしたのだろう」
神様たちの力か?成長がすごいな・・・ホクトは考える。
「私は、変われるのかな・・・ずっと・・・ずっと何もできなかったのに」
ホクトは思った。君は変われる。きっと強くなれるだろう。だから僕は、
「そうだね。これからは、君次第だろうね」
私は、ホクトと歩く。少し無言が続いたかな。血で真っ赤に染まった手を洗うため、ホクトに川を見つけてもらい、ごしごしと洗った。血は落ちてきれいな手に戻ったが、
「私の手は血に濡れている・・・。私が望み・・・私がころ・・した」
私は、川辺に映る自分の顔を見る
「でも・・・後悔はしないよ」
私は、立ち上がり、歩きだす。
「ホクト!私にできることを教えて!私が強くなるには・・・私が戦うにはどうしたらいいのかを!」
私は、恵まれている。力もない。スキルもない。でも、ホクトがいる。神様たちの応援がある。
「メグミ・・・。まずは、何か食べ物を考えよう。僕はおなかがすいたよ」
ぐ~
決意を胸にした私のおなかが、ホクトに返答する。
「もう・・・せっかく覚悟したのに~」
「メグミ・・・君も僕も何かを食べなければ・・・水がなければ・・・生きていけない。どんな時もこれは忘れないでほしい。君のいた世界では、水や食べ物に困ることはあまりなかっただろう?」
「そうだね。私のいたところは、当たり前のようにそれがそろっていたよ・・・でもこの世界はそうじゃない・・・」
「ねえ。ホクトは、何ができるの?」
私は、ホクトのことをほとんど知らない。お話しができて、すごく早く動けて、狼をあっさりと捕まえてくるくらいしか・・・
「僕かい?そうだね・・・調理はできないし・・・水は汲めないね。君のそばにいてあげられるくらいかもね・・・」
私が、私にできることか・・・。きっと、ホクトはそう言いたいんだろうな・・・
「今、私には何の道具もないし、力もないわ。食べ物だって用意できない。でも、この世界には、いろいろなスキルがあってみんなはそれを勉強し鍛えて生活しているのよね?」
ホクトが短く答える
「そうだね。それで間違いない」
ならば 私は・・・
「ホクト!街へ急ぎましょう。まずはそこからよ。街まではあとどのくらい?」
「君の足であと2時間ってとこかな・・・」
まだ、街まではかなりある。おなかも空いているし、足だって棒みたいになっている。
「早く街へ行きたいから急ぎます」
私は、気力を振り絞り街へ歩みを向ける。
ある程度進むとホクトが何かを感じたのか歩みを止めた。
『前から誰かくるよ・・・注意して』
ホクトが警戒態勢に入ったのか念話が来た。ほどなく、前方から2人の男が視界に現れた。
『前の男のほかにも何人かいる。両側にも2人ずつ・・・回り込むように後ろにも1人いる。全部で7人』
ホ、ホクト、これってもしかして・・・
『そうだね。おそらくは盗賊か山賊だと思うよ。どうする?』
魔物とは覚悟したけど・・・人間が来ることは考えていなかったよ・・・
『この世界だと、どっちもどっちだね。僕は、人族のしていることの方が恐ろしいと思っているよ』
まごまごしていると前方の男が声をかけてきた
「じょーちゃん。こんなとこでペットと散歩かい?」
2人は、下卑た笑いを浮かべ、そう言った・・・嫌だな・・・この人たち
身構えるとホクトが少し前に出た。
「おいおい!そのペットに言ってやりな・・・別に襲いやしないって・・・」
信頼できないよ。わたしは、
「では、なぜ、あなたたち以外が、姿を隠して囲んでいるのですか?」
男たちは、不満そうな顔をして
「なんだ、このじょーちゃん。索敵でも持っているのか?」
態度が急変する。囲いがばれたことに驚きながらも、周囲から5人の男たちが出てきた。
「まーそのなんだ・・・じょーちゃん。悪いようにはしねぇからちょっと俺らに付き合わねえか?」
男たちは、相変わらず下卑た笑いを浮かべる。
ホクト、囲みを抜け出すことできる?
『どうするんだい?』
従うふりして、相手が油断したら一気に振り払おうと思うの・・・
『メグミがそう考えたのならいいよ』
「わかったわ、どうしたらいいの?」
男たちは、満足そうに答える。
「ああ、この先に俺たちのアジ・・・いや、住んでいる場所があってな、そこで少し・・・」
この人、私をアジトに連れ込むつもりか・・・ ホクト!いくよ!
私は、目の前の男の人に右肩から体当たりする。面食らったのか、男の人がよろけている隙に、私は男たちの囲みから外に出る。よし、このまま走りぬけて・・・
でも、そばにいた男があっという間に私の前に回り込んできて道をふさぐ、
「おいおい!馬鹿にしやがって・・・まーどっちにしても同じだ・・・おい捕まえろ」
男達が、私を捕まえようと手を伸ばす。必死に抵抗するが、力も数も違いすぎる・・・
「だめ! やめて!」
このままじゃ・・・。
メグミは、まだこの世界のことをよく知らない。この世界は、本当に厳しいから・・・。今回のことは、メグミにとって良い機会になるだろうね。
あ、でもこいつらにはかわいそうかもな・・・
ホクトは、メグミを捕まえようとする男達のそばに歩み寄ると、大きく口を開け、ガブリと・・・噛み切った・・・。噛まれた男の足はすでにない・・・。男達は、おとなしくしていたホクトを視線から外していたのだ。慌てて、ホクトに意識を向ける男達、しかしその時には、次の男の足が別れを告げていた。
慌てる男達
「な、なんだこの狼・・・グレイウルフがこんなに強いなんて・・・」
「ギャーっ!! いてー。」
特に急いだ感もなく、ホクト次々と男の足を噛みちぎる。ホクトが牙を立てるとなんの抵抗もないようにちぎれていく
気が付くと、すでに7人のうち5人の足が片方ずつ・・・千切れていた・・・。
痛みに転げまわる男達、かろうじて2本の足で立っている男は、後ずさる・・・
「じょ、冗談じゃねえぞ・・・」
後ずさる男の1人が、何かにつまずいて尻もちをつく・・・ホクトは、ゆっくりと近づいていく
「お、おい、じょーちゃん。こ、こいつを止めろ。止めてくれ、な、なんでもするから・・・な、頼むよ」
男の声にホクトは、主の顔を見る。すでに男達から解放されているが、現場のあまりの状況に言葉がない。
ホクトは、少し精神的に厳しかったか?と考えたが・・・
「あ、あなたたちは、私を襲うつもりで実際に襲いました。あなたを助ける必要はありません」
ホクトは、少しほっとした。この期に及んで助けるなどと言うのなら・・・
「でも、助けてあげなくもありません。」
ホクトは、メグミを見る この子は・・・だ・
「あなたのアジトに案内なさい。あなたたちのすべての物をいただきます。価値のあるものがあれば、命だけは考えてあげてもいいわ!」
・・・ホクトは、驚いた。本当に予想になかった・・・でも・・・いいなそれ!
返事に詰まる男に助け舟を出すため、ホクトは、返答に困る男の足を口で軽く噛む・・・
すでに5人の男が噛み千切られているのを見ている男は、真っ青な顔で
「わ、わかったなんでもやる・・・だから命だけは助けてくれ・・・」
男2人は観念したのかぐったりとしてへたり込んでしまう・・・。足を失い転げまわっていた男達は、失血死かショック死かわからないが・・・静かになったいた。
ホクト。ごめんね。判断甘かった。次はもっと考えるから・・・
『いや、面白いことになったから気にしていない。どうしてアジトに行くって言ったんだい?」
え?だってお腹がすいたもの・・・ホクトだっておなかすいたって言ってたでしょ?この人たちのアジト行けば、食べ物くらいあると思ったのよ。
ホクトは、愉快だった。そう、僕はおなかがすいた。食べることが、生きることがこの世界で最も重要なのだから・・・
「じゃあ、案内よろしくね。何かしようとしたら・・・まあ、言わなくてもわかっているわよね?」
男2人は、立ち上がり、ホクトにせかされるように歩きだす・・・




