閑話2
ミクスの街のアーケード街に並ぶ店の数は、人族が住むようになってから大きく増えた。商売経験のある人族がノウハウを活かして営むため効率も良い。丁寧な対応をし種族差別もしない人族の店主たちは、どの種族にも受け入れられた。
その影響を最も受けたのは、リル達の店だ。試行錯誤するリル達も手広く売買を行っているが、後発の店はその専門性を武器に売り上げを伸ばしていく。リル達の店がなんでも扱う雑貨屋だとすれば、隣近所には、金物の専門店や肉の専門店が軒を連ねているからどうしても品揃えで負けてしまうのだ。
「私達も何か1つに絞った方がいいかもしれないね・・・」
客の流れを見ながらリルが仲間に声をかける。仲間たちも同じ考えのようだ。しかし、いざ何を専門に扱うかを考えると良い物がうかばない。
「今あるのは、肉の専門店に野菜の専門店でしょ・・・この前できたのは魚の専門店とパンの専門店よね。他に金物店、鉱石や魔物の素材の売買所、酒店・・・あとはご飯を食べる店か」
同じ物を扱っても意味はないし・・・
「ねえ・・・今度王様に相談してみようか・・・」
「でも・・・私達ばかり相談して迷惑じゃないかな?」
「そうね・・・王様忙しそうだし・・・」
「そうだ。色々な人に何扱って欲しい物がないか聞いてみない?」
話しが決まるとリル達の行動は早い。アーケード街を歩く人たちに頼んでは、希望や欲しい物の調査を開始する。
「すみませーん。少しいいですか?今、この街に必要な物を聞いています。何かあったらよいお店はないですか?」
「ああ・・・お前達か・・・」
「ってダルカスさん」
「店・・・頑張っているのか?」
「ええ・・・でもね少し行き詰っているわね」
「何か問題でもあったのか?」
「そう言うのじゃないの・・・ほらここにもお店が増えたでしょ。そろそろ店のやり方を変えないとお客さんがこないのよ・・・」
「そう言うことか・・・お前達も大変なんだな」
「そうね・・・それよりダルカスさんは、何かあったら良いと思うお店はない?」
「あーそう言うことか。そうだな~俺みたいな一人暮らしは、どうしても家事が追いつかんくてな・・・」
「えーまさか、洗濯とか掃除とかしてないとか?」
「そ、そんなこはないが、ほら・・・訓練なんかして疲れて帰ってから掃除や洗濯ができない事だってあるだろう・・・」
「確かにね・・・でもちゃんと掃除くらいしないとせっかくの綺麗な部屋が汚れちゃうからね。それにちゃんと洗濯しないと臭いで女の子に嫌われちゃうからね」
もともと狼族では、1人者たちはある程度の人数で共同生活していたこともあって掃除や洗濯への意識が薄い・・・
「わ、わかっている。それよりなんか話しがおかしな方に向いているぞ。俺が言いたいのはだな・・・家事の代行をしてくれる店ってことだ。食べ物は食事を食べられる店ができたから利用しているが、他がどうしても手が回らない」
「もう・・・ダルカスさんも早く結婚したらいいのに・・・」
「それができたら苦労はせんわ・・・」
「でもありがとね・・・参考意見として聞いておくわ」
「あ、ああ。お前達も頑張れよ・・・」
リル達は、その日、色々な人から要望や相談を受けることになる。夕方には皆で集めた要望などを報告しあう時間をとった。
「それでどんな希望があった?」
「服を売る店ってのがあったね」
「甘味が欲しいってのもあったよ」
「家事の代行・・・これはダルカスさんね・・・」
「あとは、今出たような意見が多かったわね」
「服とかってそれぞれの種族で形も違うから難しいのよね・・・服を売ってくれるのは便利だけどしっぽの位置なんかが違うとだめなのよね・・・」
「甘味がいいんじゃない?」
「でも材料とか・・・王様ならなんでも知ってそうだけど・・・」
「家事・・・」
「「「「「さっさと結婚しろよ」」」」
「あ~あ・・・なかなか簡単には決まらないね・・・」
「そりゃそうだよ。簡単ならもう誰かがやっているだろうしね・・・」
発言も止まり、どれも決め手を欠く内容になる。
「おーい。誰かいるかー」
店の中で会議していると誰かが呼ぶ声がする。
「はーい」
リルが接客に出ると王様がそこにいる
「おお。いたか・・・どうだうまくやってるか?」
ぱっと答える事ができない。
「なんだ・・・少し行き詰っているのか?」
「実は・・・」
「そうか・・・店も増えたしななんとなくそろそろ困っているんじゃないかと思ったんだ」
「わかってたんですか?」
「なんとなくだけどな」
「今もどうしたら良いかって打ち合わせしていたんですけど・・・」
後ろから4人も出てくるがさえない顔をしている。
「けど良いアイディアが出ない・・・と」
5人がそろって頷く
「店なんてやり方次第だからやりたい事をやれば良いと思うがな・・・」
「服を売る店とか甘味を売る店とか掃除の代行とかアイディアは出たんだけど・・・具体的なやり方がちょっと」
「色々と面白そうなアイディアが出てるじゃないか・・・やり方か・・・」
「そうなのよね・・・」
「やり方を教えてやってもいいが・・・ヒントだけやるか」
「教えてくれるの?」
「まあな。リル達には最初の頃から世話になっているしな・・・だけど贔屓してやるんじゃないぞ。出すのはヒントだけだ。後は、自分たちで考える事」
「わ、わかったわ。王様に全部お願いするわけにはいかないからね」
「良しじゃあ・・・さっきのアイディアだが、全部採用しよう」
「え?全部?」
「店を改装して半分を休憩できるスペースにする。休憩スペースでは甘味と飲み物を食べたりできるようにするんだ。調理は、裏のスペースで作って運んでくれ。残りのスペースには、種族毎の服の型を置く・・・」
「ちょ、ちょっと待ってメモするから」
「続けるぞ・・・種族毎の服の型を置く・・・なぜそうするかわかるか?」
「えっと・・・同じ服でも種族が違うと形が違うからよね」
「ああ。半分正解だな。デザインが同じ服でも種族が違えば違う服になるように体が大きかったり小さかったりすれば違う服が必要になる。だから基本となる型を先に決めるんだ。たとえばリルの身長と俺の身長だと同じ型の服は着れないが、リル達5人はほとんど身長も変わらないから同じ服を着ることができるだろう?」
「ええ。貸したり借りたりしてるくらいだから」
「だから大体の型を作って見本にしておいておくんだ」
「あっ!わかった。その基本の型を着せて・・・ちゃんと着れるならその型の服はどれも着れるのよね」
「そうだ。体系に合わせて作っておいても良いから時間があれば型は増やす方が良いな。後は、服を作る事ができる人に交渉する必要があるが、同じ型を作る方が作る方も簡単だから喜ばれるだろう」
「あ・・・なんか色々と思いついた・・・メモしておかなきゃ・・・」
「最初に言った場所では、服を買いに来た人に待ってもらったりする間にも活用ができる。子供と来ても時間をうまく使えるからな。最後に、服の修繕や洗濯を請け負うように窓口を置くんだ。服の修繕や洗濯は得意な人にまとめて頼んで料金を払うと良い主婦なんかが喜んで引き受けてくれるだろ?」
「すごいね・・・王様は」
「ね~・・・なんか話しを聞いただけでうまく行くような気がしてきたもんね」
「ただし、金額の設定や交渉なんかは、リル達が努力しないとだめだからな」
「大丈夫元気だけが取り柄だからね」
リル達は、手分けして伝手をあたると飛び出した。サービスだと言って店の改装と甘味のレシピだけは教えてくれた。王様・・・甘いです。
服の型作りは、アイディアに賛同してくれた各種族の服作りが得意な人に委託した。皆、喜んで協力してくれると言ってくれた。受注生産は、確実に売れる反面、重複したりして忙しくなったり、逆にしばらく希望がなくなると仕事がなくなるので不安定だと聞いた。
基本となる型やデザインが増えると大きさにわけて見やすいように工夫して並べる。人型の人形をおいて着せるなんて王様がアイディアを教えてくれたがそのアイディアはどこから来るのだろう・・・
リルは、王様から直接指導され、3種類の甘味の作り方を教わった。穴の開いた「ドーナツ」と言う物と氷を削って甘い蜜をかけた「かき氷」、小麦粉を薄く焼いて生クリーム?と言うものをまいた「クレープ」と言う甘味だ。材料の大半は、ミクスの周囲で手に入れる事ができる事がわかった。
「試食お願いします・・・」
あれから数日の間、1日1回王様が、やってきてリルが作った甘味を試食する。王様が合格と言うまでお客に出すことは禁止された。リルは・・・寝食を惜しんで努力を続け1週間後にようやく
「まあ・・・こんなもんか。慣れればもっとうまくできるようになるからな」
許可が下りる。その間に頼んでいた服の型も少しずつ完成し陳列できるようなところまで増えた。
必要な材料の調達や設備に蓄えていたミールを一気に使ってしまったから後戻りはできない。だけど、夢中で準備してきた店をみて夢は膨らむばかりだ。
「リル・・・注文を受けた時のために一度流れを確認しない?」
「そ、そうね。じゃあ誰かを試験的に・・・」
「今、そこでちょうど良いのを見つけたわ」
アーケード街をたまたま歩いていたダルカスが引きずられてやってくる。
「おいおい・・・何をするってんだ」
「いいの・・・あなたはお客の振りをしてくれれば」
「なんだよ・・・」
「じゃあ注文を取るわね・・・えーと何になさいますか?」
「って何があるんだよ?」
「えっとね。ドーナツとかき氷とクレープ?よ」
「どれも何かわかんねえよ」
「じゃー3つともってことで」
「えー。一気に3つも・・・注文取るの?」
「だってそうなる可能性だってあるでしょ」
「わ、わかったわよ。順番に作るから待ってね」
すでに下ごしらえは終わっており、道具も準備されているので手間がかかるわけではない。
「できたわよ」
リルがそう言うと店員役が運んできてテーブルに置く
「なんだよ。早いじゃないか・・・それにこれはなんだ?」
「ドーナツって甘味よ。食べたらわかるわ」
「なんだよ・・・もう少し客には愛想よくするものだろ?」
「今日はいいの・・・明日からちゃんとやるから」
ダルカスは、ドーナツを口に入れる。
「なんだ・・・ずいぶんやわ・・・」
もぐもぐと食べるダルカスが言葉を失う。一口食べ終わると・・・
「これ・・・うまいな」
ぱっとリル達の顔が笑顔になる。
「へへーん。どうだ参ったか」
「ああ・・・こんなうまいもんがあるんだ」
「次はこれよ」
「これはなんだ?」
「かき氷って冷たい甘味ね」
スプーンで恐る恐る口に運ぶ・・・独特の痛みがこめかみへ・・・だが
「これは・・・氷だよな?」
「そうよ。細かくして甘い蜜をかけたの」
「これは、また暑い日には最高だな・・・」
「そうでしょ・・・最後はクレープよ」
もはや何かを聞くこともなく口に運ぶ。もぐもぐと食べるダルカス・・・
「ああ・・・これも最高だな・・・」
「良かった・・・美味しいって言ってもらえた」
緊張が解けほっとしたのかリルが脱力する・・・
「それにしても・・・ここは何をする店になるんだ?甘い物を売るのか?」
「えっとね・・・服の販売と甘味の販売、後は服の修繕と洗濯ってとこかな・・・」
「なんだよ。そんなこともしてくれるのか?」
「ダルカスさんみたいに手が回らない人も多いみたいだからね。安くしてあげるからたまには洗濯くらいちゃんとしてよね」
「あ、ああ。女手がないから助かるよ。服だって何を買っていいのか・・・うまく言えないしな。助かるよ」
「そうね・・・服の事だったら任せてもらってもいいわね」
「今度は靴も置いてみようか?」
「あ。それいいかも服と合わせて売ったら売れるかもよ」
そのあともリル達は、次々とアイディアを出していく・・・。人族に襲われ・・・死すら覚悟した彼女たちの面影はない。忘れる事はできないが・・・乗り越えることはできるのかもしれない。




