戦うために
「それで人族の難民はどのくらいまで増えたんだ?」
「今日の朝の時点で800人と少しまで増えました」
朝の定例会議の場で報告を聞く。セレスが代表者を務める人族が日に日に増えている・・・。難民は、王都以外の人族の町から逃げて来た者が多く、街の外に設けられた簡易テントには、一時大勢の人族が入国を希望して待っている状態になった。
ミクスの街には、まだまだ十分な住居スペースがあり、1万人増えたとしても許容できるだけの力があるから人口が増える事は問題なくすべての難民を受け入れる事ができた。
「あの中に間者が紛れていると言う事はないか?」
ロドスが心配して言うが
「それについては、先日、王から有効なマジックアイテムをお借りしましたので問題ないと思います」
セレスは、すでに対策済みと返答する。
「あれは・・・怖いものだにゃ・・・」
カイルがそう言ったのは、俺がセレスに渡した催眠を付与したマジックアイテムだ・・・。相手に催眠をかけて・・・本当の事を聞きだすことができる水晶玉だ。相手は水晶を覗き込むと催眠にかかり、質問者が質問するとそのことに答えてしまう・・・。催眠が効かない相手は、それだけで普通の者ではないとわかるのでどちらにしても危険人物を街にいれずに済む。
「逃げてきた人族の話しだが、王都では軍備を拡張しているようだ。おそらくはこの街を再び攻めるためのものだろう・・・。だから俺達は、家族を守るためにも次の人族の襲来に備える必要がある。各自、説明したとおり十分に備えておくようにしておいてくれ」
最後にそう提案すると全員が頷き、朝の会議を終える。一人また一人と退席していき、最後に自分だけが残る。
「さて・・・」
ミクスの街の防備は固いが、2度の戦闘である程度の情報は洩れていると考えるべきだ。特に相手の指揮官の戦術は、恐ろしいほどの冴えを見せている。
次も同じように守っては、必ず隙をついてくる。2度目の防衛線の後に門の外に作った出丸など新しい設備もあるが、それだけでは防ぐ事は難しいだろう。
そして、獣人達が着せられていた黒い鎧・・・あれの正体がわからない。死者を操る鎧なのかもしれないが、恐れもなく突っ込んでくる姿は今でも恐ろしい。たまたま神聖魔法で浄化することができたが、俺がいなければどうなっていたかと考えると今でも肝が震える。
セレスが神聖魔法を使えると言っていたから少しスキルアップできるようにメグミと行動させ、時間があったら一緒にダンジョンに行くように勧めておこう。
人族兵士には、前面に出ると人質作戦の犠牲になる可能性もあるので後方支援に徹してもらう事にしよう。逃げてきた難民の多くが、非戦闘員と言うこともあるので戦力として期待せずに、物資運搬や食事の炊き出しなどを担当してもらおう。
「俺は、山で魔物を狩って食料の備蓄を増やす事とテイムで従魔を増やすか・・・なら・・・メグミやミール、セレスも連れて行った方が一石二鳥か・・・山脈側にあるダンジョンを攻略しに行ってもいいな」
ロドスとヘイスト、オーボーには、それぞれの部隊の練度を高めてもらうよう頼み、カイルには隠密活動の訓練を頼んだ。ボンゴたちには、矢の生産に加え、人族や熊族の装備を作るように依頼する。
アリヒア達エルフには、黒い鎧対策の一環として呪いや石化を解くポーションの作り方を教え生産を開始させた。魚人族には、堀などを活用した奇襲戦闘の訓練や消火訓練をするように指示した。人族には、街の中の警備や消火活動、炊き出し訓練や救護訓練を依頼した。
皆にそれぞれ役割を与えると4人は、ミクス北部にそびえる山脈へと足を踏み入れる。3人には、すでに目的も伝えており、未攻略のダンジョンを攻略すると言ってある。
「この辺のダンジョンって・・・4人で大丈夫なの?」
他の3人の強さをある程度は知っているが、本当の力は知らないセレスが心配して聞くが
「ああ。この辺のダンジョンなら1人でも大丈夫だと思うぞ。メグミやミールも変な条件さえなければ心配いらないからな」
「変な条件って?」
「物理無効とか魔法無効とかだな」
「それって倒せないでしょ・・・」
「まあ、倒し方は色々あるからな・・・お!ここだ入り口があったぞ」
斜めに降りていくような形のダンジョンを見つける。以前に上空から見つけていたが、入るのは初めての場所だ・・・さて、このダンジョンには何があるか・・・
4人で何事もないように進む。1人警戒するセレスをよそに3人は特に変わった様子もなくすたすたと歩く。
「お、この先に何かいるぞ」
索敵で敵の所在を確認して伝える。
「メグミと一緒にいると加護の力で成長が早いからな・・・セレスも俺達と一緒に行動していればどんどんレベルも上がるはずだ。防具は装着して余裕があれば神聖魔法を使ってくれ、それでスキルレベルもあがるはずだから」
「わ、わかったわ。じゃあ初歩だけど「聖なる加護」って魔法をかけておくわ」
聖なる加護は、抵抗力をあげる神聖魔法だ。俺は、使ったことがないな・・・。セレスが魔法を使うとみんなの身体が薄い光の膜に覆われる。
「よし!行くぞ」
タクミが先頭となり、洞窟を進む。
スモールワーム
レベル31
HP 260
MP 35
力 98
体力 105
器用 83
素早さ 63
魔法 57
抵抗 55
スキル 悪食レベル2 再生レベル1
「スモールワームレベル31だ。特に注意する必要はないな」
「え?」
セレスがおかしな声を出した時には、ミールとメグミが手にした剣でスモールワームを細切れにしている。
「あまり、強い奴がいないダンジョンかもな・・・」
「あの・・・私はまだレベル12なんだけど皆はいくつなの?」
セレスティーン
レベル 12
HP 105(105)
MP 136(136)
力 23
体力 27
器用 26
素早さ 26
魔法 28
抵抗 26
スキル 神聖魔法レベル3 治癒魔法レベル3
「俺は、レベル104だな」
「私は、98ね」
「私は、162よ」
「・・・」
セレスは、口をパクパクしている・・・
「あまり口外しないでくれよ・・・」
「セレスだけだからね・・・」
「言えないわよ・・・そんなレベル・・・ああ改めてタクミ達の凄さがわかったな~」
ようやくタクミ達の強さを理解できたのかそれからセレスは、自分にできることこなし無理せずについてくるようになった。
「お、さっきの奴の親玉だな」
ビッグワーム
レベル72
HP 1890
MP 102
力 260
体力 320
器用 138
素早さ 163
魔法 97
抵抗 157
スキル 悪食レベル3 再生レベル3 土魔法レベル1
「ビッグワームレベル72だな」
「72・・・ってすごいんだけど、タクミ達の方が上か・・・」
3人が、ビッグワームを切りつけていくが、ビッグワームも再生しながらしぶとく攻撃してくる。
「よっと」
タクミが、ビッグワームを真っ二つにすると再生がおいつかなくなったのか・・・攻撃がやんだ。
「まだ、結構奥までありそうだけど地属性の敵が多いな」
ビッグワーム、スモールワームと言ったミミズの他、ジャイアントラットやジャイアントアントと言った魔物と遭遇したがほぼ瞬殺している。
「少し物足りないな・・・もう少しくらいなら強い方がいいんだが・・・」
「わ、私のレベルがどんどんあがっているような気がするけど怖いから後でゆっくり見る事にするね」
セレスもレベルが上がっているようだ。まあ、かなり格上の相手と戦闘しているからな・・・
「セレス!頭をさげて!」
不意にタクミがそう言うと迷わずセレスは頭を下げた。
カイーン!
と金属音が洞窟の中に響く、姿を現したのは、2体の妖精・・・身長わずか30cmくらいの妖精だ。髭の生えたおじいさんの妖精ではなく、かわいい男の子と女の子が羽をはやしている妖精だ。
どうやら土魔法で金属のような物を射出したようだ。
「土の妖精か・・・ってやばいぞ」
ノーム
レベル80
HP 780
MP 2750
力 18
体力 32
器用 313
素早さ 321
魔法 350
抵抗 335
スキル 土魔法レベル7 魔法強化レベル4
ノーミード
レベル79
HP 695
MP 2800
力 15
体力 30
器用 305
素早さ 341
魔法 356
抵抗 306
スキル 土魔法レベル6 魔法強化レベル4
「双子のノームだな。レベルは80と79で魔法特化だ。スキルと合わさるとかなりの強敵だ」
双子のノームが土魔法を行使する。タクミ達の側の土が盛り上がりタクミ達を覆おうと動く・・・咄嗟にセレスをつかみあげ飛び出すように土の囲いから退避する。
退避に成功したとたん、目の前に石つぶてが降り注ぐ
「結界!」
タクミが結界スキルを使い石のつぶてを防ぐ・・・しかし、天井から岩盤のような岩がいきなり現れて落下すると結界が持たないと判断してすぐに後方へと離脱する。
「コンビネーションもすごいが・・・基礎値がとんでもないから魔法の威力が半端じゃないな。よし・・・俺に任せてくれ」
そう言うと四次元ポケットから退魔の指輪を取り出し指にはめる。身体強化を使い素早く動く2体に接近する次々と魔法で応戦してくるが、対魔の指輪の力でほとんど効果がない。
右手でノームを左手でノーミードの首をつまむように捕まえる。ばたばたと暴れるが、力のない妖精には振りほどけないし、頼りの魔法も退魔の指輪のせいでほとんど役に立たない。
「テイム!」
テイムスキルを使い双子のノームの目を見る。がくんとMPが持って行かれる。だが、これは成功の証だ。すぐに従魔用に作っておいたミスリルのブレスレットのうち一番小さな物を双子のノームにはめる。
「聞こえるな?」
『もう・・・手を離してよ~』
『やだやだ~』
仕方なく双子を離すとパタパタと飛び始めた。
『あ~あ。失敗したな~』
『ね~』
「お前たちの名前はなんて言うんだ?」
『僕は、ロー』
『私は、ルー』
「そうか。ローとルーな」
『僕たち何をしたらいいの?』
『そうそう。捕まっちゃったもんね』
「そうだな・・・。セレスの護衛をしてやってくれ」
『セレスってどの子?』
『セレスってだ~れ?』
「ああ、そこにいる女の子だよ」
『ふーん。弱いからだね』
『仕方ないね。弱いみたいだから』
「ちょっと・・・ひどくない?」
「まあ、セレスの安全のためだな。互いに仲良くやってくれよ。あと、双子には、ご褒美にこれをやるからセレスの事を守ってやってくれ」
そう言って飴玉を出して1つずつ渡す。
『あまーい』
『おいしいね~』
さて、これでセレスの護衛もできたし先に進むとするか・・・
ダンジョンは、小部屋が増え・・・そこには魔物がいる。
「なーこのダンジョンのボスを知ってるか?」
双子に聞いてみると
『えっとね~』
『おっきい蟻さんだよ~』
やはりそうか・・・。さっきから途中にある小部屋には、キラーアントやジャイアントアントと言った蟻の魔物がほとんどだ。レベルは30から50くらいの奴が多いが・・・
「かなりの数がいそうだな・・・」
「そうね・・・蟻の巣に入ったって感じだね」
「蟻と言ってもこれだけの数がいれば・・・経験値も稼げますよ」
「じゃあ。私は身を守っていれば大丈夫ね」
4人が蟻を倒しながら進むと大きな広間が見えてくる。
「ようやくボス部屋って感じのところに出たな」
広間の入り口に入った瞬間、数えきれない数の蟻型の魔物が一斉に向かってくる。広間はおよそ30mはあろうかと言うものだが・・・
「鑑定する暇はなさそうだ。各自撃退していってくれ!」
指示を出すまでもなくメグミは、剣で蟻を切り伏せていく。ミールは、水を操りながら蟻の攻撃を受け止め手にした水の槍で蟻を貫いていく。セレスは、ローとルーに守られながらそれでも神聖魔法を使って仲間の強化などを行っている。
蟻は、蟻酸を飛ばしたり発達した顎で襲ってくるのが多いが、中には六本ある足の前2本が鎌のようになっている個体や鎧をまとったような姿の個体も混ざっている。連携して攻撃してくるため倒すにも時間がかかる・・・
それでも4人は、1体1体を確実に仕留め、山のように積まれていく蟻の死骸に囲まれながらも徐々に数を減らしていく・・・
しばらく殲滅を続けるとひときわ大きな個体が2体現れた。




